禍福はあざなえる縄のごとし   作:ディエ

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その後

結晶の中に入っていた間に、私の誕生日の9月3日は過ぎていた。

でも、驚くべきことに、その日に両親から誕生日のメッセージが別々に入っていた。

今までの関係を考えれば、だからどうということもないけど、遠くでそれぞれ別の家庭を持っていても、私の親でもあるんだなと感じる。

もちろん、返信などしない。

少し遅くなったけど、既読が付いて、生きていることが分かるだけで十分だろう。

別に私の方からは何も言うことはない。

でも、何か人生での一大事があれば、教えてやってもいいかなとは思う。

例えば、結婚とか。

 

そういうわけで私の方は簡単に日常生活を再開できたけど、やはり問題は先輩の方だった。

この二か月間のことは、警察にはずっと黙秘、家族には私と一緒にいたことは話したそうだけど、何をしていたかについては内緒で通したそうだ。

そのため、先輩から、『両親が私に会いたがっている』と言われた時は、どんな風に問い詰められるのかと、覚悟を決めたものだった。

実際には、なぜか大歓迎されただけだったけど。

知らない人を前に、俯いたまま一言もしゃべれない私に対して、先輩のご両親は終始ご機嫌だった。

やはりあれは、将来の予行演習的なものだったのだろうか。

 

学校の方は、オリジナルと桧原さんが言っていた通り、田沢先生が骨を折ってくれたようだ。

新学期が始まってからでも一か月近くになるけど、少なくとも学校側から何か言われることはなかった。

生徒の間でも、二人の学年が違うこともあって、一緒にいなくなっていたことは、あまり気付かれていないようだった。

まぁ、別に何か言われても無視していればいいだけだけど。

校内では他人として振舞うというのは変わっていないので、すぐに噂も消えるだろう。

ちなみにペアリングは学校でつけるわけにはいかないので、ネックレスとして身に付けている。

 

そして、私的には日常に戻った平日の午前。

私はカバンを持って、体育館横の出入り口で靴を履き替える。

もちろんサボりだけど、私はコソコソしたりはせずに、堂々と裏門へと歩いて行く。

そこにいつもの声が掛けられる。

「おーくーたーだーみー!」

振り返れば、体育教官室の窓から田沢先生が身を乗り出している。

全く、今日は用事があるというのに・・・

私は嫌そうな顔をしながら体育教官室の窓の下まで戻っていく。

「何ですか?」

「何ですかじゃないだろ、お前。どうせ浜名先生にも言ってないんだろ」

「言ってません」

誰だよ、そいつ・・・

「あぁ、もういい。早退理由はなんだ」

田沢先生はもう諦めた様子で言う。

「サボりです」

「だから、日誌に書けることを言え」

そんな時に先輩がひょこっとやって来る。多分裏門で待っていたのに私が来ないので、様子を見に来たのだろう。

「げ、田沢じゃん・・・」

「だからお前は、面と向かって呼び捨てにするな。 ・・・で、なんだ、お前も帰るのか?」

「私はこれからあーちゃんと映画デートでーす」

先輩は私の手を取って、ぎゅっと抱き寄せてくる。

ちょ、人前でそんな・・・

私は思わず赤面してしまう。

だが、田沢先生はそれで納得してくれたようだ。

「・・・気を付けて行くんだぞ」

田沢先生は大きな溜息を吐く。

きっと問題児がもう一人増えたとか思ってるんだろうなぁ・・・

「あ、田沢~、約束だからラーメン奢ってね~」

「だから、呼び捨てにするんじゃない」

そんな会話を残して、私たちは学校の裏門を出る。

そしてそこで、しっかりと指を絡めて手を繋ぐ。

その柔らかい温かな手から、先輩の愛情と勇気が伝わってくる。

それだけでもう映画館は攻略したも同然だ。そうすれば、最終目標の海デートも近くなる。

「先輩、来年の夏、楽しみですね」

「え? 早すぎでしょ」

そう言って笑う先輩の腕に、私は抱き着いていった。

 

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