Blue Archive -Document SKIP feat.OMEGA and...-   作:LN58

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第8話 霧降山の伝説 ~退屈はハッカーをも殺す、狂騒は文明の利器を凶器に変える~

 

ミレニアム自治区【東アルプス】は日の出の名所として有名であり、その麓はキャンプの隠れ名所としても知られていた。

 

過去、そこに“シャーレの先生”アユム先生は【ヴェリタス】の生徒たちに誘われて、一緒に山登りをして初日の出を拝むことになった。

 

あの時は楽しかった。年末、部員たちが何日も日の差さない部屋に閉じこもっていたのを見兼ねた【ヴェリタス】副部長:各務 チヒロの発案でデジタルデトックス*1を目的にしたオートキャンプ*2に繰り出すことになったのだ。

 

一方、多忙を極める“シャーレの先生”アユム先生がなぜ【東アルプス】を訪れようとしたのか――――――、

 

それは学園都市:キヴォトスに初めて怪獣が現れたK-DAYが訪れる以前から、ウルトラマンアークの世界で【怪獣防災科学調査所 SKIP】の所員だったことから、転職のために来ることになった学園都市:キヴォトスでも怪獣が居ないかをずっと“シャーレの先生”をしながら調査していたのである。

 

そして、この【東アルプス】に存在する 超常現象が発生するという 霧降山の伝説に辿り着き、古文書『太平風土記』に記されている一節を確かめるために現地に足を運んだのだ。

 

 

霧降山に空から降りたる天魔:悪牙(アガ)なり。紅の巨人:大太法師(ダイダラボッチ)、災いを齎す悪牙(アガ)を封印せり。

 

 

この時は非番ということで“SKIPのおねえさん”として野外活動(フィールドワーク)も達者であることを一回り下の出不精(ナード)の若人たちに見せつけ、テントの設営を自前のサポートロボット:ロッピー・ザ・ロボットに頼らずにテキパキとこなす姿は生徒たちの尊敬を集めた。

 

しかし、元旦に御来光を拝むのは東丈山であり、霧降山;怪獣がこれまで未発見のキヴォトスで調査をするのは完全な私用のため、野外調査は自由時間に行う手筈となっていた。と言っても、冬場の日暮れが早い時期に野外炊事の開始時刻を考えると、行ってきてすぐに帰るぐらいの調査時間しかないはずだ。

 

当然、デジタル・ネイティブである【ヴェリタス】の生徒たちはアユム先生の霧降山の調査に同行することでデジタルデトックスの苦行から離れようとするのだが、副部長:各務 チヒロがしっかりと部員たちの手綱を握り、快く調査に送り出されるのだった。

 

結果としては、たしかに来てすぐにでもわかる異様な観測データが確認されたものの、たった2,3時間の現地調査だけでは霧降山の全貌を掴むことは叶わず、その後も“シャーレの先生”として激務の日々で霧降山の伝説のことは記憶の隅に追いやられることとなった――――――。

 

 

それからK-DAYを迎えて、アユム先生は再び霧降山の伝説に挑むことになったのである。

 

 

それは【ヴェリタス】と【特異現象捜査部】の両部長を務める“全知”明星 ヒマリからの要請で、ミレニアム系超常現象現象研究サークル【ゴーストライダーズ】が超常現象解明の依頼を何度も【セミナー】に出してきたことに辟易した様子の【セミナー】会長代行:早瀬 ユウカを見兼ねてのことだった。

 

一方で、研究資金獲得のために動画配信活動をする等 涙ぐましい営業努力をする必要がある 弱小サークルではあったものの、この世の真実を求めて特異現象を追究する姿勢は【ヴェリタス】と【特異現象捜査部】の両方の理念に重なるところがあり、

 

これまでキヴォトスでは未確認だった怪獣が現れるようになったK-DAYを迎えたことでチャンネル登録者数が勢いづいたことで“全知”明星 ヒマリも たとえ取り扱う内容が次元の低いものだとしても その技術力の高さから注目するようになっていたのである。

 

そのため、【セミナー】から遣わされたという形で“シャーレの先生”アユム先生はいつものようにロッピー・ザ・ロボットとアークガロンを引き連れ、護衛として【セミナー 保安部】出身の【C&C】エージェント:角楯 カリンと同じく【C&C】エージェント:一之瀬 アスナを伴い、

 

更にはおよそ1000年前の古文書『太平風土記』に記されていた“天魔:悪牙(アガ)”“紅の巨人:大太法師(ダイダラボッチ)”について意見を求めるために【SKIP】特別調査員待遇の大木田 ソラトと助手の星見 コウセイにも声を掛けた――――――。

 

 

 

ユピアイエー(Yippie-yi-aie)*3

 

ユピアイオー(Yippie-yi-oh)*4

 

 

ユピアイエー(Yippie-yi-aie)

 

ユピアイオー(Yippie-yi-oh)

 

ユピアイエー(Yippie-yi-aie)

 

ユピアイオー(Yippie-yi-oh)

 

おっと?

 

おお?

 

ユピアイエー(Yippie-yi-aie)

 

ユピアイオー(Yippie-yi-oh)

 

そ、ソラトぉおおおおお!?

 

ソラトさん、何か楽しそう! じゃあ、私も! 私も!

 

ユピアイオー(Yippie-yi-oh)

 

ユピアイエー(Yippie-yi-aie)

 

あ、アスナもなのぉ!?

 

やっぱり、このサークル、ヤバイな……。

 

ついてきてもらって本当によかったよぉ……。

 

うん……。

 

 

例によって、キヴォトスの生徒たちは地球人と比べてどこか頭のネジがぶっ飛んでいる人間ばかりであり、【ミレニアム】で一番の常識人に見える早瀬 ユウカでさえも、いざとなれば普通に荒事を選択肢に入れるぐらいには地球の常識と良識が通用しない、暴力に支配された銃社会の住人であった。

 

それでも、【ミレニアムサイエンススクール】の生徒たちはすぐに暴力に訴えることがない理性的な対応を心掛けてくれるので他と比べたら遥かにマシではあるのだが、決してないわけではないし、それで今度は目的のためなら手段を選ばない狂気の科学者にありがちな倫理観の欠如に振り回されることになるのだった。

 

ミレニアム系超常現象現象研究サークル【ゴーストライダーズ】の能力の高さは、さすがは【ミレニアム】史上三人しかいないという学位“全知”を獲得した超天才清楚系病弱美少女ハッカー:明星 ヒマリが注目するだけのことはあり、

 

霧降山で確認されている特異現象:ブリガドーン現象を人工的に発生させる「空中波動固定装置」を開発するなど、在野の研究サークルにしては規格外の技術力と行動力、超常現象解明への熱意を持っていた。

 

実際、やりたいことをずっと探し続けてバイト先を転々として、ついには学園都市:キヴォトスに流れ着いた地球人:星見 コウセイはそんな【ゴーストライダーズ】の1つのことに直向きな姿勢を ある意味 幸せだと思うほどだった。

 

さて、霧降山の伝説というのは、霧がよく出てくる霧降山には昔から急激な気圧変化で発生した霧が周囲を包む事で時間や空間が混乱するブリガドーン現象が起こることで超常現象が発生していると言われ、古来より隠れ里の存在が噂され、そこには廃屋や車の残骸、観覧車などがあるとされ、更にはK-DAY以前から迷い込んだハイカーたちによるUFOや巨大な未確認生物の目撃も相次いでいると言う。

 

そのため、オカルトマニアの間では割と有名なミステリースポットとなっており、基本的に【東アルプス】山麓には数々の登山口やキャンプ場が整備されており、霧降山にもそれがある一方で、オカルトマニアたちが足を運ぶことで有名なために一般の利用客からは避けられている穴場になっていた。

 

それだけに他より明らかに格安の利用料金でコテージが貸し切られることになり、今回の【ゴーストライダーズ】以外にも格安のキャンプ料金なども加味して好奇心からミステリースポットに足を運ぶ利用客が一定数存在するため、霧降山のキャンプ場は古文書の伝承も相まって独特の雰囲気を醸し出していた。

 

そんなミレニアム系超常現象現象研究サークル【ゴーストライダーズ】の研究拠点となるコテージにはブリガドーン現象を人工的に発生させる「空中波動固定装置」が設置されてあり、依頼人である明星 ヒマリから託された『研究データの不正入手』を【C&C】のエージェントたちにやらせるまでもなく、同じ技術者である強みを活かして技術交流を図ることで正規入手は達成された。

 

なにしろ、在野の研究サークル【ゴーストライダーズ】からしてみても、“シャーレの先生”アユム先生が開発したロッピー・ザ・ロボットとアークガロンは技術者ならば一度は触れてみたいと思うほどのキヴォトスの技術水準を凌駕したオーバーテクノロジーの産物であるため、技術面からの助言をアユム先生からもらえたら光栄の極みということで、こちらから何も言わなくても「空中波動固定装置」の問題点などを開示してくれるのだ。

 

特に、【ゴーストライダーズ】の方でもサポートAI:ジェニファーを開発しているため、“キヴォトスを救った英雄”アユム先生がいかにサポートAIを使いこなしているかをはっきり理解できるのだから、そこには純粋な尊敬の念しかない。

 

いやいや、ゴーグルから立体映像を出せる超高性能スマートグラスを所有している時点で、並みのミレニアム生を凌駕する技術力を持っていることに、ほぼ一般人のソラトやコウセイはもちろん、エージェントのアスナもカリンも驚いているので将来が非常に楽しみである。

 

一方、【SKIP】特別調査員待遇の大木田 ソラトとその助手である星見 コウセイにはあらためて1000年前の古文書『太平風土記』に記された霧降山の伝説を語ることになり、【セミナー】の方から来た 制服姿の【C&C】エージェントの二人も 注意深く今回の調査の内容に耳を傾けていた。

 

 

急激な気圧の変化によって発生した霧が周囲を包み、そこでは時間と空間が混乱する――――――。

 

たまたま霧降山はブリガドーン現象が発生しやすい機構だったと思われます。

 

この隠れ里に巨大な未確認生物がいる――――――。

 

我々はそう睨んでおります!

 

霧降山は隠れ里伝説やUFO、巨大生物の目撃談などの超常現象のテーマパークのような場所なんです!

 

霧降山には巨人伝説もあるんです!

 

ジェニファー、『太平風土記』の資料 出して。

 

最近、街に現れた人型巨大生命体――――――。

 

我々はあれも伝説の巨人:大太法師(ダイダラボッチ)だと考えています。

 

もしかして、お前、1000年前からこの星に居るのか?

 

俺、あんな顔か?

 

ねえ、ソラトさん。『俺』って何のこと?

 

いやいやいや!

 

何も! 何でもないよ、アスナ!

 

 

そんなわけで、ブリガドーン現象を人工的に発生させ、霧降山の名の由来である濃霧を発生させ、噂となっている隠れ里への突入作戦が練られることになった。

 

事は慎重を要した。「空中波動固定装置」によって目的の成果が得られたとなれば様々な意味で大事であるからだ。

 

コテージ内に設置された「空中波動固定装置」の原理としては、アンテナから出るアストラル波のビームが霧を作り出し、霧を媒介にすることで時間と空間の歪みから異次元の扉を開き、実験室規模で人工的にブリガドーン現象を作り出すものであり、あくまでもコテージ内の実験室だけに完結するものとされている。

 

しかし、ブリガドーン現象が自然発生する条件が揃っていると見られている環境で小規模なブリガドーン現象を引き起こすことで、雪崩現象で本物のブリガドーン現象を突発的に招く危険性があり得た。

 

濃霧を人為的に発生させることになったら、今回の実験とは無関係の霧降山を訪れている登山客が遭難する危険性があり、そのために自治区を取り仕切る【セミナー】の権限で入山制限を掛ける手配が必要となる。

 

また、人為的に濃霧を発生させることは、人工降雨を例にすれば 人体や環境への潜在的な悪影響、降水量の制御が難しいこと、ある地域で人工降雨を行うと別の地域で降水量が減少する可能性が指摘されており、そこから自然の気象システムへの介入が予期せぬ大規模な気象変動を引き起こすバタフライ効果の危険性があったのである;それと同じようなことが今回の人工濃霧を発生させることで起きるのではないかという懸念もあった。

 

そのため、できれば濃霧が自然発生する日を狙って長期滞在した先例が過去に何件もあったようなのだが、ブリガドーン現象を発生させる濃霧と普通の自然現象の濃霧の区別が難しいからこそ、ブリガドーン現象を人為的に発生させる装置を開発して理論を証明する方向に向かったのが【ゴーストライダーズ】であった。

 

そして、仮にブリガドーン現象が科学の力によって立証されたところで、隠れ里に行って何をするのかを決めておかなければ壮大な実験結果がただの観光旅行で終わってしまうので、ちゃんと行って帰ってこれるかどうかを確認する必要もあったわけである。

 

よって、初日は霧降山のキャンプ場に現地入りして状況を把握したことで、そこから実験の許可を取り付けることになり、わざわざ在野の弱小サークル【ゴーストライダーズ】を自治区の頂点に君臨する【セミナー】に顔繋ぎをして口添えした“シャーレの先生”には感謝感激となっていた。

 

そこから気象条件がいい快晴の日までに全ての準備を整えることになり、一旦はそこで解散することになったのである。

 

そして、入山制限や安全対策も万全にした快晴の実験日和、霧降山のキャンプ場にはかつてないほどの人集りが出来上がっていた――――――。

 

言うまでもなく今回の実験を見にきた見物客(野次馬)であり、【セミナー】に公式に実験許可を取り付けた弱小サークル【ゴーストライダーズ】の晴れ舞台ということで、元からミステリースポットとして有名な霧降山に興味関心があった人たちが一斉に押し寄せてお祭り騒ぎになっていたのである。

 

この時点で一発の弾丸が命取りとなる脆弱な地球人でありながら数々の修羅場を潜り抜けてきた歴戦の猛者へと成長していた“シャーレの先生”アユム先生には察するものがあった――――――。

 

 

――――――これより【ゴーストライダーズ】はアスナさん救出作戦を敢行する!

 

 

案の定、実験を開始すると同時に本物のブリガドーン現象が霧降山を濃霧で覆い、集団失踪事件へと繋がってしまったのだ。

 

その兆候を直感で察知していた【C&C】一之瀬 アスナが直前になってコテージを飛び出して、今すぐにこの場から離れるように叫びながら銃を乱射して見物客を追い払おうとしたところに、ブリガドーン現象が直撃したのである。

 

一之瀬 アスナの咄嗟の行動のおかげなのか、現地に集まった見物客(野次馬)から消失した者は両手で数えられるぐらいしかいなかったものの、これは由々しき事態となったと言わざるを得ない。

 

とは言え、あらかじめ見物客や警備のために用意していたWi-Fiスポットのアクセスから人数を把握し、【シッテムの箱】を経由して失踪者を瞬時に割り出し、迅速に救出作戦への移行を指図したアユム先生の言葉に異論を唱える者はいない。

 

 

アストラル値上昇、まもなく波動が同期します。

 

ジェニファー、照射ポイントを固定! いけます!

 

――――――照射!

 

時間と空間を越えて今! 異次元の扉が開く!

 

凄い。本当に実験室に異次元ゲート(ワームホール)ができた……。

 

あの向こうにアスナさんたちがいるはずです。

 

みなさんで助けに行ってください。

 

よし、行くよ。みんな。

 

あれ?

 

あ……。

 

大丈夫。問題なし。

 

いやいやいや! 今 一瞬、機械が止まったっすよね!?

 

行こう、コウセイ!

 

どう考えてもヤバ過ぎるだろう!?

 

科学の発展には様々なトライ&エラーがあるのです。

 

エラーがあってたまるかぁ!

 

おらああああ!

 

うわあああああああ!

 

ユピアイエー!

 

ユピアイオー!

 

ああ、ソラトさん!? コウセイくん!?

 

じゃあ、そういうわけだから、手筈通りに行くよ、カリン! ロッピー! ガロンちゃん!

 

はい、先生!

 

 

 

 

 

破壊獣:モンスアーガー 撃破!

 

 

こうしてウルトラマンオメガの新たな姿(トライガロンアーマー)の登場によって1000年前の古文書『太平風土記』に記されていた“悪牙(アガ)”と思しき怪獣:モンスアーガーの撃破に成功し、

 

異世界:隠れ里との双方向の通信も問題なかったため、【シッテムの箱】で失踪者の位置情報を追跡してオメガがモンスアーガーと戦っている間に迅速に救出して回り、何とか異次元ゲートが閉じる前に全員帰還するのだったが、

 

今回の実験の要となる「空中波動固定装置」が救出作戦中に暴走し、怪獣すらも吸い込まれる勢いの巨大な異次元ゲートが発生し、それにモンスアーガーやトライガロンが吸い込まれそうになって身体の一部が霧降山に集まった観衆に露見し、怪獣が現れる瞬間を目撃した観衆が大パニックとなって霧降山は阿鼻叫喚となっていたのだ。

 

そのため、いつものミレニアム生のやらかしに分類されることのため、実験自体は大成功だったものの、異次元から怪獣を人為的に喚び出しそうになっていたことに報告を聞いた【セミナー】会長代行:早瀬 ユウカは激怒することになり、【ゴーストライダーズ】は称賛ではなく『科学を遊びに使うな!』とキツいお叱りの言葉を受けることになった。

 

だとしても、なんとか隠れ里から帰還することができた面々は互いの無事を祝ってユピアイエーとユピアイオーのシュプレヒコールを連呼することになり、それがミレニアム自治区で 一時期 大流行することになるミームとなって、ミレニアム系超常現象現象研究サークル【ゴーストライダーズ】の知名度とチャンネル登録者数は爆発的に増えたのだから、怪我の功名と言えるものとなった。

 

 

 

 

 

一之瀬 アスナ「……うーん」

 

アユム先生「どうしたの、アスナ?」

 

一之瀬 アスナ「あのね、ご主人様」

 

一之瀬 アスナ「実は、あの異世界:隠れ里で、私、男の子の幽霊を見たかもしれない……」

 

アユム先生「え?」

 

一之瀬 アスナ「ご主人様が救出に来るまで、私たちは一昔前のものが集まった廃村みたいな隠れ里で怪獣に追いかけ回されていたんだけど、」

 

一之瀬 アスナ「キヴォトスでは珍しいし、なんだか古めかしい格好の、10歳前後に見える小さな男の子の姿を逃げる途中で見かけて、」

 

一之瀬 アスナ「それで、私が遠くから呼びかけても無反応で、怪獣の方に手を翳すと怪獣をおとなしくさせたみたいに見えた」

 

アユム先生「……そうなんだ」

 

一之瀬 アスナ「結局、ご主人様が割り出した救出者の一覧にはあの男の子がいなかったから、あれは幽霊か何かだって思っているんだけど、」

 

一之瀬 アスナ「最後にみんなで大脱出する時、振り返った時にやっぱり男の子が居て、『オメガ』って呟いていていた気がする……」

 

一之瀬 アスナ「あれって、やっぱり幻だったのかな、ご主人様?」

 

アユム先生「……はっきりしたことはわからないけど、実験を見に集まった人たちに聞き込み調査したら、隠れ里に迷い込んだ人を現世に送り返す男の子の証言がいくつかあったから『あれは“山の精霊”だったんじゃないか』ってね」

 

一之瀬 アスナ「本当?」

 

アユム先生「ついでに、今回みたいな集団失踪事件が過去に起こっていないか、隠れ里にあった一昔前の廃墟みたいなものから分析に出しているけど、少なくとも『霧降山に観覧車があった』という記録はないみたい」

 

アユム先生「今回、異次元ゲート(ワームホール)が装置の暴走でランダムに出現したように『あの場所は霧降山だけじゃない、いくつかの知らない場所と繋がっているんじゃないか』って、ヒマリから連絡があった」

 

アユム先生「とりあえず、貴重な異次元世界の調査データを持ち帰ることができたということで、ヒマリはゴキゲンになってる」

 

一之瀬 アスナ「もし男の子が呟いたオメガが、キヴォトスにも現れるようになった真っ赤な巨人のことだとしたら、それって――――――」

 

アユム先生「現実的な可能性を模索すると、ウラシマ効果かもしれないね」

 

一之瀬 アスナ「……『ウラシマ効果』って?」

 

アユム先生「光の速度に近い速度で移動すると『時間が遅れる』というアインシュタインの相対性理論に基づく現象で、」

 

アユム先生「母星から遠く離れて宇宙旅行から帰還すると、母星ではウラシマ太郎の昔話のように途方もない長い年月が経過していて、宇宙旅行者だけは若いままでいる現象だよ。母星と宇宙船という異なる時間軸での時間がずれることを利用して、未来への時間旅行の手段にもなるとも考えられているね」

 

一之瀬 アスナ「じゃあ、あの空を飛ぶことができる真っ赤な巨人:ウルトラマンオメガも宇宙から降ってきたって話だし、『実際に1000年経って またキヴォトスに来た』ってわけでもないんだ」

 

アユム先生「まあ、可能性としてはね。時間の流れが早い空間に居続けたのなら、もしかしたら10年ぶりにキヴォトスに来たら実際には 1000年 経っていたってことも十分にあり得る話だから」

 

アユム先生「あ、こういうの、シュウおじさんの専門分野。宇宙物理学と宇宙生物学ね。私も 怪獣生物学と合わせて ある程度は」

 

一之瀬 アスナ「ふぅん。そうなんだ。そう考えるとおもしろいね、ご主人様」

 

 

この時、アユム先生はウルトラマンアークの世界で灼熱怪獣:ホムガーが現れた際に【SKIP】調査員:飛世 ユウマがホムガーの伝承に記された精霊の声を聞いたという話を思い出していた。

 

やはり、学園都市:キヴォトスにも【ゲマトリア】が“神秘”の探求のために研究対象にしている超常の力を身に宿すヘイローを持つ生徒たちでも知り得ない不可思議な存在がいるのだと確信を深める一方、

 

うっかりバニーガール衣装以外を洗濯に出して それを着る以外になくなった バニーガール姿のアスナを背中から抱き締め、その露出した胸から上の肌を温めていた。

 

そして、一回り下の思春期真っ盛りの艶のある肌に頬擦りをすると、相手も頬擦り返し、互いを見つめる瞳は熱を帯びて潤んでいた。

 

ただ、そこから先は下江 コハルが期待しているようなことには決してならない。

 

思わず唇を重ねたくなる欲望がアユム先生の小さく空いた口から吐息として漏れ出て、アスナもまた上気した表情でアユム先生を見た。もう、それはキスする5秒前――――――。

 

けれども、アユム先生は嘔吐反射が激しいために油断するとすぐに吐いてしまうのだ。それでキスの味がたちまちのうちにゲロの味になることを本能的に恐れる嘔吐恐怖症を患っており、

 

これが自分が愛されたいがために男でも、女でも、誰にでも媚びを売っておきながら本番に決して至ることができない 幼い日に背負った罪と心の傷で 普通の幸せを取り上げられた人間の悲哀であった。

 

だから、いつもいつも受け入れ準備は整っているのに必ず寸止めであり、高ぶった性的興奮を勢いのままにイラストに変えることができるアユム先生の方はそれでいいのだろうが、お預けを食らわされている生徒たちの方は欲求不満が更に募るばかり。

 

とは言え、誰一人として愛の告白をして関係を明確にしているわけでもない。その場の雰囲気からアユム先生が投稿しているイラストのようなロマンチックなシチュエーションに重ねているだけに過ぎず、それで付かず離れずの距離感を維持し続けているのだ。

 

そのため、チークキス(頬にキス)までが精一杯で、先生からそれ以上の愛を与えられる瞬間をみんな良い子にしてずっと待っているのだ。

 

それがずっと繰り返されてきた生徒たちとの関係性にはあらゆる愛の形が条件反射として刷り込まれることになり、

 

【C&C】一之瀬 アスナの場合は後ろから抱き締められてアユム先生に頬擦りされるだけで脳が蕩け出すのだ。まるでパブロフの犬である。

 

そう、かつて生徒を実験動物扱いにして対峙することになった【ゲマトリア】の“黒服”から『自分たちの同類』として熱心に勧誘を受けていたアユム先生だったが、

 

こうして自分から愛を求めて数多くの生徒たちを誑かしておきながら、その愛を受け止めることができない身体に苦しめられている様は実に滑稽なことだろう。

 

だからこそ、アユム先生は 熱く見つめ合うだけに終始するのに慣れすぎて 発散されないムラムラを絵にぶつけることで自分一人だけスッキリする()()()()であり、思春期で持て余した純情をただ一人の愛のために内に秘め続ける少女たちの想いなどお構い無しに絵のネタにし続ける――――――。

 

これがアユム先生の性欲の発散方法として確立されているのだから、いかに自分勝手なことだろうか。これでは一方的にヤリ捨てているようなものだ。

 

かの有名な画家:パブロ・ピカソは彼の激しい性欲や欲望、内面の葛藤を象徴するモチーフとしてミノタウロスの絵を70点も制作しており、一貫してエロス(性的な欲求)を作品のテーマとし、『芸術は決して貞淑ではない』として芸術と性衝動が密接に結びつけていたという。*5

 

その意味では、なるほど、これはたしかに子供を搾取する大人のやり方だ。それで恋愛感情を昂らせ続けられた不特定多数の生徒たちの様子を【ゲマトリア】が興味深く観察していたぐらいなのだから、ある意味において共犯関係がないとは言い切れない。

 

それでも、日々の疲れを癒やしてもらうために存分に気分を昂らせていった結果、ムラムラを創作意欲に変換して出力されるものがSNSで万バズのイラストレーターの直筆のイラストであり、大抵はアユム先生が美しいと思ったりカッコいいと思ったり感動した瞬間の絵と引き換えてくれるため、これが生徒たちにとってアユム先生から与えられる何よりの愛の形であった。

 

特に、強すぎる直感力の裏に()()()()()()()に似た症状;記憶や意識の断続、日常動作の困難が確認されている一之瀬 アスナにとっては、アユム先生が描いて渡してくれる絵がその時の記憶を失っても二人の絆を現す確かなものとなっているため、

 

自身もまたパブロフの犬のように先生とのふれあいに気持ちを昂らせて熱く見つめ合い、その内にとろ~んと夢見心地となって何があったかを忘れて、先生の胸に抱かれたり 先生を胸に抱いたりして 気持ちよく朝を迎えていた。

 

それでもうアスナとしては十分に満たされており、アユム先生が自分と同じ特殊な人間であることを理解しているからこそ、互いに歩み寄った愛し合い方であった。

 

この後もやっぱり朝起きて見れば、夜明けのコーヒーの香りと共に先生はスケッチブックにペンを凄まじい勢いで走らせており、最高に美しい瞬間のアスナの寝顔のスケッチを仕上げたのである。

 

これこそが本番行為をしようとしたら吐いてしまうのが宿命のゲロ女(ゲロイン)であるアユム先生の過酷な◯◯◯ーであり、白く柔らかなキャンパスで激しく擦るのは女の子の◯◯◯ではなく、男の子が膨張させた◯◯◯◯をしごくかのごときペン捌きであった。ふにゃふにゃなどではない、しっかりと立たせた線の軌跡が像を結ぶ。

 

それでペン先に精魂込めて一気にイラストを描き下ろした時の表情は極限まで昂らせたものが放出された満足感と虚脱感を伴っており、脳内に快楽物質が溢れ出し、その余韻が現実と非現実の境の中で思索を促す。

 

そうしてアスナが目覚めたことに気づけば、先生はおはようのチークキスをして、アスナもまたおはようのチークキスを返して、とびっきりの笑顔を見せ合って今日の服を着るのであった。

 

 

――――――ここはアユム先生が生徒たちと遊ぶために用意した【アミューズメントホテル ONYX(オニキス)】。健全な青少年育成の場。

 

 

アユム先生は【連邦捜査部 S.C.H.A.L.E(シャーレ)】の顧問や【怪獣防災科学調査所 SKIP】キヴォトス分所 所長の他にもいくつかの事業をしており、その1つが空が赤くなるキヴォトス滅亡の時を超えた後に先生なりに答えを出した キヴォトスでもっとも必要とされる遊び場であった。

 

もしもキヴォトスにK-DAYが訪れることがなければ、【怪獣防災科学調査所 SKIP】キヴォトス分所 所長としてではなく、【アミューズメントホテル ONYX(オニキス)】のオーナーとして新たな名声を得ていたことだろう。

 

そして、【ONYX(オニキス)】とはその名の通りパワーストーン:黒瑪瑙(オニキス)に由来し、魔除け・邪気払い、精神の安定、意志力の強化、潜在能力の開花をもたらすとされる。そうした願いがこの事業に込められていたのである。

 

しかし、現実には K-DAYの到来によって 専門である【怪獣防災科学調査所 SKIP】の技術開発者として怪獣災害対策に駆り出されることになり、せっかく物件を譲ってもらって事業展開して、キヴォトス中から可愛い生徒たちを招いておもてなししようと心待ちしていたのにグランドオープンは無期限延期である。

 

それだともったいないので、オーナー権限でお気に入りの生徒とマンツーマンで語り明かす場所として使い始めるようになり、その最初のゲストが()()()()()()()()()()()()()()()()()ことから妹分にした二人の生徒の上の子:一之瀬 アスナだったわけであった。

 

アユム先生が血の繋がらない姉妹として本気で愛そうとしている特別な生徒はこの一之瀬 アスナともう一人の才女であり、それぞれが持つ闇の部分に共感(シンパシー)があるが故に、姉妹愛と称して自分の代わりとして守りたい防衛機制が働くのだ。*6

 

だから、一回りも歳が離れているというれっきとした事実があるのに、仲の良い姉妹として一緒にお風呂に入って互いの裸を見せ合うのも普通のことだと言い切り、一緒のベッドで身体を寄せ合うのも当然としていた。

 

ゲロを吐いてしまうので生理的に肉体関係を持てないにしても そこまで可能な限り深い繋がりを求めようと動いてしまったのは、やはり、大切な人を失ってしまう恐怖心がアユム先生の心の奥底にあったからなのだろう。

 

霧降山で起きかけたブリガドーン現象による隠れ里への集団失踪事件に愛する妹分である一之瀬 アスナが巻き込まれた時の動揺は、この場に居る誰よりも怪獣災害の専門家として律しなければならないアユム先生に 全てが終わった後に遅れてやってきた恐怖の感染症であった。

 

両親に捨てられてしまった過去の罪と心の傷はふとした瞬間に蘇り、『ああしておけばよかった』『こうしておけばよかった』と浮かび上がる後悔から切なる願いを生み出していく。

 

そして、実は 石堂 アユムにとっては今回の事はそれだけではなかったのだ――――――。

 

今回のは実験室規模であったとは言え、異次元ゲート(ワームホール)を開く実験の影響で並行世界の自分自身(イシドウ・アユム)はキヴォトスに流れ着くことになったという記憶と体験がこの世界を生きる石堂 アユムに刻まれているのだ。

 

だから、霧降山の伝説を解明するために『ブリガドーン現象によって異世界への扉を開く』という誰もが半信半疑に思う実験内容に 実はいい知れぬ不安と恐怖を 人一倍 感じていたのだ。

 

それを“シャーレの先生”という役を演じることで気づかないままでいられたのが、全てが終わって生身の石堂 アユムに戻って振り返ってみた時、それに気づいてしまったのだ。

 

 

――――――放したくない。今、放したら、私の大好きなアスナともう二度と会えなくなるような気がして。今夜はずっと一緒に居てよ。それで一緒に明日を迎えようね。

 

 

その夜、可愛い妹分のアスナと愛を確かめ合ったアユム先生は、快楽(絶頂)など一瞬のことでしかないが故に刹那的な肉体の交わりを求めず、後世に受け継がれていく形になるものを残すことを目指したのはそのためだった。

 

もしかしたら二度と帰ってくることができない可能性に見舞われていた愛する妹分:一之瀬 アスナの在りし日の姿を記憶に残しておきたいという切実な願いとコインの裏表である繋がりたい欲求に支配され、

 

それはまるで 写真のような写実性を追求するのではなく 目に映る瞬間的な光や色彩の印象を重視した印象派のように、一瞬の光景を切り取って絵にすることで永遠にする儀式でもあった。

 

だから、いっぱいいっぱい愛を確かめ合うのにはしゃぎ疲れてアスナが寝息を立てたのに合わせて、その実在を最後に確かめるように頬に触れた後、今日一日の無事を噛み締めながらアユム先生は少し離れた席でスケッチブックを開く――――――。

 

 

――――――今日もウルトラマンアークのように抱き締めて上げることができたかな? 愛を伝えることができたかな?

 

 

 

 

 

一之瀬 アスナ「ご主人様。ううん、先生」

 

アユム先生「何、アスナ?」

 

一之瀬 アスナ「大好き」

 

アユム先生「私も大好き」

 

一之瀬 アスナ「だから、安心して、先生」

 

アユム先生「え?」

 

一之瀬 アスナ「私、先生がどこに居ても必ず辿り着いてみせるからね」

 

一之瀬 アスナ「――――――怖かったよね?」

 

アユム先生「!」ビクッ

 

一之瀬 アスナ「だから、もう怖くないよ」

 

一之瀬 アスナ「私も先生が来てくれるって信じてたから」

 

アユム先生「あ」

 

一之瀬 アスナ「先生の傍に居られて、私 今すっごく幸せなんだ!」

 

一之瀬 アスナ「先生のことは私が守るからね! ずっと一緒だよ!」

 

一之瀬 アスナ「これからもず~っと、一緒に居ようね!」

 

アユム先生「うん」

 

アユム先生「うん……」

 

アユム先生「ありがとう、アスナ……」

 

一之瀬 アスナ「それじゃあ、今日も素敵な一日の始まりだね、先生!」

 

一之瀬 アスナ「ほらほら、今日も元気よく行こう!」

 

一之瀬 アスナ「えっとね、たしか()()()()()()()()()()()()()()アレ!」*7

 

アユム先生「え、アレ?」

 

一之瀬 アスナ「うん! とっても楽しい気分になるよ~!」

 

 

ユピアイエー(Yippie-yi-aie)

 

ユピアイオー(Yippie-yi-oh)

 

 

*1
スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器やサービスから一時的に距離を置き、過度な情報やデジタル機器への依存から解放されること。

情報過多によるストレス軽減、集中力向上、睡眠の質改善などの効果が期待でき、完全にデジタル機器を断つのではなく、使用時間を制限したり、通知をオフにしたりするなど、デジタル機器との健全な距離感を築くことが目的。

*2
車をテントサイトまで乗り入れられるキャンプ場のこと。

オートキャンプ場では自分のサイトまで車を横付けでき、荷物の運搬が楽なだけでなく、電源付きのサイトなど設備が充実していることが多い。

つまり、一般的なキャンプ場では駐車場に車を停め、荷物をサイトまで自分で運ぶ必要がある。

*3
いいかんじで、げんき が でることば。

ちきゅう には そんな ことば が いっぱいある。

よし! よっしゃ! やった! ばんざい!

やっほー! イェイ! オッケー!

かいてるだけで げんき が でてきた。

ユピアイエー! ユピアイオー!

*4
ジョニー・キャッシュ(Johnny Cash)が歌う『Ghost Riders in the Sky』の歌詞に出てくるフレーズ。あまり意味はなく、平和を願う掛け声のようなものとされる。

*5
芸術は決して貞淑ではない。無知な処女や、準備ができていない罪のない者たちに芸術をさらけ出すことは禁じられるべきだ。

Art is never chaste.It ought to be forbidden to expose it to the ignorant virgin, to the innocent, who are not ready for it.

*6
Vaillantによる防衛機制の分類

レベル1:代償(Compensation)

達成できない目標や満たされない欲求を別の形で達成可能な目標や欲求で補う。

例としては、プロスポーツ選手になれなかった人がコーチとして成功を収め、選手になれなかった自分を補うことなどが挙げられる。

更にわかりやすい例としては、親が子供に自分が果たせなかった夢を代わりに叶えさせようとすることであろう。

*7
隠れ里でのモンスアーガー戦にて、変身直後に<オメガスコープ>ではなく、ユピアイエー(Yippie-yi-aie)のポーズを取っていた……。

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