【オリキャラ注意】僕のおじさんはロボット兵士   作:へたれまん638号

3 / 4
【前回のあらすじ】

 連装砲ちゃんと怪物の共同生活は順調でした。
 しかしある日、連装砲ちゃんはとあるきっかけから怪物が『艦娘よりも以前に開発されたロボット兵器』である事を知ります。

 失敗作の烙印を押され、歴史の闇へと葬り去られたロボット兵士達……。しかし怪物はその運命を恨むどころか、自分達ロボット兵士の力が及ばなかった為に、年端も行かない少女達が艦娘として戦わねばならなくなったと、罪の意識に苛まれていたのです。

 自身を責め続けていた怪物の苦しみを知り、例え時間が掛かったとしてもいつか二人で前を向いて歩けるよう、友人を支えて行く事を連装砲ちゃんは心に誓うのでした。

 その矢先、彼らのささやかな幸せを引き裂かんと、深海棲艦・軽巡ツ級の魔の手が迫ります。
 果たして、二人の運命は――。


その3

 ツ級に追い詰められていた怪物の元へ駆けつけた連装砲ちゃん。

 形勢逆転……と行きたいところではありますが、深海棲艦を殺傷する力を持たぬ怪物と火力不足な連装砲ちゃんでは、戦力的に少々心許ないというのが実状です。それは当事者である二人が嫌という程わかっている事でした。

 

「……!」

 

 先に攻撃を仕掛けたのはツ級。

 襲い来る戦艦クラスの砲撃に対し、連装砲ちゃんは抜群の機動力で砲弾を回避。付け入る隙を与えません。一方、鈍重かつ大破状態の怪物は躱し切れないと見て降り掛かる砲弾へ稲妻を放ち、一つずつ確実に撃ち落として行きます。

 

 戦いが二対一となり、ツ級の攻撃が分散した事が幸いしたのでしょう。二人とも、全ての攻撃を辛うじて捌きながら攻撃のタイミングを伺っています。

 

「……ッ!」

 

 ツ級は動揺と苛立ちを感じていました。戦力は自分の方が有利であるにもかかわらず、攻撃を思うように当てる事が出来ずにいる……それは怪物と連装砲ちゃんが激しく抵抗しているからだけではなく、先程怪物に何度も痛めつけられた事から来る精神的疲労・集中力の低下も大きな原因でした。

 

「おじさん!」

 

「よし……!」

 

 次弾装填の為にツ級の砲撃が止んだ瞬間……その一瞬のチャンスを見逃さず、遂に二人は守備から攻撃へ転じます。

 怪物の稲妻攻撃でツ級の装甲を削り、敵の傷が再生する前に連装砲ちゃんが傷口へ砲弾をお見舞いする……二人の抜群のコンビネーションで、ツ級の身体に少しずつダメージが蓄積されてゆきます。

 ツ級も『調子に乗るな!』と言わんばかりに反撃しますが、やはり先程と同様に連装砲ちゃんと怪物は攻撃を躱してしまいます。

 

 戦いの流れを掴んだかに見えた二人ですが、連装砲ちゃんの火力ではツ級を沈めるには時間が掛かりすぎます……このままでは連装砲ちゃんの残弾数が持ちません。

 何か、決定打を与える手段があれば良いのですが――。

 

「よし……そろそろ始めるぞッ!」

 

 そう合図した怪物が突如、口元にある無数の穴から黒煙を勢いよく噴射。煙幕はみるみる広がって行き、三~四秒後には周囲を闇に包み込んでしまいました。

 視界ゼロの空間の中でツ級は一旦砲撃を止め、相手の気配を探ろうとレーダーを働かせます。

 

「……」

 

 砲撃音が止み、しんと静まり返った海……波の音だけが聞こえる、束の間の静寂が訪れます。

 

「……ッ!」

 

 三時の方向に小さな気配。連装砲ちゃんがこちらを狙っている事をツ級は察知しました。

 ツ級は連装砲ちゃんへ主砲を向け、撃たれる前に相手を葬り去ろうとします。

 

 そんなツ級の背後から、音も無くボウッと大きな影が浮かび上がりました。

 二メートル程の大きさで、頭部から数本の針が生えたシルエット……それがゆっくりとツ級の懐へ忍び込み、あと数センチで手が届くまで接近し――。

 

 ドゴォッ!と砲撃音。

 間髪入れず、被弾した者の体が何度も連続で大爆発を起こします。恐らく、“装備していたミサイル”が誘爆したのでしょう。

 紅蓮の炎を噴き上げながら、“怪物”の身体が弾け飛んだのです……。

 

 銀色の細かい破片が大量に宙を舞い、大きな残骸がバシャバシャと音を立て、海面に沈んで行きます。

 爆風によっていつの間にか煙幕が晴れた海……そこには呆然と立ち尽くす連装砲ちゃんの姿がありました。無理もありません、怪物が爆ぜる瞬間をその目で見届けたのですから……。

 

「ぁ……ぁぁ……」

 

 ゆっくりと首を横に振りながら、連装砲ちゃんが後ずさりします。恐怖、絶望、喪失感……最早戦える状況に無いであろう彼に、ツ級はにじり寄りました。

 散々コケにしてくれたお礼として、徹底的に痛めつけた後で友人居る場所へ送ってやろうという“親切心”を胸に――。

 

「フフッ……」

 

「う……ぁ……ぁああああああああああ!!」

 

 半狂乱になりながら友人の仇に向けて発砲する連装砲ちゃん。冷静さを欠いた砲撃は制度が著しく落ち、ツ級が何もせずとも弾の方から避けてくれる有様です……。

 そうしているうちにツ級は目の前まで迫り、その巨大な右手で連装砲ちゃんの小さな体をガッシリと掴み上げました。

 

「がぁっ……⁉」

 

 手に少しずつ力が加わっていき、万力の如く連装砲ちゃんの体をギリギリと締め上げます。一気に潰すような事はしません、一秒でも多く苦痛を与える時間を引き延ばした方が面白いと、ツ級は考えているのですから……。

 

「ぐっ……ぉおお……あぁああ……!」

 

 身体を軋ませながら発せられた連装砲ちゃんの呻き声は、ツ級の加虐心を刺激し、この上ない悦びを与えます。

 

 自分より強い相手との戦闘は極力避け、格下の相手をなぶり殺し、享楽にふける。それが奴に取って長生きの秘訣であり、最高の娯楽なのです。

 

「いっ……ぎぃぃッ……⁉」

 

 身体に歪みが生じ、破断した箇所から黒いオイルを滴らせ、恐怖と苦痛に満ちた最期を迎える連装砲ちゃん。

 ついに彼の身体が限界を迎え、悲鳴すら上げる事も出来ずに砕け散る悲惨な末路……それがツ級の望む結末でしたが、現実は異なる展開を迎えました。

 

 バキッ!

 

 連装砲ちゃんの身体が潰れようとしたその時、耳をつんざくような金属の破断する音と共に、ツ級の右腕が千切れ飛んだのです。

 

「ッ……⁉」

 

 振り返ろうとしたツ級を羽交い締めにしたのは、先程爆ぜた筈の怪物でした。彼は背後からツ級へ接近し、連装砲ちゃんを掴んでいる右手を手刀で切断したのです。

 

「よし……いいぞ、おじさん!上手く行ったよ!」

 

 体勢を立て直した連装砲ちゃんは、怪物が生きていた事に驚く様子も無く、まるで最初から知っていたような口ぶりです。

 では先程破壊された筈の怪物が何故生きているのか……その訳を知る為に、少しだけ時間を戻してみましょう。

 

 

 

× × × × × ×

 

 

 

 ツ級の注意を引き付ける為、怪物が家から外へ飛び出して行ったあの時……連装砲ちゃんはあるアイデアを思いつき、怪物に通信を送っていたのです。

 

『おじさん聞こえる?僕にいい考えがある……二人一緒に生き延びる方法があるとすれば、これしかない!』

 

 怪物へ必死に呼びかける連装砲ちゃんが提案した“いい考え”。

 使う物は、釣りに出かける際に使用していた『モーターボート』と、廃材置き場に蓄えられた『スクラップ』。

 

 スクラップを怪物のダミー人形に仕立て上げ、その中に火薬と大量の細かな金属片(チャフ)を仕込み、モーターボート(遠隔操作出来るように改造)に乗せて出来上がり。

 そのダミーをツ級に破壊させる事によって、怪物が死んだかのように見せかける……。

 

 怪物は煙幕を張ったあの時、密かに海中へ身を潜めダミーと入れ替わっていました。スクリューやジェットノズルが壊れているので素早く移動する事は出来ませんが、手足を必死に動かせば何とか泳ぐ事だけは出来ます。

 

 そしてツ級に隙が生まれる瞬間を見計らって、彼は海面へ上がると同時にツ級の腕を切り落とし、羽交い締めの状態まで持って行ったという訳です。

 ダミー人形が爆発と同時にチャフをバラ撒いたのは、ツ級のレーダーを無効化し、怪物の接近を気付かれないようにする為です。

 

 少々無茶ではありましたが、連装砲ちゃんの考えた奇襲作戦は90%成功したと言えるでしょう。

 

 

 

× × × × × ×

 

 

 

 怪物が爆散したように見えたのも、連装砲ちゃんが錯乱してあっさりツ級に捕まったのも二人の仕組んだ芝居……。そうとは知らず常に自分が優位に立っていると思い込んだツ級は、まんまと敵の術中に陥っていたのです。

 

「グッ……!」

 

 ツ級は尚も怪物の腕を振りほどこうと暴れますが、ガッシリとホールドされておりビクともしません。

 

「無駄だ……今更暴れても遅いッ!」

 

 『ジャキン!』という金属音と共に、怪物の胸部から太く鋭い針が生え、ツ級の体を一気に貫きます。

 

「ギャッ⁉」

 

 文字通り釘付けにされてしまったツ級には、最早脱出する術はありません。怪物の拷問は尚も続き、十本全ての指から鋭い爪を生やしたかと思うと、背後から手を回しツ級の腹部に爪を突き立てます。

 

「イギィッ!」

 

 相手がわめこうが暴れようが、怪物は一切容赦しません。

 青い血が噴き出す白色の肉に、十本の針がミチミチと音を立てて刺さってゆきます。

 

 全身を針で貫かれ、締め付けられるツ級の姿はまるで、鉄の処女(アイアンメイデン)によって血祭りに上げられる罪人のようです。

 

「再生できるとは言え、痛いだろうな……苦しいだろうな……だが本番はこれからだッ!!」

 

 怪物は更に手の力を強め、ツ級の腹部の軋む音はどんどん大きくなります。

 

「グッ……ガッ……アァッ……ゴボッ!」

 

 腹部を凄まじい力で圧迫され、ツ級が口から血を吐き出します。

 そして怪物がフルパワーで両腕に力を込めると――。

 

 バリバリバリッ!!

 

 満杯のゴミ袋を手で破るかのように、怪物がツ級の腹部を引き裂いたのです。

 

「ウギャァアアアアアアアアアアア⁉」

 

 腹の裂け目から噴水のように体液が吹き出し、灰色の臓物がドクンドクンと脈打ちながらツ級の体からこぼれ落ちて、だらしなくぶら下がります。

 そしてその臓物達の中に、膨張と収縮を繰り返す黒い心臓のような物体……深海棲艦のコア(核)とも呼べる存在が確認できました。

 

「今だ、こいつのコアを撃てッ……!」

 

 ツ級の裂けた腹部が再生して塞がらないよう、必死に押さえつけながら怪物が叫びます。

 打合せ通り、ここで連装砲ちゃんがフィニッシュを決めれば二人の勝利。連装砲ちゃんの低い火力であっても、剥き出しのコアなら確実に破壊出来るでしょう。

 

 しかし連装砲ちゃんは、主砲をツ級に向けたまま一向に撃つ気配がありません。

 

「どうした⁉今がチャンスだ……早くッ!」

 

「待って……もし……もし狙いがズレたら――!」

 

 連装砲ちゃんも頭では分かっているのです。ここでやらなければ自分達には明日は無いと……。ですがもしも自分が、怪物の明日を奪う結果になってしまったら……そう思うと、どうしても攻撃に踏み出すことが出来ずに居ました。

 

「心配するなって、俺だって対深海棲艦兵器の端くれ……タイミングを合わせて避けるくらい朝飯前さ!」

 

 切羽詰まった状況に似合わない、おどけた口調で怪物が言います。自分を不安にさせないため、カラ元気を出して励ましてくれている事を、連装砲ちゃんは感じ取っていました。

 

(おじさん、強がってるのバレバレだよ……本当は打たれ弱くて、すぐ弱気になる性格のクセに……今だって泣き言の一つでも言い筈なのに……)

 

「この前だって二人で上手く切り抜けたじゃないか。君ならこれくらいの無茶、朝飯前の筈だぜ……自分を信じろ無茶ボーイ……!」

 

 低く掠れた『信じろ』という言葉。隠しきれない焦燥感と苦痛がこもったその声は、彼の体力がいよいよ限界に近づいている事を知らせていました。

 無理もありません。大破状態の中、最後の力を振り絞って敵を抑え込んでいるのですから……。

 

(そうだ、おじさんがこんなに勇気を振り絞ってるんだ……僕だって、ビビってる場合じゃない――!)

 

 失敗への恐怖はぬぐい切れないものの、連装砲ちゃんはついに覚悟を決めます。

 狙うはツ級のどてっぱら。照準を正確に合わせ、あとは最後の一撃を放つ勇気だけ――。

 

 今、この瞬間、彼らには周囲の全てがスローモーションで流れているように見えました。暴れる敵、揺れる波、流れる雲……そして時間さえも、覚悟を決めた者達の前では止まっているも同然なのです。

 

 最早二人の間に言葉など要りません。いつ、どこへ発砲し、どのタイミングで弾を避ければ良いか……幾多もの戦いを積み重ねて来た彼らには、手に取るように分かりました。そして……

 

((今だっ――!))

 

 機械仕掛けの双眸がギラリと閃いた時、電光石火の一撃が標的のど真ん中を撃ち抜いたのです。

 

「ゴ……ボッ……⁉」

 

 悲鳴を上げる事さえできず、血と爆炎を吹き出しながらツ級が海面に倒れ伏します。そこへ更に、連装砲ちゃんの追撃が容赦なく加えられました。

 敵の命を根こそぎ奪おうと、彼は入念に何度もツ級へ砲撃を浴びせかけました。自分達のささやかな平和を脅かそうとした敵への、怒りと恐怖を込めて――。

 

「……」

 

 十秒後ようやく砲撃音が止み、ツ級の居た場所は煙で包まれていました。敵は沈んだのか……それともまだ、戦う気力を残して海面に立っているのか……?

 手負いの獣ほど危険な物は無い……どこかで聞いた言葉が脳裏をよぎり連装砲ちゃんは尚も警戒心を解く事なく、いつでも発砲出来るように弾を装填して構えます。

 

 徐々に煙が晴れてゆくのを見守る数秒間は、今の連装砲ちゃんに取って一、二時間にさえ思えるくらい長い物でした。

 

「……!」

 

 そして潮風が煙を完全に払いのけた瞬間、彼は見ました。黒焦げになったツ級の身体が海中へ沈んでゆく光景を――。

 それは二人が敵に敗北と死を与え、同時に勝利と生存を手にした事を意味していました。

 

「……はぁ」

 

 緊張が解け、小さくため息を吐く連装砲ちゃん。呼吸はしない筈の彼ですが、人や艦娘と共に暮らすうちに生き物の習慣が移ってしまったのでしょう。

 しかし安心したのも束の間、ツ級にトドメを刺す事に気を取られ、忘れていた大事な事を思い出します。

 

「そうだ……おじさん、おじさんはッ⁉」

 

 まさか、爆発に巻き込まれて……連装砲ちゃんは慌てて周囲を見渡しますが、怪物の姿はどこにも見えません。

 

「おじさん!おじさん!返事をしてッ……!」

 

 無線機を使って呼びかけてみるものの、聞こえてくるのは耳障りなノイズだけ……連装砲ちゃんの頭の中に、最悪のシナリオが浮かび上がります。

 

(嘘だ……そんな事ありえない……あっちゃいけない……!)

 

 水面に顔をつけ、海中に怪物の姿を探します。しかし水中戦闘用に作られていない彼のカメラアイでは、暗い海の中は殆ど見る事が出来ません。

 それでも一縷の望みをかけて、連装砲ちゃんは必死に友人を探し続けました。しかし一分、二分と時間だけが過ぎるばかり……彼の頭の中に浮かんだ『死』の文字が、徐々に濃くなってゆきます。やはり怪物は、先程の砲撃に巻き込まれ海の藻屑と消えてしまったのでしょうか……?

 

 と、その時……ザバリ――と音を立て、くすんだ銀色の人型が海中から飛び出してきました。

 『ふぅ~~』と風呂上がりの中年男性が如く気の抜けたため息を出しながら、顔を振って水しぶきを上げます。

 

「よっ、二分ぶりだな。さっきの一撃、見事だったぜ無茶ボーイ……!」

 

 おぼつかない足取りで連装砲ちゃんへ近寄りながら、爽やかにサムズアップをする怪物。連装砲ちゃんは動きを止め、ポカンとした表情で彼を見上げていました。

 

「いやぁ、しかし危なかったなぁ。あと0.02秒海中へ逃げるのが遅れてたら、奴と心中してるとこ……ん、どうした?」

 

 自分をジッと見上げたまま動かない連装砲ちゃんに、怪物が呼びかけます。しかし反応が見られない為、目の前で手を振ってみたり頭をそっと指でつついてみたりします。

 

「お〜い、もしもし。あの、大丈夫か……?」

 

 流石の怪物も心配になったのか、恐る恐る連装砲ちゃんの顔を覗き込みます。

 

「は……ははは……」

 

 突然、力なく笑いながらヘロヘロとその場に座り込む連装砲ちゃん。単に緊張の糸が切れてへたり込んでしまっているだけなのですが、怪物は彼がいよいよおかしくなってしまったのではないかと狼狽えます。

 

「ま、まさか今の戦いで頭がダメになっちまったんじゃ⁉あぁ……すまない無茶ボーイ……君に無茶させたばっかりに……!」

 

 首を横に振り、嘆く怪物。

 そんな彼がおかしくて、連装砲ちゃんの笑い声が大きくなります。

 

「あはははっ、僕は正常だよおじさん。それと、無茶ボーイって呼び方はやめてよもう……」

 

 そう言うものの、口調からは拒絶や嫌悪といった感情は感じられず、寧ろ連装砲ちゃんはそのあだ名に愛着を感じているかのようにも見えました。

 連装砲ちゃんが別に頭がおかしくなった訳ではないと分かり、怪物はほっと胸を撫で下ろします。

 

「ありがとな……俺がこうして居られるのも全部、君のおかげだ。あの短時間で必要な道具を全部揃えちまう無茶をやってのけるんだからなぁ……大したもんだぜ」

 

 称賛の言葉と共に頭を撫でられた装砲ちゃんが照れ臭そうに笑います。

 

「へへっ……正直成功するか心配だったけど、敵が油断していた事が幸いしたよ……ほんと、上手く行ってよかった」

 

 彼の小さな胸の中は今、安堵と充実感でいっぱいでした。二人で力を合わせ、穏やかな日常を守り抜く事が出来たのですから。

 

「勝ったんだな、俺達……なんだか実感が沸かないぜ……」

 

 感慨深そうに呟く怪物の言葉に、連装砲ちゃんがゆっくりと頷きました。

 

(勝ったんだ、守り抜いたんだ……僕達の小さな幸せを。そうさ、僕達はまだまだ二人でやりたい事がいっぱいあるんだ。こんな所で終われない……深海棲艦がなんだっていうんだ、また来ても今日みたいに返り討ちにしてやる)

 

 運命に翻弄され沢山の物を失って来たからこそ、最後に残ったこの幸せだけは誰にも渡さない……。連装砲ちゃんは決意を新たに、自分達の未来へ思いを馳せていました。

 

(誰にも邪魔させないぞ……僕達、負けるもんか……!)

 

 心の中で叫ぶ彼を、夕焼け色の空が見下ろしています。

 しかし何故でしょう……無限に広がるその赤が、今日だけは血のように禍々しく見えるのは――。

 

「さあ、早く家に帰ろうよ。まずはおじさんの体を修理しなくちゃ」

 

「あぁ……そうだな」

 

 激しい戦いを切り抜けた二人は疲れ切った身体を癒やす為、連装砲ちゃんが怪物を曳航する形で帰路につくのでした。

 

 

 

× × × × × ×

 

 

 

 勝って兜の緒を締めよ――。

 誰もがその言葉を知っている筈だというのに、勝利の美酒の前では人の判断力など簡単に麻痺してしまう物なのでしょう……。

 

 気付かなければならなかった……しかし二人は気付くのに遅れてしまいました。取り戻した静けさを許そうとしない者が、背後から自分達へ殺気を向けていた事を。

「ギ……ィ……!」

 

 地獄への道連れを欲する奴の主砲は無防備な二人の背中へしっかりと狙いを定め、最期の力を振り絞って発砲します。放たれた砲弾は弧を描き、標的へ向かって吸い込まれるように飛んで行きました。

 

 そしてその一撃が彼ら二人を――

 

 

 

【その4へ続く……】

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。