【オリキャラ注意】僕のおじさんはロボット兵士   作:へたれまん638号

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【前回のあらすじ】

 深海棲艦との戦争がひとまず終結した世界。
 そこには連装砲ちゃんの居場所は無く、彼は死に場所を求め、海をあてもなく彷徨っていました。
 しかしある日、何かに導かれるように無人島の洞窟へとやって来た連装砲ちゃんは、そこで傷ついた機械の怪物と遭遇。この洞窟で暫く一緒に暮らす事を提案されます。
 それを受け入れた連装砲ちゃんは怪物と協力し、二人で暮らして行く環境を整える為、洞窟内のリフォームに取り掛かります。
 リフォーム完了の喜びも束の間、なんと傷ついた駆逐イ級が二人を喰い殺さんと島へ接近している事が判明。敵に自分達の居場所を察知される原因を作ってしまった事に責任を感じ、連装砲ちゃんは単身イ級へ戦いを挑みます。
 しかし万全の状態では無い為に大苦戦。一時は死を覚悟しましたが、そこへ怪物の助太刀があり、辛くもイ級を撃退する事に成功。戦いを通じて友となった二人の、新しい人生が始まろうとしていました――。


その2

 それからというもの二人はすっかり打ち解け、互いに助け合いながら慎ましくも幸せな生活を送っていました。

 二人はまるで古くからの友人であったかのように何をするにも一緒で、ボディのメンテナンスをするのも一緒。海に沈んでいるスクラップを引き上げ、使えそうな物を洞窟に持ち帰る作業も一緒。捨てられたモーターボートを修理&改造し、一緒にそれに乗って釣りへ出かけに行く日もありました。

 

 生活拠点も徐々に整い、拾ったスクラップを利用して整備ドックを増設。二人の身体を完璧にオーバーホール出来るまでに設備は充実して行きました。

 その他、家具や生活用品も二人で一緒に作り、彼らの生活は最初の頃からは考えられない程、豊かで幸福な物となりました。

 あらゆる事を自分達で用意しなければならない環境ではありましたが、彼らはそんな日常を心から楽しんでいたのです。

 

 しかし順風満帆に見えた生活の中でも、不可解な事がありました。時折、怪物の様子がおかしくなる時があったのです。

 

「あっ……あのさ、ちょっと良いかい……?」

 

「ん、おじさんどうしたの?」

 

「あぁ……その……いや、やっぱり何でもない……。さて、体をメンテナンスする時間だ。一緒にドックへ行こう」

 

 このように、気まずそうに話しかけて来たかと思えば、結局何も話さないまま終わったり、別の話題にすり替えてはぐらかしたりと……いつも彼は言いかけた言葉を辛そうに飲み込むだけです。

 何か大事な事を打ち明けられずに困っている……連装砲ちゃんは『おじさんは何か悩み事があるのかなぁ?』と、とても心配になりました。

 

 

 

× × × × × ×

 

 

 

 そんな状態が続いていたある日の事。

 連装砲ちゃんが部屋の掃除をしていると、怪物が使っている机の引き出しから写真がはみ出しているのを発見しました。

 

「これは……?」

 

 引っ張り出した写真……そこには怪物を含めた、六体のロボットが写っていました。

 仲良く肩を組んだりピースをしたりと、小さな写真の中で楽しそうに振る舞う彼らの姿は、まるで人間のように感情豊かに見えました。

 

「それは、むかし一緒に仕事をしていた仲間達なんだ……」

 

 突然、背後から小さく声がしました。

 驚いて振り向くと、そこにはバツが悪そうに立っている怪物の姿がありました。そのしょぼくれた姿は、普段の陽気な彼からは想像できない程、弱々しいものです。

 

「……ごめんなさい、写真を見ちゃって……」

 

 友人の所有物を勝手に見てしまった事を謝罪しながら、連装砲ちゃんは写真を怪物へ返します。

 怪物は写真を受け取りながら、そっと連装砲ちゃんの頭を撫でます。

 

「謝る事ないさ、管理が杜撰だった俺がいけなかったんだ――」

 

 それっきり、互いに次の言葉が見つからず黙りこくってしまう二人。その場が暫く沈黙と緊張感に包まれ時間の流れが一秒一秒、いつもの何倍にも長く感じられました。

 そして、その沈黙を怪物が破り、消え入りそうな声で話を切り出します。

 

「ずっと迷っていた……だが、やはり君に打ち明けておいた方が良いと思う。少し俺の話を、聞いて欲しいんだ……」

 

 一呼吸置いて本題に入ろうとしている怪物の神妙な面持ちを見て、連装砲ちゃんも姿勢を正して相手の話に耳を傾けます。

 

「君も察していると思うが……俺や、この写真に写ってるロボット達は、君や艦娘と同じように深海棲艦と戦う為に作られた兵器だったんだ。もっとも、失敗作として消えて行った存在だけどね……」

 

 艦娘が存在せず、人類が深海棲艦に対抗する手段を模索していた時代。

 当時は数多くの対深海棲艦兵器の試作品が生み出され、敵に戦いを挑んでは消えてゆきました。人々の期待の次にある物は落胆……どれも失敗作の烙印を押され、何の成果も出す事無く歴史の闇へ葬り去られるだけでした。

 

 ですがそれらの中で唯一、一定の成果を上げ、艦娘が開発されるまでの間ギリギリの所で持ちこたえていた者達が居ました。

 艦娘を除けば、敵の装甲にダメージを与える事が可能な唯一の兵器……それこそが、連装砲ちゃんの目の前に居る機械の怪物……ロボット兵士だったのです。

 

「唯一対抗できる兵器と言えば聞こえは良いが、結局俺達がやった事と言えば敵の侵攻を遅らせ時間稼ぎをする事だけ……失敗作である事に変わり無いんだ――」

 

 ロボット兵士達は休む間もなく、昼も夜も懸命に戦い続けましたが、そんな彼らの必死な抵抗にも限界がありました。

 確かに彼らは深海棲艦の装甲に傷をつける事は出来ましたが、敵の生命を奪う事は出来ませんでした。彼らの力ではどんなに頑張ったとしても、敵艦隊を撤退に追い込むのが精一杯……相手の燃料・弾薬が尽きるのを待つという消極的な戦い方をする以外に方法が無かったのです。

 

「役に立たない兵器を、軍も民間人も歓迎はしなかった。『税金の無駄遣い』『穀潰し』『産廃』『ゴミを作る金があったら物資をよこせ』……他にも色々な事を言われたよ」

 

 戦っても戦っても報われず、毎日仲間の誰かが海の藻屑と消える日々……。

 艦娘がようやく実戦投入できる所まで開発が進むと、軍は無用の長物と化したロボット兵士達を今まで以上に酷使しました。

 

 大量の爆弾を積んで敵に特攻させられた者……輸送船を守る為に盾となって破壊された者……解体され、艦娘の艤装の材料にされてしまった者……。皆、捨て駒扱いの状態でした。

 

 ロボット兵士の大半は幸福とは程遠い最期を迎え、現在生き残っている個体は1%にも満たない状態。最早過去の存在となった彼らを、覚えている人間は殆ど居ないでしょう。

 

「本来なら、俺も小隊の仲間と一緒に死ぬ筈だったんだ。艦娘の開発に必要な海底資源を積んだ貨物船……それが名古屋港まで無事辿り着けるよう、囮となって死ぬ任務で……」

 

「……」

 

「だが俺は生き残ってしまった、仲間達は皆沈んで行ったというのに……。俺一人だけがみっともなく生にしがみ付いている有様だ……まったく、無様なもんだよ」

 

 今まで殆ど自分の事を話そうとして来なかった怪物でしたが、過去に軍の人間からこのような扱いを受けていただなんて……連装砲ちゃんは彼の話をただ黙って聞いている事しか出来ませんでした。

 それと同時にロボット兵士達と自分の境遇を重ね合わせ、改めて軍に対する失望感を抱いていました。『戦って死ぬ為だけの存在として生んだのなら、何故自分達にこのような“感情”を持たせたのか』と心の中で呟きながら……。

 

「君や艦娘には本当に済まない事をした。結果的に、俺達が背負う筈だった物を全て君達に押し付ける形となってしまった……」

 

 拳を強く握りしめ、苦しそうに声を絞り出す怪物。

 連装砲ちゃんは話を聞きながら段々と分かってきました。彼が今日まで、この話をする事を躊躇っていた訳を……そして打ち明けるまでにどれほど葛藤し、苦しんでいたのかを……。

 

「我々に深海棲艦を倒す力があれば、年端も行かない少女達が戦場で命を散らす事も無かった。君だって兵器としてではなく、別の存在としてこの世に生を受けていたかも知れない……少なくとも今のような、酷い人生を送らずには済んだ筈だ……」

 

 このような戦いが無ければ普通に生活し、年齢を重ね、人並みの幸せを掴めたかも知れない少女達……しかし、そんな未来は彼女達に訪れる事はありませんでした。

 その現実をを怪物は片時も忘れる事なく、彼女達に何もしてやれない自分を責め続けていたのです。

 

「でも、それはおじさんのせいじゃ……」

 

 連装砲ちゃんの慰めの言葉に対し、怪物はゆっくりとかぶりを振ります。

 

「俺一人だけの責任と己惚れるつもりは無い……しかし役目を全うする事が出来ず、君たちを地獄へ突き落す結果となってしまった事実は変わらない。我々ロボット兵士一人一人に等しく罪があるんだ……それなのに俺は、こうして毎日ぬくぬくと幸せな生活を送っている……本来なら、そんな資格は無いというのに――」

 

 そう言い終えると口を閉ざし、頭を抱える怪物。

 連装砲ちゃんは彼が抱えていた苦しみに気付けなかった事に対し、忸怩たる思いを禁じ得ませんでした。

 

 上っ面だけの慰めなど何の役にも立たない……今の自分に一体何が出来るのか……連装砲ちゃんは考え、暫くの沈黙が流れます。そして、彼は俯く怪物に対して静かに語り掛けました。

 

「おじさん……確かに僕が生まれてから今まで体験して来た事は、決して幸せな事ばかりじゃなかった。大切な人も帰る場所も失ったあの時は自分の運命を呪った。この世に生まれた事を憎んだ瞬時さえあった――」

 

 項垂れたままの怪物が話を聞いているのかどうか分かりませんが、連装砲ちゃんは話を続けます。

 

「でも、艦娘が開発されなければ島風型の艦娘も生まれなかった。その支援機として作られた『自律型海上機動砲台』の僕だって存在しなかった。でも、そんなの寂しいよ……アヤちゃんやおじさんと出会う事が出来なかった世界なんて、僕は嫌だ」

 

 語尾を強める連装砲ちゃん。辛い記憶と同時に、楽しかった思い出が彼の脳裏に浮かび上がります。

 

 最初は関係がギクシャクしていた島風(本名:早水アヤ)と徐々に心が通じ合うようになり、最高の相棒となった事……休息時に鎮守府の皆と共に遊んだ安らかなひと時……そして、絶望からすくい上げてくれた恩人である怪物と過ごす第二の人生……。

 

 生きて来た時間は短くとも、彼の小さな胸の中には、掛け替えのない財産が確かに存在しました。

 

「意志ある者は誰だって『こんな筈じゃなかった』『今とは別な、正解に繋がる人生のルートがあった筈だ』と考えてしまう瞬間は幾らでもある。僕にだって痛いほど解るさ……でもね――」

 

 怪物をしっかり見据えて話す連装砲ちゃんの目は、作り物とは思えない程に強い意志を感じさせる、熱意のこもったものでした。

 

「やっぱり僕は自分が今日まで生きて来た事も、おじさんがこうして生きている事も間違いだとは思いたくない。一体何が正しかったのかは分からないけれど……皆がその時その時に出来る限りの事をして来たから……おじさん達が命を捨てて戦ってくれたから……だから今があるんだと思う。上手くは言えないけれど、少なくとも僕はおじさん達の事をこれっぽっちも恨むつもりは無いよ……寧ろ感謝してる」

 

 しどろもどろになりながらも『考えた事』『いつも心の中で思っていた事』を言葉として絞り出す連装砲ちゃん。しかし相手に自分の言いたい事が伝わったのか、正直心配でした。

 怪物がずっと地面に視線を落としたまま何も言わず、リアクションが一切無い事が、余計に連装砲ちゃんを不安にさせます。

 

(色々言ったは良いものの、これじゃ何が言いたいのか伝わらないや……どうしよう……)

 

 しかし突然、怪物が再び口を開き、絞り出すような声で言いました。

 

「……俺は相変わらずの甲斐性なしだ。俺よりもずっと若い子の方が、立派な考えを持ってるじゃないか……」

 

 自嘲気味にそう呟いた怪物……それは連装砲ちゃんにではなく、不甲斐ない自身に向けた言葉のようです。怪物はゆっくりと顔を上げ、連装砲ちゃんの方を向きます。

 

「済まなかったね、こんな話に突き合わせてしまって……。だが、ずっと打ち明けないままで居るのは君を騙しているような気がして……話さずには居られなかったんだ。それと、ありがとう――」

 

 務めて明るく振る舞おうとする怪物でしたが、これで彼の抱える苦しみが解決したとは思えません。しかし自分の言いたかった事が伝わったのは確かだと、連装砲ちゃんは感じました。

 

 焦る事はない、これから少しずつ二人で一緒に前を向いて行けるようになれば良い……連装砲ちゃんは自分にそう言い聞かせ、今まで以上に怪物との生活を大切にしようと心に決めました。

 

 

 

× × × × × ×

 

 

 

 それから暫く経ったある日の午後。

 怪物が海へスクラップを拾いに出かけている間、連装砲ちゃんはお家の掃除をせっせと行っていました。

 

 何気ない……しかし何物にも代え難い、価値ある平和な日常。二人ともあと何年生きられるかどうか分からない人生だからこそ、ささやかな幸福を一日一日しっかり噛み締めながら、慎ましく暮らしていました。

 

「今日も良い日になると良いな――」

 

 家具にはたきをかけながら呟く連装砲ちゃん。ふと、棚の上に置かれた写真立てが目に留まりました。

 ついこの間、遠くの無人島まで遊びに行った時に撮った物で、二人の楽しそうな様子が映し出されています。

 

 そしてその隣には超合金ロボットの玩具……一週間前に怪物が海底で拾い、ピカピカにレストアした物を誕生日プレゼントとしてくれた物でした。これを貰った時、連装砲ちゃんは『もう玩具で遊ぶ歳じゃないからディスプレイモデルとして飾っておくよ』と怪物に言いましたが内心飛上がるほど喜んでおり、毎日一人になったタイミングを見計らってはロボットの玩具で遊んでいました。

 

「……」

 

 本当に、良い友人と出会えたなぁ……改めて連装砲ちゃんはしみじみと、そう感じていました。

 死に場所を求めて海を彷徨っていたあの頃からは想像もできない、友人と過ごす安らかな日々。こんな生活が一日でも長く続いて欲しい……。

 

 連装砲ちゃんがそう願っていると、洞窟の外から足音が聞こえて来ました。足音のペースは非常に早く、そのリズムからは焦燥感が伺えます。

 

「おかえり、おじさん!」

 

 部屋に入って来た怪物に、連装砲ちゃんが明るく呼び掛けますが、様子が変です。スクラップ拾いに行ったというのに戦利品は一つも持っておらず、それに加えて切羽詰まった様子。

 どうしたのだろうと不思議がる連装砲ちゃんの側まで近寄ると、しゃがんで相手と目線を合わせながら言いました。

 

「すぐにここから逃げる支度をするんだ、深海棲艦がこっちへやって来る……!」

 

「えっ――」

 

 怪物は努めて冷静に振る舞いながら、事の経緯を手短に説明しました。

 スクラップ拾いから帰る途中、彼は一隻の漁船が軽巡ツ級に襲われようとしている光景を目にしました。戦争が激化していた頃に比べれば平和になったとは言え、今も深海棲艦の残党が海をウロついている現在……漁船や貨物船がその残党に襲撃される事も少なくありませんでした。

 

 このままでは漁船に乗っている人々が血祭りに上げられる……そう思った彼は迷う事なく、護身用に装備していた魚雷を軽巡ツ級へ向けて発射。敵の注意を自分へ向けて漁船を助ける選択を取りました。

 案の定ツ級は魚雷を回避し、標的を怪物へと変更。猛スピードで追って来るツ級から、怪物は全速力で逃げました。そして彼は何とか敵の追跡を振り切り、命からがらここまで帰って来れた……という訳です。

 

「しかし奴がここを突き止めるのも時間の問題だ、連中の鼻は猟犬以上によく効く……」

 

 そう言いながら整備ドックへ向かった怪物は素早く自身の体に武器を装備し、戦闘の準備を始めます。

 

「ごめんよ……ここじゃなく別の場所へ奴を誘導したかったんだが、他の海域には漁船や貨物船が沢山ウロついていてな……巻き込まない為にはこの場所を選ぶほか無かったんだ――」

 

 その時、天井に取り付けられた警報機がけたたましく唸りを上げました。

 島周辺の海域に設置したセンサーが、軽巡ツ級の接近を知らせているのです。

 

「恐らくさっきのツ級だ。奴のスピードならあと七、八分でここへ到着するだろう……俺が奴の注意を引き付けるから、君は出来るだけ遠くへ逃げるんだ……!」

 

「でも、そしたらおじさんは……!」

 

 深海棲艦相手にある程度持ちこたえる事が出来るとは言え、ロボット兵士には敵を倒す力はありません。しかも相手は軽巡ツ級……高い機動力と戦艦クラスの艦娘ですら一撃で大破状態にする火力を持った恐るべき存在です。

 

 もし怪物がこのままツ級に戦いを挑めば、彼の方が海の藻屑と消える事は火を見るよりも明らかでした。

 そして怪物も、その事を承知した上で戦いに赴こうとしているのです。

 

「駄目だよそんな事!死んじゃ駄目だ……おじさんも一緒に逃げよう!生きるんだよッ!」

 

「二人一緒では奴にすぐ追い付かれる、どちらかが囮役になるしか無いんだ……!」

 

 連装砲ちゃんは納得できませんでした。折角幸せを手に入れたというのに、突然それが音を立てて崩れ始めたのです。

 現実を受け入れられずに居るのは怪物も同じ事……二人で過ごす最後の時間を惜しむかのように、彼は連装砲ちゃんの頭を優しく撫でます。

 

「もう行かなくては……君との生活、楽しかったよ。地獄へ行っても決して忘れない――!」

 

 そう言い終わる前に走り出す怪物。

 連装砲ちゃんはどうすれば良いかわからず、去ってゆく彼の後ろ姿を黙って見送る事しか出来ません。

 そんな中でも必死に彼は考えました。一体どうすれば良いのか……ツ級の魔の手から逃れ、二人で一緒に生き延びる方法は無いのかと……。

 しかし焦りの感情が邪魔して、連装砲ちゃんの判断力を鈍らせます。普通の機械には無い誰かを大切に想う心が、その大切な物を失いかけている事への恐怖心を生み出してしまっているのです。

 

「どうすれば……一体どうすれば……早くしないとおじさんもアヤちゃんみたいに……!」

 

 脳裏に、相棒の島風が沈んでゆく光景がフラッシュバックします。彼女も仲間達に攻撃のチャンスを作ってあげる為、敵の注意を自身に引き付け、最後は身体をバラバラに吹き飛ばされて死んで行ったのです。その悲劇が繰り返されようとしていると思うと、連装砲ちゃんの焦りと恐怖は増大するばかりでした。

 良い案が何も思い浮かばないまま時間は刻一刻と過ぎてゆくばかり……連装砲ちゃんは、その場にへたり込みました。

 

「駄目だ……僕にはどうする事も――」

 

 ふと、棚の上に置かれた写真が目に入りました。つい最近撮ったばかりの物でしたが、幸せそうに写っている自分達の姿が、今の連装砲ちゃんには遠い昔の物のように感じられました。

 

「どうしてこんな事に……」

 

 写真の隣に置いてある超合金のロボットを見ながら、連装砲ちゃんは呟きました。

 ロボットの玩具をプレゼントしてくれた優しいおじさん……今度は自分が彼に誕生日プレゼントをあげようと考えていたのに、それも出来なくなるかも知れないだなんて……。

 

「……ッ!」

 

 ですが人形をじっと見つめているうちに、連装砲ちゃんの脳裏にパッと何かが閃きました。

 それはきっと、最悪の未来を回避する事が出来る唯一の方法……これ以外のアイデアは今の自分には思いつかない――。

 連装砲ちゃんは弾かれるように廃材置き場へ向かって駆け出しました。

 

 

 

× × × × × ×

 

 

 

 一方、島からそう遠くない海域に軽巡ツ級の姿が確認できました。

 奴は空を見上げ、何かに向けて発砲を行っています。

 

「……ッ」

 

 苛立たし気な様子のツ級。その視線の先には、無数の小さな『エイ』が空中で飛び回る奇妙な光景が広がっていました。

 エイが空を飛ぶなんて普通ならあり得ない現象ですが、この小型エイの群れ……よく見てみると、どれも機械仕掛けの作り物。胴体から機銃が飛び出し、ツ級へ向けて集中砲火を浴びせかけています。

 

 実はこの小型エイ、ロボット兵士達の戦闘を補佐する目的で作られた戦闘支援メカで、今回ツ級を一時的に足止めする為に怪物が放った物でした。

 しかし時間稼ぎとしての役割を果たしているとは言い難く、ツ級の強力な対空攻撃によって次から次へと撃ち落されてゆきます。

 

 炎と煙を上げながら海へ落ちてゆく小型エイ達。一矢報いようとツ級に特攻を仕掛ける個体もありましたが、運良く当たったとしてもツ級には傷一つ付ける事も叶いません。空飛ぶ骨董品の群れが出来た事と言えば、ツ級の射撃能力の高さを証明する為の噛ませ犬として醜態を晒す事だけでした。

 所詮は旧式の兵器……当然の結果と言えるでしょう。

 小型エイ達を二分も掛からぬうちに屠ったツ級は、そのまま迷う事無く島へ向けて再び移動を開始しました。このままでは三分後には島への上陸を許し、連装砲ちゃん達の家は火の海にされてしまう事でしょう……。

 しかし突然、ツ級が足を止めました。人間の肉眼では捉える事は出来なくても、ツ級の目には遠くで二メートル前後の鉄の塊が立っている光景が映っていました。

 

「……」

 

「……ッ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 武器を全身に装備した怪物は黄色い眼球を爛々と光らせ、普段の穏やかな雰囲気からは想像もつかない程の殺気をツ級に向けています。

 その殺気は常軌を逸しており、相手に対し強い恨みが無ければ出す事の出来ない凄みを感じさせました。

 

「まさかとは思ったが、やはり貴様だったか……!」

 

 低い声でつぶやく怪物の脳裏に、仲間達が死んだあの日の事が蘇りました。

 艦娘の開発に必要な資源を積んだ輸送船を護衛する任務……。その任務の中で彼一人を残し、他の仲間達は一隻の深海棲艦によって次々と血祭りに上げられて行ったのです。

 

(そうだ……こいつが、こいつが皆を……!)

 

 間違いありません、このツ級こそが仲間達を死へ追いやった憎き仇敵……。証拠は無くとも、対深海棲艦兵器としての第六感がそう知らせて来るのです。

 それに対し、ツ級は怪物を取るに足らない存在と言わんばかりに冷ややかな目で眺めていました。

 

「過去から逃げる事は出来ないって訳か……いいだろう、徹底的に戦ってやる!」

 

 最初に仕掛けたのは怪物の方でした。突き出した右腕の上腕にあるハッチが開くと銃口が飛び出し、そこから稲妻状の光がバチバチと音を立てながら迸ります。

 それは、かつて旧日本軍が開発していた『怪力線(ク号兵器)』と呼ばれた兵器の技術を応用して作られた物でした。

 

 稲妻は不規則な軌道を描きながらもツ級へ向かって飛び、あと少しで命中……という所で、ツ級は身をひるがえし攻撃を躱します。艦娘の砲弾以上の速さを持った稲妻でしたが、ツ級の素早い反応速度なら回避する事は朝飯前。

 

 ツ級は流れるように怪物に狙いを定めて発砲。砲弾の雨が怪物に襲い掛かります。

 怪物は素早く海中へ身を潜め砲弾を回避し、海中から無数の魚雷をツ級目掛けて放ちました。

 

「フッ……」

 

 牽制の魚雷を放つツ級から、小さく嗤い声が漏れました。

 嘗て自身との戦いで敗北した負け犬……六人がかりでも勝てなかった雑魚が愚かにも単身、再戦を挑んで来たのです。

 日の光に当たる事無く陰でひっそりと暮らしていれば殺されずに済んだものを……軽巡ツ級は懐かしい玩具で遊べる事に歓びを感じていました。

 

 己の種族が負け、生き残った仲間達も散り散りとなってしまった現在。不満と退屈がつのる日々の中で、丁度良い退屈凌ぎが向こうからやって来てくれたのです。漁船や貨物船を沈めるよりずっと歯ごたえがある……ツ級は怪物に対し感謝の念さえ抱いている程でした。

 

 そう考えているうちに両者の放った魚雷が海中で接触し相殺され、生き延びたツ級の魚雷数本が、怪物に向かって前進します。海中に居る怪物は難なく魚雷を回避しますが、目の前に無数の黒い塊がボトボトと降って来るのが見えました。

 

(爆雷か――!)

 

 怪物が心の中でそう呟いた通り、黒い塊の正体は深海棲艦達が使用する爆雷です。

 気付いた時にはもう遅く、爆雷は次々と熱と衝撃波の花を激しく咲かせ、海中の怪物を包み込みました。

 

「ガッ――」

 

 怪物の受けた傷は小破と中破の境目くらい……運よくダメージを最小限に食い止められましたが、次に攻撃を喰らってしまえば戦闘不能に陥るのは必至……圧倒的に怪物が不利な状況となりました。

 

(ブランクでなまっている俺に対し、奴は今日まで戦闘経験を積み重ねて来た筈だ……やはり無謀過ぎる挑戦だったか……!)

 

 心の中で毒づく怪物に向けて、追加の爆雷が投入されます。それに対し怪物はフルスピードで移動し、爆雷を躱しながら海面に浮上。海面から頭部だけを覗かせた怪物は、頭の針を怪物に向けて発射しました。30cmサイズの針が鳥の群れのようにツ級に向かって飛んで行き、回避行動を取るツ級を追い回します。

 

「……ッ!」

 

 熱線追尾ミサイルとなっている針は、体温の低い深海棲艦が放つ僅かな熱も見逃しません。ターゲットと認識したツ級目掛けて、ストーカー以上の執念で獲物を追い続けます。

 

 避け続ける事に飽きたツ級は針に向けて発砲し、一本の針が爆発するのを皮切りに隣を飛んでいた針にも誘爆。連鎖的に爆発が起こり、針の群れは一本残らず落とされてしまいました。

 

 ですが、あくまでもミサイルは囮……隙が出来たツ級の背後へ回り込み、怪物は稲妻状の光をツ級の背中へ向けて照射。直撃すると同時に火花がはじけ飛び、ジュウジュウと煙を上げながら、焦げ臭い匂いが周囲に充満します。

 

「グアァッ……!」

 

 苦しそうにうめき声を上げるツ級。稲妻を受けたその背中は高熱で溶解しており、中の肉や背骨の一部が覗いていました。

 大きな一撃を加え形勢逆転かと思われましたが、そこでツ級が痛みを堪えながら不気味に笑います。

 

「クククッ……」

 

 するとどうでしょう、なんと背中の患部が一瞬のうちに再生して行くではありませんか。

 

「ヌゥ……やはり再生したか……!」

 

 そう、これこそがロボット兵士達の『限界』であり致命的な『欠陥』……深海棲艦に傷を負わせる事は出来ても、相手の肉体がすぐに再生してしまって殺す事が出来ないのです。

 負のエネルギーが凝り固まって生まれた深海棲艦に対し、艦娘やロボット兵士は『気のエネルギー』を込めた攻撃を加える事で相手の装甲に傷を付けます。

 しかしロボット兵士が扱える気のエネルギーは純然たる“生き物”である艦娘に比べて少なく、深海棲艦の再生能力を破壊するまでには至らず、敵の再生を許してしまうです。(連装砲ちゃんも機械ですが、ロボット兵士達のデータを元に多量の『気のエネルギー』を扱えるよう設計されています。)

 

 更に悪い事に、ツ級の練度が上がった事で再生速度も格段に向上し、戦いは圧倒的に怪物が不利な状況にあります。

 それを思い知らされながらも怪物は戦う姿勢を崩さず、果敢にミサイル・稲妻・魚雷を一斉に発射します。

 

「フッ……」

 

 鼻で笑うツ級は避けようともせず、『殺せるものなら殺してみろ』と言わんばかりに、仁王立ちで全ての攻撃を体で受け止めました。

 ミサイルと魚雷が連続で爆ぜ、稲妻がツ級の全身を焼き尽くします。

 

 しかし、またしてもツ級の傷は瞬く間に再生し、奴が爆煙から飛び出して来る頃には身体が完全に修復されていました。

 そのまま猛スピードで怪物目掛けて滑走するツ級は、あっという間に距離を詰め、その巨大な腕で怪物に殴り掛かります。

 

「……」

 

「おのれッ……!」

 

 恐らくそれはハンディ……『お前の得意な格闘戦で相手をしてやろう』という、ツ級が怪物に与えた一片のチャンス。

 完全に舐められている事を怪物も察しており、腸が煮えくり返るような思いで応戦します。

 

 しかしそこは歴戦のロボット兵士。感情に流される事無く、連続で繰り出されるツ級の拳を受け流し、チャンスを待って耐え忍びます。

 

(出来る限り……出来る限り戦闘時間を引き延ばすんだ……)

 

 心の中で何度も呟きながら、怪物は戦いを長引かせる事に全神経を集中させます。

 突き、手刀、中段と思わせたフェイントからの下段キック……ツ級の連続攻撃を怪物は必死にかわし続け、相手にチャンスを与える事を許しません。

 

「……チッ」

 

 『せっかく有利になる状況にしてやったというのに、なんて無様な戦い方だ……』と、ツ級は防戦一方で攻撃に転じようとしない怪物に対し、苛立ちを感じます。そして、その苛立ちから攻撃の正確性が徐々に失われ始め、少しずつ隙が生じ始めていた事を怪物は見逃しませんでした。

 怪物はツ級の巨大な拳を体捌きにてかわし、そこから足刀横蹴りにて相手の膝関節を蹴ります。

「……ッ!」

足を崩され、その場に膝をつくツ級……怪物は、手を休める事無く相手の脳天に手刀を振り下ろしました。

 

「ガッ……⁉」

 

 ミシリ……と、ツ級の頭蓋骨が割れる音と共に頭頂部がへこみ、血を吐きながら仰向けの体制でツ級は倒れます。

 怪物は更に攻撃を加えるべく、空中へ向けてジャンプ。そのままツ級へ向けて垂直落下し、未だ起き上がる事が出来ない相手の鳩尾へ、ニードロップを喰らわせました。

 膝から生えた鋼鉄の針がツ級の腹部へ突き刺さり、そのまま『ヤマアラシの針』のように怪物の体から分離。針が腹部の奥深くへと刺さってしまい、ツ級は針を引き抜こうとしますが、針には細かい返しが付いておりどうやっても抜く事が出来ません。

 そして怪物がツ級から飛び退いて距離を取ると同時に、刺さった針が爆発。身体の内側から破壊される衝撃がツ級を襲います。

 

「イギィィイイイイイイイッ⁉」

 

 恐らくそれは、ツ級が今までに味わってきた中でも最高クラスの痛み……金属が擦れるような不快な悲鳴が奴の口から発せられました。

 腹部が抉れ、どう見ても致命傷を負っているツ級でしたが、やはり驚異的な再生能力で腹部を修復し、何事も無かったかのように立ち上がります。

 しかしそれが怪物の狙い……強い痛みを何度も与える事で、相手を精神的に疲弊させ集中力を削ぎ落す。そして肉体は再生しようとも、ツ級の体力や燃料・弾薬は確実に減っている筈。

 

 ゲームで例えるならば『生命力(HP)は満タンなのに対し攻撃のためのエネルギー(PP)が無い状態』……怪物はツ級を、言わば“詰み”状態に持って行こうとしているのです。

 

「グッ……ギギッ……!」

 

 肉体はすっかり回復したものの、プライドが傷ついたツ級は怒り心頭です。

 先程自分に課した重火器を使用しない『縛り』を自ら破り主砲を怪物に向けて発砲。これまでのような遊びを感じさせない、獲物を確実に仕留めんとする殺意のこもった猛攻が繰り出されます。

 砲弾の土砂降りを避け続ける怪物。しかし彼もツ級と同様に疲れを感じ始めていました……。

 

(まずい、一旦海中へ――)

 

 再び海中へ身を潜めようとする怪物でしたが、それよりも素早くツ級は魚雷を発射し、怪物に命中させます。大きな水柱が上がると、次の瞬間には怪物が中破の状態で立っていました。

 この時、海中を進む際に必要なスクリューやジェットノズルを破壊されてしまい、もう彼は海中へ身を潜める戦法を使う事は出来ません。

 

「グゥッ……しくじったッ……!」

 

 膝をつく怪物。

 ツ級は更に砲撃を加え、一発、また一発と、怪物に砲弾が命中し、彼の装甲がどんどん破壊されてゆきます。

 とうとう大破状態になってしまった怪物に、ツ級がジリジリとにじり寄り……

 

「……くッ!」

 

「……」

 

 ツ級の強烈な回し蹴り。

 それが怪物の側頭部へとめり込み、そのまま彼を遠くへ吹き飛ばしました。

「ガッ……⁉」

 巨大な鉄の塊が十メートル程宙を舞い、ザバリと水面に叩きつけられます。仰向けで倒れる怪物にツ級が接近し、先程のお返しと言わんばかりに怪物の頭部を何度も踏みつけました。

 

 ドガッ!ドガッ!と何度も鈍い金属音が鳴り響き、怪物の左目が破壊され、頭部全体が歪んで行きました。そして暫く経った後、気が済んだのか主砲を構え、いよいよ怪物にトドメを刺そうとします。

 

「……」

 

 引き金が惹かれようとしたその時、何処からともなく砲弾が飛来し、ツ級に命中しました。

 小さな爆発はツ級に大したダメージを与える事はありませんでしたが、これまでとは違い受けた傷が再生する事はありません。

 

「おじさん……間に合った……!」

 

 弾が飛んで来た方角から、連装砲ちゃんが猛スピードで怪物のもとへ駆け寄って来ました。

 あれ程怪物が『逃げろ』と言ったにもかかわらず、助太刀に来てしまった連装砲ちゃん……しかし不思議な事に、怪物は驚きも怒りもせず、ただ黙って頷くだけです。

 

「でもおじさん、ひどい怪我だ……動けるかい?」

 

 声を震わせながら問うた連装砲ちゃんを安心させようと、怪物は限界に近い身体に鞭を打って起き上がり、爽やかにサムズアップをします。

 

「心配ないさ……さあ、これからが本番だ……!」

 

 しかし、連装砲ちゃんが加勢に来たとは言え、相手はあの軽巡ツ級……まともにぶつかり合って勝てるような相手ではありません。敵を打ち破る秘策があるとでも言うのでしょうか?

 生存をもたらす勝利、死を呼ぶ敗北……彼らに残された道はどちらか一つのみ。

 

 乾坤一擲……誰も知らない戦場で、彼らは最後の賭けに出ます。

 たった一つの望みを胸に――。

 

(生きるんだ、おじさんと二人で一緒に……!!)

 

 

 

【その3へ続く……】

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