Blue Archive -Document SKIP feat.OMEGA and...- 作:LN58
これ、食べたい。これ、作ってくれ
さっき 昼飯 食ったばっかだろう。
それにキッシュって、パイ生地から作ると手間だから、挑戦したことないんだよな。
――――――『挑戦』? 『挑戦』って何だ?
できるかどうかわかんないけど、とりあえずやってみること、かな。
ふーん。
俺は今のアユ姉がかっこいいと思う。
え?
だって、やったことがないのに頑張ってんだろう?
そういうの、“挑戦”って言うんだぞ。
だから、挑戦しているアユ姉は誰よりもかっこいい。
そうだ、今度 作ったことがないキッシュに挑戦するコウセイもかっこいいし、
まだ誰も見たことがない【山海経】のより良い未来を創ろうと挑戦するキサキも最高にかっこいいぞ。
ソラトさん。
お前、本当に飯の話ばっかだな。
まあ、挑戦するかどうかは今回の報酬次第だから、しっかりやれよ、ソラト。
ああ、任せておけ、コウセイ
…………イイ。やっぱり、このふたり、凄くイイ。
竜華 キサキ「さて、今日はご苦労であったな、皆の者」
竜華 キサキ「無事に怪獣:ゲドラゴ――――――、否、瑞獣:クチナガダンスモグラの番をあるべき場所に還すことができた」
竜華 キサキ「今宵は貸し切りしておいた。御客人、【山海経】の伝統料理をたんと堪能しておくれ」
大木田 ソラト「見ろよ、コウセイ! これって前に雑誌で見た北京ダックってやつじゃないか?」
星見 コウセイ「おお、マジか。これが本場の北京ダックか。初めて見た」
大木田 ソラト「で、どうやって食べるんだ?」
星見 コウセイ「え? あれだろう?
アユム先生「言われてみると、齧りついて食べている印象はないよね?」
竜華 キサキ「
竜華 キサキ「そして、皮を剥いだ肉の部分はあらためて調理して出すことになっているのじゃ」
竜華 キサキ「だから、まずは皮の部分を堪能しておくれ」
アユム先生「おお、目の前で薄く切り分けられてる!」
竜華 キサキ「さあ、最初の一切れはもっとも美味とされる部位。これは今宵の主賓である先生が召し上がれ」
アユム先生「えっと、まずは
竜華 キサキ「そう。皮を乗せて、キュウリやネギ、揚げワンタンなどをお好みで付け足して――――――」
アユム先生「――――――巻いて食べるッ!」ハムッ
大木田 ソラト「どうだ、アユ姉?」
星見 コウセイ「味は?」
アユム先生「ああ スゴイ!
アユム先生「
アユム先生「だとしても、一手間も二手間もかかっている超高級鴨肉だから、まったくもって格が違う味!」
星見 コウセイ「あ、そんな感じなんだ!」
大木田 ソラト「よし、俺たちも食べるぞ、コウセイ!」
星見 コウセイ「おお!」
アユム先生「も、もう食べられない……」
大木田 ソラト「いやぁ、喰った喰った! 美味しかったー!」
星見 コウセイ「相変わらず どんだけ食うんだよ、お前は……」
竜華 キサキ「本当じゃのう。これほどまでの大食漢は初めて見たのじゃ」
竜華 キサキ「さあ、食後の茶を飲むのじゃ。口の中や腹に溜まった脂肪分を洗い流してくれるぞ」
アユム先生「これ、プーアル茶だ! 当然、ここで出しされるものは高級品だね!」
大木田 ソラト「なんかスゴイ風味……」
星見 コウセイ「こら。とんでもなくお高いお茶なんだから、ありがたく飲め」
竜華 キサキ「相変わらず正直じゃのう、ソラトは」フフッ
竜華 キサキ「まあ、熟茶じゃからのう。独特な風味に仕上がってはおるが、生茶だと苦みや渋みがあるから、熟茶にすることでまろやかな味わいにして飲みやすくしてあるのじゃ」
大木田 ソラト「ふーん。そうなんだ」
星見 コウセイ「中国茶は馴染がないんだよな。結構 奥が深いってのは知っているんだけど」
竜華 キサキ「であろうな。妾としては【山海経】をキヴォトス三大学園に並ぶ有名校として知名度を上げていきたいのじゃが、」
竜華 キサキ「誇りとしている伝統文化は奥が深いとは言うが、裏返せば それだけに難解で、他所からは簡単には理解できないものとして敬遠されている……」
竜華 キサキ「そして、『奥が深い』と言われて それを誇りとしている山海経の者も、正しくその歴史を理解していなければ、危うく瑞獣の死骸をオークションで売り捌いて食してしまう愚行にも繋がるのじゃ」
アユム先生「いやぁ、本当に丸く収まって良かったですよ」
星見 コウセイ「ああ。最初に怪獣を見てきたアユ姉の観察力がなかったら、怪獣がゲドラゴだってこと、ソラトにもわからなかっただろうからな」
大木田 ソラト「でも、雄のゲドラゴが求愛ダンスをしていることに気づいたのは――――――」
竜華 キサキ「ああ。カグヤのおかげじゃ」
アユム先生「まさか、【山海経】では瑞獣とされている絶滅危惧種:クチナガダンスモグラの求愛ダンスが縁起物として【京劇部】にも伝えられているものだったなんて……」
星見 コウセイ「前に出てきた草食恐竜の生き残りが怪獣化したテリジラスで、クチナガダンスモグラってやつが怪獣化したのが今回のゲドラゴだったってわけか」
アユム先生「ゲドラゴが命に関わるほど光に弱いことを考えると、求愛ダンスは仕草ではなく、音によって求愛している……」
アユム先生「雌のゲドラゴが工事現場に現れたのは、それが雄の求愛ダンスが発している音だと誤解したから……」
星見 コウセイ「そうだとしたら、かわいそうだよな。命の危険を冒してまで求愛ダンスをしているはずの雄を探しに地上に出てもどこにもいなくて、そのまま太陽に灼かれて……」
竜華 キサキ「そうじゃのう。そして、その死骸をどかすために愚かにも人はオークションに掛けて売り払おうとしたのじゃ」
竜華 キサキ「その過ちにカグヤが真っ先に気づいて みなを説得してくれたのじゃ」
大木田 ソラト「ああ。おかげで、ゲドラゴを元の寝床に戻すことができた」
アユム先生「うん。今回はカグヤのファインプレーだったよ」
アユム先生「びっくりしただろうな。オークション会場から雌のゲドラゴをウルトラマンオメガが持ち去っていったんだから」
竜華 キサキ「そうじゃのう」
竜華 キサキ「しかし、先生よ。今日はもっと驚くことがあったではないか、妾たちの目の前で」
アユム先生「うん!」
大木田 ソラト「お?」
――――――ああ、ウルトラマンの顔があんなにも近くに! 最高! 最高ッ!
アユム先生「どうしよう!
アユム先生「でも、50m級の巨人と真正面から顔を合わせて意思疎通を図れたのは世界初かも!」
竜華 キサキ「うむ。カグヤも腰を抜かすほど驚いておったのう」
竜華 キサキ「いや、あれは見惚れておったのか? だから、動きが早かったのかのう?」
竜華 キサキ「……そうか。そういうことじゃったのか」
大木田 ソラト「どういう意味だ、それって?」
アユム先生「あ、たしかに。カグヤの様子が少し変だった気がする」
星見 コウセイ「言われてみると、少し表情が柔らかくなっていたような……」
竜華 キサキ「ああ。カグヤは【京劇部】部長にして、一時は【玄龍門】門主に選出されるほどに【山海経】の伝統に詳しく、当然ながら京劇についてもクチナガダンスモグラの求愛ダンスのことを知っていたぐらいに精通しておるのじゃ」
星見 コウセイ「まあ、それは疑いようがない話だよな」
竜華 キサキ「で、京劇は
竜華 キサキ「たとえば、乱世の奸雄や陰謀を張り巡らす悪党は陰険な性格を表現して青白く塗り、逆に人々から崇敬されている英雄は赤く塗るのじゃ」
星見 コウセイ「へ? それじゃあ、真っ赤な巨人ってことだから、カグヤって子はオメガのことを英雄視するようになったって……?」
竜華 キサキ「うむ。赤ら顔は京劇では英雄の証なのじゃ。聞くところによれば、飲酒制限がなかった頃には舞台の前に酒を飲んで顔を真っ赤にして見事に演じたことが絶賛されたという」
アユム先生「わーお!」
大木田 ソラト「ふーん?」
星見 コウセイ「いや、でも、それだけでオメガのことを英雄視するってのは――――――」アハハ・・・
竜華 キサキ「それだったら、その赤ら顔の巨人は
アユム先生「そう考えると、物凄くめでたいね!」
竜華 キサキ「そうじゃろう。危うく瑞獣の死骸をオークションで売り捌いてしまう愚行を犯すところじゃったが、瑞獣である青龍の力を身に宿す赤ら顔の英雄が現れて、事を丸く収めてくれたのじゃ」
竜華 キサキ「終わってみれば、なんとめでたい日であったろうか」
竜華 キサキ「それだけじゃなく、妾はかけがえのない朋友を得ることができた」
竜華 キサキ「なあ、ソラトよ、コウセイよ」
星見 コウセイ「へ」
大木田 ソラト「ん」
竜華 キサキ「ソラトが言ってくれたのじゃぞ。元を辿れば、コウセイが言ったことじゃ」
――――――最高にかっこいい妾は挑戦するぞ、【山海経】の新しい未来を創るためにな。
竜華 キサキ「だから、先生と一緒に妾のことを応援して欲しいのじゃ」
星見 コウセイ「もちろんだぜ。俺で良ければ」
大木田 ソラト「ああ、俺たち、友達だもんな」
アユム先生「うんうん。善き哉 善き哉」
竜華 キサキ「だから、朋友として頼みたいことがある」
星見 コウセイ「おう、何だ? 俺にできることなら、何だって言ってくれ!」
竜華 キサキ「妾はこれからオメガダンスをアユム先生と踊るから、ソラトとコウセイも一緒に!」
星見 コウセイ「え、ええええええええええええ!?」
大木田 ソラト「何だ、そんなことか。それならお安い御用だ、キサキ」
大木田 ソラト「それじゃあ、コウセイ、一緒に踊ろう」
大木田 ソラト「アユ姉も」
アユム先生「うん!」
星見 コウセイ「ホント、なんか踊る機会が増えてきたなぁ、アユ姉の創作ダンス……」
竜華 キサキ「さあ、練習の成果を見せる時じゃ! 先生からもらった この制服を着てな!」ドン!
星見 コウセイ「あれ、【山海経】の制服って、あんな普通なものもあったんだ?」
アユム先生「あ、それはね、コウセイくん。我らが門主様の背丈が【梅花園】の子供たちと同じぐらいしかないから、せめて高等部らしい学生服を着せておかないと高等部の子だって認識されないし、それに――――――」
星見 コウセイ「……『それに』?」
アユム先生「
星見 コウセイ「ああ、そういう配慮が……」
大木田 ソラト「おーい! アユ姉もコウセイも準備はいいか?」
アユム先生「あ、大丈夫! カメラは問題なし! いつでも始められるよ!」
アユム先生「じゃあ、コウセイくん。よろしくね」
星見 コウセイ「うん! 俺たちのことを友達だって思ってくれている門主様の頼みだからな!」
アユム先生「みんな、準備OKだね。ソラトさん。曲振り、お願い」
大木田 ソラト「それじゃあ、行くぞ」
その後の話なんだけれど、アユム先生が創作したオメガダンスを【玄龍門】の門主様である竜華 キサキが制服姿でみんなと踊る動画が公開されたことで、【山海経】では空前絶後のウルトラマンブームが到来していた。
というのも、あの【山海経】で 一番 頭が固いと言っていい【京劇部】部長:漆原 カグヤが率先して、自身が居合わせた猪突怪獣:ゲドラゴの事件を元にした京劇の新しい演目にしていたから。
ウルトラマンオメガのことは“瑞獣である青龍の力を身に宿す赤ら顔の英雄”と位置づけることで京劇で人気の青龍刀を振るう伝統的な英雄と同一視されることになり、それで【山海経】の大衆に受け入れられることに繋がった。
カグヤが一晩で書き上げたという新しい演目の内容は、全部が全部 事実をそのまま脚本にしていたわけではなかったものの――――――、
これまでキヴォトスに現れた怪獣を次々と倒してきた赤ら顔の英雄が瑞獣である青龍と出会い、
優しさを教えられたことで、人々から忘れ去られて怪獣:ゲドラゴと誤解され、逃げる最中に引き離された愛を司る瑞獣:クチナガダンスモグラの夫婦を助け、
その御礼に瑞獣の夫婦が愛の舞を踊ることで【山海経】の地に愛が取り戻される。
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という感動超大作に仕上がっており、ゲドラゴが現れる前の【山海経】の在り方を問う大事件を経て、カグヤの心境の変化が如実に現れたものになっていた。
特に、エンディングとなるウルトラマンが怪獣を倒した後は空へと飛んでいく姿が、まさに『天に帰る』ということで舞台演出にも力を入れていた。
また、実際の事件だと地上に現れて頓死した雌のゲドラゴ;舞台では闇オークションを取り仕切る悪徳商人に生きたまま捕まえられたわけだけど、
まさか、脚本を書いたカグヤ本人が作中一番の悪役を演じるだなんて思いもしなかった。
けど、やっぱり、“五塵の獼猴”申谷 カイに利用されて結果として【山海経】に災厄を招き、キサキの下した英断に異を唱えた反逆者として裁かれることなく温情をかけられ続けていたことにずっと心に引っ掛かりがあったみたい。
だから、カグヤにとってもゲドラゴの一件は自分の感情と折り合いをつける良い機会になったみたいで、舞台が終わった後の表情はとても晴れやかなものだった。
一方で、カグヤはウルトラマンオメガの戦いを京劇の演目に取り入れるにあたって見栄えを重視して
レイジョの場合は50m以上にもなる巨体と巨体がぶつかり合う格闘戦に大興奮して、聞けば ブームの影響で武術を始める生徒も増えて、【武術研究部】の子たちと一緒により一層の功夫を積んでいるみたい。
あたしはあたしで、ウルトラマンブームに商機を見出して創作料理に取り組んで、キサキがアユム先生と一緒に超至近距離のウルトラマンオメガの顔を見た印象で『目が卵みたいに膨らんでいた』という証言を元に、ウルトラマンのことを“鹹蛋超人”と呼んで、それをイメージした商品開発をしていた。
【山海経】には“鹹蛋”という文字通り塩漬けの茹で卵が食べられていて、赤ら顔の英雄:ウルトラマンオメガは輝くような青い眼をしていたということで、鹹蛋に青いホイルを巻いて2個セットで提供する“青龍鹹蛋”として特別感をつけて売り出したら、これが大当たり。
そして、かねてから先生が発案の、キサキが監修の、【山海経】の伝統文化をわかりやすく広めるためにミニチュアが中に入っている玩具菓子:チョコエッグも機を逃さずに発売すると、これまた爆発的に売れることになった。
実はこれ、キヴォトス中で怪獣災害が発生するようになったから、【山海経】に伝わる伝承の調査を行って怪獣の存在を周知させ、怪獣災害が発生した時の対処法も同封することで防災教育も進められる一石二鳥の策だった。
だから、ウルトラマンオメガをモチーフにしたチョコエッグの大成功には、販売を担当したあたしはもちろん、自治区を預かるキサキにしても、怪獣災害の専門家であるアユム先生も大喜びで、3人でオンライン飲み会をするほど盛り上がった。
そして、アユム先生が先に退出した後、あたしはキサキとあらためてアユム先生について知っていることを情報共有することにして、
ゲドラゴの一件の時、アユム先生が要注意人物である大木田 ソラトにあたしたち生徒には絶対に聞かせないだろう弱音を吐いていたことを聴かされた。
そう、アユム先生は空が赤く染まったキヴォトスの滅亡の危機を救った後、ずっと
しかも、生粋の軍人でかつ正真正銘の怪獣退治の専門家だった
ただでさえ、キヴォトスの歴史には存在しなかった超常の存在“
そもそも、アユム先生が所属していた【怪獣防災科学調査所 SKIP】は地域に密着した科学調査及び避難誘導等を行う民間組織であり、怪獣退治を目的とはしていないため、対怪獣兵器の所有や運用はまったくの経験がなく管轄外なのだ。あくまでもGDF:
だから、怪獣災害に対する防災対策や科学調査はお手の物でも、肝腎の怪獣の出現に対しては全くの無力であり、そのためにK-DAY以降は対怪獣兵器の開発を各学園の生徒会に訴えて回ることになり、前代未聞の“
それどころか、
その世界で“特機団きっての大天才”として最前線で活躍していた
アユム先生からすれば、あくまでも調査が専門の【SKIP】以上に質と量の両方で怪獣について熟知している【SKaRD】もしくは【特機団】に所属していた
そう、ただでさえ
そういう心境だったからこそ、先生と同じぐらいの年頃の異性が囁く 気休めにもならない 甘い言葉に聞き入っていたのだと、キサキは少し気に入らなそうな口振りで話していた。
そういうキサキも、あたしの前では意地を張ってソラトさんのことを悪し様に言ってはいるけれど、お気楽なことを言う 何も知らない 完全な部外者の言葉に心を動かされたことを迂闊だったと思いながらも嬉しく思う 照れ隠しの気持ちがあったのを見逃さなかった。
つまり、【玄龍門】門主:竜華 キサキもまた 同じぐらい【山海経】の未来について先行きが見えない不安を抱えていて、嘘でも良いから前向きな言葉を誰かから与えて欲しかったのだ。
それを 一番の恋敵になるかもしれない 先生と同じ年頃の男性:大木田 ソラトから言われてしまったことに より一層 複雑な思いを抱いたわけで、
あたしもキサキも先生と同じ悩みと苦しみを抱えて苦労や孤独をわかちあえる仲にはなれたけれども、先生さえも勇気づける言葉を与えられたソラトさんはあたしたちの一歩先を行っていたことになる。
しかも、この先も怪獣が現れ続けるなら、先生は自称:怪獣研究家という 実際は倉庫で住み込みバイトの胡散臭い人であっても一応の同業者ということで 現状では他の誰よりも頼りにする仲間とみなして、より親密さを増していくことだろう。
それがキサキにとって何よりも悔しかった。キヴォトスのこれまでの歴史には存在しなかった“
――――――でもね、あたしは知っているんだ。キサキが教えてくれた以上にアユム先生のことをね。
さすがの門主様でも先生との付き合いは古参であるあたしよりずっと短いから、先生をホテルに連れ込んで事に及ぼうとした時に無表情で泣かれた理由はわからないよね。
あたしにはわかる。キサキが【山海経】の未来のために先生を囲い込んで手込めにしようとするのは、責任ある立場の生徒なら誰でも考えることだから、先生も驚くに値しない。
むしろ、嘘か本当か、エデン条約をめぐる騒乱で【トリニティ総合学園】が大分裂する危機を体を張って先生が止めたという話だから、襲われる覚悟はいつでもできていたよ。
でも、そんな先生が香を焚かれた部屋の中でキサキに誘惑されて下着を濡らすのではなく頬を濡らしたのは、頭の作りが普通の人と違うからなんだよ。
実はね、先生って知っての通り自分の事になると、とことん鈍感で、それでいて無防備なんだけれど、
そんな人だから誰も放っておけなくて、地球でも友達だと思っていた同性に襲われることが本当にあったみたい。
でも、キスまではいけるけど、それ以上になると必ず吐いちゃうから本番までいけたことがないくらい、性的なことが本当は受け付けない身体になっていたって、先生が自分で言ってた。
つまり、襲われた時の先生の覚悟って言うのは
わかったよね、キサキ。先生だって本当は期待しているから、裏名義でエッチな絵を描き続けているけど、
先生自身が生理的にそういうのが無理だとあきらめながらもずっと憧れていて、愛されたいから愛してくれているんだ。
それに、気づいていたかな。アユム先生って食べ物に齧り付く食べ方を絶対にしないんだ。必ず一口大に切り分けるとか千切って食べているんだ。リスのように食べ物を口の中いっぱいにして頬を膨らませるようなことは絶対にしない。
でないと、吐いてしまうから。
うん。あたし、やっちゃった。厨房の蒸気で服が透けちゃったのを見てあたしの胸に釘付けの先生のこと、『せっかくだし、もーっと困らせちゃおう』だなんて思って、
嘘。本当は
だから、あたしは先生のことを傷つけて、先生もあたしのことを汚して――――――。
でも、だからこそ、あたしと先生は一緒にシャワーを浴びてお互いの全てを曝け出せる関係になれたよ。
まあ、さすがに吐いたばかりでキスしたくなる気分でもなかったけど、こうやって先生が大好きなシチュエーション;先生が描くイラストのお決まりの構図で接すると、先生と一緒に凄く満ち足りた気分になれた。
あの時は、シャワーを一緒に浴びた後でベンチに間を取って座って互いの指先を触れ合わせて静かに時間が流れていくのを先生と感じていたよ。
そうそう、これこれ。見て見て。これがあたしと先生が体験したシチュエーションを絵にしたイラスト。ついでに厨房の蒸気で服が透けちゃったあたしを描いた肖像画も見せてあげる。
ええ!? キサキも先生に描いてもらった肖像画をもらっていたの!? うわ、裏名義の方で投稿されたホテルのスイートルームって、それが元ネタ!? 気づかなかった……!
ううぅ、やっぱり、先生は絵描きだから、ネタになるものは何でも絵にしちゃうんだね……。
そう考えると、先生が絵にしている内容の全部が、実際にそういうことがあったんじゃないかって疑っちゃうよ。先生、見たものをそのまま絵に描き起こす画才の持ち主だし。
ずるいよ、先生は。プライバシーの保護だとか何とか言って、あたしに隠れてあたし以外の生徒と絵のネタに困らないぐらい美味しい思いをたくさんしてきたってことじゃない。
どうしたらいいんだろう。難しいね、キサキ。先生に過酷を強いたら拒否反応を起こされるし、かと言って全員がそのことを知っているわけじゃないから、いつ先生が襲われて過酷を強いられて傷つけられてしまうか、あたし、怖い。
でも、それ以上に先生はK-DAYを迎えたことで
それだけは絶対に嫌だ! 死んじゃったらも元も子もない! あたしは先生には幸せになってもらいたい! 誰かと愛し合えるようになって欲しい!
――――――だから、お願い! 先生を助けて! ウルトラマンオメガ! 私たちの鹹蛋超人!