白面の者との終結後、翌年の3月の春先───。
1月中旬に産まれた私と流君の大事な愛娘の
彼女は彼女なりに幸せそうに過ごしている。蒼月君と出会って、本当に色々な出来事を乗り越えて激動の一年半だったけど。辛いことも沢山あったし、悲しいことも体験した。
それでも本当に楽しくて面白かった。
「フン。人間の政に我が関わるものか」
「巓の口調は治らないわねえ」
「外面を取り繕うなど容易い。が、お前のためなら人間らしく振る舞ってやることも出来るぞ」
そう言って威風堂々とした雰囲気を醸し出す、かつては白面の者と呼ばれて恐れられていた彼女の口におしゃぶりを着けてあげる。
人前で喋るのはまだダメなのである。
せめて、お前から『お母さん』もしくは『お母様』と呼ぶように強制しないといけない。白髪のメッシュを加えた髪色もそうですが、やっぱり前世の縁は色濃く残っているものではある。
「妙、準備出来たか?」
「まだ早いんじゃないの?」
「もう三十分もねえだろ。早くしねえとうしおの卒業式に遅れちまうぜ。ほら、巓はオレが預かっとくから準備してこいよ」
「じゃあ、お願いするわね」
流君のお言葉に甘えて素早くお化粧し、あまり派手じゃないスーツに着替える。タイトスカートって、ちょっと恥ずかしいのよね。
いつもジーンズだったから。
「巓、母さんは綺麗だよなあ…」
「ばぶー」
「ハハ、相変わらず気の抜けた返事だな」
普通の子より早くに首の座り始めた巓の頬っぺたを捏ねるように触りながら、そんなことを言っている流君に「もう準備は出来たわよ。ほら、行きましょう」と告げ、ヒールに履き替える。
「おお、ズボン以外は珍しいな」
「蒼月和尚、そっちももう出るのね」
「ま、まあ、須磨子がな……」
「あら、あなたも心配していたじゃないですか」
コロコロと笑う蒼月君のお母さんに気恥ずかしそうに顔を逸らす蒼月君のお父さんの後ろを黒い影が駆け抜け、ズザッ…!と砂ぼこりを立ち上げる。
それを追うように2mを越える巨体の人間が現れ、黒い影……蒼月君はお茶碗とお箸を持ったまま体を持ち上げ、ギロリと大男を睨み付けた。
「てめぇ、どういうつもりだ。とら!」
「けっ。晴れ舞台だが何だか知らねえが儂の朝飯を奪いやがったおめえを代わりに喰ってやるのさ!」
2mを越える巨体の男───とらは本条家の管理している和風男溺泉に無理やり落として、人間の身体と妖怪の身体を使い分ける事が出来るようになった。
謂わば擬似的な半妖状態だけど。
まあ、真由子さんとも仲良くしているから私が文句を言う理由はない。個人的には二千歳の妖怪が二十代ぐらいの若者に変わるのは不思議ではある。
「ホントにうしおと居ると飽きねえなあ」
「そうねえ」
この一年半は幾度も移ろう世界を見続けてきた。
けれど。それもまた人の世、妖怪の世、そのどちらにも必要な事だった。巨大な悪になるしかなかった太陰もやがては日に還り、全ての出来事は流転する。
だからだろうか、私は誰もが安らげる。
────風薫る日陰に寄り添う妙花でありたい。
今回のお話で「うしおととら」原作本編およびクロス本編「風薫る日陰に寄り添う妙花」はおわりです。
来月、12月1日に「からくりサーカス」編を開始します。時代は新しく移り、物語はからくりと道化師に彩られた時代。まだまだ糸色景と相楽左之助の子孫や家族の冒険は続いていきます。
ご愛読、ありがとうございました。