クリエイター少女のヒーローアカデミア   作:紅葉紫苑

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第3種目・ガチバトルトーナメント決勝戦 埴安神袿姫VS八百万百

 袿姫は控え室にて座禅を組んで目を閉じ、極限まで集中していた。

 無二の親友たる八百万百との決勝戦。

 自分と切磋琢磨し競って高めて背中を任せられるに値する最高の友人であり最も親愛にして最高の幼馴染。

 互いの個性は割れている、嗚呼しかし、袿姫が八百万の手の内を全て読めた事などそう多くはない。

 袿姫は今までの経験則と直感だけで八百万百の凡ゆる策を踏み越えてきた、今までもこれからも、それは変わらない。

 早鐘のように五月蝿く打ち鳴らす心臓の鼓動を聞きながらゆっくりと眼を開けて時間になったので控え室を出てフィールドへと移動する。

 フィールドへと進む最後の選手入場口から出る瞬間、緊張で心臓がキュッと締め付けられる感覚に陥るが息を整えて、あたかも平常を装ってフィールドに移動した袿姫。

 対面には八百万百がやはり同じような表情で立っており、同時に割れんばかりの大歓声が互いを包む。

 

『さて‼︎ さぁ‼︎ 遂にガチバトルトーナメントもここまできた‼︎ どちらが勝ってもおかしくない対戦カードだ‼︎ その手に触れたあらゆるモノは造形によって形を変える‼︎ 神の名は伊達じゃない‼︎ 埴安神袿姫‼︎ VS‼︎ 底なしの『創造』とそれを支える知識量で全てを『創造』するクリエイター‼︎ 八百万百‼︎ 造形と創造‼︎ リスナーの皆もどっちが勝つか気になるよな‼︎ 此処で‼︎ 雄英1年のトップが決まる‼︎ ガチバトルトーナメント決勝戦‼︎ 埴安神袿姫VS八百万百‼︎ バトルスタート‼︎』

 


 

 プレマイ先生のスタート宣告から5分が経過した。

 だが、しかし、互いに一歩も動かず、微動だにしないまま5分が経過していた。

 時間無制限とはいえ互いに一歩も動かずに居るのに観客は歓声を浴びせて注目をする。

 それを踏まえて解説の相澤がマイクを手に取り語る。

 

『どちらも『先の先』を取るよりも『後の先』を取るのに長けた個性だ、それだけじゃない……互いに互いの思考や癖、行動を完璧に理解している、故に外見では微動だにしなくとも恐らく脳内では膨大なシミュレーションが為されている筈だ、一手の読み違いが絶大な、覆しようの無いアドバンテージを獲られそのまま敗北に直結する為、お互いに動けないでいると言った所か』

 

 その言葉通り、2人の脳内では万を超える膨大なシミュレーションが為されていた。

 チェスが最善手を打ち続ければ負けはないように、この勝負も最善手を打ち続ければ負けはない。

 しかし、それは蜘蛛の糸よりもか細い幾億数多から読んだ、たった1手の読み間違いがそのまま覆しようのない絶大な差を生み、敗北に直結される。

 故に互いに1歩目を踏み出せずにいる。

 傍目から見ればたかが1歩、しかし2人からすれば奈落の底へ繋がっている1歩である、断じて軽々に踏み出せる一歩ではない。

 袿姫が八百万の『創造』を警戒しているように、八百万は袿姫の『造形神(イドラデウス)』を最大限に警戒している。

 互いに一挙手一投足すら、風で揺れる髪の毛1筋すら見逃す事なく相手を見据えている。

 そうして更に2分が経過した、互いに動きのない7分間。

 それを終わらせたのは八百万であった。

 一呼吸の後に『創造』されるは数多のウェポン。

 取り回しの良いMP7を筆頭にサブアームとしてSIG SAUER M17をホルスターに装着し、無数の投擲物を創造し攻撃を行う。

 消音器(サプレッサー)無しで激しく響き渡る銃撃音と閃光と爆音を放つ閃光手榴弾(スタングレネード)の豪雨を与えながらも八百万は決して攻撃の手を緩めはしない。

 弾切れになった瞬間に替えの弾倉(マガジン)を創造して射撃を続行し続ける。

 銃撃音と爆音が支配する最中、八百万百の耳には死神の鎌を幻視させる声が響いた。

 

「さて、此処までは読み通り……本気の『霊装』……その極致を見せてあげるよ、百‼︎」

 

 爆煙を吹き飛ばして露わになるのは180cmある袿姫の背丈の倍あろうかという大剣であった。

 クレイモアに近い形状のソレの柄を軽々と持つ袿姫。

 太陽光を浴びて鈍色に光るその刀身はとても分厚く、袿姫の背中を覆う程に巨大(デカい)、そして刀身の両面には『霊装』を『霊装』足らしめる紋様がびっしりと刻み込まれていた。

 


 

 片や単なる『創造』を、創造する物質の共通式を先に編纂し、状況に応じ核となるモノを代入する式を選択する『術式』という芸術の域へと昇華してなお神域を臨む女。

 八百万一族において空前絶後の術式編纂師、八百万百。

 片や触媒と刻印術式を、工学の域へと昇華して終には神業へ至った造形の神を自称する女。

 埴安神一族において2代目となる霊装使いにして、絶後の触媒設計師、埴安神袿姫。

 その背には身の丈の倍はあろうかという巨大な鉄塊(つるぎ)──刻印術式の触媒『霊装』。

 既に互い、互いの間合い。それぞれの個性(ちから)を──ただ無言で構える。

 先に動いたのは袿姫であった。

 

 袿姫が放った剣の斬撃と、同時に生じたフィールドにのみ影響する極めて瞬間に、だが八百万の武装を残骸に追いやる程強烈な熱波。

 八百万の創造(つくりだし)手札(武器)の尽くを斬り裂き、燃やし尽くす〝二撃〟を。

 擬似的な体感加速装置にて加速した体感時間を以てして、辛うじて回避を為し得た八百万は──感動した。

 袿姫の鉄塊(つるぎ)──彼女自身が考案したその『霊装』は嗚呼……まさしく。

 

(芸術です、惚れ惚れする──『武器(アート)』ですわ‼︎)

 

 そんな触媒に(・・・)あらかじめ(・・・・・)機能を刻印(・・・・・)するという閃きがもたらした、それは──。

 

「────────ッッッ!!!!」

 

 振り下ろされた『大剣』が地に刺さり、その柄から袿姫の手が離れる。

 その手が、刀身の〝左右〟へと滑ったのを認識するや否や、八百万は即断した。 ──〝間に合わない〟。

 編纂していた二つの『創造』を破棄し、温存した編纂済みの三つを発動──そして。

 袿姫の手が『大剣』から別たれた(・・・・)『双剣』を摑み、八百万のいた空を裂く様と、前方一帯が大気を巻き込み氷結・粉砕する様を──袿姫の背後(・・・・・)から見た。

 ──もし、術式の放棄を一瞬でも躊躇していれば。

 創造にて創り出した『小型空間転移装置』で袿姫の背後へ〝疑似空間転移(デミ・シフト)〟しなければ──敗北したという確信に冷たい汗が滲む。

 そう──機能をあらかじめ触媒に刻印しておけば、その発動は瞬時(・・)に終わる。

 その都度編纂する八百万が、術数や力で上回っても──速さで先手を取られる。

 ──ならば〝後の先〟を取ればいい──と思うだろうか? と。

 八百万が発動した術式は〝三つ〟。

 袿姫の背後へ転移した擬似的な瞬間移動を行う創造物と──更に二つ、疑似転移の直前、袿姫の眼前に残した──『起爆寸前のダイナマイト』と同じく、地面にばら撒かれている起爆寸前の『閃光手榴弾(スタングレネード)』。

 袿姫がその手に持つ氷結・粉砕機能が刻印された『双剣』では捌けぬはずの置き土産(ばくだん)に、だが──。

 

「────ハ──ハハァッ!!」

 

 獰猛に嗤った袿姫が地に刺さる『大剣』を一蹴り、柄から飛び出た(・・・・)『小剣』を摑んだ。

 その刹那には。既に『一つに合わさった双剣』が背後(八百万)目がけ投擲されていた。

 ──襲い来る『双剣』に刻印されたモノの意味は、八百万にはわからない──だが。

 僅かに屈み飛来したソレを躱し、編纂出来た『創造物』を以て追撃せんとした。 前に二つ。背から一つ──先の二つの置き物(ばくだん)を目眩しに使い、更なる火力としてM4A1を撃ち込む。

 計三つの手札(創造)

 袿姫の摑んだ『小剣』の刻印が何であれ、それも含め撃滅する展開。

 ──防御不能。回避も不可能。その確信があった八百万は──だが。

 

「────────ッッッッ!?」

 

 確信に逆らう直感に従い、『M4A1の銃撃』を袿姫の背ではなく、自分の背に向けた撃発させた刹那──背後で膨大な力が反射し合う衝突を感じた。

 眼前にあったはずの袿姫の姿が、淡い残滓光を残し〝消失〟したのを視界端に残してようやく追いつかせた視線。

 

 向いた八百万の背後には──

 

(──疑似転移(デミ・シフト)ッ!? ──投げた剣の〝投擲先で発動〟する刻印機巧──ッ!?)

 

 八百万が躱した『双剣』を摑み、もう一方の手で『小剣』を振り下ろす獰猛な笑み。

 こちらの『M4A1の弾幕』と拮抗する、袿姫の姿があった。

 ──当然ながら、刻印術式での機能は『刻印された機能』しか使えない。

 複数の触媒を瞬時に使えば、なるほど複数機巧の同時使用は可能になる。

 刻印術式の複合──相互的な応用が出来ない以上、応用性の無い決まった機能を複数使えるだけ。

 だが──、と。

 加速する体感時間の中、八百万は袿姫の手が極めて流麗かつ緩やかに動くのを視た。

 その手に握られた剣──氷結と破砕の刻印が刻まれた『双剣』だったはずの剣。

 一つに合わさった(・・・・・)途端、疑似転移刻印の座標(アンカー)へと変じた剣が──バラッ……と。

 今度は無数の『小刀(ナイフ)』に分離するのを──視た。

 そしてそこにあるはずのないモノを──視るや。

 己の背後で(・・・・・)地に(・・)刺さって(・・・・)いたはずの(・・・・・)──袿姫と(・・・)共に(・・)転移(・・)()()大剣(モノ)に。

 刹那。八百万は既に創造するのみであった創造物を即座に破棄・代わりの物を創造する刹那の時間稼ぎに対し悲鳴をあげた。

 起爆寸前のダイナマイトと爆発から自身を守る対爆スーツを生み出して、衝撃に備えつつも密着している2人の眼前で起爆したダイナマイトにより2人とも対角線上に吹き飛ばされる。

 2人の鼓膜には空をも割り砕く、可聴域外の轟音が響いた。

 咄嗟の、自爆にも等しいダイナマイトによる強引な防御。

 対爆スーツを着込んでそれでもなお防げなかった衝撃に、八百万は毬の如く地を跳ねる。

 

「ッ‼︎」

 

 爆砕され粉塵舞うフィールドを転がって俯せに倒れ込む八百万。

 だが追撃を警戒し即座に跳ね上げた視線の先では。

 ……袿姫もまた無傷とはいかなかったのか、追撃する代わりに膝を突き、同様に八百万へと視線を向けつつも、その手に持ついくつかの触媒が損壊した様子の『霊装』を感触だけで理解して、愉快げに嗤っていた。 

 そして八百万もまた、この一瞬の交錯で見た全てに──感銘に笑みが溢れた。

 ──あの爆発の刹那、袿姫の手は、宙に散った無数の刃物を。

 神がかった手捌きの曲芸(ジャグリング)で『大剣』へ──位置を〝組み替え〟格納し、八百万の着込んだ対爆スーツと同じく同等の防御を構築した。

 

 そう──つまるところこれが『霊装』という『芸術(ぶき)』の正体。

 八百万百をして感動させる──『芸術(てき)』であった。

 理外にあると言わざるを得ない程卓越した反射・判断・読みの速度と精度──人知を超えた異常あっての『(アート)』だった。

 

「見事この上ないのですよ、それでこそ私のライバル、それでこそ埴安神袿姫」

 

 最大限の敬意を表す八百万百。

 それもそのはず。『霊装』は明らかに理論化されたもの。

 そしてその理論とは八百万百自身の考案した技術体系を基礎として構築されたモノ。

 共通式を先に編纂し、状況に応じ代入する式を選択するものと、同じなのだから。

 理論も何も理解せずに全てを造れる者が初めて何かを理論化させて造ったモノ、それが『霊装』である。

 だが敬意を灯した瞳はそのままに、瞳で語り合う2人。

 知恵の輪の様に難解でありながら、更には自在に形を変えられる可変性、兆という単位を優に超える組み合わせで構成された刻印。

 〝刻印を繫ぎ組み替えて〟刻印機巧の配置交換を行う事により遂には定められた機巧の数以上の機巧と、本来ならば存在し得ない『相互的な応用』を搭載した機巧を扱えるという神業で以て。

 それが『霊装』の極致、膨大な数の機巧を有し半秒毎に機巧(ギミック)が入れ替わり立ち替わる。

 総計すると那由多(10の60乗)を遥かに凌駕する膨大な数の刻印機巧を自由自在に、自身の手足の如く扱う袿姫。

 対するは対爆スーツを脱ぎ捨てて土埃に塗れたボロボロのジャージを見て獰猛な笑みを浮かべる八百万。

 袿姫も獰猛な笑みを浮かべておりその手に持つ『霊装』を曲芸(ジャグリング)にて再構築させていた。

 無数の曲芸(ジャグリング)を行いつつ袿姫は楽しげに語る。

 

「呵呵‼︎ 素晴らしい‼︎ それでこそモモ‼︎ それでこそ私のライバル‼︎ だからさ、まだまだ踊ろう‼︎」

 

 その語りと、観客の声援の狭間でカチリッとほんの僅かに響いたその微細な音を八百万の聴覚器はしっかりと捉えていた。

 そして──身構える。

 刹那、60mは離れていた2人の距離、それを嘲笑うかの様に八百万百への背後に擬似空間転移(デミ・シフト)した袿姫がその鉄塊(つるぎ)を真横に振るう。

 瞬間、機巧が華開き、見えるは扇状に分たれた大剣だったモノ。

 その機巧が八百万には何かは分からないし何をするのかも、それが本当に攻撃なのかも知らないが、とにかくやばい──そう直感した八百万は広いフィールド後方にも、この攻撃を避けれれば確実に先手を取れる左右にも回避をする事なく、扇状に広がった鉄塊(つるぎ)の真下へと躊躇う事なくスライディングした刹那……扇状に広がった大剣から巻き起こるは袿姫の足下を除いたフィールド全域に作用する超絶重力場。

 当たれば気絶するまで相手を圧し潰すそれは確かに脅威だろう。

 尤も……当たれば(・・・・)ではあるが。

 唯一当たらないのは袿姫の居る場所と同じく袿姫が持つ鉄塊(つるぎ)の場所のみ。

 スライディングで安全地帯へと潜り込んだ八百万はベネリM4を創造し袿姫に向けて撃ち込むが銃口から軌道を読まれて身体を反らし回避される。

 


 

 試合開始から1時間45分が経過している現在。

 走りながら的確に撃たれた銃撃を袿姫も八百万も難なく回避すると次の動きを互いに読んでいたかの如く同じ動きを取る。

 剣戟と銃撃を交錯させながら八百万と袿姫は全く同じ事を同時に考える。

 ──相手の舞台に立つな、主導権を絶対に渡すな。

 ──相手を油断させろ、取るに足らぬ相手だと理解させろ。

 ──相手を警戒させろ、下手は打てぬ相手だと錯覚させろ。

 ──相手を予測するな、ただ誘導すれば結果は見える。

 ──反応出来ない攻撃は先読みすればいい。

 ──予想もできないなら誘導すればいい。

 

「「絶対負けない‼︎」」

 

 そう叫びあい互いを見据えて叫び合う。

 袿姫は大剣を軽々持ち上げ投擲するもそれを先読みしていた八百万は淡い残滓光を残し擬似空間転移(デミ・シフト)にて袿姫の背後へと移動した。

 だが、それを更に読んでいたのは袿姫も同じ。

 自身の背後を見る事なく疑似空間転移(デミ・シフト)で容易く回避し、距離を置く。

 淡い残滓光を残し擬似空間転移(デミ・シフト)をした袿姫、その移動先を読んだのか八百万からベネリM4とSIG SAUER M17による2挺銃撃が行われるが手元のSIG SAUER M17を即座に組み替え盾にし銃撃を耐えてから即座に盾からSIG SAUER M17へと再構築して銃撃を行う袿姫。

 間髪置かぬ袿姫の銃撃を銃口から軌道を読んで射線を掻い潜る八百万、対して袿姫も撃たれた散弾に対して回避行動を行い、間髪置かず迎撃し銃弾が交錯する。

 互いのSIG SAUER M17が弾切れを起こした刹那、互いに擬似空間転移(デミ・シフト)を行い淡い残滓光が煌めく。

 そして3秒後、次に2人が現れた場所は、フィールド中央。

 互いに即座に振り返って無言で拳を突き出して殴り合う。

 

「グッ⁉︎」

 

「ガハッ‼︎」

 

 鋭いパンチが互いの顎にクリーンヒットし互いに仰け反る。

 袿姫が更に追撃の為、一瞬速く拳を突き出すが八百万にそれを掴まれ、絶対に曲げてはいけない方向に、本来は曲がる事が無い方向へと曲げられ容赦なく左腕の橈骨及び尺骨を折られる。

 ボキッと鈍い音が響き激痛が袿姫の脳を支配するが今は痛みなんぞ無視して良い‼︎

 何故なら‼︎ 切り札は最後まで伏せてこその切り札なのだから‼︎

 袿姫は残った右手で圧し折られた腕へと触れ造形を行う、一度『造り変えて』からの完全で完璧な治癒。

 後遺症も傷痕も無く折られる前の状態に戻した左腕を確認して動かす。

 追撃を警戒して常に相手を見ている袿姫だが八百万の惚けた顔を見て、攻めはせずに言葉で語る。

 

「ふむ、問題ないようだな? ん? 何を惚けた顔をしている? 嗚呼これか? 呵呵、散々ヒントを与えていたろう? 他者の肉体を治せるに自分に適用できない訳がない、それに……人体の造形術は自身で試してこそ‼︎」

 

 そう叫び自身の肉体を『造り変えて』から元に戻して疲労も傷も何もかもを取っ払い戦闘を続行する袿姫。

 ズタボロの衣服の修繕に始まり疲労困憊の肉体すら造り変え疲労を文字通り無に帰した袿姫。

 なんともはや、無限回復とは恐ろしいと、改めて実感した八百万であった。

 


 

 八百万は考える。

 此処から勝つ未来を手繰り寄せる最適最良の動きを。

 かといって先制攻撃を行おうにも互いに互いを穿てる力がないのも自明──ならば。

 後の先──此方に力を消耗させた後を狙う。それ以外に勝ちの目はない。

 と、相手が袿姫以外の存在ならそう考えたのだが……相手は埴安神袿姫である。

 此方が袿姫の考えを読める様に、袿姫も八百万の考えなど簡単に読める。

 故に、腕か脚の1本を差し出す覚悟を決めて挑む。

 肉を切らせて骨を断つ。という言葉がある。八百万は、実に憐れむべきケチな発想だと思った。

 己の目的は何かと問われれば、袿姫に勝つ事、それが可能と証明するならば……。

 骨を切る(・・・・)なら(・・)こちらの骨(・・・・・)まで(・・)切らせて(・・・・)やる気概(・・・・)なくして(・・・・)どうする(・・・・)……? 

 袿姫に勝つには予測不可能の一撃を、予測不可能なタイミングでぶち込むしか無い。

 1000人が居れば1000人が間違いなく不可能だと語るだろう。

 しかし、嗚呼されどもさ。不可能を可能にし、それを笑い飛ばして、そこまで行ってようやく立てるスタートラインが其処なのだ。

 それに……幾億重ねて語るが。

 切り札とは。

 絶対に対処不可能でなければ──〝切り札〟とは言えない。

 そして己と同等以上の存在を相手に、絶対(・・)が成り立つ条件など。 

 ──『初見殺しの伏せ札』以外に、存在し得るわけがない……。

 

「やるね百‼︎」

 

 そう叫んだ刹那、八百万の(・・・・)背後に(・・・)突き刺さっ(・・・・)たままの(・・・・)鉄塊(つるぎ)が、機巧を(・・・)展開した(・・・・)状態(・・)でするりと(・・・・・)袿姫の手(・・・・)の中に(・・・)現れた(・・・)

 刹那、華開いた大剣から射出されるは機巧の一部。

 フィールドを貫き、八百万の脚元に突き刺さったソレにどんな意図や機巧が仕込まれているかは八百万は分からない。

 しかし、それを喰らって良いと思える様なモノでは無い事だけは確かであり──擬似空間転移(デミ・シフト)にて即座に回避行動を行った刹那。

 淡い残滓光が消え入り八百万が移動した刹那‼︎

 その背後から巻き起こるは全てを燃やし尽くす紅蓮の爆炎と全てを凍らせ尽くす極冷の斬撃。

 轟凍火が使用した赫灼熱拳ヘルスパイダーそのものであった。

 陽炎の如く揺らめき、軌道上に存在する全てを燃やし尽くし凍て尽くす斬撃が八百万へと襲いかかる。

 なんとか身を捩り、現在地点から射角などを即座に計算して、今即座に移動可能なほんの僅かな安全地帯を見つけ出して退避し俯せの姿勢になる。

 刹那、八百万の頭上スレスレを通過してフィールドに定められた場外判定の線と同じ場所で消え失せる。

 

「ふむ……流石はモモだ、やるね」

 

 審判、実況、解説、観客を含めた全員があの斬撃で吹き飛ばされたものと理解していた。

 対戦相手たる袿姫以外の全員が。

 だが、現実はそうはなっていなかった、袿姫の腕に撃ち込まれた弾丸がそれを物語る。

 袿姫は左肩から前腕にかけて撃ち込まれた弾丸を見て笑みを浮かべる。

 即座に右手で肩から手首までを造り変えて怪我を無かった事にすると反撃に転じた。

 互いの距離は250mは離れている。

 袿姫は鉄塊(つるぎ)を構えると、機巧を華開かせる。

 自らの両腕を極めて戦闘に特化した物へと造り変えて、更には両脚を超高速移動に即している物へと造り変え動いた。

 たった一歩で数百mをゼロに詰める踏み込み──からのノーモーションに等しい斬撃。

 斬撃を回避すれば全方位を切り裂く光波が、死角から迫れば黒球の狙撃が。

 距離を取れば追尾する黒球、これに意識を向ければ、待つのは袿姫の挟撃。

 此処にきて、底が見えない袿姫の底が更に見えなくなった、そう感じるのは八百万以外の全員。

 観客席の凍火は食い入る様な目つきで勝負を見ていた、余す事なくアレに対抗できる様に、次を見据えて。

 誰しもが袿姫の勝ちで終わると確信していた。

 


 

 30分後。

 空気は一変していた。

 身動きさえ赦されず、あらゆる挙動が先回りされ──予備動作で潰される袿姫の姿が其処にはあった。

 身動きせずとも放てる黒球の雨さえ、未来を読んでいるとしか思えない、袿姫が居ない筈の所を狙い撃たれた弾丸による、跳弾を(・・・)重ねた(・・・)弾丸一発(・・・・)で逸らされる。

 己の一挙手一投足を全て封じる──その精度は〝未来視(・・・)〟に到達している……!! 

 だが、如何なる存在も──埴輪兵団にも、無論、袿姫にも、八百万にも未来視は原理的(・・・)()不可能(・・・)なのだ!! 

 分岐し続ける、無限の可能性世界(みらい)──その収束地点は、神でさえ知り得ないッ‼︎

 苦々しい表情で、鉄塊(つるぎ)を掲げ振るう袿姫……だが、コンマ秒の刹那、弾丸(・・)()弾丸(・・)()跳弾させた(・・・・・)銃弾の交差(・・・・・)により両手首と両膝裏を撃ち抜かれ四つん這いになる。

 即座に顔を跳ね上げた瞬間、突きつけられるはベネリM4の銃口。

 負けを理解して……袿姫は降参を宣告した。

 そうして、勝利が確定し八百万百の勝利を宣告する審判、ミッドナイトの声が響いたのであった。




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