Blue Archive -Document SKIP feat.OMEGA and...-   作:LN58

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第9話 カネナリ怪獣パーク ~Sheside outside, last resort~

 

生徒たちが大人の真似事をして生徒会活動で政治をやっている学園都市:キヴォトスでは、悪い大人たちが何も知らない子供たちを騙して搾取しており、こうして今日も今日とて拝金主義の闇から抜け出せない子供たちがたくさん居た。

 

そんなキヴォトスの惨状を変える願いを託されて、失踪した“連邦生徒会長”が残していった超法規的機関【連邦捜査部 S.C.H.A.L.E(シャーレ)】の強大な権限でもって救済活動に当たっていたのが地球人:石堂 アユム先生であった。

 

そして、キヴォトスで一二を争うマンモス校【ゲヘナ学園】とそのライバル校【トリニティ総合学園】の軍事同盟を締結するエデン条約をめぐる騒乱で陰で糸を引いていたのが【アリウス分校】であり、不倶戴天の敵【ゲヘナ】と自分たちを僻地へと追いやった【トリニティ】への積年の恨みを晴らすべく暗躍していた。

 

しかし、そこには子供を搾取する悪い大人たちである【ゲマトリア】が【アリウス分校】を支配しており、【アリウス分校】は【ゲマトリア】が求める“崇高”を探るための手段として利用されていたに過ぎず、

 

【アリウス分校】を支配するために学園の最高指導者たる生徒会長の座を簒奪し、それでいて歳を気にしてか 自身のことを“マダム”と呼ばせていた【ゲマトリア】の紅一点:ベアトリーチェが居なくなった後の【アリウス分校】には本当の虚無(vanitas)が到来していた。

 

いや、あの“全知”明星 ヒマリをして“ビッグシスター”調月 リオを上回る才知の持ち主である“シャーレの先生”こと石堂 アユム先生が、結果としては“ロイヤルブラッド”秤 アツコを救出するために【アリウススクワッド】に協力して 成り行きでアリウス自治区解放作戦を遂行した結果がどうなるかを考えていないはずがなかった。

 

聞くところに由れば、ベアトリーチェが10年前に【アリウス】の内戦状態を終結させたことで生徒会長の座を実力で認めさせたようなのだが、『子供は大人が搾取すべきもの』と言い放つ 社会不適合者の物言いをする 年増女に真っ当な人間教育ができるはずもなく――――――。

 

結果として、長年続いていた内戦状態よりかは一定の秩序が取り戻されて幾分かマシになってはいたものの、子供たちを洗脳するために虚無(vanitas)を教え込んで【ゲヘナ】や【トリニティ】への憎悪を煽って厳しい統制下に置いてきたのだ。

 

その締付けを失って解放されたアリウス生たちだったが、ベアトリーチェの道具としての生き方しか知らないのだから、自分たちに一方的に命令する嫌な大人が居なくなったことにホッとするのも束の間、どうやって生きていけばいいのかもわからない状態で外の世界との繋がりを持ってしまったのである。

 

当然、普通の生徒たちでさえも騙されるのに、ヘイローを宿すキヴォトス人でありながら銃声と爆発音が絶えない犯罪天国であるキヴォトスの現実をまったく知らないのだから、たちまちのうちに悪い大人に騙されて搾取される社会の洗礼を浴びて、荒れ果てていても住み慣れた故郷に命からがら逃げ帰る子たちが続出していたのだ。

 

それはあまりにもかわいそうな話であり、勇気を出して挑戦したことが絶対に報われないという本当の虚無(vanitas)を抱いたまま齢を重ねたことで呪詛を吐き続ける化物へと変貌していくのは看過できない現実である。

 

また、いずれはベアトリーチェの指導で戦闘能力だけはいっちょ前の何も知らない無知な生徒たちが相当数まとまっていることに目をつけた悪い大人が【アリウス】に殺到して、それによってエデン条約締結におけるテロ事件が再現されるとも限らない。

 

そうなる前に、遥か昔【トリニティ総合学園】が創設される際に異端として苛烈な迫害を受けて歴史の闇に埋もれることになった【アリウス分校】の生徒たちを今こそ【トリニティ】の同胞として迎え入れるべく、エデン条約を機に【トリニティ総合学園】の新生の象徴となる融和政策が静かに進められるのだった。

 

それが【アリウス】との歴史的和解を最初に言い出して却下された“裏切りの魔女”聖園 ミカに対する最大限の配慮であり、エデン条約締結までに内外に失態を晒すことになった【ティーパーティー】が再び立ち上がるための勇気の一歩であった。

 

一方、エデン条約をめぐる騒乱を収束に導いた立役者である“シャーレの先生”もまた【アリウス分校】の惨状を放置することを良しとせず、独自の解決策を形に移すべく【アリウス】の子らと交流を重ねていた。

 

そこで得られた【アリウス】の実像を元に、今後【アリウス】が学園都市:キヴォトスの一員として生きるためにもっとも必要とされるものを少年兵として育てられてしまった子たちでも安心して受け入れられるカリキュラムと教育環境の構想を練ったのである。しかも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

それこそが“シャーレの先生”であるアユム先生の新たな実績となることが期待された【アミューズメントホテル ONYX(オニキス)】のグランドオープンであった。

 

 

アユム先生が【アリウス分校】に対して出した結論は、いきなり何も知らない子供たちを大人の世界である社会に放り込むのではなく、社会というものを遊びを通じて学ばせることであり、ベアトリーチェの偏向教育で一般教養が壊滅的な【アリウス分校】の生徒たちの学習レベルは幼稚園程度だと考えてのことだ。

 

何より、洗脳教育によって虚無の価値観に染まっているのだから、まずはそこを凝りほぐして生きる楽しさや生きる意味を体験して情緒を育む必要があった。頭ごなしの詰め込み教育はそれこそ洗脳と変わらない。自然な人同士のコミュニケーションの中で社会性は育まれていくのだ。

 

もちろん、社会で自立していくために必要な実用的なことを学べることも必須であった。あらゆる要素には限りがある以上、いつまでも養ってもらってないで、やがては自立してもらわなくてはならない。

 

それらを同時に実現できる教育環境を求めた結果、教員免許を持っていない以上は学校の教師にはなれないと考える遵法精神旺盛の大天才:石堂 アユムは子供の頃の林間学校のことを思い出していた。

 

そうだ。校外学習のための宿泊施設だ。それなら必要なのは営業許可で、教員免許は必要ないし、“連邦生徒会長”不在のために閉校になって他校への編入を余儀なくされた【SRT特殊学園】の生徒たちをサバイバル教官として招聘することもできるだろう。

 

そこで【SRT特殊学園】の訓練施設の払い下げをしてもらい、林間学校の場所を確保しつつ、それとは別に首都:D.U.への修学旅行の拠点となる交通の便がいい場所も他人の金で用意してもらったというのが【アミューズメントホテル ONYX(オニキス)】であった。

 

しかし、いくら犯罪天国:キヴォトスだからと言って、そこに居る全ての大人が子供を搾取する悪い大人であるとは限らない――――――。

 

ろくな教育も受けられなかった行き場のない不良生徒たちに真っ当な暮らしを提供するために福利厚生や教育制度などコンプライアンスの充実を目指した善良な企業はたしかに存在しているのだ――――――。

 

 

 

 

 

深海怪獣:グビラ 撃破!

 

 

ジャンケン ポン!

 

アイコでしょ!

 

アイコでしょ!

 

アイコでしょ!

 

しょ!

 

っしゃあああああああああああああああ!

 

うああああああああああああああああああ!

 

ごっつぁんでーす!

 

また負けたあああああ!

 

へっへー!

 

最後のバナナぁ……。

 

やっぱ、お金がないと楽しくない!

 

え? そうは見えなかったけどな?

 

え?

 

ジャンケンしてる時、楽しそうだったぞ。

 

コウセイはどんな状況でも“楽しい”でいられる。

 

でも、腹が減ったら楽しくない。

 

だったら、ほら。半分こ。

 

これで少しは楽しいか?

 

いいのか?

 

こんなことも“楽しい”のひとつだ。

 

だな!

 

 

現在、二人は金欠であった。本来は【太陽倉庫】の住み込みバイトによる生計に加えて、【SKIP】特別調査員としての報酬や【山海経】から定期的に送られてくる差し入れとなる食糧があるため、裕福でなくとも食事には困らないはずだったのだが、

 

そもそもとして、ウルトラマンとして超人的な力を発揮するためには大量のエネルギー補給が欠かせないため、大木田 ソラトによってエンゲル係数*1は当然ながら急上昇。

 

また、怪獣の情報を聞きつけて現場に向かう交通費往復2人分も地味に家計に重くのしかかっており、せっかくの報酬が家計簿をつけて大きく目減りしていたのに気づいた時、コウセイの目の前が真っ暗になりかけた。

 

また、K-DAY以来 キヴォトスで増え続けている怪獣災害による被害は直接的なものだけじゃなく、社会不安や情勢の悪化を招いており、近頃では怪獣災害が発生していない安全な自治区を目指して住民の流入が起きているらしく、それによる混乱や衝突が増えているのだとか。

 

そのため、【太陽倉庫】に見回りに来てくれる中務 キリノをはじめとする【ヴァルキューレ警察学校】のおまわりさんとの世間話やラジオの情報だけでもキヴォトス中が不安に包まれていることを知ることになり、

 

一方で怪獣災害で今までの生活を奪われた人たちがいれば、自分たちのように怪獣災害で得られる報酬で生活に少し余裕ができた人間もいるわけであり、

 

その不公平感に善良な一市民として良心が痛み、【SKIP】の報酬から差し引いてそこそこの寄付をして、【山海経】から送られてくる差し入れも被災者に分け与えた結果、気づけば自分たちの方がひもじい思いをする羽目になっていたのである。

 

宇宙人であるオメガこと大木田 ソラトとの共同生活に慣れきっていないうちに【SKIP】からの報酬や【山海経】からの差し入れがもらえるようになって多少は裕福になってコウセイの金銭感覚が狂っていた弊害であった。なぜか生活が苦しいことに気づいて、家計簿をつけてみて初めて気づいたことである。

 

となると、臨時収入を得るためにできれば交通費のかからない場所で怪獣が現れないかと願ってしまうのが人の性であり、ちょうどよく『新しいショッピングモールの建設現場で冬眠状態の怪獣が発掘された』との情報を耳にすると、逸早く怪獣の情報を掴んで【SKIP】からの報酬を確かなものにしたかった。

 

結果、現場の指示に行き違いがあったせいで現場に入ることができなかった“SKIPのおねえさん”アユム先生と合流することになり、現場に押し入るためにソラトが土嚢を空高く放り投げて見事な投球フォームで投石を命中させて騒ぎを起こし、異変に気付いた【アリウススクワッド】リーダーであり、今はバイトリーダー:錠前 サオリに見つかるものの、

 

そもそも、怪獣災害の専門家として【SKIP】所長:アユム先生を招いていたことが、現場に視察に来ていた土地の所有者:カネナリ社長から説明されることで事なきを得たのである。

 

そして、この時はソラトとコウセイも【SKIP】所長:アユム先生の部下ということで出前を頼んでもらい、コウセイの夢が全部詰まっているステーキ、お寿司、エビフライが入った豪華弁当をご馳走になったのであった。

 

しかし、弁当に手を付ける前にちょっと用を足しに行ったコウセイは、怪獣保護の名目で部外者の立ち入りを私兵を配備して完全に禁じておきながら、冬眠中の怪獣を見せ物にしたテーマパーク【カネナリ怪獣パーク】を作って金儲けをすることが目的だったことに ふと通路に貼ってあった貼り紙を目にして気づいてしまったのだ。

 

一方で、ソラトもまた保有資産は1兆円を超えると噂されているキヴォトスの大企業【カネナリコーポレーション】の代表取締役:カネナリ社長の自慢話を聞かされ、後からインタビュー映像を閲覧するなどして情報を集めていた。

 

本人はお金を稼ぐ理由について『お金があれば何でも買える』『楽しく生きていたい』と公言して憚らず、腕には純金の腕時計を身に着け、こうして三ツ星レストランに作らせた高級弁当を気前よく振舞っていたわけなのだが、

 

そんな自分が招いた客人の目の前で自らの意にそぐわない部下について電話越しに『使えない』と発言してイライラを隠しきれない様子に、ソラトは『楽しそうには見えない』と言う印象を受けていた。

 

そして、怪獣を見世物にして金儲けを企んでいることを突きつけてきたコウセイに【カネナリ怪獣パーク】の計画について責められるとバツの悪そうな顔をしたり、ソラトに『何のためにお金を集めているのか?』と純粋な気持ちで質問されると返事に困ったりしていた拝金主義者:カネナリ社長だったが、その時 助け舟を出したのは なんとアユム先生ことアユ姉であったのだ。

 

納得がいかない二人に対してアユ姉はこの場を制し、せっかく用意してもらった高級弁当をお土産にして帰るように促すと、カネナリ社長と話し合いに入ってしまったのである。

 

そのため、アユ姉の意外な対応に苛立ったコウセイはせっかくの夢が全部詰まった高級弁当にはまだ手を付けていなかったこともあって、腹立ち紛れに見送ってくれた錠前 サオリにお礼として称して押し付けており、少しは良いことをして気分良く帰りたい衝動に支配されていた。

 

押し付けられたサオリとしては自分だけ良い思いをすることに引け目を感じて扱いに困った様子だったが、それを見かねたソラトが近くにいた傭兵バイトを呼び集めて弁当箱の中身を分け合って夢を共有することを提案したことで、ようやくサオリも引き下がることができたのだった。

 

何より、そのお礼が『アユ姉のことを助けてあげること』だなんて言われたら、アユム先生に返しきれない恩がある錠前 サオリとしては裏コミュニティサイトで要注意人物に挙げられている大木田 ソラトに対する認識を改めることになった――――――。

 

 

相手のことを何も知ろうとせずに偏見から差別することがいかに虚しいことかを【アリウス】を追放されてからのバイト生活の日々で身を以って理解したはずなのに、アユム先生に危害を加えるかもしれない大人に対しては一方的な敵意を向けてしまう自分が居たことに気づいてしまった 錠前 サオリ――――――。

 

だからこそ、自称:怪獣研究家を名乗ってアユム先生に取り入って【SKIP】の一員になっている怪しい人物だと裏コミュニティサイトではあたかも真実のごとく語られていたわけだが、聖園 ミカと思しき書き込みだと『実際に会ったらまったくそんな感じじゃなかった』とあったのに、その報告を無視してしまった自分はいったい何なのだろうと考え込んでしまった。

 

後々になって、それはアユム先生に対する罪悪感と大木田 ソラトに対する嫉妬心が入り混じっていたのではないかと錠前 サオリは内省する。

 

本当なら3つの自治区の境界にある自由の場所【アウトロービーチ】で再会した【アリウススクワッド】の家族たちと一緒にアユム先生の元で暮らしたかったという本音を抑えながら孤独に耐えるバイト生活の日々を送っていると言うのに、どうしてアユム先生の元に見知らぬ大人が入り込んでいるのか――――――。

 

けれども、聖園 ミカらしき書き込みにあった通り、アユム先生に近寄る要注意人物だと見なされていた大木田 ソラトの優しさに触れ、なんだかんだでそれに付き合う星見 コウセイの気遣いにも優しさが込められていた。

 

だからこそ、アユム先生が【SKIP】の仲間に迎え入れたのだと思い、その為人をもっと知りたくなった。そうすることでアユム先生のことをもっと知ることに繋がると感じて。

 

大木田 ソラトにお礼代わりに頼まれたアユム先生のことを見守り、状況を報告するために錠前 サオリは連絡先の交換を行った。

 

思った通り、連絡先がまた増えたことに大喜びの大木田 ソラトであり、カネナリ社長の拝金主義やアユム先生の対応に反発してイライラしていた星見 コウセイにしても自分が食べるはずだった高級弁当の中身を分け与えて傭兵バイトの子供たちが喜んでいる様子を見てようやくホッとした表情を浮かべていた。

 

そう、錠前 サオリにしても秤 アツコ救出作戦のついでのアリウス自治区解放作戦によってベアトリーチェの束縛から解放されて、【アリウス分校】にとっての外の世界で失敗だらけのバイト生活の日々を送り、数え切れないぐらい大人の悪意に晒されてきたからこそ、今の錠前 サオリには優しさの意味と価値がわかる。

 

そして、去り際に本当は高級弁当を食べておきたかったと本音を漏らす星見 コウセイに、大木田 ソラトが『武士は食わねど高楊枝』だと褒め称えていたのが聞こえ、

 

外の世界でそれなりの日数を過ごしていても聞いたことがなかった言葉の意味を雇い主であるカネナリ社長との話し合いを終わらせてきたアユム先生に訊ねた時、錠前 サオリは大人としての優しさの1つの在り方を理解することになった――――――。

 

 

錠前 サオリ「先生、その、『高楊枝』と言うのは?」

 

アユム先生「ああ、それはたぶん『武士は食わねど高楊枝』だね。ソラトさん、暇な時は時代劇とかいろいろ見ているらしいから」

 

アユム先生「せっかくカネナリ社長が注文してくれた三つ星レストランの高級弁当を傭兵バイトのみんなに分け与えていったわけなんだ」

 

アユム先生「本当にまっすぐで良い人たちだね、ソラトさんにコウセイくん」

 

アユム先生「あ、ほらほら。『武士はたとえ貧しく物が食えなくても、食べたようなふりをして楊枝を使う』の意味で『貧しい境遇でも誇りを失わず、満腹であるかのように見せかける武士の気概や、やせ我慢をすることのたとえ』『現代では体面を保つことや虚勢を張ることを意味する場合もあるが、元々は武士の清廉さや高潔さを示す言葉とされる』だって」

 

錠前 サオリ「……なるほど」

 

アユム先生「つまり、みんなが見ている前で動揺した姿を見せると、付いてきてくれているみんなも困っちゃうわけだから、責任ある立場の人間は自分の苦労を表に出さずに毅然とし続ける姿が最高にかっこいいわけなんだよ」

 

アユム先生「だから、本当はコウセイくんの大好きなものでいっぱいのお昼ご飯だったわけだけど、考え方や見え方のちがいでカネナリ社長のやり方に文句を言った手前、それでお弁当をご馳走になるのはカッコ悪いわけだから、」

 

アユム先生「本当は自分が食べたいのを我慢して、仕事を頑張っている子供たちにお弁当を分け与えたんだよ。それが『武士は食わねど高楊枝』ってことでソラトさんが褒め称えたわけなんだね」

 

アユム先生「あーあ、きっとお腹を空かせていることだろうなぁ。今度、差し入れを持っていってあげないと」

 

錠前 サオリ「そうだったのか。先生が言うように本当に素晴らしい方だったわけか……」

 

錠前 サオリ「私には 到底 真似することができそうもない。ただ生きるのに必死で、割の良い仕事を探すのに手一杯だ……」

 

アユム先生「ううん。サオリは頑張っているよ。だから、私は手助けをしてあげたい」

 

錠前 サオリ「いや、でも、それだと『高楊枝』には――――――」

 

アユム先生「ちがうちがう。『武士は食わねど高楊枝』はね、みっともない振る舞いをしないようにするための警句であって、助け合いを否定しているわけじゃないよ」

 

アユム先生「ただ、自分に付いてきてくれている家族や部下に心配させたくない時にやることであって、そういった状況に追い込まれないように常日頃から助け合える信頼関係を築くことは人間生きていく上で絶対に必要だから」

 

アユム先生「だから、私たちは守りたいものを守るために力を合わせて辛い現実に立ち向かうんだよ。それが人が人として生きるために作られた社会というものなんだよ」

 

錠前 サオリ「………………」

 

アユム先生「ねえ、サオリ? 実は、カネナリ社長がね、サオリのような行き場のない生徒たちのことを憐れんで、たくさんの生徒たちを雇って寮生活や教育の機会を与えて養っている慈善家なのは知ってた?」

 

錠前 サオリ「え、そうだったのか? たしかに、これまでの雇い主とはだいぶちがうのはわかっていたが、不機嫌さを隠せないでいたように見えたが?」

 

アユム先生「そりゃあ、そうでしょう。慈善活動をするのにもたくさんのお金や労力が必要だし、人間一人を立派な社会人に育て上げるのも並大抵じゃない苦労があるわけだから。わかるよね」

 

錠前 サオリ「あ、ああ……」

 

アユム先生「それに、K-DAYから始まった未曾有の大災害:怪獣災害による直接的な被害やそれに伴う社会不安や情勢の悪化で人々の暮らしは下向きになる一方――――――」

 

アユム先生「それだけに、社長としては部下である社員を食わせていくために企業活動を安定させないといけない責任があるし、これからも増え続ける行き場のない子供たちに救いの手を伸ばし続ける慈善活動を両立させていく苦労はドンドン増えていくわけだから、」

 

アユム先生「コウセイくんが憤った怪獣を見世物にして金儲けする【カネナリ怪獣パーク】の構想も大人としての責任と真っ当な倫理観とを天秤にかけた上での苦渋の決断だったわけなんだよ。そもそも、ショッピングモールを建てる予定が狂ったわけだし」

 

錠前 サオリ「そんなことが…………」

 

アユム先生「そういった人には見せることができない苦労や辛さをわかってあげられる人間が少しでも増えるといいよね」

 

アユム先生「だから、私はサオリのことをわかってあげたくて、あの時 力を貸すことを決めたんだ」

 

錠前 サオリ「先生……」

 

錠前 サオリ「あ」

 

 

――――――チークキス。

 

 

アユム先生「また会えて良かったよ、サオリ。アツコが会いたがっているよ。ミサキもヒヨリも」

 

アユム先生「それに、アズサもね」

 

錠前 サオリ「そうか……」

 

アユム先生「それじゃあ、【カネナリ怪獣パーク】の開園のために私はカネナリ社長に協力するから、冬眠中の怪獣の側で研究している私を含むみんなのことを守ってあげてね」

 

アユム先生「万が一 冬眠中の怪獣が目覚めた場合の緊急避難が円滑に行えるように現場に指示を出しておくから、お願いね」

 

錠前 サオリ「わかった、先生。この場のことはまかせてくれ」

 

錠前 サオリ「そ、それで、あの、先生……?」

 

アユム先生「何、サオリ?」

 

錠前 サオリ「わ、私もさっきの、先生が私にしてくれたこと、やってみていいだろうか?」

 

アユム先生「いいよ。サオリと私の仲だから、これから いっぱい たくさん うんとしようね」

 

アユム先生「気持ちいいこと」

 

錠前 サオリ「せ、先生……」

 

アユム先生「うん。来て」

 

錠前 サオリ「そ、それじゃあ……」

 

 

・・・チュッ

 

 

そうして、怪獣調査の専門家である【SKIP】所長:アユム先生の的確な指導の下、常に銃声や爆発音が鳴り響くような学園都市:キヴォトスでやることだから、冬眠中の怪獣が目覚めて暴れ出すぐらいのハプニングはつきものという完全に開き直った想定で安全対策の徹底が行われることになった。

 

その一方で、その過程で入手できた貴重な生きた怪獣のデータを唯一の同業者と言える大木田 ソラトにも共有しており、この怪獣がウルトラマンアークの世界でも確認された深海怪獣:グビラ もしくは 古代地底獣:オカグビラであることまでは突き止めることができたものの、グビラもしくはグビラの亜種が冬眠することにソラトは違和感を覚え続けていた。

 

その裏で現場の研究員たちには【SKIP】のノウハウを提供し、カネナリ社長の愚痴に付き合い続け、バイトリーダーの錠前 サオリとは逢引を楽しむ充実した日々を送っていた。いつか“姫”と再会した時に手の甲にキスをする画を実現させるべく、キスの場所でわかる25の意味を全て教え込んで悦に浸っていたのである。

 

この過程で得られた興奮を絵のネタにしないわけがなく、相変わらずSNSで万バズのイラストレーターとして界隈を盛り上げ続け、アユ姉は完全にこの期間を楽しんでいたわけである。

 

もちろん、真面目な話もたくさんしており、カネナリ社長と同じように行き場のない生徒たちに教育の機会と安心して取り組める教育環境を提供するべく【アミューズメントホテル ONYX(オニキス)】のオーナーになることを話し、【アリウス分校】の生徒たちの救済計画をサオリと情報共有していたのである。

 

その裏でソラトとコウセイがひもじい思いをしていたわけなのだが、その様子を見かねたおまわりさん:中務 キリノが炊き出しボランティアに誘ったり、待望の【山海経】からの差し入れが届いて猛烈に感動したり、小さな幸せを噛みしめる日々を送っていた。

 

 

――――――待ってくれ! 金ならいくらでも払う!

 

 

そして、開園の準備を整えてマスコミを集めて【カネナリ怪獣パーク】の発表記者会見が開かれることになったのだが、人がたくさん集まっている現場の様子を見ていて、海洋性のグビラと陸上性のオカグビラの最大のちがいを思い出した大木田 ソラトが急いでアユ姉とサオリに連絡を飛ばすのだった。

 

本来 海洋生物である深海怪獣:グビラが地上で冬眠するのは浜辺に打ち上げられたクジラのごとく擬死行動の一種であり、皮膚に付着した生物が長く打ち上げられて死臭を放つことで陸上生物を集めて一気に捕食するための偽装(寝たフリ)だったのである。その点、陸上性の古代地底獣:オカグビラは陸に進出した種なだけに活発であり、そういった擬死行動は一切取らないのだとか。

 

案の定、記者会見の真っ最中に冬眠中と思われた怪獣が目覚めるというハプニングが起き、たちまち現場には絶叫が響き渡るのだが、元々 学園都市:キヴォトスで開かれるイベントには爆弾がつきものという想定で、あらかじめ現場の指揮に入り込んでいた“シャーレの先生”アユム先生の采配によって整然とした緊急避難が実施され、被害者はゼロだった。

 

また、鋭い歯がある肉食性であることから催眠剤が混入した合成肉の塊を用意させており、それをサポートロボット:ロッピー・ザ・ロボットの頭部を分離させたドローンに吊り下げて目覚めたグビラの目先で右左と振り回すことで、相当な時間稼ぎに成功している。

 

一方、避難中に足がすくんで一人逃げ遅れ、グビラに襲われそうになってしまったカネナリ社長だったが、間一髪で現場に現れたオメガに救われ、動けなくなっていたところをコウセイに肩を貸してもらい、コウセイやアユム先生が危険を顧みずに避難誘導に必死になっている姿を見ると自身も部下の救助を手伝った。

 

その後、グビラがオメガによって撃退されると、空へと去っていくオメガに向かって笑顔で手を振りながら、部下と共にオメガへの感謝を述べた――――――。

 

結果としては【怪獣パーク】の設立は御破算となり、少なくない損害を被ったが、今回のことは決して無駄でもなく、元々はショッピングモールの建設現場であったこともあり、元通りのショッピングモールの建設の再開を決定。

 

また、【怪獣パーク】もまた設立のために得られた貴重な怪獣の研究データを活かした展示施設への変更を【SKIP】所長:アユム先生から提案され、それが新しく建てられるショッピングモールの目玉企画になるということで、引き続き【SKIP】の協力の下で現場作業が続けられることになったのである。当然、この件で的確な指示と現場対応で人的被害をゼロにした【SKIP】所長:アユム先生の名声が高まったことは言うまでもない――――――。

 

その裏で【太陽倉庫】では今回のグビラの件でアユム先生から報酬金が振り込まれるまで空腹に耐えながら、最後のバナナを仲良く分け合っていたのだった――――――。

 

 

 

 

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「じゃじゃ~ん!」

 

戒野 ミサキ「うわっ! 何これ?!」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「クマさんだよ~!」バッ ――――――クマの着ぐるみ!

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「今日はね、クマさんと一緒に寝ようね~!」ムギュッ

 

戒野 ミサキ「や、止めてよ! 大の大人が恥ずかしくないの!? 暑苦しい……!」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「え、可愛くない?」

 

戒野 ミサキ「……か、可愛いと思うけど」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「わーい! 可愛いって言ってくれた~! 私、ミサキのこと、大好き~!」ムギュッ!

 

戒野 ミサキ「だ、だから、暑苦しいってば……!」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「ミサキは可愛いですね」

 

戒野 ミサキ「か、可愛くなんか――――――」

 

 

チュッ

 

 

戒野 ミサキ「あ」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「可愛い」

 

戒野 ミサキ「い、今、何をしたの、先生?」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「ほっぺにキスしたの。あまりにもミサキが可愛かったから。ミサキが悪いんだよ」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「さあ、今日はね、あっちの部屋で寝ようね~。驚くと思うよ~」

 

戒野 ミサキ「…………勝手にしてよ、もう」

 

 

類は友を呼ぶ;両親に捨てられたことで愛欲に狂いながらもシュウおじさんによって首輪をつけられた怪物は自分と同じ波長を持つ人間を自然と見抜く能力を持っていた。

 

つまりは心的外傷(トラウマ)を抱えた仲間を察する能力があり、自身が愛されたいがために誰かを愛する時に共通点がある相手の方が深い仲になりやすいことから、石堂 アユムが好きになる人間はそういった心の闇が深い子になりやすい傾向にあった。

 

その中でも()()()()()()()()()【C&C】一之瀬 アスナと【補習授業部】浦和 ハナコは別格であり、妹分として他よりも入れ込んでいるぐらいだった。*2

 

その意味では健常者よりも自分と同じ異常者のことが同族として好きになるわけであり、一方的な憎悪と偏見で史上最悪のテロを引き起こし その最中に先生を撃ってしまったことの罪悪感に苦しみ続ける錠前 サオリや、自らが犯した過ちによってエデン条約をめぐる騒乱で情緒がグチャメチャに破壊されてしまった聖園 ミカが漂わせる負のオーラに惹かれてしまうのである。それだけに過酷な環境において精神性があまりにも図太い槌永 ヒヨリや蒼森 ミネには惹かれるものがないと言う。

 

ある意味、救済を必要としている生徒を見抜くのに最適な()()()()()の能力と言え、健全な青少年育成から道を踏み外してしまった者同士の傷の舐め合いでは非常に効果を発揮した。

 

そんなわけで行き場のない生徒たちに教育の機会と安心して取り組める教育環境を提供するべく【アミューズメントホテル ONYX(オニキス)】に 今宵 招待することになったのが【アリウススクワッド】であり、特に副リーダー:戒野 ミサキにムラムラを感じていた。

 

少なくとも、秤 アツコ救出作戦と同時に展開されたアリウス自治区解放作戦で【アリウス分校】の窮状を具に見て回ったことから、将来的にまた悪い大人に利用されることがないように保護政策を推進するように【ティーパーティー】に訴え、

 

それから、エデン条約の乗っ取りを図った史上最悪のテロの実行犯として指名手配犯となった【アリウススクワッド】には禊をしてもらった後に【アリウス分校】のまとめ役として返り咲いてもらいたい思惑から、各方面に根回しをして保護してもらうようにも訴えていた。

 

そのため、その後の【アリウススクワッド】の動向についてはかなり気を遣っており、いずれは特赦を出させるつもりで見守りつつ、今は心を鬼にしてキヴォトスの現実というものを身を以て体験してもらい、その経験を【アリウス分校】再建に役立ててもらうように将来を見据えていた。

 

今宵、グランドオープンがK-DAYのせいでできなくなった【アミューズメントホテル ONYX(オニキス)】にオーナー権限で【アリウススクワッド】を招待したのは、いずれは【アリウス分校】の生徒たちをここに招待して実用的な教育を施すためであるが、

 

思いがけず【カネナリ怪獣パーク】で再会したリーダー:錠前 サオリと逢引していたことも重なり、【アリウススクワッド】の中で特にベアトリーチェの思想に染まって一番に重症だった戒野 ミサキのことを思い出して無性に会いたくなって呼び出していたのである。公私混同というわけである。

 

もちろん、他の面々である秤 アツコと槌永 ヒヨリのことを邪険に扱うことはしないものの、本当に苦労知らずというわけではないからこそ 石堂 アユムの愛でる対象にはなってはいるが、副リーダー:戒野 ミサキが抱えるしっとりとした重みと比べたら――――――。

 

そう、秤 アツコ救出作戦をするに当たって散り散りになった【アリウススクワッド】の面々を説得する場面でまじまじと戒野 ミサキを見た時、黒いマスクと耳につけた大量のピアス、首や手首には包帯が巻かれているのが特徴の子なのに驚いた記憶があり、姉代わりの錠前 サオリの対応の必死さを見るに自傷癖があることを確信すると、()()()()()である石堂 アユムは思わず薄ら笑いをしていた。

 

そんなわけで、10年前に【アリウス分校】を支配して自分たちの実験場にして子供たちの将来を台無しにしたひとでなし共でかつ、『色彩』に対抗するために“神秘”の研究をしておきながら人間的な感情に支配されて『色彩』をキヴォトスに自ら呼び込んでしまった能無し共である【ゲマトリア】に出資させた【アミューズメントホテル ONYX(オニキス)】は開店休業状態でも運営は続けられていた。

 

むしろ、【ゲマトリア】からの出資を引き出したことで 保養施設【ONYX】の管理と“神秘”の観測に使われる ロッピー・ザ・ロボットをベースに開発したサポートロボットの実装に漕ぎ着けることに成功しており、オーナーであるアユム先生がしばらく足を運ばずとも【ONYX】の運営に支障がないように管理が行き届いていた。

 

だから、アツコとヒヨリの相手はサポートロボット:ガンピー・ザ・ロボット*3に任せつつ、自身はお気に入りの生徒である戒野 ミサキのことを全力で可愛がっていた。

 

そう、アユム先生がミサキを連れて入った別室に広がるのはぬいぐるみがいっぱいの巨大な子供部屋の光景であり、その壮観さに目の輝きをごまかせないミサキを思いっきりぬいぐるみの山に突き飛ばすと、自身もまたぬいぐるみの山に飛び込んでミサキとじゃれ合うのだった。

 

こうして可愛いぬいぐるみに囲まれてニッコニコの表情のアユム先生を横目に見ながら、ふと手にしたクマさんのぬいぐるみに静かに微笑みを浮かべるミサキにダル絡みをしてくるアユム先生――――――。

 

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「ず~る~い~! 私もクマさんのぬいぐるみみたいにミサキに後ろから抱き締められたい~!」

 

戒野 ミサキ「は、はあ? (163cm)よりも大きい先生(169cm)のことを抱き締めるって――――――?」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「じゃあ、先生がミサキの特大サイズのぬいぐるみのプレゼントになってあげる!」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「さあさあ! ほらほら! FIM-92(スティンガー)を軽々と扱えるんだから、軽いよ軽いよ~!」

 

戒野 ミサキ「え、ええ……」

 

戒野 ミサキ「あ――――――」

 

戒野 ミサキ「うん、わかった。いいよ、先生」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「わーい!」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「あ、あれ? 何か思ったよりも力が強い――――――?」ガシッ

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「あうッ」ドサッ

 

戒野 ミサキ「ほら、背中から先生のことを抱きついてあげたよ」ギュッ!

 

戒野 ミサキ「こんな風に私に乱暴にされたかったんだよね、先生?」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「み、ミサキさん?」

 

戒野 ミサキ「先生が悪いんだよ。人の気も知らないで……」

 

戒野 ミサキ「抵抗しても無駄だよ。さっき先生が言ったように、先生なんてFIM-92(スティンガー)よりも軽いんだから」

 

戒野 ミサキ「先生が言ったことなんだから、ちゃんと 責任 取ってよ……」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「うん」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「おいで」

 

――――――

 

秤 アツコ「いいな~、ミサキ。先生と一緒のベッドで気持ちよさそう」

 

ガンピー「あのベッドは地球における最高級ベッドブランド:シルキークチュールを目指したもので、赤ちゃんを優しく包み込む肌触りの良さがありますよ。そういった素材の部屋着も着てもらっているわけです」

 

槌永 ヒヨリ「つまり、あそこだと赤ちゃんの頃に戻れるわけなんですか?」

 

ガンピー「そうです。他にも人をダメにするソファなども取り揃えておりますので、極上のリラックス空間に仕上がっていますよ」

 

秤 アツコ「とか何とか言って、本当は先生が私たちにしたいことをしているだけなんじゃないの?」

 

秤 アツコ「先生も悪い大人だね」フフッ

 

槌永 ヒヨリ「え、ええええ!? もしかして、これから私も、あ、あんなふうに可愛がってもらっちゃったりするんですか?」

 

ガンピー「本日はそのような予定はございません、槌永 ヒヨリ様」

 

槌永 ヒヨリ「うえええん!」ガーン!

 

秤 アツコ「あ、見て見て。ミサキの手が先生の着ぐるみの中に入っちゃった」

 

秤 アツコ「ねえねえ、あれって先生のドコに触っているのかな? ミサキが目を見開いて動かす手が止まらない様子だよ?」ニヤニヤ

 

槌永 ヒヨリ「え、えええ? あれって、何がどうなっているのでしょうか?」

 

――――――

 

戒野 ミサキ「あ、ああ……、せ、先生……」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「あ、痛たたた。もう少し優しく」

 

戒野 ミサキ「ご、ごめんなさい。でも、手が止まらないの……」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「ええ? 本当に触ったことないの?」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「ごめんね、そんなに大きくなくて。キヴォトスのみんなと比べたら発育が悪いよね。ヒヨリちゃんぐらいあったら、もっと凄かったんだろうけど」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「でも、全てが虚しいからと言って、この指先で味わった体験のことを忘れられるかな?」

 

戒野 ミサキ「わ、忘れられるわけないよ……、こ、こんなの……」

 

戒野 ミサキ「何これ、何これ? 何これぇ?」

 

戒野 ミサキ「え、え? 何、ふざけてるの? 『大丈夫? お◯◯◯揉む?』とかさぁ?」

 

戒野 ミサキ「あ」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「ミサキの手、捕まえた」パシッ ――――――クマの着ぐるみの中で手を掴む。

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「ほら、ここが私の心臓だよ。ドックンドックン高鳴っているのがわかるよね」

 

戒野 ミサキ「うん……」ギュッ

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「ミサキ?」

 

戒野 ミサキ「あったかい。なんだか、おちつく」

 

戒野 ミサキ「どうしてなんだろう?」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「雨の音とか波の音が好きだからじゃない?」

 

戒野 ミサキ「え」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「――――――それとね」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「お母さんがね、赤ちゃんを抱く時、赤ちゃんをできるだけ心臓の位置に持っていくのは、お腹の中に居た時から聞いていたお母さんの鼓動に安心感を覚えるからなんだよ。この一定のリズムのことを朧気ながら誰もが憶えているわけだよ」

 

戒野 ミサキ「――――――『お母さん』」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「このベッドはね、赤ちゃんの肌にも優しく作られていて肌触りも最高でしょう。気持ちいいはずだよ」

 

戒野 ミサキ「うん。それに良い臭いもする」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「赤ちゃんはミルクの優しい臭いがするから。ハーブや石鹸の臭いなんかにしようと思っていたけど、思い切って赤ちゃんで統一してみた」

 

戒野 ミサキ「じゃあ、このベッドはベビーベッドってことで、ここに横たわる私は赤ちゃんってこと?」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「そうだよ。赤ちゃんのようにみんなから愛される子だよ、今のミサキは」

 

戒野 ミサキ「そ、そんなこと……」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「じゃあ、今から私の赤ちゃんになってみる?」

 

戒野 ミサキ「は、はああああああああ?!」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「これね、授乳クッションって言って、こうやって座りながら膝の上に置いて赤ちゃんの位置を調整できるマタニティグッズなんだけど、」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「膝枕の上に重ねれば――――――、ほら、ミサキは今から私の赤ちゃんでちゅよ~!」

 

戒野 ミサキ「え、えええ?!」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「あ、哺乳瓶、忘れた――――――、というのは冗談で、」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「でも、着ぐるみを着ているから直接はできないんだけど、」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「ほら、もっと近寄って。心臓の鼓動を感じて。私が生きている証拠だよ」

 

アユム先生(クマの着ぐるみ)「そして、思い出して。あなたが生まれてきた意味を。その喜びをね」

 

 

――――――想像力を解き放て。

 

 

 

迫り来る街の喧騒に俯かないで

 

そばにいてくれるキミが勇気をくれるよ

 

 

魅せて触れて抱いて

 

きっと 届く誓う叶う

 

街が目覚めるチカラに包まれる

 

 

*1
家計の消費支出に占める食料費の割合を示す指標。

計算式は「食料費 ÷ 消費支出 × 100」で、この値が高いほど、所得に占める食料費の割合が大きく、家計のゆとりが少ないことを示す。

*2
Vaillantによる防衛機制の分類

レベル1:代償(Compensation)

達成できない目標や満たされない欲求を別の形で達成可能な目標や欲求で補う。

例としては、プロスポーツ選手になれなかった人がコーチとして成功を収め、選手になれなかった自分を補うことなどが挙げられる。

更にわかりやすい例としては、親が子供に自分が果たせなかった夢を代わりに叶えさせようとすることであろう。

*3
林間学校を管理するという役割からの連想からフォレスト・ガンプ(Forrest Gump)に因んだ命名となる。

映画『フォレスト・ガンプ 一期一会』は、1994年公開のアメリカのコメディドラマ映画。監督はロバート・ゼメキス、主演はトム・ハンクス。

日本公開は1995年で、配給収入38億円のヒット作品となり、第67回アカデミー賞作品賞や第52回ゴールデングローブ賞 ドラマ部門作品賞などを受賞した。

人より知能指数は劣るが、純真な心と恵まれた身体、母への愛と、あるひとりの女性への一途な思いを持つ主人公 :フォレスト・ガンプが、心ない人からは嘲りを受けつつも、それ以上に良き心を持つ周囲の人々の協力を受けて数々の成功を収め、同時に幸福を周囲にもたらしていく半生を、1950年代-1980年代のアメリカ合衆国の歴史を交えながら描いた、笑いあり涙ありのヒューマンドラマの傑作。

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