カオスな合同葬儀が終わり、家に帰って来た。メディアにも公開されて色々と話題になった葬儀だったが、その話の中心にあるのはSランクマスターの死と、今後この星はどうなるのだろうか、という不安と無関心だった。
テレビでは連日マスター達の死が報道され、世界的に何らかの事件があった事が大きく取り上げられていた。勿論、政府はなるべく混乱回避のために海王の存在を隠そうとした。だが月の破壊や世界的な水位上昇などでそれは不可能となっており、連日政府の対応が悪いとあっちこっちのメディアがバッシングしていた。
俺は政府の判断は正しいし上手くやってたと思うんだけどね? 海王を相手にあの戦力で戦線を持たせていた事実は称賛されて然るべきだと思う。とはいえ、メディアが政府や体制を批判するのは何時もの事だし、俺がどうこう出来る事じゃないので、俺は自分の事に集中しなければならない。
家に帰ってきてベッドに寝転び、俺は改めて酒クズの遺した手紙を手にした。
あの女は間違いなく最初から死ぬことを想定して人生を駆け抜け、あの瞬間に自分の人生の集大成を清算した。一体どういう感情で、どうしてそう至ったのか。それをこの手紙は答えてくれるのだろうか? 今はそれを確かめるのが少し怖い気もする。
「悲しい……か。俺が人の死をそんな風に思う日が来るなんてな」
幸い、まだ久遠や灯、家族やモンスター達の顔は見えるけど、普通の人たちや才能ある人たちでもよほど身近な人でなければまともに見る事も出来ない程、心がぼろぼろになってしまった。この手紙にそれを解消する為の糸口があると信じたい。
そう思ってベッドに寝転んでいた体を起き上がらせ、座り直し、チビをベッドに乗せて頭を膝の上に乗せる。精神安定剤良し! とチェックした所で軽く深呼吸をしてから……手紙を開ける。
中には何枚かの手紙が入っている。そこそこの長さだ。腰を据えて読みだす。
『―――みこっちゃんへ
まず最初にこれだけは言わなくちゃいけない。死んだから変に美化される場合もあるから大前提として伝えておくね。私の酒好きは素だから。未来辛いよぉ、苦しいよぉ……で酒飲んだ事ねぇから!! 好きで飲んでるから!! そこら辺よろしくね!!!』
「こいつ……」
まあ、なんとなく察してた事だったので小さく笑い声が零れてしまう。あいつらしいな、という感想が出る。というかそこは強調する所なんだ、とも。しかしそのおかげか、ちょっとだけ手紙が読みやすくなった気もする。
続きを読む。
『さて、どこから書いていくべきなのかなぁ。これを読んでいるという事は全て順調に終わったという事でしょ? 私の人生を懸けたサプライズが成功したって事だよね? まあ、色々と疑問が残ってるし驚きもしてるでしょ。何時の間にこんなに好感度稼いだっけ……とか疑問に思ってない?
まあ、だいぶ唐突だったもんね。困惑するのも解るよ。だからここで疑問に答えるつもりでこの手紙は残したのよ。所謂アフターケアって奴ね。【滲んでて読めない】あ、ごめん、ちょっとお酒零した。まあこれぐらいならいっか。【ここも滲んでいる】
ちょっと行間あけて……良し!
えーと、それで何の話から始めれば良いんだっけ? まあ、最初の方からにすっかなあ。
じゃあ私が最初に未来が見れるようになった話ね。
邯鄲の夢って知ってる? 盧生が夢の中で一生を経験したって話。
私が最初、未来を見れるようになった時はその力を制御できなかったのよ。無数にある未来の内の1つにフォーカスしてしまって、それを集中的に見ちゃう映画鑑賞モードみたいな状態に入って、私は自分の一生を見る事になったわ。
最初に見た人生は平凡な一生だったわ。普通に育って、就職して、旦那を捕まえて、子供も出来て……そして最後には死ぬ。それなりに満足できる人生だったわ。ちょっと短いのが玉に瑕だけども。でも私の見る未来はその1つだけじゃなかったわ、
お察しの通り、未来は無数に分岐しているの。行動の数だけ可能性がある。そこには能力や気質に合わせた可能性の大小が存在する。私はその無数の可能性を観測する力を持っていた。そのせいで私は幾つもの自分の人生を見る事になった。
だけどその未来は確実に30歳前後でデッドエンドを迎える事になった。
それが私の寿命か、或いは運命って奴だったんだろうねー。
それを見て別に悲嘆するつもりはなかったんだよね。短い人生だけどどんな生き方をしてもそれなりに満足できるって事は解ったし。だから最初はね、世界を救おうって気持ちはなかったんだよ。ただ未来を見た上で、最も楽しい道を選んで進もうって思っただけで。
で、この話が変わって来るのは私が学生だった頃の事で。まだまだ酒が飲めなくて悶々としていた私はちょっとした実験をする事にしたって訳よ。
見える未来で確率の低い未来は成立するのか?
私は望む未来を叶える事が出来るのか?
私が見える未来で自分以外はどうなんだろう? ちゃんと成立させられるのかな? マジでちょっとした疑問と実験だったんだよね。見えてはいるけど自分以外に対する干渉はどうなるんだろうこれ……って疑問から生じたそれをちょっとクラスメイトを相手に実行する事にしたのよ。
で、結果は地獄みたいな事だった。
仲の良かったカップルが本気で互いを憎しみあい。担任は逮捕。学級が崩壊して、本気で殺し合う人が出て来た。
私はね、この時本気で自分が怖くなったわ。少しだけ……本当に少しだけ、未来を見据えて背中をトントンと叩くだけで石が坂を転がり落ちる様に全部崩壊するのよ? いやあ、もう、本当に怖かったわ。でも幸いだったわ。
私がこれを面白いと思える感性を持っていなくて。
そう、そうなのよ。人間は善も悪も持ち合わせている。全ては表裏一体で、運命からするとそんなものはどっちでも良いのよ。人間は簡単に道を踏み外して全てを失う事が出来る。私はその結果と過程が見えている。これほど恐ろしい力はない。当時の私はこんなもの、見ない方が良いと思った。
でもね、結局見ないふりをしても見えない訳じゃないのよ。
私や君みたいに特別な人間はね、どれだけ目を逸らした所で絶対にその特別性から逃げる事は出来ないのよ。それから逃れるにはもはやそれを捨てるしかないの。そして私にはそれが出来なかった。出来なかったのよ。特別な力を手に入れて、それを手放す事が出来なかった。
だから向き合う事しか出来ない。私は弱かったのよ。本当に強い人は力を捨てて、見えないまま未来を歩むでしょうね。でも私にはその選択肢を選べなかった。
見えてたのにね。
そしてどの未来でも私はこの力を捨てるという選択肢を取れていなかった。結局、歪沢椿という女はどの世界線でもこの力に溺れた愚者だったという事なのよ』
解ってた事だが……誰の人生にだって物語がある。今まで出会ってきた全ての人間にはそれぞれに人生があり、物語があり、そしてそれを歩んできた歴史がある。あの酒クズだって自分の知らない所ではやはり苦悩を抱えていたのだろう。
チビをなでなでしてから手紙を読み続ける。
『で、面白おかしく生きよう! ってのが私のコンセプトだったんだけど……ここで疑問を覚えちゃったのよね。
このままで良いのか。これで良いのか。面白いって何? これは何のための力なの? って、思春期らしい悩みを色々と抱えちゃってねえ。これ、かなり悩んだのよ。力のあり方とその存在意義ってものを真剣に私が悩んだ瞬間でもあった。
で、何日も眠らずに必死に考えたのよ。
そして結論が出たの。
―――最も、意義のある事をしよう、って。
これはね、私が力を手に入れて初めて見た未来ではなく、自分の意思に問うた結果出した答えだったわ。どうしてこんな結論に至ったの? って疑問もあるでしょうね。まあ、当然よね。でもその根底にあるのはこの力をどうすれば良いんだろうって疑問なのよね。
君にもあるんじゃない? そんな知恵と知識を持って生まれてきてどうすれば良いの? って。でもね、私達は別に義務や責務を持って生まれて来たわけじゃないのよ。私達は皆、自由に生まれて、好きに生きて好きに死ぬ権利を持っているの。
選択肢は常にあったわ。別に戦う必要はないし穏やかに一生を送っても良いの。混沌とか、破壊とか、破滅とか、別に関わる必要はないのよ。君にだって別に誰かから名指しで世界を救えって言われた訳じゃ無いでしょ? 私だってそうよ。
最初に見たのは平凡な人生だった。逆に言えばそれが最もあり得る未来だったのよ、私の。
何も知らなければ。何もしなければ。私は普通に生きて、普通に死ぬ、それだけの女だったわ。でもね、私は自分の持った力に何らかの意義が欲しかったのよ。そんなもん別にないのにね。
でも人の人生って結局の所そんなもんじゃん? 価値のないものに価値を付与するのは人間が最も得意とする事じゃない。だから短い人生で最も意義のある事したいなぁ、って思ったワケ。
それで見つけたの、私の力の、才能の最も有意義な使い方。
つまり君を救う事。
未来を保証する事。
その可能性を見た時……私は思ったね、これだ! って。それが全ての始まり』
そうして歪沢椿は、自分の罪を語り始めた。