主人公 匂坂文矢(さきさか ふみや)
彼がなぜ刀を振るうのか

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最後の誉(恋愛、刀メインの戦闘シーンもあるよ)

ぴしゃりぴしゃりと足音が響く。それに応じるように目の前の人影は無い足を必死に動かし、逃れようとする。雨の日和は体温を奪いさる。尤も、目の前の人影は足の切れ目からも体温を流している。その人影に刃をつきたてる。

…、薄暗い下水道の中で光る物はなにもない。もう動かなくなった人影の薬指についた、真新しい程に輝く指輪以外は

 

真夜中の町をひたすら走って逃げる。パトカーのサイレンを背に今も濡れ続ける身を動かす。まだ警察にバレていないが、この町だけで10名もの刀傷による死亡者を出しているのは不自然が過ぎる。町を出て山林と平地の中間に入る。そして森の中に入り、木々を掻き分けて進む。元々は空き家をねぐらにしていたが、もう使えない。雨を防いでくれるものはなにもない。そんなことばかり考えていたからか、足元が急になめらかになったのに気づかなかった。転びそうになるも足に力を入れてどうにか体勢をたてる。少し立ち止まったその間に耳をすませる。足音。足音のするほうに目をむける。誰だ、日本刀を八相に構える。

ざくりざくりと足音が近づく。刹那の交錯

俺の刀はその人影の側腹部をかすめる。と同時に足に走る、強い痛み。それを知覚した時には刀が手から放されていた。突然、真横から光が当たる。その人影の顔がハッキリ浮かびあがる。「…」凛とした女性。それが一番の印象だ。「いたぞー」警察の声があたりに響く。逃げようとする。しかし、足が激しく痛み、うまく走れない。それどころか、目の前にフェンスが現れる。そのフェンスは胸あたりまでの高さであり、普段なら乗れる程度の障害でしかない。だが、こえようとしても足に力が入らず、体が持ち上がらない。「おい、あんた、手を貸せ」彼女が俺に声をかける。一瞬戸惑う。

「早く!」彼女が柵をのりこえようと柵の頂上に手をかけて、そのまま力をこめて体をもちあげようとするが、あきらかに苦悶の表情を浮かべる。側腹部からは出血もある。

「っ…」急いで彼女の腰を支えて柵の内側へ送り出す。

俺も急いでフェンスに手をかける。そして彼女に腕を引っぱられてそのままフェンスの内側へと入り込む。しばらくそのまま歩き、警察から逃れる。そして山の中腹程で2人してすわり込む。「あんた、なんでいきなり切りかかってきた?」「ごめん、驚きすぎてつい」「それで普通人に切りかかるかよ、そもそもなんで日本刀をもってるんだよ」彼女の表情からなにか深く考えている様子がうかがえる。「…あんた、なんで私がフェンスを越えるのを助けた?」あの光り輝く指輪を思い出す。「理由はない」「あっそ、ちなみに警察から逃げてきたのはなんで?」「人を殺したから」「ああ、そうなのか」彼女はたった一言を俺に告げた。殺人という圧倒的な罪に対しての言葉としてはあまりにもそれは軽かった。「じゃあわかった。ここで1つ取引をしよう。しばらくの間、私の生活を助けて、そのかわり私があんたの生活を助けてあげる。けっこう強めに蹴ったからまともに動かんでしょ?その足」蹴られたことにすら気付かなかった。「所詮俺は社会からのつまはじき者だけどいいのか?」「正直、あんたを私の近くに置いとくのは気味が悪いというか、怖いけどしかたない、今までの生活も苦しかったし、背に腹は代えられない。じゃあついてきて」そこからさらに山を登る。夜が進むと次第にはく息が白くなり始める。「ついたよ」ほぼ山の頂上、その斜面にわかりづらいが迷彩柄のシートがかぶせられている。「ここに暮らしているのか?」「まあ、一週間くらい」彼女が僕から刀をうばう。「ちなみに私の近くで日本刀にさわろうとしたら容赦しないから」彼女はそう言ってシートを上げる。するとその下には入り口がかくされていた。そして一つの寝袋をなげてよこした。「じゃあ」そして彼女は彼女自身の住処へと入っていく。

 

翌朝、寒さで目を覚ます。ふと横を見ると彼女がいた。血のついたガーゼと包帯をもやしている。「起きたか?こっちはあんたにつけられた傷であんまり寝れなかった」俺は起き上がって焚火に向かう。「ごめん」「で、あんたの足は?」「おおむね大丈夫、走るのはきついかも」「なら簡単に必要なことを言っていくね。しばらくあんたには水を運んできて欲しい。ここの近くには山道がある。そこから更に下れば下れば廃キャンプ地がある。つぶれてはいるけど水道は生きてる。けど、これがなかなか厄介でポリタンクで運ぶにも重すぎる」「食べ物とかどうしてるの?」「自治会とかの防災用備蓄食料とか食べてる」「なぜそんなに大変な生活を?」「関係ないでしょ。とりあえず、水道の場所を案内する」

 

2人で山道の脇を通る。もうさびれているとは言え、山道である以上、登山者がいる可能性もあるためだ。そのまま歩いて水飲み場、川、野菜の無人販売所などの場所を把握する。

彼女の生活の基盤はほぼこの山の中で完結しておりその過酷さをうかがわせる。二人で並んで同じポリタンクを持つ。「一度聞いたけど、なんでこんなに大変な生活を?」「関係ないって言ったでしょ、とりあえず拠点に戻るから」そのまま拠点への道を水を抱えながら無言で進む。「でも、一人よりかは荷物が軽い。ありがとう」「そう言ってくれるならちゃんと手伝えてるかな」「まあ、傷が塞がるまでの間よろしくね」他愛もない会話であった。

話に集中し過ぎて目の前に注意を向けるのが疎かになっていたのかもしれない。彼女は静かに言う「ごめん、気づかなかった」目の前の茂みが揺れ、その茂みから熊が巨体をのぞかせた。彼女は体の動きが完全に停止する。俺は手を頭上にもちあげる。そうすると刀が自動的に手におさまる。熊がこちらに向かって走り出す。刀を強く握り、上段に構える―――その切っ先はギリギリ熊の体毛をかすめる。急いで真横に飛びのく「貸して!」彼女に刀を投げる。

 

熊がつられるように彼女に向かう。瞬きのその刹那、熊の片腕が落ちる。完璧な合撃打ち。彼女に駆け寄る。熊は、まだ逃げない「多分、今ので腹の傷がひらいた」彼女の手から刀をとる。「いいか。逃げ腰になるな。攻撃されると思った瞬間に切れ!」刀を高く振り上げる。背中には彼女の手が押し付けられる。熊は体制を立て直し、歩き、早歩き、駆け足、疾走へとどんどん早くなる。そして「今だ」彼女の手に背中が強く押される。

、、、

、、

鼻先を切られた熊は怯み、そのまま逃げていった。彼女は側腹部を押さえてすわりこむ。彼女の服を少しズラして傷を見る。傷をおおっていたはずのガーゼが外れている。傷は自分がつけたものより大きくなっている。急いで彼女を連れて帰り、穴の中で横にさせる。「残りのドレッシング材が一つだけある。そこのカバンの中」中にあったのは大盤の絆創膏「止血するから、痛いと思うけど耐えて」急いで傷口を圧迫する。すぐにうめき声の様なものが彼女の口からあふれだす。なんとか止血し、丁寧に絆創膏をはり、その上に包帯をまく「どう」「少しはまし」彼女はまぶたをとじる。「少し、寝たい」外に出ようとする「外、寒くない?」「大丈夫」「なら、良かった」俺は外に出て眠りにつく。

 気が付くと空は白み始めると同時に雨が降り始める。どうすればいいか困っているとシートの裏から声が響く。「入って」中に入る。中の大きさはキングサイズのベッドと同じ程度の大きさの洞穴であり、座ることはできるが立つことはできない位の天井の高さであった。中に入ると温かく、手足の冷たさは温もりへと変わり始める。穴の中で薪をくべて朝食を作りながら暖をとる。「傷の手当、ありがとう」「こちらこそ、君がいないと死んでた」彼女は俺と目を合わそうとしない。「見た?」「なにを?」「その、私のおなか」「少しだけ」「本当に少しだけ?」「本当に少しだけ。」やはり、彼女は俺から目をそらしている。少しの沈黙に気まずさを感じる。「雨が止んだら、山を下りた方が良い、あんたは私と違って引き返せる。ここよりも少年院の方が良い生活ができる。」「出て行って欲しいなら出ていく、けど俺はまだ、捕まる訳にはいかない」彼女は息を少し吸う。「私は人を殺したんだ。」自分でも一瞬自分の口が開きそうになるのを感じる。「私は社会から爪弾き者にされた、だから、同じ爪弾き者なら、私を受け入れてくれるかなって思っちゃった。私は私の中にある甘えを捨てきれない。ごめんだけど、雨が止んだら出て行って欲しい」「わかった、水だけ汲んでくる」そう言って穴からでる。

今日は彼女と出会った時のように雨がふっていた。水を汲もうとポリタンクに手を掛ける。その時、違和感に顔をあげる。雨のレースの向こうから足音が近づく。

刀を手の中に顕現させて、下段に構える。徐々に大きくなる人影に視線を向ける。「え?」目にうつったのは子供であった。握られた刀の先が目に見えて震える。ダメだ、ダメなんだ。近づかないでくれ。ちょうどその時、彼女が穴から出てくる。「え?子供?」雨の中にいたため、まったく気付かなかったが、良くみると泣いている。「とりあえず中に入れよう」「えぇ」急いでその子供を穴の中に入れる。子供を暖炉の前に置いて暖める。その子供の瞼は段々とおりていき、寝息が聞こえ始めた。彼女が口を開く。「この子、どうすればいいと思う?」「安全を考えれば殺すべきだ」「じゃあなんでこの子を穴の中に入れて保護したの?」「…」「あんたは優しすぎる。私と初めて会った時だって明らかに私を殺そうとした。なのに今じゃ私を助けようとしてる」「君だって」「ママ……?パパ……?」「違うよ」彼女はほほえみながら子供の頭を優しくなでる。「雨がふりやんだら町のはずれにつれていこう」「私たちの居場所がバレちゃうかもよ」彼女は挑戦的な笑いをなげかける。外に出ると雨はやみ、雲一つない晴天となっていた。「歩ける?」「パパとママに会える?」「きっと会えるよ」子供と話すこと自体、かなりひさしい気がする。しばらく歩くと林がつづいているギリギリの登山道近くにたどりつく。町のはずれでもあり、僕らが世間から隠れられるギリギリの位置でもある。「よく聞いてね。ここをずっとまっすぐ進めば町が見えてくる。だからそれを目指して歩ける?」「うん」子供はよたよたと、しかししっかりとした足取りで進んでいく。その子供はこちらを振り返る。その瞳をしっかり見る。思わず、優しく微笑み返す。「あんたとは短い付き合いだけど変わったと思う。初めはあの子の目をちゃんと見れてなかった。だけど今はちゃんと見れてる。だから、私もあんたとちゃんと向き合う。あんたにも山を下りられない理由があるんだね。」首肯をかえす。「川口えりな、それが私の名前」「俺の名前は匂坂文矢」「じゃあ、先に拠点に戻るから、あんたも早めに戻りなよ。」えりなは坂道を駆け上がっていく。あの子供を見据える

 

(世間から隠れられるギリギリの位置)

 

あの子供に向かって走り出す。構えもない、技術もない。刀をただ高く振り上げて下す。

 

外れた?「あっ」刀を振り下ろす時、思わず目をつぶっていたのか?だから、だから、だから。その子供は恐怖に慄き、尻餅をついて泣き声を上げようとする。

 

ぐちゃりとした感覚。刀が一文字に首をはねた。もう、その子供が大声を上げることはない。俺の手に握られていた刀は消滅する。膝の力が完全に抜けて崩れる様に地面に手の平をつく。取り繕はねばならない。俺を待つ人がいるのだから、、、、

 

 

2007年、一つの命が生まれる。その子供は生まれながらにして両親に見放され、祖父の家に預けられた。

「痛っ」その時、木刀を手放す。「まだまだ負ける気はないぞ、ほら、立て」「と言っても強すぎるもん」「なに、力だけなら文矢の方が強い、技術も申し分ない。心の問題だ」「心の?」「第一に切りかかるのに戸惑いがある。カウンターが来る前に切りかかるという気概が感じられない。第二に逃げ腰になっている。攻撃されると思った時に切りかかるんだ」「そう言われても」「川口さんのところの孫娘に合わせてやりたいは、あの年齢であれほど肝の据わった娘を見たことがない」今日の練習は終わりとばかりに竹刀を仕舞い、縁側に座る。俺もつられて座る。ふと、道場に風が吹き抜ける。すると線香の香りが運ばれてくる。仏壇には祖母の写真がある。「おばあちゃんはどんな人だったの?」一度もしたことがない質問であった。「若いころから喧嘩ばかりであんまり思い出せないな、ただ、昔から小さなことでよく笑う人だった。」祖父は立ち上がり仏壇へと歩く。「この家には戦国から代々続くとされている名刀がある。この刀は使用した場合、呪いが発生すると言われている。俗に言う妖刀だ。」刀を受け取る。「本来なら君の父親が受け継ぐはずだったが、すまない。」ただ涼しさを感じる夏の終わりであった。

 

いつの間にか寝ていたのか?拠点の中で目を覚ます。隣ではえりなが寝ていた。気絶していたのか?状況を理解し、落ち着きを取り戻す。久しい夢であった。しばらく見ていないはずの夢であった。あの日、何が起こったか思い出す。あの道場に強盗が入り、俺は生きるか死ぬかの瀬戸際で妖刀を使い、生き延びた。祖父が切られた強い怒りで我を忘れたと思っていた。しかし、人を切る感触は強制的に俺の理性を引き戻した。忘れていたはずだった、しかし、あの日のことが忘れられない心の傷であると初めて自覚した。「ねえ、起きたの?」隣を見る。えりなが不安そうな顔でこちらをみる。「ああ、うん」えりなは口を一瞬開きかけるが閉じる。そしてまた口を開く。「なんで文矢は人を殺したの?」「強盗に家を襲撃されたから。」「じゃあ文矢に罪はないじゃん」「問題は使った刀が妖刀だったことだよ。俺が強盗を切り殺したことをきっかけに呪いが発動した。その影響によってこの町では事故死などの不幸が起きるようになった。初めはただの偶然と思ってたけど、毎週町内の死亡事故のニュースが流れ込むようになってようやくこれが妖刀の仕業だと気づいたんだ。」「止める方法はないの?」「この刀に七つの魂をささげる。つまり、この刀で七人切り殺す。」えりなはただ静かに話を聞いていた。「信じるの?」「正直本当かな?って思てる。」「じゃあなんで俺の隣にいるの?」「だって文矢泣いてるよ」「ちがう、ちがうんだ」「じゃあさ、あと何人なの」「えっ」「何人切れば収まるの?」「2人」「ならその刀、一緒に振るってあげるよ。どうせ、私は人殺しだし、どうせなら一緒に苦しも」悪魔のささやきにも聞こえる提案だった。今まで彼女を支えるという名目で無意識に求めていた他人を彼女で満たした。だけど、これは違う。誰かを巻き込むことはできない。「あのさ、どうしてもいやなら殺して欲しい人がいるんだけど。お願いしていい?」「えっ」思わず口から漏れた言葉であった。「文矢と同じように私の家にも強盗が入った。だから、その主犯を殺して欲しい。」「もしかして君が殺したのはその強盗?」「いや、違う警察だよ」「なにがどうなって?」「両親を人質に取られて、警察を殺すよう言われたんだ。別に、警察なんか殺さなくても逃げられたのに、あいつら臆病で、念のため私に殺しに行けって言った。そのせいで私は指名手配になって、この山から出られなくなっちゃった。」えりなは俯きがちに俺に問う。「パパとママ、元気にしてるかな?」そう微笑むえりなの目をうまく見ることができなかった。

 

その日のうちに計画はほぼ完成した。強盗は町のはずれ、つまり俺たちが住んでいる山の近くに潜んでいること。そしてそろそろ住処を変える可能性が高いこと。そのため、襲うのであればできうる限り早くが良い事。結果として今夜にでも偵察に行くことが決定した。

 

夜中に例の住処に侵入するために歩みを進める。山林からどんどん平地へと移行する。さらに歩を進めると道が見えてくる。そこで立ち止まると同時にざくりざくりと一人分の足音が近づいてくる。その足音が大きくなるほど心臓の鼓動も大きくなる。塀の後ろに移動してその足音の正体を覗き見る。覗いた瞬間、体が動かなくなる。「文矢か?」「おじいちゃん」懐かしさがこみ上げ、思わず塀から体を出してしまう。久しぶりに会った祖父の目は嫌でも目に付くこの日本刀に注がれている。「文矢、お前だったのか?今月に入ってから4件もの刀傷による死者が出ている。」その言葉を合図に祖父が刀を中段に構える。わざわざうちの家宝を取り出してきたらしい。俺も刀を取り出す。まず動いたのは祖父であった。祖父は刀を真下に振り下ろし、俺の左肩を狙う。それに対して左足を大きく下げてそれを躱す。一連の流れが終わるとともに両者は距離をとる。また刀を中段に構え刀の先を祖父に合わせる。死を恐れなければ勝確率は十分にある。そう思っていた。「腕を一本、失う覚悟はあるか?」祖父の刀は大きく円を描き俺の脳天を狙う。それに対し刀を振り上げようとする。しかし、祖父の刀は突然急降下し、確実に俺の腕を落としにかかる。無理やり飛びのき逃れようとする。服の袖が切れて手首に痛みが走る。目を向けると祖父は刀を八相に構えていた。そのまま強引な横凪ぎ、更に後ろに下がる。祖父は一旦停止し、刀を正眼に構える。勝つ算段が思いつかないまま、段々と激しくなる動悸に自我が飲み込まれそうになる。その時背中に手が当たる。えりなの声が耳をくすぐる。「上段に構えて。」動悸が段々と収まるのを感じる。「、、、」「、、、」祖父が大きく刀を振りかぶる。強く背中を押される。「今」刀全体が風を切る。空間すらこの刀の存在に慄く

、、、

、、

そのまま祖父の胸を切り裂く。祖父はふらつきながら座り込む。「できるじゃないか」祖父は満足げであった。その表情は家族に囲まれ大往生を遂げる老人そのものであった。突然、祖父の更に奥の方から声が聞こえる。「よくやってくれたな、この頑固さだけが取り柄のくそジジイを殺してくれるとは。」後ろから祖父に迫りそのまま手に持っていたナイフで祖父を突き刺す。「なにをしている」自分の口から溢れた憎悪。「なにをやっているんだ」そのままその男に切りかかる。が、その男は軽くかわしてなんなら腹部に視界が歪むほどの蹴りを突き刺した。日本刀と素手という圧倒的リーチの差を無視し、ここまで完璧なカウンターを決めてくると考えていなかった。少し後ろに下がってうずくまる。えりなが駆け寄り、その男を睨みつける。その男は俺の手元に視線を落とし、俺の刀をみる。「そうか、お前、匂坂文矢だな。」「なぜ、名前を知っている。」「それは俺がお前の父親だからだ。」「お前が、お前なのか、今更何しに来た。」「今お前が使っている刀、どれほどの価値があると思う?売れば10億はくだらないだろう。こっちのジジイのも同じ程度には価値がある。俺が受け継ぐはずだった。けどこのジジイは売りに出すのを反対した。そりゃそうだ。この刀を売りに出して下手に呪いが発動すれば大惨事だからな。けど、そんなことどうでもいい。10億だぞ、10億。力ずくで奪うのも考えた。強盗団を結成し、お前の家を襲わせた。だが、強盗団は壊滅した。ほかでもない、お前とこのくそジジイのせいでな。ジジイは傷を負いながら生還、だがお前と刀は行方不明。俺は、頭を抱えた。だが謎の事故死、そして刀傷による死者が出た時察した。お前が刀を使用して呪いを発動させたことを、ならジジイはお前のところに行かざる負えないだろう。」「なんで」「お前に殺されるためだ。村正の呪いを解くための魂の一つになるためだ。確かにこのジジイはお前より遥かに強いが、もはや老体だ、呪いを解き切る体力はもうない。他人には頼れない。だからお前が呪いを解くことに賭けたんだろう。こっちからすればありがたい。お前が無駄に強いこのジジイを殺してくれるからな」横でえりなが口を開く。「さっき強盗団と言っていたよね。私に見覚えは?」「お前、、、川口家の娘か?」「私の両親はまだ生きてる?」「ああ、あの約束か?生きているぞ」「見た目にそぐわず律儀なのね」「さっきまではな」「えっ?」「お前の両親を人質に取り、お前を警察と戦わせる。そうすれば今回の強盗事件の犯人は皆お前と勘違いするだろ?」「嘘だ」「事実を受け入れられないのか?」「嘘、、うそだ、、、うそだよ」えりなは必死に首をふる。そのたびに地面には水滴が落ちる。えりなの意思は折れかけていた。「これ以上言うことがないのなら死ね」その男はナイフをえりなに振り下ろす。それを俺は刀で弾き飛ばす。「おっと」その男はにやけたまま弾き飛ばされたナイフの代わりに祖父の刀を奪おうとする。しかし、祖父は死してなお、その刀を離さない。諦めて俺の刀の間合いから逃れようとする。しかし、それより早く俺の刀は振り下ろされる。「うぐ、、あ」その刀の切っ先はその男の左手首を切り落とす。しかし、その男はそれとほぼ同時に俺の肩に右手でナイフを突き刺す。持久戦ではこいつに勝てない。そしてここでこいつをみすみす逃す訳にはいかない。肩を刺された影響で左腕はまともに動かない。右腕で刀を振り上げる。「これで終わらせる。」そのままただ一直線に刀を振り下ろす。その刀は男の首に近い肩にあたる。このまま刀を振り切れば頸動脈に刃がとどく。が、片腕では力が足りない。男は避けもせず、懐からもう一本のナイフを取り出し構える。一人の人間の限界であった。そう、「一人の人間」では。諦めかけたその時、えりなが刀の柄を握りしめる。いまだに乾かない涙を浮かべながら。二人の力が刀にかかる。「「ああああぁぁぁ」」刀がより深く入っていく。振り切れ、その刀を。そのまま男は後ろに飛びのくが出血が止まらない。「それは、俺の、刀、だ、、」そのまま男は倒れた。

 

息をつく間もなくパトカーのサイレンの音が聞こえる。後一人、あと一人ですべてが終わる。だが、血の付いた状態で発見されれば逮捕され、あと一人の命を奪い、呪いを解くのは難しくなるだろう。パトカーのサイレンから逃れる様に山に向かって走りだす。しかし既に山にも警察がいる状態であった。それでもひたすら山を駆け上がる。遂には、地平線は赤く染まり、朝の到来を教えている。二人で山頂にたどり着き、座り込む。しばらく休み、息が整いだした時、えりなが口を開いた。「あと一人だね」「そうだよ」「ここまで頑張ったでしょ」「ただ人を殺しただけだ」「でも、もう終わる」「あぁ、一人、たった一人犠牲になればいい」そう言って山の麓の街を見据える。「でも危ないよ、肩も怪我してるでしょ。それに警察だっていっぱいいるし」「じゃあどうすればいい?」「ここに、一人、いる、よ」「、、、いやだ」「薄々気づいているんじゃないの?これが一番確実に呪いを解く方法だって」「嫌だよ」すっと涙の湿りをほほに感じる。彼女は刀を自分の首にあてがう。「じゃあ、」その笑顔が目に焼き付く「ばいばい」

 

愛してるよ

 




その後の彼は犯罪を不問とされ、人生を歩むこととなる。

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