Blue Archive -Document SKIP feat.OMEGA and...- 作:LN58
大木田 ソラト「俺たちの出番はなしか」ズルズル・・・ ――――――昼食中:焼きそば
星見 コウセイ「いやいや、すげえじゃん。人間だけで 怪獣 やっつけたんだぜ」
百合園 セイア「当然の結果だね。地底怪獣:パゴスはアユム先生が生まれた地球で観測されている怪獣。故に、その特性や生態については解析済みで、」
百合園 セイア「だからこそ、【怪特隊 特務班】抜きでの対応が許された」
黒服「地底怪獣:パゴスは地底のウラン等の放射性物質を常食したことで怪獣化したものと推測されているとのことでして、」
黒服「今回のゲヘナ自治区での出現は、そのウランに代表される放射性物質が豊富な餌場;つまりはラドン温泉を目指していたわけです」
黒服「【NDF】はアユム先生からもたらされたパゴスの情報を元に早急に対策を立案し、最初の怪獣:グライムのデータを参考に攻撃力を高めた“対怪獣試作徹甲弾”による撃破作戦が展開されたというのがここまでの流れです」
黒服「そして、計算通りにして狙い通り、パゴスの撃破に成功したというわけです」
大木田 ソラト「なあ、コウセイ、『ラドン温泉』って何だ?」
星見 コウセイ「え、『ラドン温泉』? えっと、温泉の一種なのはわかるけど、あれだ、ホルミシス効果だかなんだかで身体にいいとか……」
黒服「ソラト氏。ラドン温泉というのは、地中のウランが放射線を出しながらラジウムとなった後にできる不活性気体:ラドンが溶け込んだ温泉のことです」
黒服「コウセイ氏がいったホルミシス効果というのは、ラドンなど本来は有害物質であるそれらを微量に浴びることで細胞を刺激して活性化させ、新陳代謝の向上、免疫力の増強、抗酸化作用の促進といった有益な働きをもたらす現象のことです」
黒服「言うなれば、ワクチン投与に近いものです。生物の身体に 本来 備わっている免疫力を活性化させることで生命力を生み出させるわけで、身体に負荷を与えるという意味には免疫系の筋肉トレーニングとでも言うものでしょう」
大木田 ソラト「なるほど」
星見 コウセイ「そっか。だから、ウランを餌にしているパゴスの狙いがラドン温泉だってことになったのか。展開が早すぎて理解が追いつかなかったけど、そういうことだったのか」
黒服「そうでしょう。地底怪獣を一目で見ただけでそれが何なのか、その狙いと対策を一息にアユム先生が言い切ったわけなので、対策会議なしに即断即決でしたね」ククク・・・
星見 コウセイ「さすがアユ姉だぜ。対策可能な怪獣かどうかがわかるだけでも展開がこんなにも早い」
百合園 セイア「だが、黒服、パゴス撃破に使われた“対怪獣試作徹甲弾”なる代物について、【怪特隊】の代表である私には何の報告もなかったのだが、大丈夫なのか?」
黒服「ほう、【NDF】の出資者である私には報告が来ていたのですけどね」
黒服「では、こういうことでしょう」
黒服「作戦区域がゲヘナ自治区だったことが関係しているのでしょう。【NDF】の作戦実施の許可は自治区が管轄しているものですので」ククク・・・
百合園 セイア「ああ、なるほど。それなら【ティーパーティー】元ホストの私に情報が渡らないわけか。羽沼 マコトめ、この期に及んで情報共有を拒んでくるとは……」
大木田 ソラト「でも、何かヤな感じだ……」
百合園 セイア「――――――!」
黒服「ほう?」
星見 コウセイ「え、ソラト?」
黒服「……空中輸送が始まります」
百合園 セイア「いや、ちょっと待て! 何かおかしいぞ!?」
星見 コウセイ「え、ええ!?」
大木田 ソラト「…………!」
黒服「これはいったい……?」
百合園 セイア「ともかく、現状でわかることは唯一つ!」
――――――怪獣が活動再開! 【怪特隊】は速やかに調査と分析を行うべし!
鬼怒川 カスミ「どうやら怪獣は移動を開始したみたいだね、先生」
アユム先生「いったい何が……?」
鬼怒川 カスミ「じゃあ、防衛線を突破され次第、【温泉開発部】の総力を上げて迎撃作戦を始めようじゃないか」
アユム先生「待って、カスミ」
アユム先生「……パゴスが進路を変えている?」
鬼怒川 カスミ「……ここまで一直線で来ていたのにかい?」
アユム先生「……行動パターンが変わった? 周辺の動植物を狙う様子はない? でも、生命活動の完全停止はKモニターで観測できている?」
鬼怒川 カスミ「というより、随分とパゴスの見た目が変わっているじゃあないか」
アユム先生「――――――
アユム先生「……宇宙寄生生物:ウーズの可能性」
鬼怒川 カスミ「……『ウーズ』?」
アユム先生「あれは宿主の炭酸カルシウムを栄養源とし、宿主となる怪獣を変えながら生存する。寄生された怪獣は炭酸カルシウムを求めて鍾乳洞やビルに利用された建材を喰らうようになって、それを苗床にして無性生殖で分裂する形で無数の増殖体を産み出して周囲にばらまく」
アユム先生「でも、あれは宇宙から来た寄生生物であり、宿主が死んでいては――――――」ピッ
――――――
太平 ナダカ「先生、先生! ありゃあ、いったいどないなことでなんでしょうか、先生!? 間違いなく怪獣は確実に撃破したはずですやん!? なんで今も動いとんのや、アレ!?」
――――――
アユム先生「落ち着いて、ナダカ。まずは深呼吸よ」
アユム先生「それで聞いて。ラドン温泉を一直線に目指していたはずの対象が行動を変えた」
アユム先生「つまり、今の私たちは今のパゴスの状態がどうなっているのかを誰も知らない。まったく未知の状態よ」
アユム先生「なら、行動目的をまず探りなさい。怪獣が方向転換した先の一直線上に何かがあるはず。怪獣の飢えを満たせるほどの巨大なものがあると思って探してみて」
アユム先生「ともかく、今は時間が欲しい。観測データが不足している」
アユム先生「そうね、またウラン鉱石を鼻先にぶら下げてみて。それに引っ掛かるようなら、まだその怪獣はパゴスであると言えるし、見向きしなくなったのなら、それはもうパゴスではない別の何かに変わったということ」
アユム先生「だとするなら、パゴスを別の何かに変えてしまった原因が必ずあるわけだから、まずはあれがパゴスなのかを分析できるデータをちょうだい」
――――――
太平 ナダカ「……わかりました、先生! 早速、あれがパゴスかどうかを調べます!」
――――――
アユム先生「頼んだよ」ピッ
アユム先生「……結局、何がなんだかわからない」
鬼怒川 カスミ「要するに、パゴスは間違いなく死んでいるが、何らかの外的要因によって怪獣の死体が動き出しているというわけだな。さながら怪獣のゾンビじゃあないか」
鬼怒川 カスミ「だったら、消毒すればいいだけの話さ」
鬼怒川 カスミ「ゾンビには炎が効く!」
アユム先生「ダメ! 地底怪獣の皮膚は火炎放射器ぐらいじゃ炙った程度にしかならないから絶対に燃えない!」
アユム先生「それに死骸となった怪獣の中を寄生生物は自在に動き回れるわけだから、局所的な熱線だと仕留めきれないだけじゃなくて、かえって生存本能を刺激して成長を早めることに繋がりかねない」
アユム先生「やるなら、巨大な電子レンジの中に宿主ごと閉じ込めて逃げ場を封じた上で一気にとどめを刺さないと」
鬼怒川 カスミ「そんな大掛かりなものが今のキヴォトスにあるのかい?」
アユム先生「あるいは、寄生生物の弱点となるもの――――――、」
アユム先生「そう、寄生生物が海洋生物でないなら、海水に沈めることで脱水状態にして絶命させることもできるはず」
鬼怒川 カスミ「それならウルトラマンオメガやお供の怪獣に海に投げ込んでもらえば解決だな」
アユム先生「じゃあ、ここで待ってて。【特務班】に連絡してくるから」
鬼怒川 カスミ「ああ」
――――――
大木田 ソラト「………………」
百合園 セイア「現地の【怪特隊】のスキャン結果によると『呼吸や脈拍なし。脳波もなし』とのことだが」
黒服「要するに、今のパゴスは生物としては完全に死んでいますね」ククク・・・
星見 コウセイ「
黒服「第二形態(仮)についてわかっているところはこんなところですね」
第一形態(仮)
・地中から出現
・口部から強力な光線を発射する。D班の解析によれば熱線が直撃した部分は分子構造が完全に破壊されていた。
・最初の出現時はまっすぐ一点を目指して移動しているように見られる。
・移動中には周辺の人物や動物を襲う様子が見られた。
・この段階では全身から呼吸・心拍・脳波など一般的な生物が持つ生体反応が観測されている。
第二形態(仮)
・首元から体表全体に模様のようなものが広がり、活動を再開。NDFの新兵器が命中した位置から模様のようなものが広がっているように見える
・第一形態(仮)とはまったくちがう進路に移動。行動目標は不明
・第一形態(仮)に比べて積極的に人家や動植物を襲う様子はない。
・呼吸・心拍・脳波などの生体反応が一切観測されない。 だが、活動再開前後に体表に拡がった模様のような部分からのみ生体反応が観測されている。
|
百合園 セイア「――――――死んだ生物が動いている」
百合園 セイア「考えられる理屈は何だと思う?」
星見 コウセイ「実は『倒されているフリをした』とか?」
黒服「それはなさそうですよ、コウセイ氏。スキャンによれば、活動が見られるのは体表面に拡がった模様だけで、先程も言ったように怪獣本体に生命反応はないのです」
星見 コウセイ「ええ? だったら、何だって言うんだよ? ああ、こんな時、アユ姉だったら何て言うかな?」
星見 コウセイ「アユ姉、今【
百合園 セイア「それは致し方ない。今回の作戦区域はキヴォトス屈指の犯罪率を誇る治安最悪のゲヘナ自治区だから、どうしても周辺住民の速やかなる協力と理解を得るためには“シャーレの先生”の説得が必要不可欠だったわけだからね……」
星見 コウセイ「それはわかっているんだけど……」
大木田 ソラト「――――――
百合園 セイア「え?」
大木田 ソラト「あ、いや、
黒服「何らかの手段で別の生物が死骸を動かしている――――――」
黒服「なるほど、有り得そうですね。さすがです、ソラト氏」
黒服「実は、ロボット工学には小さな虫の死骸を操作して操る分野があるのです。ネクロボティクスと呼ばれるものです。死んだクモの脚を開閉させて小さな物を掴ませるマイクログリッパーとしての利用例が有名です」
黒服「そのネクロボティクスに近い現象が死んだはずのパゴスの身に起きている可能性があります」
星見 コウセイ「おお!」
百合園 セイア「さすがは怪獣博士だね」
大木田 ソラト「あれはすごくヤバイ感じだ」
黒服「自然界に目を向けると、ある種の寄生生物;たとえば虫や菌が自分たちの子孫を殖やすべく宿主を生きたまま操る生態が確認されています」
星見 コウセイ「じゃあ、あのパゴスは最初から寄生生物に寄生されていたのか!?」
黒服「いえ、寄生生物というものはたしかに自分たちの繁殖のために宿主を利用しますが、繁殖行動に移る前に宿主が死んでしまっては元も子もありません」
黒服「【NDF】の攻撃によって宿主であるパゴスが絶命するのは寄生生物側からすれば想定外のことであり、明らかにパゴスが絶命したところに寄生しているように思えますね、この場合」
百合園 セイア「なら、やはり、パゴスが撃破された後で傷口に寄生生物が宿ったというわけかい」
黒服「空気感染だとするなら、それ以前に似たような事象が報告されていないのはおかしいですね」
百合園 セイア「たしかに。あんなのが流行性だったら、今頃 キヴォトスはパンデミックで滅亡しているよ」
星見 コウセイ「これまで怪獣を倒しても、こういうの、なかったよな?」
大木田 ソラト「ああ。いつも だいたい……、ウルトラマンオメガが光線でやっつけてたし」
百合園 セイア「――――――『やっつけた』?」
百合園 セイア「そうか!
黒服「ほう。それはつまり――――――」
百合園 セイア「ああ。今回は【NDF】が初めて単独で怪獣を撃破した――――――」
星見 コウセイ「え、もしかして そのために用いられたものが――――――?」
百合園 セイア「今すぐに【NDF】に連絡だ! 【怪特隊】の代表として“対怪獣試作徹甲弾”の正体を知らねば!」
黒服「私も出資者として情報開示を要求しましょう」
星見 コウセイ「えっと、徹甲弾が原因ってことなんだよな?」
星見 コウセイ「…………徹甲弾が寄生生物だったってこと?」
百合園 セイア「いいかい、コウセイ。弾が当たれば一発で死んでしまう地球人のきみたちにとっては銃弾なんてみんな同じに思えるかもしれないけれど、」
百合園 セイア「銃弾にも使っちゃいけない材質や形状というものがあるんだ。たとえば ダムダム弾や鉛製弾丸なんかだね」
百合園 セイア「まさか、『怪獣を倒す』という大義名分や名誉のために法規制を掻い潜った ブラックマーケットもびっくりな 非認可品なんじゃあるまいねぇ!?」
こうして【怪特隊 特務班】が防衛チーム【NDF】が初めて怪獣を単独で撃破した要因となる“対怪獣試作徹甲弾”の詳細な情報を“黒服”が上層部に、百合園 セイアが現場に問い合わせることで、ゾンビ怪獣となって復活した変異パゴスの正体が見えてきたのである。
試作弾の核となる侵徹体には気候変動で出土した永久凍土に埋まっていた古代怪獣の牙;桁外れに硬く高密度な特性が利用されており、そこに休眠状態の太古の
しかし、永久凍土から出土した古代怪獣の発掘作業は研究目的で行われており、それを【NDF】が試作弾の作成のために現場から持ち出したのは明らかな越権行為であったが、
それを後押ししたのが【万魔殿】議長:羽沼 マコトであると知らされた【ティーパーティー】元ホスト:百合園 セイアはこれには苦虫を噛み潰した表情となった。
しっかりと【怪特隊】が監修していれば、今こうして侵徹体に休眠状態の未知の粘菌が発見できていたのだから、【NDF】と【怪特隊】の協力や連携は不十分なのは言うまでもない事実となった。
使用する前に発見できていれば粘菌の除去だってできたはずなのに、【NDF】を利用して【ゲヘナ学園】の影響力を高めようと画策した【万魔殿】議長:羽沼 マコトの欲望によって、他ならぬゲヘナ自治区がそのツケを払わされようとしていた。
アユム先生「そっか。徹甲弾の芯となる侵徹体に永久凍土の古代怪獣の牙が使われていて、それに付着していた粘菌が……」
アユム先生「粘菌は命を終えた動植物を土に返す分解者;すなわち、この
アユム先生「本物の銃器には詳しくない私にはまったく思いつかなかった着眼点だった。さすがは銃社会のキヴォトス人ね」
アユム先生「まあ、目先の利益や功を焦って初歩的な安全管理を怠って重大なトラブルを引き起こすのもキヴォトス人らしい失敗だけどね……」
アユム先生「まあ、無理もないか。永久凍土にずっと休眠できるだけの生命力があって、パゴスの身体をあっという間に侵食するだけの驚異的な繁殖力もあるわけだから」
アユム先生「まったく。この前【
アユム先生「方法は間違っていなかったけど、実行力が伴っていなかった」
アユム先生「けれども、パンケーキ・モンスターの発生と言い、永久凍土で眠っていた寄生生物の復活と言い、それもまた【ゲヘナ学園】なら、いつものことね」
アユム先生「――――――エドマフィラね」
アユム先生「じゃあ、あれはもう地底怪獣:パゴスじゃなくて、古代粘菌怪獣:エドマフィラと呼称しましょうか」
――――――
星見 コウセイ「なら、エドマフィラは怪獣を分解しているだけなんですか?」
大木田 ソラト「それはちがう。あいつをほっとくのは危険だ」
――――――
アユム先生「私もソラトさんと同意見ね」
アユム先生「そもそも、粘菌は死骸を動かしたりしない。ただ分解して取り込むだけが目的とは思えない」
――――――
星見 コウセイ「何にせよ、早く駆除した方が良さそうだ」
百合園 セイア「うん。ここで対処を誤ると永久凍土から復活した粘菌に再び地上が支配されかねない」
黒服「先生、できる限りのものをすぐにご用意いたしますが、対策としては何がありますか?」
――――――
アユム先生「粘菌は単細胞生物で切っても分裂するだけで死滅しない」
アユム先生「火には弱いはずだけど、あの図体で地底怪獣の死骸に深く潜り込んでいるとすれば、外から炙った程度じゃどうにもならない」
アユム先生「しっかりと火を通さないといけないから巨大な電子レンジに閉じ込めて脱水状態にすることが必要不可欠」
アユム先生「もしくは、同じく脱水状態にするなら海水に浸すのも手ね」
――――――
大木田 ソラト「いや、燃やすだけじゃダメだ」
黒服「たしかに。試作弾が怪獣の外殻を貫通した時の瞬間温度は1000℃を優に超えます。熱への耐性はかなり高いようです」
――――――
アユム先生「……そうなんだ」
アユム先生「ああ、ダメね。【SKIP】は怪獣の調査が専門だから、対怪獣兵器の知識はさっぱり……」
アユム先生「もっと、うまく
――――――
星見 コウセイ「それって通常兵器での攻撃じゃ打つ手がないってことじゃん!?」
星見 コウセイ「じゃあ、アユ姉が言うように海水の中にエドマフィラを投げ込んで塩水に浸けるしかないのか!?」
大木田 ソラト「いや、それもまずい――――――」
――――――
アユム先生「うん? あれってどこの班? まだ【NDF】の今後の作戦方針は決まってないはずだけど?」
――――――
星見 コウセイ「どうした、アユ姉?」
黒服「これは……」
百合園 セイア「まさか――――――」
――――――
アユム先生「いや! ちょっと待って! 今から何をする気なの!? 待ちなさい!」
アユム先生「やめなさい、マコト! エルドギメラと同じように電気ショックで死滅させることなんてできないから!」
アユム先生「なんでこういう時ばかり、無駄な行動に無駄が一切ないの!?」
アユム先生「あ、ああああああああああ!? なんてことを――――――!?」
事態は悪化の一途を辿っていた。【NDF】が【怪特隊 特務班】からの解析結果を待って可能な限りの時間稼ぎをしていた時、意気揚々と羽沼 マコト率いる【万魔殿】の機甲部隊が現場に乱入してきたのである。
防衛チーム【NDF】の作戦行動は自治区からの許可を得る必要があるのだが、ここはゲヘナ自治区であり、ゲヘナ自治区を支配している生徒会【万魔殿】ならば どこの許可をとることもなく 作戦行動に移ることができていたのである。
どうやら、【NDF】に作戦実行を許可した【万魔殿】羽沼 マコトではあったが、予定とはまったくちがう苦戦ぶりに作戦実行の許可を出した自分の沽券に関わると思ったのか、はたまた【NDF】が倒し損ねた怪獣を倒すことで【万魔殿】の威光を高めようとしたのか、あるいは これ以上 自分の
何にせよ、【NDF】の作戦行動は自治区を司る自治体の政治的判断に左右されるため、突然の作戦区域への乱入に対しては何もすることができなかったのである。
そこからウルトラマンオメガを一度は倒した強豪怪獣:エルドギメラの体細胞を破壊した実績を持つ対怪獣アンカーを用意してきて“対怪獣試作徹甲弾”が直撃した場所めがけて アユム先生が制止する間もなく打ち込んでしまったのである。
結果、感電したことによってエドマフィラの増殖が促進され、それによって強化形態へと進化し、その余波で侵食された対怪獣アンカーを放棄する羽目となったのである。本当に余計なことをしてくれたものだ。
この明らかな【万魔殿】議長:羽沼 マコトの失策だったが、そもそもとして【NDF】が【怪特隊】に無断で“対怪獣試作徹甲弾”なる代物を開発して撃ち込んだのが原因だと発覚すれば、逆に嬉々として【NDF】の失態を糾弾してくることはエデン条約調印式における【アリウス分校】のテロ事件の後処理からもわかっているため、今は言い争っている場合ではない。
そして、電気エネルギーを浴びて強化形態となった古代粘菌怪獣:エドマフィラが向かう先にあるのは、最初の怪獣:グライムの死骸が保管されている【怪特隊】の研究所だったのである。
実に厄介な話である。爆進細胞怪獣:エルドギメラは他の怪獣を捕食・吸収することで際限なく自己強化されていくわけで、それを阻止するために他の怪獣を援護することが必要とされているが、古代粘菌怪獣:エドマフィラはそれとは逆に怪獣の死骸の処理を速やかに行わないと次から次へとゾンビとして蘇らせていくのである。
エドマフィラとしては粘菌であるが故に自己増殖のために苗床となる怪獣を求めて動いているに過ぎないのだが、存在するだけでも街や郷土が荒れ果てることになる怪獣が際限なく蘇るとなると、人類としては決して看過できない脅威として許されざる存在となる。
実際、その脅威はウルトラマンオメガ/大木田 ソラトがずっとザワザワするほどであり、【怪特隊 特務班】を二手に分けて 問題となった試作弾に使われた古代怪獣の牙が採取された永久凍土の調査に“黒服”が向かうのに自分から同行するぐらいであった。
こうして、エドマフィラがパゴスに続いてグライムまで苗床にしてゾンビ怪獣の軍団を作り出すかどうかの ゲヘナ自治区で存亡を賭けた壮絶なる攻防戦が開幕となったのである。
すでに“シャーレの先生”として【NDF】の作戦行動を周辺住民に理解させるために現地に赴いて【怪特隊】の指揮を執って【NDF】と連携していたアユム先生と合流できた星見 コウセイと百合園 セイアは、【NDF】による液体窒素による足止めの様子を目撃することとなる。
もちろん、巨体を誇る怪獣相手に即効性は期待できない。順次 液体窒素タンクを爆破して時間稼ぎに徹するしかないという エルドギメラ戦を思い出させる 神経を擦り減らすような絶望的な状況であった。
それでも、“キヴォトスを救った英雄”石堂 アユムが精神的支柱となり、【SRT特殊学園】を復活させる大望を抱いて現場の指揮を執る【NDF】隊長:太平 ナダカの統率力によって、現場の士気は非常に高い。
それを見ていた怪獣使い:星見 コウセイ自身も段々と戦意が高まっているのを感じ、いつでもメテオカイジュウで対応できるようにタイミングを見計らうのであった。
一方、肝腎のグライムの輸送については、ワイヤー固定ができても輸送車両がまだであった。また、輸送したところでエドマフィラが追跡してくるため、それも根本的な解決にはなっていないわけである。
そのため、さすがはアユム先生や数多くのSRT生が隊長に推薦するほどに人望が厚い【NDF】隊長:太平 ナダカの判断は迅速であった。【怪特隊】に避難命令を下したのである。
というのも、【NDF】上層部は今回の怪獣災害の原因となった“対怪獣試作徹甲弾”の再使用による撃破を言い出しており、元から怪獣の知識が不足している上に粘菌に対する理解も足りていないため、そんなものがエドマフィラに通用するはずもないのに それしかないと机上の空論を振りかざして 完全に冷静な判断能力を失っているようなのだ。
おそらく、【NDF】の作戦行動に介入してエドマフィラを強化させてしまった張本人である【万魔殿】議長:羽沼 マコトと責任の擦り付け合いをしているうちに、売り言葉に買い言葉でそうなってしまったのだろう。
だが、それ以外に打つ手なしなのはたしかであり、もはや時間稼ぎが精一杯という苦肉の策で、現状で最高の威力を持つ“対怪獣試作徹甲弾”の再使用に飛びついた心理状況には一応の理解を示さざるを得ない。
まだまだ【NDF】も【怪特隊】も発足したばかりで、“SKIPのおねえさん”である地球人:石堂 アユム以外の誰もがド素人でしかない発達途上なのだから、何もかもが経験不足で対応が上手くいかないのも当然と言えば当然なのだ。K-DAYを迎えてしまって、とんだ貧乏くじを引かされたものである。
けれども、中間管理職の難しい立場であっても現場で作戦指揮を執る【NDF】隊長:太平 ナダカは可能な限り“対怪獣試作徹甲弾”の再使用を踏みとどまるように上層部に進言してくれたのである。
だからこそ、男なら燃え上がるものがある――――――。
アユ姉。
俺さ、『やるべきことはやる』って太平さんの言葉、グッときた。
だから、俺も 俺のやるべきことをやる!
無茶はしないで。
わかってる。
アユ姉も、黒服さんへの連絡を任せた。
アユム先生「コウセイくん……」
百合園 セイア「正直なところ、レキネスで勝てる見込みはあるのかい?」
アユム先生「残念だけど、万に一つ無い。相手は繁殖力が異常な粘菌で、動かしている怪獣はもう死んでいるから殺せない。殺せないから倒せない。倒せないから勝てない」
アユム先生「そして、その全てを一度に死滅させない限りはいくら攻撃しても復活してしまう……」
百合園 セイア「なら、ここは北極あたりまで一飛びさせてエドマフィラを沈めてくるしかないじゃないか」
アユム先生「それは問題の先送りにしかならない。キヴォトスでも温暖化で北極の氷が溶けているわけだから、近いうちに必ず復活してしまう」
アユム先生「だから、理想としては巨大な電子レンジなんだけど、いったいどれだけの電力が必要になるのやら……」
アユム先生「ともかく、今は状況を報告しないと」ピッ
アユム先生「エドマフィラが研究所に到達! レキネスが防衛していますが、決定打に欠けて、苦戦しています!」
――――――
大木田 ソラト「コウセイ……」
大木田 ソラト「くっ」ダダッ!
黒服「ソラト氏……」
ザッザッザッ・・・
大木田 ソラト「よし」
大木田 ソラト「ん」
大木田 ソラト「え」
――――――見つめた先には、自分を見つめ返す“大木田 ソラト”がいた!
大木田 ソラト’「――――――」
大木田 ソラト「………………」
大木田 ソラト’「――――――」
大木田 ソラト「……………」
――――――しかし、遠くから自分を呼ぶ声に気づいた時、“大木田 ソラト”は姿を消していた。
ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンン!
黒服「光の巨人。まさに“崇高”――――――」
黒服「そうか。そういうことですか」
黒服「解決には風と空です」
黒服「コウセイ氏、応答してください! コウセイ氏!」
――――――
星見 コウセイ「あぅ……」ピッ ――――――エドマフィラに圧されて這い蹲る!
――――――
黒服「いいですか、コウセイ氏。エドマフィラを倒すには液体窒素だけじゃ足りないのです」
黒服「風です。自然現象を操作するのです。微生物にとって乾燥が一番の敵なんです」
黒服「キノコは暗くてジメジメした場所に生えます。なら、通気性がいい場所なら――――――」
――――――
星見 コウセイ「わ、わかったぁ!」ヨロッ
星見 コウセイ「ぐぅううう……!」ググッ!
太平 ナダカ「オメガはエドマフィラをどこへ?」
アユム先生「あらゆる水分が奪われ、全てが凍りつく場所よ」
アユム先生「だから、宇宙を選んだ」
人類の総力を上げてもエドマフィラを殺すことは出来ない。
しかし、あらゆる生命を育んできた
その結果、エドマフィラはヴァルジェネスハルバードハリケーンで大気圏外に追放されることになったのだ。
エドマフィラは二度と
そして、永久凍土でも休眠状態できる生命力から死にたいと思っても死ねないので、
そのうち、水分を失い 凍り始めても なお生き残ろうと全身から多数の粘菌を触手状に伸ばしたところで エドマフィラは考えるのをやめた。
太平 ナダカ「エドマフィラの発生源となった研究中の試作徹甲弾は全て解体……」
太平 ナダカ「発掘された古代怪獣の牙や骨も厳重な封印が義務付けられています……」
太平 ナダカ「自分たちは人間だけで怪獣に対抗できる術を求めた……」
太平 ナダカ「ですが、その結果、自ら怪獣を生み出してしまいました……」
アユム先生「いいよ いいよ。まずはその日を生き延びることができたことに感謝して、次からはこんなことにはならないようにしっかりと教訓を得たのなら、怪獣初心者であるキヴォトス人のみんなにはこれ以上の無理はさせないよ」
アユム先生「それに、人間が自分の手で自らを守ろうと努力することは間違いじゃない」
アユム先生「むしろ、それは生命の義務だから。そこに善悪なんてない。エドマフィラも 一生懸命 生きようとしただけ」
アユム先生「だからこそ、負けるわけにはいかないわけ。人間が地上の支配者として文明を維持・発展していくのなら、それにふさわしく強くあらねばならない」
アユム先生「これからも太平 ナダカは【NDF】の隊長として【怪特隊】を、学園都市:キヴォトスを、私やみんなを助けてくれる?」
アユム先生「私は太平 ナダカがいい」
太平 ナダカ「もちろんです! 先生が導いてくれているからこそ、私は隊長でいられます! 【SRT特殊学園】を再興するためにも、ぜひこれからも!」
アユム先生「うん」
太平 ナダカ「では、先生、また」
アユム先生「またね」
アユム先生「さて、コウセイくんには無理をさせちゃったね」
アユム先生「ごめんね、私が不甲斐ないばかりに。パゴスを倒して それで終わりだと思っていたのに、油断大敵だった……」
星見 コウセイ「いや、むしろ、光栄というか、これからはじゃんじゃん俺を使ってください、アユ姉! いや、アユム先生!」
アユム先生「いや、ダメだから。むしろ、逆だよ」
アユム先生「あの力は最後の頼みの綱。軽はずみに使っちゃならないから」
星見 コウセイ「え、どうしてだよ、アユ姉?」
アユム先生「
アユム先生「でないと、成長の機会を奪っちゃうから。そうなったら、いつになってもソラトさんやコウセイくんの力がないと何もできないまま」
アユム先生「だから、今回の【NDF】の失態も教訓としてしっかり残して大目に見てあげないとなんだ」
アユム先生「失敗を恐れちゃいけない。挑戦する心を忘れた時から未来は閉ざされるんだよ」
アユム先生「そういうわけだから、【NDF】のモットーは『試行錯誤』『臥薪嘗胆』なわけ。今は自分たちの力不足で忍耐の時だけれども、必ずや立派に成長して一人前になることを誓ってね」
アユム先生「コウセイくんだって大きな失敗を経験したからこそ得るものがあったはずだよ」
星見 コウセイ「ああ、たしかに……」
アユム先生「あ、でも、勘違いしないでね。ソラトさんとコウセイくんの力が不要になったわけじゃないから」
アユム先生「必要だと思ったら、みんなのことを助けてあげて」
アユム先生「その一点において、全ての行動が信頼されるわけだからね」
星見 コウセイ「わかったよ、アユ姉」
大木田 ソラト「…………『
大木田 ソラト「うん」
大木田 ソラト「だから、俺もみんなと頑張る」
アユム先生「お、ソラトさんもわかってくれたみたいだし、」
アユム先生「今日はね、【NDF】のお偉方と【万魔殿】から迷惑料をせしめたから、豪勢に行こうか!」
星見 コウセイ「いええええええええい!」
大木田 ソラト「やったああああああああ!」
大木田 ソラト「あ」
――――――思い返すのは、自分を見つめ返す“大木田 ソラト”の姿であった!
大木田 ソラト「………………」
星見 コウセイ「どうした、ソラト?」
アユム先生「ソラトさん?」
大木田 ソラト「あ、大丈夫。たぶん、気のせい」
アユム先生「……ソラトさんの勘って当たるから、少し怖いんだけど」
星見 コウセイ「いや、大丈夫だって。今日も手強い怪獣だったけど、エルドギメラやゾヴァラスを倒すことができた俺たちなら、これからだって!」
アユム先生「うん」
大木田 ソラト「ああ」
アユム先生「これからもよろしくね!」
――――――3人でグータッチ!
その後、ゲヘナ自治区のある一角を貸し切って 今回のエドマフィラ戦で【NDF】上層部や【万魔殿】に振り回された面々を集めて 鬱憤晴らしの戦勝パーティーが執り行われることになり、大盛り上がりとなった。
幹事をまさかのキヴォトス最悪のテロリストグループ【美食研究会】会長:黒舘 ハルナに任命して戦勝パーティーの準備を行わせた結果、元々の【美食研究会】の本領である美食の情報発信を実践することになり、
キヴォトス最悪のテロリストでさえも“シャーレの先生”の手にかかれば一流のフードプロデューサーとなって、怪獣災害に巻き込まれた人たちや怪獣退治に駆り出された生徒たちの疲れを美食でふっとばす最高の夜となっていた。
もちろん、参加者のほとんどが【ゲヘナ学園】の生徒たちなので味付けや盛り付けは育ち盛りの女子生徒に合わせたものばかりとなるのだが、
“シャーレの先生”“SKIPのおねえさん”“怪特隊の母”でもある みんなのアユム先生が オメガダンスでいつも一緒に踊っている印象が強い 大人の男性2人を伴って来るということで、そこも抜かりがなく、成人男性向けのメニューも用意して歓迎の準備を済ませていたのである。
そんなわけで、いつものように各テーブルの生徒たちにアユム先生がグラスを持って一人一人の生徒とグラスを合わせて挨拶して回る一方、
キヴォトス最悪の治安の悪さを誇るゲヘナ自治区にあって一発の銃弾が致命傷となる大木田 ソラトと星見 コウセイの席の間には
ちゃっかり【万魔殿】戦車長:棗 イロハ、【風紀委員会】行政官:天雨 アコ、【便利屋68】課長:鬼方 カヨコが同じテーブルに着くという近寄り難い空間が形成されていたのだった。
しかし、そこに
そこにテーブルを回ってきたアユム先生がグラスを持ってやってくると、『今回の怪獣災害はお上の命令で大変な目に遭ったねぇ』と今夜の戦勝パーティーの趣旨である鬱憤晴らしを促す言葉が投げかけられ、それに呼応して【
そうすると、同じテーブルに居る相手に対する日頃からの不満をぶちまけることになって飛び火することがあるのだが、そこはキヴォトス中で問題解決に奔走してきた“シャーレの先生”であり、決死の覚悟で培われたモデレーターとしての調停能力と会話能力によってパーティーが台無しにされることなく穏便に不平不満の爆弾解除がなされていく。
そして、『うんうん。そうだね』と頷きながら『本当に大変だったね』と労いの言葉をかけて『それはどうして?』と理解しようと努めることで、同じテーブルに着いている全員にも話の内容が共有されることになり、それぞれの立場の苦労や努力がわかるように生徒たちを戦勝パーティーでもてなしながら実践的な指導をしていたのである。
つまり、わざわざ大木田 ソラトと星見 コウセイが今回の怪獣災害の当事者たちをひとまとめにしたテーブル席に案内されたのは、キヴォトス屈指の犯罪率を誇る危険地帯として恐れられている【ゲヘナ学園】ひいてはゲヘナ自治区に住む人たちの生の声を聞くと同時に、その生の声を引き出すための冷静さを保たせる装置としてアユム先生に求められていたのだった。
何もしていないようで そこに存在するだけで、常に気怠げなサボり魔の棗 イロハも、普段からの激務もあって性格がキツくなりがちな天雨 アコも、強面のために人から怖がられて冷めた物言いになる鬼方 カヨコも、尊敬するアユム先生の“友達”ということで感情的な対応を控えることになったのだから。
また、時折 第三者の意見として記憶喪失の正直者の声として大木田 ソラト、善良な地球人としての正直な声として星見 コウセイに対してどう思うかをアユム先生が問いを投げかけ、それに対して率直な声やまじめな意見を間に差し挟まれることで適度な緊張と刺激がもたらされてもいた。
そのおかげで、それぞれの立場の苦労や努力を互いに理解し合うことになり、それで『あなたもわたしも大変苦労したね。だから、今回のことを互いに労って一緒にパーティーを楽しもう』ということで、和やかな雰囲気で会食を楽しむことになったのである。
不満をぶちまけていく過程で眉間にシワが寄り、目に力が入り、声に迫力がみなぎるぐらいに険悪な雰囲気になりつつあったのが嘘みたいに盛り上がることになり、
運ばれてきた料理を記憶喪失の正直者である大木田 ソラトの掛け声と共に『イエーイ!』と声を上げて、善良な地球人としての正直な声を上げる星見 コウセイの『美味ーい!』の叫びに釣られて喝采するのだ。イロハも、アコも、カヨコも、緊張が解れて自然な笑顔で美味しい料理を食べて楽しい時間を過ごすことができたのだった。
そんな中、頃合いを見てアユム先生はそのテーブルにあるものをウェイトレス姿の愛嬌たっぷりの笑顔を見せる牛牧 ジュリに運ばせた。
その瞬間、天雨 アコの目がギョッと見開かれることになり、当然ながら それ以外の全員が笑顔が可愛らしいウェイトレスが運んでくるのにはあまりにも異様としか言いようがないパンケーキの形をした何かに眉を顰めることになり、
特に、つい先日 そのパンケーキの怪物によって意識不明に追い込まれた天雨 アコは思わず叫びそうになったのをすかさずアユム先生が背後から抱きしめることで無理やり落ち着かせることで、
テーブルの中央に置かれた 緑色の液体を垂れ流して吸盤の付いたタコ足のような触手を生やした神話生物めいた姿の紫色のパンケーキの皿を注目する 正気を疑う静寂に包まれた。
すると、巷で怪獣研究家として知られるようになった大木田 ソラトがじっくりとパンケーキの怪物を見定めた。オメガスコープ。
なぜこの場に大木田 ソラトを連れてきたのか――――――、【怪特隊 特務班】にも情報共有されていたパンケーキ・モンスターの正体が何なのかを探らせようというアユム先生の意図を星見 コウセイは感じ取っていた。
そして、アユム先生に牛牧ジュリが調理すると必ず生み出してしまうパンちゃんの正体に対する見解が述べられると、アユム先生はKモニターにアタッチメントを装填してパンケーキ・モンスターにスタンガンを射出して迅速に処分するのであった。
最後はフードプロデューサー:黒舘 ハルナが壇上の席でメインシェフ:愛清 フウカを称えるべく、アユム先生が膝の上に乗せたフウカをいつものように愛でながらあーんさせて食べさせることになり、嫉妬したハルナにもあーんしてあげる特大サービスで締めくくられたのであった。
ふと思う。氷河期によって休眠していた古代粘菌:エドマフィラが現代に蘇って儚く宇宙の彼方に消え去ったのは、今 膝の上に乗って私を温めてくれているフウカのよう――――――。
そう、それは風花;晴れの日に雪が風に舞う――――――。
それは積雪が風によって飛ばされてきたことで見ることができるものであり、永久凍土から徹甲弾に詰められてパゴスの身体を乗っ取って駆け回った日は風花のごとく。
黒服「パゴス撃破に利用された永久凍土で発掘された古代怪獣の牙に付着していた古代粘菌:エドマフィラが怪獣を蘇らせるような事例が確認された以上、牛牧 ジュリの神秘が生み出すパンケーキの怪物のことを訊ねずにはいられませんでしか、先生」クククッ・・・
アユム先生「ソラトさんでもはっきりしたことが言えないとなると、やっぱり、黒服くんが言うように“そういう神秘”としか言いようがなかったみたい」
黒服「でしょうね。他人がレシピ本通りに作った料理を軽くかき混ぜたり、最後の飾りつけのサクランボを乗せたりしただけで、たちまち料理がパンケーキ・モンスターに変貌してしまうのは“そういうこと”でしかありえないわけです」
黒服「そして、パンケーキ・モンスターは発見される毎に多様な進化を遂げており、生みの親である牛牧 ジュリに対しては友好的であることに注目して、対怪獣兵器に利用できないかと研究をしていましたが……」
アユム先生「エドマフィラなんて怪物が1,000万年前に猛威を振るっていただなんて知ったら、
黒服「しかし、エドマフィラの存在とその脅威をソラト氏ははっきりと憶えていたのです」
黒服「推定1,000万年前に
黒服「ソラト氏は『それに関する記録を見た』と認識していましたが、では“その記録”とは何でしょうか?」
アユム先生「この学園都市:キヴォトスには現代科学の水準を凌駕する文明の痕跡がいくつも残っている……」
アユム先生「けど、少なくともキヴォトス最古の歴史を誇るとされる【アビドス高等学校】も、エドマフィラが休眠状態となる氷河期の以前の時代に存在しているはずもない……」
黒服「そうですね。それと比べたら、現在のキヴォトスを形作る 太古の神秘が誕生した帝国の時代でさえも 1万年前に届かない最近のことです」
アユム先生「となれば、ソラトさん――――――、オメガの故郷にそういった記録があると見るべきよね?」
アユム先生「ある意味、黒服くんたちとは同業の方になるのかしらね?」
黒服「ええ。
黒服「もしも私の推測が正しければ、「ソラ」から落ちてきた宇宙人:オメガの正体と目的はおそらくは――――――」
黒服「………………」
アユム先生「やっぱり、黒服くんもそう考えたわけね」
黒服「はい」
黒服「ですので、アユム先生、私たちは急がなければならないのです」
アユム先生「うん。本当に急がなくちゃならない。防衛体制を間に合わせないと」
アユム先生「それが“連邦生徒会長”が私を
――――――2つの意味での“目覚めの刻”が来るまでに!