戒野ミサキがファーストピアスを開けた日の話。

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これは、或る日の回顧だ。
埋没を恐れたわけではない。
選択と悔悟を恐れたわけでもない。
欺瞞に満ちた揺籃の、その影の、その延長。
これは、無謬の傀儡に贈る、最初の過ちだ。



破瓜

 

 自らの皮膚の内に、赤い脈動がある。

 教本が無味乾燥な文字の羅列で以て述べたその普遍的事実は、しかしながら、硝子窓の向こう側を覗いているみたいに、確かな実感を伴うことはなかった。

 自身の魂は肉体という器に閉じ込められて、外からエネルギーを得て稼働しているにすぎない――という生命活動における自明の真理も、知ったところで、それを克服できるわけでもない。肉体とは魂にとっての(くびき)でしかなくて、(いわん)やワンオフパーツみたいに互換の利かない不便な代物であるということに異を唱える者はいないだろう。私達の魂や精神というものは容れ物によって規定され、観測不可能な本質を代替によって暫定的に先延ばしにしているに過ぎない。多義的に形相を捕捉することは困難であり、一意に定められうる質料で以てこれを判断する、或いは保留する。人間の価値は「生は寄なり死は帰なり」という言葉に表されるように、存在していないこと、つまり死そのものを主眼に置いて論じられるべきであって、純性を欠いた生という煩雑で難解な要素は排除されるべきだ。

 生を知るということは、即ち、(こん)(とん)、カオスを知ることだ。数多の因数に鋭敏に反応し、その結末を予測することは非常に困難である。言い換えれば、これを必ずしも知ることはできない。主語それ自体を否定する肯定文のように、私達は、無為な営みを続ける行軍から抜け出せずにいる。

 対して、死は、明瞭だ。誰にでも平等で、分け隔てなく手を差し伸べて(くび)る、零の情報の最果てだ。死に魅入られているわけではない、と言い訳じみた自省が脳裏をちらつく。敬意を払うなどといった大仰で大層なものでもない。ただ、厳然としてそこにある警句「Vanitas vanitatum, et omnia vanitas.」が呪いみたいに、腹の底に横たわっているだけだ。

 (ふん)(まん)遣る方無し、ではない。(あい)()(こつ)(りつ)、でもない。私達の生に目的はなく、肉体に価値はなく、感情に意味はない。

 けれど、虚しさを声高に謳うこの(あなぐら)は、(ひょう)(びょう)としたグレーの雲々の下で、私達に生命の(ほう)()を許さない。公会議で異端の烙印を押され追放された私達の祖が、何よりもアリウスの(しゅ)(かい)たるマダムが、それを許さない。

 

『全ては虚しいものです。それはあなた達の肉体も例外ではありません。ですから、私がそれに意味を与えましょう。私が、()(らん)(どう)のあなた達に、技術と、憎悪と、生きる意味と、雪辱を晴らす機会を、与えましょう』

 

 訓練は苛烈を極めた。当然、要求された水準に達することができず脱落していく者もあった。重傷者は黄ばんだ包帯を巻かれて寝床の隅で放置され、栄養が足らず病理に(かか)った者は見る間に痩せ衰えていき、やがて力尽きた者は、瘴気にまみれた地下房の(むしろ)に乱雑に積み上げられていった。肉が残っている状態だったならば、彼女らを食糧か薪として利用することも考えられたが、脂肪分に乏しいそれらの(うつ)(せみ)は、とうとう腐蝕するまで忘却の彼方に追いやられていった。

 悼む時間も、顧みる余裕もなかった。さもなくば、私も同じ末路を辿ることになっていたから。或いは、それこそが私にとっての本懐であるはずだったが、スクワッドのリーダーに任じられていたサオリもまた、それを許さなかった。今までだって、幾度となく、完全なる虚無に身を投じるのは試みたが、それらは(ことごと)く彼女によって阻まれていた。

 無論、逃げ出す者達もいた。私だってそうしたかったが、結末が大抵変わらない彼女らを見ていると、やがてそんな気は露ほども起きなくなっていった。こんな肥溜めに残って汚泥を啜るような生活を送り続けるよりは、どこに行ったって充分に幸せであろう新たな暮らしに(けん)(こん)(いっ)(てき)を賭すのも、(いく)(ばく)かの意義はあっただろうが、そもそもの話、私は、私達は、他に生きる術を知らなかったのだ。

 あのマダムは、容赦というものからは遥か遠く、またそれと同じくらいに、自らの手で何事かを行うということにも、そっぽを向くような指導者だった。

 そんな彼女は、自らの手駒が(とん)(そう)したことを知るや否や、私達自身に追跡と捕縛を命じた。命令に応じる私達の好悪は抜きにして、実際、それは理に適っていた。私達が各々の人格を有するということを知ってはいても、顧みることはなかったのであろう。逃げ出すとしたらどこをどう逃げるか、どこに身を潜めるか、或いは奇襲を仕掛けるとしたらどこか、そういった事柄を、各々の人格を鑑みて、分析し、作戦を立案することは、この檻みたいな自治区とそれぞれの人となりを()(しつ)した私達の方が圧倒的に適任であった。そういった合理と謀慮に基づいた判断であったのかは知る由もないが、結果として、追捕それ自体は容易なものだった。

 私達にとってのマダムが、畏怖を(ほしいまま)にする絶対的君臨者たる所以は、それだけに留まらなかった。捕縛された逃亡未遂者の処遇(有り体に言えば、刑罰だ)も、私達が手となり足となり、直接的に従事させていた。一度は逃げ出したとはいえ、私達にとって家族同然とも言える存在を、私達自身に、(むちう)ち、咎を(ただ)させる行いは、両者の心に癒えぬ傷を残した。

 だからこそ、覿(てき)(めん)だった。二度とそんな間違った気を起こさぬよう、心身共に疲弊させ、憔悴させ、悔悟させる、人の心を知れども顧みないマダムの指示は、図ってか図らずか、覿面に効率的だった。

 骨と皮ばかりの背中に鞭を打ち、肋の浮き出た腹部に拳銃を押しつけ、爪を剥ぐ為だけに存在する器具を強引に嵌めさせ、謝罪と悲鳴が聞こえなくなるまで蹴り続けて、生きることが無意味なら、その延長たる逃げることもまた無意味なのだと、克明に記銘された。

 それなら、血と痛みを伴う罰も無意味なのではないか、などという妄言を咽喉(のど)の奥に押しとどめ、私は粛々として執行していた。

 無意味で無価値な虚無の先に、然るべき応報を期待しない。マダムの(ひょう)(ぼう)するニヒリズムに(だく)(だく)として頭を垂れ、ありもしない明るい未来を希求しない。

 マダムの私達に対する扱いは、ある種道具主義的であり、個々の人格を一顧だにしないものであり、内面の傷も、外面の疵も、一切を(おもんぱか)ることはない。彼女にしてみれば、私達という駒は十全にその機能を発揮することができているのなら、オッカムの剃刀然として、その他は()(まつ)なことと切り捨てられるべきものだったのだろう。

 

 ――だから、これは、せめてもの抵抗(あてつけ)だ。

 

 私は、右の()()に押し当てていた急(ごしら)えの氷嚢をそっと離す。

 五分だったろうか、十分だったろうか。薄暗くひんやりとした共用便所の、(かび)臭い洗面台に設えられた、水垢のこびりついた罅だらけの鏡を、そこに映る間抜けな自らの顔とぼんやり(かっ)(こう)を放つ自らのヘイローを、随分と長い間見つめていたような気がする。

 ただ漫然と時を待つということはどうやら私には難しいらしく、先述のような詮なき回顧がぐるぐると頭の中を渦巻いて揺蕩(たゆた)って、マダムに見つかったらどんな(けん)(せき)を受けるだろうだとか、スクワッドの面々、特にリーダーは、どんな顔をするだろうかだとか、考えても仕方のない問いが泡のように浮かんでは消えていった。ここで私にとって幸いだったのは、やっぱりやめておこう、などと怖気づいて、事を中途まで進めたにも拘わらずこれを断念するような、柔な()(てつ)の意思に苛まれないことだった。怖気づくことを危惧していたのではない。衝動的であれ計画的であれ、善であれ悪であれ、己の決断を後になって翻意することが、想像するだにどうしようもなく耐え難かったのだ。

 とうに耳の感覚が消え失せているのを触れることで改めて確認し、私は鏡に顔を近付けて、耳朶の中心にサインペンで印をつけた。次いで、予めライターで炙って、消毒液(規則外の用途であるため、露見すれば受罰は免れない)に浸しておいた安全ピンを取り出して、先端を印に押し当てる。他方の手で耳朶を摘み、ピンを持つ指に力を込める。

 

「…………っ」

 

 私達の存在に意味はなく、況や肉体にも意味はない。ならば、それを傷つけることにも意味はなく、何ら誹りを受ける(いわ)れはない。こういう無駄な正当化(いいわけ)ばかり達者になって、何を得られるわけでもないのに、静謐を(たた)える夜のひんやりした空気は、その後ろ指を下ろしてくれることはなかった。

 極度に冷やされ感覚の麻痺した耳朶が、ピンを押し返す肉の感触が、指先に鮮明に伝わっている。耳朶の皮が(みぎわ)として機能していて、その膜を破ってしまうことが、とある一線を越えることになるのだと、最後通牒を告げているようだった。

 知ったことか、と私は瞼を閉じる。視覚情報の排除された(あん)(たん)たる暗闇の中で、スクワッドの面々や、緊迫した硝煙香る銃撃戦や、冷たい鉄とコンクリートの独房や、残飯以下の糧食が咽喉の奥を通り抜ける感覚や、湿気た煎餅みたいな布団で眺めていた無機質な天井の、それら光景が、目まぐるしく移り変わる。妄執と呼ぶにはあまりにも煩雑で、(しょう)(せき)と呼ぶにはあまりに惰弱な、取るに足らない記憶のフィルムの数々だ。

 けれど、フラッシュバックにも似たそれらは、この言いようのない胸のざわつきを止めるに(あた)わなかった。或いは、終にその追憶こそが、私の背中を押すことになった。

 

「ふ…………っ」

 

 乾坤一擲と呼ぶにはやや大袈裟な、けれど私にとって確かな決断は、一息に実を結ぶことはなかった。

 

「ん…………」

 

 力いっぱいに自らの耳朶を貫かんと突き立てた安全ピンの針先は、皮膚を穿ちはしたものの、印の反対側にまで顔を出してはいなかった。

 さもありなん、そもそも安全ピンの鋭さは、衣料品の仮留めに用いられる程度のものでしかなく、構造上人体を貫通するようにはできていないのだから。けれどそれは百も承知だった。ピアッシングに適した道具を用意することは、私にとって、雲を掴み星を数えるようなものだった。だから、こうなることは予想していたし、その為に事前に針を研いでおいたのだ。

 

「…………」

 

 もはや不退転の領域に足を踏み入れてしまっているのだから、何を躊躇うこともない。

 私は再度、針を少し引き、息を止めて安全ピンを一気に押し込んだ。

 穴はまだ貫通しない。

 息を吐いて、吸って、止める。

 針で耳朶を刺す。

 穴はまだ貫通しない。

 息を吐いて、吸って、止める。

 針で耳朶を刺す。

 穴はまだ貫通しない。

 息を吐いて、吸って、止める。

 針で耳朶を刺す。

 穴はまだ貫通しない。

 そうこうしているうちに、印から針先がずれないよう耳朶を摘み続けていたせいか、徐々に感覚が取り戻されつつあった。耳朶の中で、研がれた針が肉を傷つけながら(ぜん)(しん)しているのが、痛みという形で表れ始める。ずきずきと(とう)(つう)を発する耳朶が、その刺激を電気信号として受け取った脳が、私の意思と手に制止を誘う。

 けれど、今更になって、やめることも、冷やし直すことも、できなかった。翻意への忌避が肥大化して、(がん)(ろう)なる腕が手綱を握って離さない。

 生きることを歓迎されず、死ぬことも許容されず、目的化した無為の行軍(ロングウォーク)は止まらない。

 遍く存在に意味を見出さないのが本質であったはずなのに、いつの間にか、「意味を見出さない」という金科玉条に意味を見出しているという皮肉が、骨髄にまで記銘されたニヒリズムを上書きしていって、(あたか)もそれがア・プリオリな格率であるかのように、()(まん)に満ちた振舞いを強制している。規律を墨守することも、人倫を固持することも、今や(くびき)として機能しえない。

 けれど、(はい)(とく)の愉悦などはそこになかった。(かえ)って、()()的に自らの身体を傷つけるという行為が、拍動する心臓に不愉快な棘を刺していた。呼吸ひとつごとに、身動ぎひとつごとに、その棘は深く、深く、槌で打たれる杭の如くして、深く食い込んでいく。その影を追えば、きっと右の耳朶に届くのだろう、疼痛と焦燥の狭間で、なんとなく、圧迫された思考が喘鳴を吐きながらそう零していた。

 かくあれかしと命ずるアレテーの、その内なる声に従うことは、きっと善いことなのだ、という先験的な倫理観は、必ずしも自罰的な衝動に任せたピアッシングをも排斥しない。或いは、さもなくば身の内に(くすぶ)る情念の行き場を他者に求めてしまうくらいなら、いっそのこと己に帰着するのを選ぶ方が、それ自体としては善であるとも言えるだろう。

 穿たれた耳朶から溢れ滴った血が、指先を伝って、ぬるぬるとした不快な感触と熱とを、生の証左と宿業とを否応にも感じさせた。血によって摩擦の低減された針が滑る。ちりちりと瞼の裏を焼くような熱を持った痛みが、依然として肉の内壁をぶちぶちと音を立てながら掻き分け、突き破り顔を出すべき皮を探している。(どん)(らん)なる侵襲が、今や遅しと彼岸に至るのを待っている。

 善だの悪だのを云々するのは、瑣末なことだ。そんなものに足を取られて蹉跌するなど、それこそ何の意味もない。暇を持て余した夢想家のやるようなことに、自ずから(かかず)らう必要はない。今私が立っているのは、そんな場所ではない。主観で物事を語るのはいずれその身を滅ぼすことになるとしても、少なくとも、小綺麗な善悪論とやらは彼岸に置かれるべきものだ。

 視界が、自らの戴くヘイローのように(かく)(かく)とした赤みを帯びて、私にとって儀式とも言える自傷行為が長引くに比例してその領分を徒に広げつつある。絶えず誰かに背中をつつかれるような、橋の欄干に立った時と同じ感覚が、知らず肢体を強張らせている。痛哭する耳朶が、(しゅう)(しゅう)として深紅の(きょ)()を止められないままでいる。

 

「はぁ……っ、はぁ……っ」

 

 夜半の静謐の中、荒立ってゆく自らの吐息と、それよりも遥かに大きく、ぐじゅぐじゅと針先が肉を抉る音が、いやに木霊している。空気の振動によってではなく、肉と骨を通じて鼓膜に直接届く水音に、胃の奥からせり上がってくるものを感じる。

 悲鳴をあげる痛覚を無視した幾度もの刺突が、鈍化した鋭敏な指先の触感によって、終わりを告げつつあることを知る。たった数ミリの肉を穿つのにこれだけの時間と労苦を要して、とうとう、その切先が対岸の皮を捉えていた。ここまで来てしまえば、もう、何を躊躇うこともない。私は、仕損じることのないよう爪を立てさえして、それぞれ耳朶と安全ピンとを、血に濡れた指で強く()()した。

 

 息を吐いて、吸って、止める。

 

 あとは、一思いに刺し貫くだけだ。

 

 躰の自ずから発せられる悲鳴(いたみ)に終止符を打つ為に。

 

 意味のない生を謳うプロパガンダに抵抗する(あてつける)為に。

 

 冷たい混凝土(コンクリート)床で震えていた子供(わたし)と訣別する為に。

 

 今や、たった一枚の皮は(さかい)として機能しえず、その風穴の開けられるのをひた待っている。望んでいる主体は、皮か、私か。考えるまでもないことだった。

 

「…………」

 

 ぷつ、と、耳朶の皮が突き破られた。

 

 侵入してきた異物の先端に追いやられ、肉の穴が押し広げられた。そのまま安全ピンを何度か往復させ、ピアスホールの直径を充分に確保する。耳朶の中を、針が行き来する感覚が、(せん)(めい)な痛みとなって身体の異常を主張しているが、当然これを黙殺した。

 私は速やかに安全ピンを抜いて洗面台に投げ捨て、血を拭い、用意しておいた黒いストーンのピアスを耳に通す。ポスト部分が正しい出口を見つけられず、穿たれて間もない肉壁の中を傷つけながら右往左往して、やがて顔を出す。そしてこれにキャッチを嵌めて固定すれば終わりなのだが、これもまた上手くいかない。ポストに対して垂直にしなければそもそも嵌まることもなく、暫く苦心して、ようやく装着が完了した。

 ()(れつ)の放置された鏡に映る自分を、改めて見つめる。

 数分前にはなかった異物を耳朶に引っ提げた、ただそれだけの見てくれの変化を、(つぶさ)に見つめる。

 ピアッシングという自傷、アクセサリーという虚飾、それらを経て、明確に何かが変わるわけではない。(でい)(ねい)に等しい環境も、先行きの不透明な行軍も、肉体という器に閉じ込められた私自身も、変わるわけではない。不断に渦を巻き続ける時間の連続性は(つつが)なく、依然として私の後頭部に銃口を突きつけている。

 だが、不思議と満足な気分だった。

 当然ながら未だに耳はじくじくと疼いているし、血の付着した指を舐めれば鉄臭いし、早鐘を打つ心臓の(かまびす)しさといったらないが、それでも、どこか、胸のすくような心地だった。

 耳朶に貼りついたように固定された黒い石が、薄暗い便所に差し込む僅かな月光を受けて鈍く輝いている。死んだような目をしていると時折に揶揄(からか)われる私だったが、眩い希望などとは縁遠い肥溜めのような場所だったが、どうやら、痛苦と共に穿たれたこの数ミリの穴と安っぽい石がある限りは、幽かなれども確かな光があるらしかった。

 そんなものは気休めにもならない、そう唾棄するのは容易い。けれど、これは、諾々と頭を垂れ、粛々と命令に従うだけだった糸繰り人形(マリオネット)の如き私にとって、生まれて初めての選択、決断だった。気休めでも、欺瞞でも、私という人間の意思を介さずには、何かを選び取るという行為そのものは存在しえない。他ならざる私自身の意思によって選択、決断することは、私という人間をこの世界に克明に刻み込み、何人にも侵されざる自我の領域を確立することだ。ならば、ピアッシングという行為を通してなされた意思の証明は、(すん)(ごう)ほどは、意味を持ちうるのかもしれない。

 

「…………」

 

 (おもむろ)に耳に手を伸ばす。

 ずきりとした痛みが、連綿とした時間の延長に(びょう)を打っていた。

 

 白板(タブラ・ラサ)たる子供の私が、純粋にして()()の意思を用いて、たった一つの黒点を耳朶に穿つことが、僅かでも自らを対極たる大人に肉迫させたのなら、この経験は、何物にも代え難い礎の一部となったのだろう。

 大人とやらに憧れてこれを目指したわけではない。ただ、私は、何も選ばず何も決められない、子供のままでいたくなかっただけだった。

 暗澹とした泥濘の中にあっても、ただ、耳朶で(けい)(けい)として鈍く煌めく石が、証左となればそれでよかった。

 前に進めていなくてもよかった。ただ、この痛みが、胸の内に在ればそれでよかった。

 

 ただ、それだけだった。

 





ブルアカふぇす、当選しました
これを書いてる頃には、生放送で新情報が解禁されている頃でしょうか
FGO2部終章のネタバレを踏みたくないので当分の間はROMってるっていうか、そもそもチラッと覗くに留めておくことにしてるので、このままでは世間の流れに置いて行かれてしまう……
まぁ、一過性の流行に踊らされるをよしとせず、確乎不抜たる自我を確立することを至上命令としているので、そんなことは何の憂いにもなりませんがね、フフ……
あと、ついでに、好きなバンドのライブも当選しました
とはいえ、未だにでっかい箱のライブとか行ったことないので、独りということも相まって、不安と緊張で臓腑ダンスしてます
まぁ、少なくとも半年近く後の話ではあるので、それまでに同好の士を見つけて、親交を深めることができたのなら、何も問題はありません
ただ一点、俺がコミュ障陰キャだという事実を除けばですがね

……閑話休題
本拙作は、「ミがファーストピアスを開ける」というだけの内容に、晦渋な思惟やら何やらを織り込んで肉付けしていった、思春期のポエムとなっております
いやでも実際問題、ミがファーストピアス開ける時って、どういう道具をどこから調達してきて、いつどこで開けて、誰にどういう反応をされたのかとか、その辺の一切がヴェールに包まれているから、ヨースターさんは、これらを補完するストーリーを更新してください、待ってます
ピアス着けてる生徒は数多くいれど、「自分をよく見せたい」と願うありきたりな少女の願いから、アクセサリーの選択肢のうちの一つであるピアスを着けることを目的としたものであるのに対して、ミにとっては、ピアッシングという手段そのものが目的化していて、耳にこういう穴を開けたらたまたまこういうピアスが入るので着けてるだけ、という副次的な産物でしかないというのが明確な違いとして読み取ることはできますよね、これで違ったらウケるけど
どうあれ、ほぼ確実に言えることは、これを知ったリーダーにビンタされたであろうことと、マダムからは特段何も言われなかったであろうことですかね
リーダーのビンタに関しては今後また改めて話すとして、マダムにとっては、作戦の遂行において支障がないのであれば勝手にすればいい、というスタンスではありそうですよね
ちゃんと勉強して、人間関係も健全で、非行に走るようなことがないのであれば、あとは好きにして構わないっていうやや放任主義ぎみのパパみたいなポジションですね
いやでもかと思えば、激情に身を任せて先生に弓を引くわ、生贄としてアチュを拐かすわ、ゲマトリアとは教育方針の齟齬から荷物纏めて家を飛び出すわ、ヒスママとしてのポジションもちゃんと確保してるという貪欲っぷり
赤蜘蛛婦人は、放任主義パパとヒスママの両方の性質を併せ持つ♥
いや蜘蛛なのに旅団じゃないんかい
だって、なんか、ねぇ……?

ところで、拙作をご笑覧いただいた皆様なら既にお分かりかと思いますが、そうです、ミの思考、独白という形で物語を綴っているにも関わらず、語彙であったり、言い回しであったり、その辺の精査が甘いというか、要するに、「ミはこんなこと言わない」という解釈違いを自分自身で起こしてしまっているんですね、自家中毒ってやつですね、これ
言い訳するつもりではないんですけど、仕方がないんですよ
ミが考えている(であろう)ことを俺の語彙というフィルターを通してしまったら、自ずとああいう感じになってしまうんですよ
その辺はもう、所詮は手遊びの二次創作の域を出ないと、割り切ってもろて
自分がこうあってほしいという願いを込めずして、二次創作という宿痾はそれとして存在しえないので
しゃあないので
ほんまに

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