禍福はあざなえる縄のごとし   作:ディエ

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決行

結局、私たちは桧原さんを止めることは出来なかった。もっといろいろ相談すれば、他の可能性もあったかもしれないのに・・・

「あーちゃん、まだ可能性は残されてるんでしょ? やってみよ?」

先輩は桧原さんの置いて行ったオルゴールを持っている。

確かに可能性は残されている。と言うより、もうそれしか思いつかない。

「でもどうして先輩がそんなことを・・・ 心を読んだわけでもないのに・・・」

「多分、桧原さんのくれた福のせいかな。私の中で二つの福が、二人の意志が激しく動いてる感じがするの。ねぇ、やってみよ」

「・・・分かりました」

そうして私は先輩の手を取って、展望台を降りて行く。

本当は私が先輩を守って、安心させてあげなきゃいけないのに、いざという時は、先輩に守られてばかりだ。

先輩は本当に強い。私も先輩くらい、しっかりしないといけない。

そう自分を奮い立たせる。

私たちは展望台の下に降りて、改めて結晶を観察する。

今では人が横に二人並んだくらいの大きさになっている。この中ではオリジナルと桧原さんの二人が、永遠の時間をかけて落下しているということになる。

地面のコンクリートとの隙間は1メートルもない。

真下で先輩が受け止めるとなると、結晶の下に入って、仰向けにならなければならない。それは、いざという時に逃げられない姿勢だ。

でも先輩はそれが分かって言っているのだ。

あとは最期の確認だけだ。

「私B」

私の呼びかけに応じて、私Bが現れる。現れないかもと思ったけど、そこまで反抗的ではないようだ。

「情報、更新されたよね」

「・・・ホントは教えたくないんだけどね」

私Bは渋々と言った様子で認める。

「今ここで危険な賭けに出るより、別の桧原さんがスライドしてくるのを待つ方が、安全だと思うけどね」

「でもそれじゃあ、変えられないかもしれない。私は先輩と離れたくない。先輩と一緒に変えてみせる」

「はいはい」

私の決意に、私Bはお手上げというように、手を挙げて見せる。

「更新された内容は、もう二人が知っている通り。それが実行可能であるということ。追加で言えば、先輩さんは修復機構由来の福を二つも持ってしまったことで、準修復機構というような扱いになったことかな。禍福を扱ったり、禍福についていろいろと直感的に分かるようになったのは、そのせいだね」

「じゃあ、私たちの考えてる方法で、何とか出来るんだね?」

「理論的には、ね」

 

まず、あのオルゴールで私から福を抜き出して、先輩に渡す。

それによって私は、オリジナルや桧原さんのような完全な禍の状態となって更なる力を得るはずだし、先輩は三つの福の相乗効果で、強烈と言われた福が、さらに強烈になる。

そして私が時間の止まった結晶の中に入って、オリジナルと桧原さんの身代わりとなって、二人を結晶の中から追い出す。

先輩は強烈な福で結晶の禍や三人分の落下エネルギーを相殺して、最終的に、落下している私を受け止める。

その過程で私の禍と先輩の福の対消滅が起こり、膨大なエネルギーで世界の亀裂は修復される。

 

これが、私たちが更新された情報から立てた作戦だ。

「確認しておくけど、ハードルはかなり高いよ」

そう言って私Bがこちらを向く。

「まず、いくらあなたの禍の適性が高くて、完全な禍の状態になったとしても、二人分の『死の直前という極限状態で発生した禍』を代替しようというのは並大抵じゃない。結晶の中に入ったらすぐに、結晶が押さえ込んでいる禍をありったけ吸収して、コントロールしなきゃいけない」

今度は先輩に目を向ける。

「先輩さんも、禍の中和には細心の注意が必要だからね。中和していくのは結晶の背後にある『オリジナルと桧原さんが作り出した禍』、結晶の中にある『三人分の落下エネルギー』、そして時間を止めている『禍の結晶』の順だからね。一番外側の禍の結晶を先に中和してしまえば、時間が動き出して、先輩さんも奥只見さんも即死だよ」

私Bに言われ、私たちは頷く。

まずは私のタイミングの問題。止まった時間の中で、二人を押し出せるかだ。

その上で、禍のキャパシティの問題。二人が命がけで作った結晶を、平常状態の私が一人で維持できるかだ。

そして先輩の福のコントロールの問題。福を扱えるようになったばかりの先輩に繊細なコントロールができるかだ。

問題は山積みだけど、何もしなければ、私たちはいずれ離れ離れになってしまう。

それは失敗して二人とも死ぬよりもつらいことだった。

桧原さんもこんな思いだったのか・・・

そう思うと、笑いがこみ上げてくる。桧原さんは最後までオリジナルとの愛情を取ったのだ。

「そして最後に、一番重要なことだけど、中和する時の禍福の量は全く同じじゃないといけないからね」

私Bが念を押すように言うが、それは考えていなかった。

「違ったらどうなるの?」

「ほんのわずかな違いでも、時空に何かしらの影響が出る。最期に結晶を完全に中和しきるまでは、世界の根本に手を加えてる最中だってことを忘れないように」

「うん」

「でも禍福の量なんて、どうやって計るの?」

そう先輩が尋ねる。でも、私はその答えを知っている。

それを知った時、どんな顔するかなぁ・・・

そう思って私は先輩の顔に注目する。

「禍福の量を計ることは出来ないよ」

私Bがわざと真面目な顔で説明してあげる。

「じゃあ、どうやって同じ量にするんですか?」

「完全同調」

「え?」

「十分に完全同調した状態で、それ以上禍福の移動が起こらなければ、等量になったということになるよね」

「それって・・・」

先輩の顔がボッと真っ赤になる。そそられるなぁ・・・

「効率的な完全同調。もう何度もしてるよね?」

それはお互いの境界を越え、一つになりながら、ただひたすらに相手のことを深く想うこと。つまり・・・

「これはサービスね」

そう言うと目の前に、どこかで見たような部屋のドアが現れる。そうだ、これは最初に行ったラブホのドアだ。

「私は消えてるから。ゆっくりでいいから、世界のために、入念にね」

私Bがウインクしながら消えると、呆然としていた先輩がゆっくりと振り向く。

「・・・あーちゃん、知ってたの?」

「いや、まぁ、先輩も知ってるものだと・・・ でも、もう引き帰せませんし・・・」

「・・・そうだけど」

先輩は何か釈然としない様子でもじもじしている。

「まずは私の福を渡しますよ」

「うん」

そう言うと先輩はすぐにしゃきっとする。

私はオリジナルの遺したオルゴールを胸の辺りに構えて、蓋を開ける。

桧原さんも使ったため、オルゴールに残っている『福を移動させるという力』は少ないけど、私の持っている福など、オリジナルや桧原さんに比べれば、たかが知れている。一音でも鳴れば、簡単に抜き出せるはずだ。

オルゴールはしばらくの沈黙の後、ポーンと澄んだ音を立てた。

そしてオルゴールは動かなくなるけど、それで十分だ。

私の福は抜き出され、先輩へと移動する。

私の方には、特に違和感はない。元から福が少ないというのと、禍の適性が高いせいかもしれない。

先輩の方はと見ると、少し顔が火照っているようにも見える。

そしてあとは二人の禍福を等量にするだけだ。

「大丈夫ですか?」

「うん、平気。 ・・・行こっか」

そうして私たちは手を取り合って、部屋のドアを開ける。

 

中には薄ピンクの明かりに照らし出された、大きなベッド。壁の一面は鏡張りで、その反対側にはガラス張りの浴室が見える。よくここまで再現したものだと感心したくなる。

「何か最初の時みたいで緊張しますね」

「そうだね・・・ あーちゃん・・・」

先輩に促され、私は先輩を抱きしめてキスをする。

最初は唇で触れるだけ。そして徐々に気持ちを高めていく。そして先輩もそれに応えてくれる。

私たちはそのまま抱き合いながら、大きなベッドに体を預けた。

「先輩、大好きです・・・」

「ねぇ、今くらい名前で呼んで」

「・・・京子、大好きだよ」

「私もあすかのこと、大好き」

その言葉が胸の奥を熱くする。今までにない高揚感が満ちてくる。

そしてそれは先輩も同じようだった。

「京子・・・」

「あすか・・・」

二人の呼吸とぬくもりだけが静かな部屋に広がっていく。

目的はいつの間にか消え、残ったのはお互いに深く愛し合いたいという気持ちだけだった。

 

「あーちゃん・・・  好き、大好き」

先輩が息を整えながら、うわ言のようにつぶやく。

私はそんな先輩の頭を撫でて、髪を梳いてあげる。先輩の髪はいつもいい匂いがする。

「・・・ねぇ、あーちゃん。もういいかな?」

「何がです?」

「え、禍福の調整・・・」

そうだった。そのために始めたんだった。途中からはもう、先輩のことしか見えていなかった。

「そうですね。もう禍福の移動はないですし、大丈夫ですね」

私は平然を装って答える。

「・・・あーちゃん? 最後の方はエッチのことしか頭になかったでしょ」

先輩がたしなめるように言う。

はい、その通り。図星です。

「・・・」

「・・・私もだよ」

私が答えられないでいると、先輩はそう言って、再びキスをしてきた。

「じゃあ、行こっか」

「はい」

そうして私たちは服を着て、私Bの用意した部屋から出る。

 

二人とも気合も覚悟も十分だ。

まずは先輩が黒い結晶の下に潜り込み、仰向けになる。結晶は両手を伸ばして、届くか届かないかという距離だ。

先輩は体をずらして、結晶の先端が自分の顔の真上に来るようにする。

私は自分で作った結界を縮めて、結晶とその下の先輩がギリギリ納まる大きさにする。

そして横から私が結晶の中に飛び込み、中にいる二人を押し出せばいい。

それでもう誰にも見えず、誰の影響も受けない、私と先輩だけの世界になる。

私たちは目くばせをして、頷き合う。

先輩が深呼吸をして腕を伸ばす。

「いいよ、あーちゃん」

「せーので行きますよ」

私は一、二歩下がって言う。

いくぞ。たった一回のチャンスだ。先輩と一緒に、変えてやる!

「せーのっ!!」

私は結晶目掛けて飛び込んだ。

瞬間的に、全身がギシリと軋んだような気がした。

時間の止まった結晶の中で、私の意識も停止する。

 

私はあーちゃんに見守られながら、黒い結晶の下に潜り込んだ。

こんな屋外のコンクリートに寝そべるなんて、子どもの時以来だ。あーちゃんの作った結界の中のせいか、夏なのにコンクリートはひんやりしている。

そして結晶が真上に来るよう、体をずらす。

時間が止まっているから浮いているように見えるけど、時間が動きだせば、私は簡単に潰されてしまうだろう。中に入っている人と一緒に即死だ。

でもやるしかない。

準備は全部、あーちゃんがしてくれた。

私はそれを実行するだけでいいんだ。

それであーちゃんが助かるんだ。

私はあーちゃんと目を合わせ、頷き合う。

「いいよ、あーちゃん」

私が言うと、あーちゃんは緊張した面持ちで、助走のために少し下がる。

「せーので行きますよ」

あーちゃんのために!

「せーのっ!!」

一瞬、あーちゃんが結晶に飛び込む様子と、その反対側から誰か二人が押し出される様子が見えた。

あーちゃんは成功したんだ。

あとは私の、ううん、私とあーちゃんの共同作業が始まるんだ。

「うぐっ!」

体中に見えない重圧がかかるけど、何とか息を吐きだすのを堪える。

体が動かない。息もまともにできない。

その中で私は福を少しずつ放出していく。

少し量を間違えれば、それは目の前の結晶の分解に使われてしまう。そんなことになれば、時間が動き出し、あーちゃんが死んでしまう。

まず分解しなければならないのは、結晶の背後にある、禍の奔流だ。

でも目の前の結晶が大きすぎて、なかなかその奔流は見えない。結晶を迂回させてそこまで福を送り込むのも難しい。

結晶に当てないように少しずつ、そして私の体力が切れる前に出来るだけ早く。

私に全てを与えてくれた、あーちゃんのために。

あーちゃんに何かあれば、私はこの世界に一人、取り残されてしまう。

あーちゃんはいつも、私を助けてくれた。

あーちゃんはいつも、私を守ってくれた。

今度は私があーちゃんを守るんだ。

「ぐふっ・・・」

重圧の中、ついに息が漏れ出てしまう。

もう息を吸い込む力はない。

手足は痺れたように動かなくなる。

自分の体が重荷のように感じる。

もう、辺りが、真っ白になっていく・・・

その時、目の前の結晶から、半透明のあーちゃんがふわりと出てきた。

そして私に優しくキスをした。ような気がした・・・

今のは何だったんだろう。

私も幻覚を見たんだろうか。

でも最後に会えたのがあーちゃんというのは幸せだ。

そう思った時、私はふと、目の前の結晶を迂回して背後の禍と亀裂に向かう流れを見つける。

いつの間にこんなものが・・・

これに福を乗せれば、勝手に後ろの禍に向かっていくじゃない・・・

どうしてこんな簡単なことを・・・

私は薄れゆく意識の中、何の遠慮もなく、ありったけの福をその流れに乗せて、禍へと叩きつける。

その直後、私の体は限界に達し、意識を失った。

 

「ぐぅ・・・!」

私が禍の結晶に入った次の瞬間、私の体は先輩の体に受け止められる。

一瞬、失敗したのかと思ったが、結晶の中は時間が止まっているので、私には途中経過が感じられないだけなのだと思い至る。

周りには結界も、禍の結晶もなくなっている。そしてあれほど強く感じられた世界の亀裂も、今は感じられない。

私の下にいる先輩は目を閉じていたけど、ぶつかった衝撃で、ゆっくりと目を開く。

良かった、生きてる。

世界の亀裂だの、禍の結晶だの、どうだっていい。

それだけが私の望みだったんだ。

私を見詰める先輩の目に涙が浮かぶ。

それを見ると、こちらも涙が浮かんでくる。

「・・・さすが先輩。でっかいクッション持ってるだけのことはありますね」

「・・・これはね、あーちゃんを受け止めるためにあるんだよ」

私たちはそのままキスをして、しっかりと抱き締め、お互いの存在を確認する。

その時、私のスマホに着信があった。

「え?」

それは私Bからで、いつも通り、座標しか表示されていない。

世界の亀裂が無くなれば、迷路は出来ないはずでは?

そう思いながら地図で検索すると、そこはこのテーマパークの駐車場だった。

「あーちゃん?」

「私Bからです。この駐車場に何かあるようです」

「行くの?」

「・・・はい」

そうは答えたが、私たちは二人とも疲労困憊。今更、何かに対処できるとは思えない。

でも、乗りかかった舟だ。

私たちはやっとのことで起き上がると、ふらふらと座標で示された地点へと向かう。

 

私は何となく肌寒さを感じて、先輩と手を繋いだ。

スロープを降りて駐車場の手前まで来ると、そこには桧原さんの赤いコンパクトカーが停めてあった。

私たちに気付いたのか、運転席から桧原さんが降りてくる。

無事だったんだ。

そう思うとうれしくなってくる。

そして声を掛けようとした時、助手席からも誰か降りてくる。

それは、私だった。

いや、あれはオリジナル、か?

「お疲れ様」

桧原さんは優しく言うと、石畳のところにあるベンチへと誘ってくる。

その優しい自然な表情は、私の見慣れた桧原さんのものだ。

そしてその桧原さんにぴったりと寄り添うようにしている、私そっくりのオリジナル。鏡で見る私よりも、少し活発に見えるだろうか。

「何か温かいものでも飲む?」

「いや、温かいものなんて・・・」

そう言いかけて、目の前に立つ桧原さんとオリジナルの服装に気が付く。

二人とも薄手だが、長袖のシャツを着ている。

「あぁ、今日は9月23日よ」

「「はい!?」」

桧原さんの言葉に、私と先輩の声が重なる。

禍の結晶を分解しようとしていたのは7月下旬だったから、結晶に入っている間に、二か月近く経っていることになる。

「シャドウから聞いてなかったの? 結晶を中和する時の禍福の乱れは、そのまま時空の乱れに直結するって」

桧原さんの言うシャドウとは、私Bのことだ。

「いえ、禍福を同じ量にするっていうのは聞きましたけど、ちゃんと同じにしましたよ」

先輩も横で頷く。

どうやって同じにしたかは、多分、言わなくても分かっているだろう。

「結晶の中でのことよ。あなたたち、結晶の中でキスしたでしょう?」

「え?」

私には全く心当たりはない。それに、結晶の中の時間は止まっているはずでは?

どういうことかと思い、先輩の方を見ると、先輩はあからさまに目を泳がせていた。

「・・・先輩?」

「まぁ、そのおかげで助かったんだから、儲けものだけどね」

桧原さんが先輩に助け舟を出す。

「結晶の中でキスしたことで、諏訪さんが追加で福を生み出したのよ。全体から見れば、ごくごくわずかな量だったけど、それが時間を二か月近く飛ばすことになったのよね」

「じゃあ、その間、家族とかは?」

先輩が慌てて尋ねる。

「大騒ぎよ。警察にも届け出て、失踪扱いね」

「えぇ~・・・」

先輩ががっくりとうなだれる。

「あなたの方はあすかがいるから何とでもなったんだけど、余計ややこしくなると悪いから、何もしてないわよ」

そう桧原さんは私に言ってくる。

「あ、はい。私の方は別に大丈夫ですけど・・・」

どうせ何の連絡も取っていない家族だ。二か月位いなくても気付かないかもしれない。でも、先輩の方は一大事だろう。

それに学校の方も問題だ。さすがに二か月はサボりの範疇ではないだろう。

「学校の方は私が田沢先生に『二人で戻るから待ってて』って、言っておいたから」

私の不安を察したのか、オリジナルがそう言ってくる。

「そうそう。田沢先生は休学届を準備したり、いろんなところに足を運んでたから、よくお礼言っておいた方がいいわよ」

桧原さんもそう付け加える。

「そうですか・・・」

そうか、やっぱり生徒思いなんだな・・・

「あ、そうだ。えと、あすかさんはこれからどうするんですか? 私が二人ってなっちゃいますけど・・・」

私は恐る恐る尋ねる。まさか、私の方は用済みだから元の世界に帰れとか言わないよな・・・

「あぁ、私たちはとりあえず遠くに引っ越すわ。あすかとあなたが顔合わせたらまずいでしょ?」

「まぁ、周りは混乱するかもしれませんけど・・・」

確かに双子だとか言っても、学校とか戸籍とか面倒になりそうではあるけど、いいのだろうか。

「私たちとしてもそっちの方が都合がいいのよ。向こうで希美が無戸籍児扱いで、行政とか家庭裁判所とかに行って、私の保護者になってくれたし。その後の新しい戸籍の手続きもしてくれるって言うし。ね」

オリジナルが桧原さんの手を取って言う。

あぁ、そういう手続きがあるのか・・・ つまり、オリジナルは社会的には私と別人として生きていくということだ。

いや、でも『希美』って桧原さんの名前だったよね。オリジナルって、桧原さんのこと、下の名前で呼んでたのか。

少し意外だったけど、それを聞いた桧原さんは、少し照れ臭そうにしている。

「あすかってば・・・」

「ほら。希美から、あなたたちがしてたって聞いたから、私たちも」

オリジナルが私たちの前に左手を差し出すと、桧原さんも照れながら左手を差し出してくる。

二人の左薬指には、同じペアリングが光っていた。

「あ、あぁ、そうだったんですね・・・」

「でもお似合いですよ」

私たちが言うと、桧原さんはますます顔を赤くする。

「私の方が十も上なんだけどね・・・」

さすがに声には出さないけど、先輩は驚いているようだ。なにせ桧原さんは超童顔で、私も最初に会ったときはバイトちゃんが来たのかと思ったくらいだ。

「でも連絡はいつでも取れるし、同じ立場になったことだし、これからも仲良くしていきましょ」

「はい」

「お願いします」

桧原さんの言葉に、私たちは頷いた。

そして私たちは、桧原さんが家まで送ってあげるというのを辞退して、二人で帰った。

私たちにはいろいろと、やらなければならないことがある。

まずは、この二か月間の口裏合わせからだ。

 

 

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