Blue Archive -Document SKIP feat.OMEGA and...-   作:LN58

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第19話 星の光を追いかけて ~遺された未来のためのエクレシア~

 

全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ。

vanitas_vanitatum_et_omnia_vanitas. 

 

 

たとえ、世界があなたを拒んでも……

 

私とアリウスは、あなたを見捨てません。

 

 

おかえりなさい。

 

私たちの――アリウスへ。

 

 

エデン条約の騒乱において歴史の影から復活を果たした【アリウス分校】は結果として10年前の内戦に乗じて支配者として君臨することになった【ゲマトリア】ベアトリーチェが大切な仲間を奪還するために反旗を翻した【アリウススクワッド】と手を組んだ“シャーレの先生”に敗走し、

 

更に【ユスティナ聖徒会】を複製したミメシスの軍勢を単身で抑え込む役目を担った自校の生徒と先生の救出、およびアリウス自治区の解放を目標とする【トリニティ総合学園】による『アリウス修復作戦』によって一時的に統治下に置かれることとなった。

 

しかし、空が赤く染まったキヴォトス滅亡の危機に挑む【<アトラ・ハシースの箱舟>占領戦】の前哨戦となる【虚妄のサンクトゥム攻略戦】における決戦の舞台の一つとなった後は完全に引き上げることになり、

 

こうしてベアトリーチェの支配から解放されることにはなったものの、再び【アリウス分校】は捨て置かれることとなったのである。

 

その後、【トリニティ】が完全撤退した後のアリウス自治区は【アリウススクワッド】リーダー:錠前 サオリに並ぶ生徒たちの顔役だった梯 スバルが暫定的なリーダーとして後に【ニコメディアトゥループ】となる暫定自治組織を結成して残留した者たちをまとめていた。

 

そして、エデン条約の騒乱により権威が失墜していながらも引き続き【ティーパーティー】ホストを務める桐藤 ナギサは【アリウス分校】を弾圧した【トリニティ総合学園】の負の歴史と向き合うため、

 

奇しくも“トリニティの裏切り者”聖園 ミカと同様に内密で使者を派遣して接触を図るものの、この時はまだ組織の名前がなかった【ニコメディアトゥループ】梯 スバルらは拒絶し、【救護騎士団】が"名もなき奉仕活動部"として動かざるを得ない結果となったため、

 

かつて【アリウススクワッド】からスパイとして送り込まれた【補習授業部】白洲 アズサと同様、希望した生徒のみを迎え入れて【トリニティ総合学園】に転入させるに留まっていた。

 

良くも悪くも“トリニティの裏切り者”聖園 ミカが【トリニティ総合学園】と【アリウス分校】の融和の道を切り拓き、【トリニティ】へ編入した元アリウス生徒たちは 白洲 アズサの時と同じ“田舎からやってきた転校生”というカバーストーリーで身分を隠された。

 

そうして苛烈な支配者:ベアトリーチェが姿を消し、外の世界への繋がりを得たアリウス自治区には以前ほどの殺伐さは鳴りを潜め、これまで歴史の影に埋もれていた閉ざされた環境からの激変に戸惑いつつも新たな歴史の出発点を迎えていたのである。

 

 

しかし、解放と称して 無理矢理 抉じ開けられた閉鎖的な環境にもたらされた世間の風は社会の洗礼となって 時代に取り残された子供たちに これまで味わったことのない 痛みと混乱をもたらした。

 

 

キヴォトスで一二を争う人口の【ゲヘナ学園】とそのライバル校【トリニティ総合学園】の間で結ばれるはずだった平和条約:エデン条約の調印式を襲撃した大規模テロを敢行した犯罪集団であることは記憶に新しく、

 

当然ながら【連邦生徒会】にも登録がないために“自称”でしかない【アリウス分校】に属するアリウス生に対する世間の風当たりは強く、何の後ろ盾も先立つものもないまま犯罪天国(ゴッサムシティ)である学園都市:キヴォトスで独り立ちして生きていくことは無謀でしかなった。

 

そして、大人が子供を搾取する社会構造はアリウス自治区だけに留まったベアトリーチェの支配よりも巧妙かつ悪意に満ちたものであり、世間知らずで何も知らない 多少の戦闘術が仕込まれた 使い勝手のいいアリウス生は言葉巧みに汚れ仕事に就かされ、外の世界の華やかさを知ったことで自分たちの境遇がいかにひどいものなのかを思い知ったアリウス生たちを真の虚無(vanitas)へと叩き落していた。

 

そうして、自分たちの居場所はたとえ何もなくとも住み慣れたアリウス自治区にしかないと逃げ帰ってきた同胞たちを優しく迎えることを何度も経験した【ニコメディアトゥループ】梯 スバルは外の世界には苦しみしかないと失望し、今までの歴史のように【アリウス分校】は外の世界との繋がりを完全に断ち切って隔絶した環境を取り戻そうと決心するのも無理はない。

 

しかし、曲がりなりにも【アリウス分校】を10年も統治した手腕を持つベアトリーチェがいなくなったことで すでに【アリウス分校】の運営が立ち行かなくなっており、梯 スバル自身もアリウス自治区に残り続ける同胞たちを養うために 自ら外の世界に働きに出て 非合法の傭兵バイトに身を窶す他なくなっていたのである。

 

このため、引くも地獄 進むも地獄の状況にジリジリ追い込まれて疲弊した【ニコメディアトゥループ】梯 スバルは やがて【アリウス分校】における禁足地:ポルタパシス(平和の門)に秘蔵された記録保管庫の古代の知識を得たことにより、アリウス自治区に根付いた 忌まわしき伝承“黙示録の天使”における7番目の天使へと変容を遂げようとしていた――――――。

 

 

アリウス生「あの、ソラトさん? これはどちらに――――――?」

 

大木田 ソラト「えっと、それはこっち。それで、あれはそっち」

 

アリウス生「わかりました」

 

大木田 ソラト「あ、なんだか美味しそうなにおいがしてきたぞ、みんな」

 

星見 コウセイ「みんなー、唐揚げだぞー!」

 

アリウス生「わーい!」

 

大木田 ソラト「よし! お昼にしよう!」

 

アリウス生「はーい!」

 

アユム先生「ありがとね、コウセイくん。本当に大助かりだよ」

 

星見 コウセイ「俺は別に。オーナーが“シャーレの先生”が開設した社会復帰支援指導プログラムに賛同して、悪い大人に利用されてきた子供たちを受け入れるんだったら、俺はそれに協力するだけだよ」

 

星見 コウセイ「それに、こうして【太陽倉庫】がまた賑やかになるのも悪くないし」

 

星見 コウセイ「まあ、俺も自分探しを続けてバイトを転々としてきたことだし、『職場体験をさせる』っていうのはナイスアイデアだと思う、アユ姉」

 

アユム先生「【トリニティ総合学園】が創設される際に迫害によって歴史の闇に葬られた【アリウス分校】が歴史の表舞台に再び現れたのが、エデン条約調印式を襲撃した大規模テロってわけだから、キヴォトス三大学園に数えられる【トリニティ総合学園】にテロを行った罪状はどこまでもついて回る――――――」

 

アユム先生「だから、アリウス生と知れば、善良な市民は恐れ慄いて追い払い、悪い大人は使い勝手のいい鉄砲玉にしようと近づいてくるわけで、」

 

アユム先生「放っておいたら、“連邦生徒会長”不在で閉校になって各地で抗議活動を行った【SRT特殊学園】の生徒たちと同じことになるんだよね」

 

アユム先生「そんなわけで、これから新しく学園都市:キヴォトスの一員となるべく【アリウス分校】の再出発のためのいろんな支援の準備をね、“シャーレの先生”として【ティーパーティー】と協力して行ってきているんだけど、なかなか受け入れてもらえなくてね……」

 

星見 コウセイ「でも、このまま手を拱いて支援を受け取ってもらわないと、冬になったら――――――」

 

アユム先生「そう。このまま冬を迎えてしまったら凍死者や餓死者が出て、やがては生存圏を求めて暴徒化する可能性があるわけだから、そろそろ決断をしてもらわないといけない……」

 

 

秤 アツコ「あ、待って、みんな。少しだけ その山盛りの唐揚げを使わせて」

 

 

大木田 ソラト「どうしたんだ、アツコ?」

 

星見 コウセイ「お、何だ 何だ?」

 

アユム先生「何をしようとしているのかな、アツコ?」

 

秤 アツコ「見てて、先生、みんな」

 

秤 アツコ「こうやってね、怪獣ジオラマの背景にコウセイさんが作った唐揚げを置くとね」コトッ ――――――背景に山盛りの唐揚げを置く。

 

アリウス生「おお!」

 

星見 コウセイ「俺の作った唐揚げが爆発しているように見える!」 

 

大木田 ソラト「よく考えたな!」

 

秤 アツコ「アユム先生の故郷の地球に創られた『ウルトラマンと防災未来センター』にある怪獣ジオラマを私なりに作ってみたんだ」

 

秤 アツコ「先生がよく言っているよね」

 

 

――――――想像力を解き放て!

 

 

秤 アツコ「ってね」

 

秤 アツコ「世の中、AIで動画をつくることができるみたいだけど、AIは既存のものを組み合わせるだけで『真の意味で新しいものは創れない』って聞いたから」

 

アユム先生「うん。そうだよ、アツコ。想像力とはつまりは創造力というわけだから。AI任せで未来は掴み取れない」

 

アユム先生「でも、どうして、アツコ、怪獣ジオラマなんて創ろうと思うようになったの?」

 

星見 コウセイ「そうだよな。そいつ、何だったっけ、メガロヴァ――――――」

 

秤 アツコ「超絶無限空前絶後怪獣:メガロヴァニオン」

 

星見 コウセイ「そうだった。で、そのメガロヴァニオンなんてオリジナルの怪獣を作ったんだ?」

 

秤 アツコ「うーん。これは私なりの所信表明みたいなものかな」

 

星見 コウセイ「――――――『所信表明』?」

 

秤 アツコ「うん。アユム先生に救われるまで、私たち【アリウス】は『世界に希望なんてない。あるのは虚無(vanitas)だけ』だと悪い大人(ベアトリーチェ)に教え込まれていた」

 

アユム先生「……そうだね」

 

秤 アツコ「憶えている、先生?」

 

 

――――――私たちが初めて出会った最悪の日のこと。

 

 

 

 

アズサちゃんが人殺しになるのは嫌です。

 

そんな暗くて憂鬱なお話、私は嫌なんです。

 

それが真実だって、この世界の本質だって言われても、私は好きじゃないんです!

 

私には、好きなものがあります!

 

平凡で、大した個性もない私ですが……自分が好きなものについては、絶対に譲れません!

 

友情で苦難を乗り越え

 

努力がきちんと報われて

 

辛いことは慰めて、お友達と慰め合って……!

 

苦しいことがあっても……誰もが最後は、笑顔になれるような!

 

そんなハッピーエンドが私は好きなんです!!

 

誰が何と言おうとも、何度だって言い続けてみせます!

 

私たちの描くお話は、私たちが決めるんです!

 

終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです!

 

私たちの物語……

 

私たちの、青春の物語(Blue Archive)を!!

 

 

 

 

秤 アツコ「アズサの一番の親友になった子が あの時 叫んだ『ブルーアーカイブ宣言』みたいなものが、これから普通の生徒(人間)らしく生きるためには必要なんだって思って」

 

秤 アツコ「だから、サッちゃんと別れてから たまたま手に取ったカメラを使ってできることがないかを――――――」

 

秤 アツコ「そして、【アリウススクワッド】のみんなが一緒の私たちの青春の物語を形作るために――――――」

 

 

――――――“トクサツんでもなく ろうする いこうの くりもの”を創っていこうって決めたんだ。

 

 

アユム先生「いい! いいよ、アツコ! スゴクいい!」

 

大木田 ソラト「俺もいいと思う、トクサツ。なあ、コウセイ」

 

星見 コウセイ「ああ! スゴイぞ、アツコ!」

 

秤 アツコ「でしょう」

 

秤 アツコ「こうやって怪獣ジオラマを創ろうと思ったのも、【アリウス】を再開発しようとした時の未来像として想像しやすいように3D都市モデルを模型化したものを先生に譲ってもらったからだしね」

 

アユム先生「うんうん。3Dマップの作成に協力してくれてありがとね。地理や地形の基礎データが集まっていないと検討のしようがないから」

 

星見 コウセイ「へえ、これがアリウス自治区の模型なんだ」

 

秤 アツコ「そうだよ。トリニティ自治区にある“カタコンベ(地下墓地)”の巨大迷宮を越えた先にある場所で、元々は“ニコメディア”って呼ばれていた秘境だったんだ」

 

大木田 ソラト「じゃあ、【アリウス分校】って本当は【ニコメディア分校】なんだ」

 

秤 アツコ「うん。それで、ここが禁足地になっているポルタパシス(平和の門)で、今も昔も誰もここに入っちゃいけない決まりなんだ」

 

星見 コウセイ「へえ。もし怪獣がアリウス自治区に現れたとしたら、この辺りに気をつけておかないとな」

 

大木田 ソラト「ああ」

 

秤 アツコ「次はこれを見てみて」

 

星見 コウセイ「あ、絵の具 使って 何するの?」

 

秤 アツコ「まあ見てて」

 

秤 アツコ「よーい! はい!」パシャ! ――――――溶いた絵の具を水が入った水槽に流し込む。

 

大木田 ソラト「噴煙だ! 噴煙みたいに見える!」

 

星見 コウセイ「こいつはスゲー!」

 

アユム先生「これはまさしく『想像力を解き放っ』てるね、アツコ!」

 

 

【ゲマトリア】ベアトリーチェが【アリウス分校】を支配する際に最重要視していた存在である“ロイヤルブラッド”秤 アツコはアユム先生の発案である社会復帰支援指導プログラムの一環で【太陽倉庫】で職場体験をしながら、【アリウス分校】に復帰する日のために様々なことを思い描いていた。

 

じきに冬を迎えて本格的な寒さと飢えがアリウス自治区の同胞たちの新たな支配者として君臨する前に決着をつけなければならないという期限が設けられたことで、

 

それまでに自分探しの旅に出ていたリーダー:錠前 サオリがついに家族である【アリウススクワッド】の許に帰ることになり、

 

【アリウススクワッド】が主導して引き起こした大規模テロの贖罪を果たし、アリウス自治区に今も残り続けてひもじい思いをしている同胞や外の世界で白眼視されて苦しめられている同胞たちの救済を果たす機運が生まれていた。

 

そして、アユム先生がこの時点では名前がない暫定自治組織【ニコメディアトゥループ】にアリウス自治区の再開発と支援指導のプレゼンテーションをするために用意して持って帰ることになったアリウス自治区の精巧な模型を使い、

 

自作の超絶無限空前絶後怪獣:メガロヴァニオンのフィギュアを主役にした怪獣ジオラマの作成に凝りだしたのも、【アリウス生徒会】の血筋として尊重される“アリウスの姫”として考えがあってのことだった。

 

もちろん、現在の【太陽倉庫】とは【怪特隊 特務班】の拠点でもあるため、【ティーパーティー】ホストを降りて【怪特隊】代表として怪獣災害の最前線に立つ道を選んだ“預言の大天使”百合園 セイアとも頻繁に顔を合わせることになり、その才知と見識を授かりながら“アリウスの姫”秤 アツコはあるべき未来の将来設計を固めていくのであった。

 

そうして、いよいよ“シャーレの先生”アユム先生と共に【アリウススクワッド】が自分たちの故郷である かつて“ニコメディア”と呼ばれていた秘境:アリウス自治区に帰還する時が来たのだ。

 

しかし、K-DAYを迎えてから怪獣が現れるようになった時代の荒波は たとえ学園都市:キヴォトスの社会の一員でなかろうと 容赦なくアリウス自治区に牙を剥いたのである。

 

 

――――――猪突猛進怪獣:バグリゴン 爆進!

 

 

アリウス自治区に突如として現れた怪獣:バグリゴンがただでさえ寂れている【アリウス分校】の街並みを物凄い勢いで打ち壊して突き進む様にこれまで外の世界で騒がれていた怪獣災害とは無縁だったアリウス自治区に取り残されていた子供たちは怯え戸惑い ただただ 逃げ惑う他なかった。

 

そこに、怪獣からキヴォトスを救う真紅のヒーロー:ウルトラマンオメガが空からマッハで駆けつけ、守られるべき子供たちが多く住み着いている場所から引き離すべくバグリゴンと交戦するものの、元から怪獣との真正面のぶつかりあいは分が悪かった。

 

しかし、ウルトラマンオメガをその恐るべき突進力で吹き飛ばしたバグリゴンは突如として地中へと潜り、逃走してしまうのであった。

 

これにより、アリウス自治区で初めて起きた怪獣災害の復興支援やバグリゴンの追跡調査のために【怪特隊 特務班】も正式に派遣されることになったものの、

 

まさしく天変地異としか言いようがない初めての怪獣災害を体験して【ニコメディアトゥループ】に所属しているアリウス生たちの不安と恐怖は極限まで膨れ上がることになり、恐るべき怪現象が蔓延してしまうのであった。

 

それにより、現地の救護のために名を伏せて活動していた【救護騎士団】が大打撃を被ることになり、あの【救護騎士団】団長:蒼森 ミネが倒れるという事態にまでなり、統率者の不在と二次災害を防ぐために撤退してしまったのである。

 

しかし、ここでの蒼森 ミネの決死の奮戦が7体いるうちの4体の怪現象を抑え込み、残り3体との合体を阻止したことで最悪の事態を免れていた――――――。今回の事件の密かなMVPとなっていたのである。

 

一方、怪獣と交戦した大木田 ソラトはアリウス自治区に出現した怪獣がバグリゴンであることを思い出し、その正体がとある異星人が惑星開発用に飼育していた宇宙怪獣の一種であり、宇宙から降ってきた“赤い星”に向かって突き進む習性を持つ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを説明した。

 

真正面からの攻撃に対しては無類の強さを持ち、出現した場所がトリニティ自治区の秘境:ニコメディアに築かれたアリウス自治区ということで【NDF】の戦力を展開することは難しい。

 

そもそもとして、【NDF】の作戦実施は作戦領域となる自治区を統治する自治組織の許可がいるわけなのだが、そこは【連邦生徒会】に登録されていない【アリウス分校】であり、最終決定権を持つ生徒会長に相当する存在がいない――――――。

 

まさか、ここで【トリニティ総合学園】の生徒会組織【ティーパーティー】がアリウス自治区での作戦実施の許可を出すともなったら、これから独立自治のために支援指導をしようとしている【アリウス分校】の尊厳を侵すことになりかねないので下手に介入することが許されず、

 

本当はすぐにでも大々的な人道的支援を行いたいと思っている【ティーパーティー】ホスト:桐藤 ナギサとしては、今は現地に派遣されて率先して救護活動に取り組んでくれる【救護騎士団】が平和の架け橋となってくれることを祈る他なかった。

 

だが、その切実なる想いとは裏腹に まさしく天変地異と呼べる怪獣出現に続いて起きた怪現象:アリウスに終焉をもたらす終末のラッパが響き渡ったことで 悪い方向へと事態は流れていったのである――――――。

 

なお、そこから禁足地:ポルタパシス(平和の門)の記録保管庫で古代の知識を得て、かつて この地が“ニコメディア”と呼ばれていたことを知った梯 スバルのグループが【ニコメディアトゥループ】の名前がついたのはこの時であった。

 

 

 

アユム先生「このままだと、アリウス内戦が勃発しそうな予感……」

 

アユム先生「コウセイくんたちは【太陽倉庫】でそのまま待機してて」

 

アユム先生「現地調査は私の方でしておくから」

 

アユム先生「今のこの状況――――――、ここは地球人には危険すぎる」

 

――――――

星見 コウセイ「でも、アユ姉――――――!」

 

大木田 ソラト「………………」

――――――

 

アユム先生「つい この間、些細な誤解で学園祭期間に【トリニティ】で内乱が起きようとしていたことを考えると、【トリニティ】も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で本質的に【ゲヘナ】と大差ないよね」

 

アユム先生「今、アリウス自治区に残って変化に怯え続けている子供たちが怪獣出現に加えて怪現象の発生で極限状態を迎えている」

 

アユム先生「それで自分たちで怪現象の原因を探ろうと、禁足地:ポルタパシス(平和の門)に足を踏み入れようとしている」

 

アユム先生「そして、曲がりなりにもトリニティ自治区の一部だったという同胞意識を抱いたまま、自分たちを僻地へと追いやったことへの恨みを未来に引き継がせてきて、」

 

アユム先生「いよいよ存続の危機を迎えて 今まさに『異なる意見を持った同胞を追放する』という()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

アユム先生「本当はとても素直な子たちがその矛盾に気づいてしまったら、いったいどうなっちゃうのかな?」

 

アユム先生「たぶん、それが本当の終わり。『自分たちが正しい側である』という大前提が失われたら、もう――――――」

 

アユム先生「なんだ、私の大切なお姫様(聖園 ミカ)と同じか。本当に根っこは同じなんだね、この問題も」

 

アユム先生「そっか」

 

――――――

星見 コウセイ「そんな!? それじゃあ、避難勧告さえも受け入れてくれないってのか!?」

――――――

 

アユム先生「新天地を夢見ることができるほど外の世界は優しくはなかった……」

 

アユム先生「あの子たちの居場所はここにしかないから、安全な場所への避難も受け入れらない。聖域なんてものはまやかしなんだと言い聞かせて」

 

アユム先生「もし素直に避難勧告に従ってアリウス自治区を離れようとすれば、それこそ自分たちの居場所はここにしかないと外の世界への敵意に凝り固まった子たちから裏切り者として追放されるしかない」

 

アユム先生「そういうわけだから、もう現地に残っているのは裏切り者を追放した“真の仲間”たちだけってわけで、説得はかなり難しい……」

 

――――――

大木田 ソラト「それでも、助けないわけにはいかないよな、アユ姉?」

――――――

 

アユム先生「当然」

 

アユム先生「避難勧告に従わないのが悪いんだって切り捨てるのは簡単だけど、()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()から、『なんて物わかりが悪いんだ』と腹立たしく思っても、それこそが性悪説;人間の本性は悪だからこそ教育や修養といった後天的な努力で社会の一員として立派になれるように辛抱強く接していかないとだから」

 

アユム先生「だからこそ、相手が“宇宙人”みたいに感じた時こそ、『人の身になって考え、胸の内を思いやる』想像力を働かせるんだよ。()()()()()()()()()

 

アユム先生「ともかく、今は【図書委員会】に更なる文献調査を依頼しているから、宇宙怪獣:バグリゴンに関する情報と【アリウス分校】に関する情報をまとめておいて」

 

――――――

星見 コウセイ「わかった、アユ姉」

 

大木田 ソラト「気をつけてくれ、アユ姉」

――――――

 

アユム先生「うん。それじゃ」ピッ

 

アユム先生「さて、ソラトさんによれば、宇宙怪獣:バグリゴンは“赤い星”と呼ばれるものを目指して この惑星に降りてきたんだとか」

 

アユム先生「今まで出現してきた怪獣は明確な意思で目標に向かって一直線だったことを考えると、バグリゴンが進んだ先に“赤い星”は必ず存在する」

 

アユム先生「でも、なんで今になってバグリゴンは目覚めた? バグリゴンが求める“赤い星”っていったい――――――?」

 

アユム先生「とにかく、みんなのまとめ役になっているスバルと話をつけないと」

 

アユム先生「じゃあ、行こうか。ロッピー、ガロンちゃん」

 

 

――――――グフフフ! 待っててね、()()()()()()()()()()! 今 行くからね!

 

 

アユム先生「ここが【アリウス分校】における禁足地:ポルタパシス(平和の門)か」

 

アリウス生「あ、あれは先生!」

 

アリウス生「先生だ!」

 

アユム先生「やあ、みんな! 朝からがんばっているね! おつかれ!」

 

アユム先生「はい、ガロンちゃんから救援物資を受け取ってね!」

 

アリウス生「あ、ありがとうございます!」

 

アリウス生「だ、ダメだって! 怪獣が現れたのも、ラッパが吹くようになったのも、【シャーレ】や【スクワッド】のせいなんだから!」

 

アユム先生「ねえねえ、今ってポルタパシス(平和の門)にある記録保管庫でスバちゃんが例のラッパについて調べ物をしながら、怪獣に踏み荒らされないうちに貴重な文物を持ち出す準備をしているのかな?」

 

アリウス生「え、どうして先生がそのことを――――――?」

 

アユム先生「どうしてって、【アリウス生徒会】生徒会長の血筋である“ロイヤルブラッド”秤 アツコが口伝として受け継いできた内容を教えてくれたからだよ。後は文献調査かな」

 

アユム先生「だから、ここが元々は“ニコメディア”と呼ばれていた秘境で、ポルタパシス(平和の門)と呼ばれている この聖堂が【トリニティ】との和解を願って築かれた場所だってことも知っている」

 

アリウス生「……え、そうだったんだ」

 

アリウス生「……だから、ここに集まった私たちのことを【ニコメディアトゥループ】って、スバル先輩は名付けたんだ」

 

アリウス生「……ポルタパシス(ここ)って【トリニティ】との和解を願った場所だったの?」

 

アユム先生「うん。ポルタパシスは“平和の門”って意味だから」

 

アユム先生「でね、寒くなってきたよね。外の世界で暴れ回っている怪獣がここでもついに現れたことだし、」

 

アユム先生「怪獣災害の専門家の“SKIPのおねえさん”としては復興支援や避難場所の打ち合わせをしておきたいんだけど、代表者と話し合いをしないことには勝手に決めるわけにもいかないんだ」

 

アユム先生「だから、みんなのことを守ろうと誰よりも頑張っている人としっかりと話をしたい」

 

アユム先生「このままだと、じきに冬が来て餓死者や凍死者が出ることになる。それを知って放置するのは人道的ではないし、それで我慢できずに外の世界に食糧や暖を求めて彷徨い出すことになるんだから、なら今ここで受け入れの準備を整えておけば無駄が少ない」

 

アリウス生「ど、どうしよう?」

 

アリウス生「そ、そうだよね。今のままで冬が来たら――――――」

 

アリウス生「でも、『陣地を築け』ってことは『敵を通しちゃいけない』って意味だよね?」

 

 

アユム先生「じゃあ、私をみんなの仲間に入れて。そうしたら、スバちゃんに会っていいよね」

 

 

アリウス生「え」

 

アリウス生「えええええええ?!」

 

アユム先生「あ、待って。それなら――――――、」ニヤリ

 

アユム先生「たしか、【アリウス分校】の生徒会長に10年前からずっと()()()()がなっていたよね?」

 

アユム先生「なら、いっそのこと、同じ()()()()の私が後を継いで生徒会長になってあげようか?」

 

アユム先生「それが【アリウススクワッド】と一緒にアリウス自治区に侵入して 生徒会長であるベアトリーチェを追い出して 今日までみんなのことを見向きもしなかったことで真の虚無(vanitas)を教え込んだ()()()()である私の責任でもあるし」

 

アユム先生「どう?」

 

アリウス生「…………!」

 

アリウス生「そ、それは……!」

 

アリウス生「せ、先生が私たちの生徒会長になってくれる……?」

 

アユム先生「私を仲間に入れてくれるのなら、スバちゃんのところに案内して」

 

アユム先生「私を仲間にしてくれないのなら、せめて一緒に温かいご飯を食べよう。また怪獣が現れた時の対処方法も教えておきたいから」

 

アリウス生「あ、はい……」

 

アリウス生「と、とりあえず、スバル先輩に話しておくべきだよね……」

 

アリウス生「う、うん。スバル先輩が中にいる間に怪獣が現れたら大変だし……」

 

アユム先生「じゃあ、決まりだね」

 

アユム先生「よーし! 救援物資から戦闘糧食を取り出せ! 美味しい食べ方を伝授するぞー!」

 

アリウス生「はーい!」

 

アユム先生「フフッ」

 

 

――――――可愛い。本当に可愛い子たち。本当はこんなにも素直な子たちなんだから。

 

 

梯 スバル「やってくれましたね、先生」

 

アユム先生「どう、美味しい?」

 

梯 スバル「ええ、美味しいです。ありがとうございます」

 

アユム先生「それはよかった」

 

アユム先生「文献調査の進捗はどう?」

 

梯 スバル「……天使に関する記述にはまだ辿り着いていません」

 

アユム先生「そう」

 

アユム先生「なら、私はあの宇宙怪獣に関する記述を探したいから、一緒に入っていいかな? あの怪獣、絶対にこの地域の歴史に関係があるはず」

 

梯 スバル「それは……」

 

梯 スバル「………………」

 

アユム先生「……スバちゃん?」

 

 

梯 スバル「どうして今日まで手を差し伸べてくれなかったのですか? なんで今更――――――?」キッ

 

アユム先生「え、そんなの、暫定リーダーのスバちゃんが支援の受け入れを拒否したからじゃん」シレッ

 

 

梯 スバル「え!?」

 

アユム先生「私ね、今だと“キヴォトスを救った英雄”だとか言われているけど、1つの自治区を再開発するだけの資金力がある()()()()()ってわけじゃないから、【トリニティ総合学園】からの政府開発援助(ODA):借款なしの無償資金協力がなくちゃ、【アリウス分校】の建て直しなんてできっこないよ」

 

アユム先生「わかる? 私の貯金ってミッション系お嬢様学校としてキヴォトスで有名な【トリニティ総合学園】に通うお嬢様方の財布の中身よりスッカスカなんだよ? スバちゃんも外の世界に働きに出て1円を稼ぐ苦労は身に沁みてわかっているでしょう?」

 

アユム先生「そんなわけだから、心底 気に入らないだろうけど、アリウスの子たちのためにお金を出してあげようだなんて思ってくれているのが、あなたたちが憎んできたトリニティのお嬢様方なわけだから、ちゃんと感謝してね」

 

アユム先生「それにさ、【トリニティ】だけじゃなくて【ゲヘナ】のことだって憎んでいるだろうけど、【ゲヘナ】に至ってはエデン条約調印式を襲撃した時の賠償金の請求を放棄しているわけで、あなたたちはゲヘナの子たちからも情けを受けているんだからね」

 

梯 スバル「そ、そんな……、それじゃあ、私は……」

 

アユム先生「あとさ、外の世界に出ていった子たちの所在を把握するためにアリウスの子だとわかったら通報してもらうように悪い大人たちに手配書を回して、外の世界で傷ついて故郷に帰りたくなったら無事に帰りつけるようにお触れを出していたんだよね」

 

アユム先生「だから、外の世界から帰ってきた子たちってさ、飴ちゃんとか粉末ドリンクとか何かいろいろ必ず持って帰って来ていたの、気づいてた?」

 

アユム先生「こうなったのも最初に【トリニティ】の支援の受け入れを拒否されたから、そういう個人向けのやり方しかできなかったんだよねぇ」

 

梯 スバル「あ…………」

 

アユム先生「でも、このまま冬を迎えたら本格的な寒さと食糧難でアリウスの子たちが悶え苦しんだ末に外の世界に略奪に走るだろうし、怪獣災害も起きた以上はアリウスの子たちには決断をしてもらわないといけない」

 

梯 スバル「先生……」

 

アユム先生「決められないのなら、【連邦捜査部 S.C.H.A.L.E(シャーレ)】の強権を発動して、ベアトリーチェと同じように()()()()の私が【アリウス分校】の生徒会長になって、あなたたちを強制的に安全な場所に避難 あるいは訓練所へ合宿させるから」

 

アユム先生「でないと、今度は 本当にみんな死に絶えて 歴史の闇に葬られることになるよ」

 

アユム先生「ここはもう秘境じゃない。トリニティの子たちが行き来できるようになったわけだから、誰にも知られずに逃げ込める場所なんて もうどこにもない」

 

アユム先生「秘密を暴いたのは他ならぬ【アリウス分校】の選択。生徒会長:ベアトリーチェの命令に疑うことなく従って エデン条約調印式の時に大規模テロを行った時から、あなたたちは外の世界と断ち切ることができない繋がりを持ってしまったの」

 

アユム先生「こんなことになるんだったら、あなたたち自身の手で苦しみに満ちた外の世界に連れ出した悪い大人(ベアトリーチェ)を追放するべきだったね」

 

 

――――――想像力が足りなかったんだよ。

 

 

梯 スバル「………………」グスン・・・

 

アユム先生「そんな泣きそうな顔をしないで」

 

アユム先生「私ね、スバちゃんのことが大好きだから」

 

アユム先生「だって、こんなにも可愛くて 仲間思いで 良い子なんだもん。つい助けてあげたくなっちゃう」

 

アユム先生「ほら、おいで。ね。ここにはスバちゃんと私以外誰もいないから。おいで」

 

梯 スバル「せ、先生……」フラッ

 

アユム先生「ほら、良い子 良い子~」ナデナデ

 

梯 スバル「わ、私なんかが良い子のはずが……」ヒッグ・・・

 

梯 スバル「だ、だって、私が、みんなのために思ってやったことが、みんなのことを苦しめて……」ヒッグ・・・

 

梯 スバル「それに、私は 昨日 マイアのこと、追い出した! あの子、『見捨てないで』って! あんなにも私のことを慕ってくれた子を……!」ヒッグ・・・

 

アユム先生「うんうん。わかってる。辛い選択だったよね」ナデナデ

 

アユム先生「私もスバちゃんのことをずっと助けられなくて苦しかったよ」ナデナデ

 

アユム先生「だから、ごめんねぇ」ナデナデ

 

梯 スバル「な、なんで先生が謝るんですか? 先生は何も悪くは――――――?」ヒッグ・・・

 

アユム先生「だって、最初から私は()()()()だから、本当は スバちゃんのような かっこよくて強くて綺麗で可愛らしい女の子のことを連れ去りたいってずっと思ってから」ナデナデ

 

梯 スバル「先生……」

 

アユム先生「でも、かえって理性を働かせたらスバちゃんのことをこんなにも苦しめちゃったね。有無を言わさずに連れ去ってしまえばよかった」ナデナデ

 

アユム先生「そうすれば、今頃、スバちゃんのことを()()()()にすることができたのに……!」ギュッ!

 

アユム先生「()()()()、嬉しいんだ。今、ここにスバちゃんがいる。私の手の中にスバちゃんがいる」

 

 

――――――スバちゃんのような素敵な女の子が生きていてくれて本当によかった。

 

 

梯 スバル「――――――!」ブワッ・・・

 

梯 スバル「あ、ああ……」

 

梯 スバル「せ、先生……」

 

梯 スバル「先生ぇ……!」

 

梯 スバル「う、うう! あああ! うわあああああああああああああああ!」

 

アユム先生「ああ、スバちゃん……」ニチャア・・・

 

 

――――――計画通り;嘘である。いや、本当である。()()()()、嘘である。()()()()()、本当である。

 

 

これぞ まさしく、何も知らない純粋な子供を言葉巧みに舌先三寸で騙すのは悪い大人が跋扈する学園都市:キヴォトスでは日常茶飯事の光景であり、

 

“シャーレの先生”であり“SKIPのおねえさん”にして“怪特隊の母”でもある地球人:石堂 アユムは()()()()()()()()()()()()【ニコメディアトゥループ】リーダー:梯 スバルの無知や生真面目さに付け込んで懐柔しようとしていた。

 

淡々と梯 スバルをはじめとするアリウス生たちが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という心得違いを種明かしすることで、かつて迫害の末に僻地へと追いやられた【アリウス分校】の拠り所となる被害者意識による道徳的優位性を揺らがせ、

 

そこから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という生真面目さ故の罪悪感を植え付け、情熱的な言葉を次々と浴びせて頑なだった梯 スバルの心をトロトロに蕩けさせ、硬くなった表情を歪ませて その綺麗な顔を泣かせることに成功したのである。

 

裏名義:ユメヲカケルとして学園都市:キヴォトスにおいても万バズしているイラストレーターは 今 最高に愉悦を感じていた。それは嫌いだからじゃない。憎んでいるからじゃない。イラストレーターとして可愛い女の子の泣き顔が()()だからこそ、趣味と実益を兼ねた説得方法に全力を出したのだ。

 

もちろん、良識ある大人として このままだとアリウスの子たちが冬を越すことができないのを見て見ぬふりができないからこそ、何が何でも助け出そうと 嘘も方便(三車火宅のたとえ)として言葉を尽くし、己の欲望が昂る情熱のままに 梯 スバルに 決して真っ直ぐではない 熱を帯びた愛情を注いだのだ。

 

だとしても、これまでの【連邦捜査部 S.C.H.A.L.E(シャーレ)】の活動の中で目にしてきた数多の生徒たちの苦しみや悩みの大小に順位をつけることなどできやしない。許されるはずもない。

 

だからと言って、誰もが辛いことや悲しいことを背負って生きているのだから、自分だけが世界中の不幸を背負った存在であると自惚れていることを責めるのもちがう。

 

ならばこそ、両親から“宇宙人”呼ばわりされて捨てられてしまった親無しの少女アユムの素晴らしい才能を見出して正しい方向へと導いてくれたシュウおじさんがそうしてくれたように、あるいは星元市で出会ったユウマさんのように想像力を働かせることで誰かの苦しみに寄り添う――――――、

 

それこそが()() ()()()()()()()()()()()であり、()()()()()()()()()()()()と重なったのなら――――――、

 

先生と生徒のあるべき関係性なんて建前など 誰のことも救わない 詮無きことだとして――――――、

 

本当は唇を奪い尽くしたいぐらいの昂りを 震える身体を抱き締める愛おしさに変えて 今この瞬間を情熱で埋め尽くして 無責任に その心を奪ってしまえ!

 

 

――――――ウルトラハグ!

 

 

 

 

 

それから、悪い大人であるアユム先生に完全に心を奪われた梯 スバルだったが、どこまで行ってもアユム先生は“シャーレの先生”という公正な第三者であり、【アリウス分校】で指導的な立場にあったのに 外の世界へと逃げ出して 自分たちのことを顧みなかった【アリウススクワッド】との確執とは何の関係がなかった。

 

それどころか、物心が付いた時から【アリウス分校】は悪い大人であるベアトリーチェの支配下にあり、それなら同じ()()()()であるアユム先生に【アリウス分校】を支配してもらうべきだと予想の斜め上の主張を梯 スバルが言い出したことで状況は一変。

 

それはつまりは、アリウス内戦を制して 大の大人である余所者が生徒会長の座に就いて 長年 アリウス自治区を支配してきたベアトリーチェ体制の再来を宣言するものであり、それに対して反旗を翻した【アリウススクワッド】を今度こそ永久追放するという愛憎入り混じった感情が混濁した梯 スバルの絶叫がポルタパシス(平和の門)に響き渡った。

 

そう、この結果はアリウス内戦の再来を危惧して単身で梯 スバルの懐柔にかかったアユム先生の頑張り過ぎであり、アリウス自治区の未来を賭けてポルタパシス(平和の門)で【ニコメディアトゥループ】と【アリウススクワッド】が激突することになったのである。

 

しかし、公正な第三者としてアユム先生が両者の間に立ち、その勝敗を 騒ぐことなく まっすぐ見守ると、結果は言うまでもなく【アリウススクワッド】の圧勝であった。アリウス内戦と呼ぶほどのものでもない一方的な展開であった。

 

なぜなら、そもそもがベアトリーチェが手塩にかけた【アリウススクワッド】であり、たった4人でベアトリーチェに支配された【アリウス分校】を敵に回して 今日まで外の世界で生き延びてきた 正真正銘の精鋭部隊なのだ。外の世界に居場所がなかった軟弱者たちの寄合所帯【ニコメディアトゥループ】なんかとは潜り抜けてきた修羅場の数がちがう。

 

そのため、【アリウス分校】の救済のために【ニコメディアトゥループ】を説得しに行くアユム先生の作戦の意図を理解していた【アリウススクワッド】は今こそアリウス式の対話(肉体言語)でコミュニケーションを図ったわけである。

 

これにより、ようやく【アリウス分校】の未来について真剣に語り合う舞台が整うのだが、ベアトリーチェと同じ()()()()であるアユム先生を新たな支配者として迎えて拠り所にしようとしていた【ニコメディアトゥループ】梯 スバルは最初こそは敗者として理性的な対応を心掛けていたものの、

 

物心が付いた時から続いた これまで通りの抑圧されたアリウス生の生き方を完全否定したような 賢しらな物言いをする【アリウススクワッド】錠前 サオリに対して猛反発し、

 

それが銃爪となって 遥か昔【トリニティ】から追放された【アリウス分派】が目指した秘境:ニコメディアに秘められた『何か』と連動したことで形成された怪現象:黙示録の天使へと変容してしまうのであった。

 

その瞬間、立木 マイアが外の世界から逃げ帰ってきた時にアリウス自治区で見つけて梯 スバルに日頃の感謝としてプレゼントした 雫のような形をした手のひらサイズの結晶が赤く輝き、それに続いてバグリゴンが再び姿を現したのを怪獣調査の専門家であるアユム先生は見逃さなかった。

 

同時に、宇宙怪獣:バグリゴンに関する文献調査を依頼していた【図書委員会】古関 ウイから報告が届き、古文書:太平風土記に“瑪愚罹轟吽”として記録され、大木田 ソラトの証言にあったバグリゴンが追い求めている“赤い星”の形状がまさにマイアがスバルに渡した結晶にそっくりだと気づいたのだ。

 

そのため、“赤い星”を求めて再び現れて一直線に猪突猛進してくる宇宙怪獣:バグリゴンに対処し、同時に怪現象:黙示録の天使へと変容してしまった梯 スバルを救う、【アリウス分校】の未来を賭けた決戦が始まった――――――。

 

そして――――――。

 

 

バグリゴン……! この前の続きだ!

 

 

オメガスラッガーにオメガメテオをセット!

 

 

シュワーッ!

 

 

戦場(ホットスポット)ポルタパシス(平和の門)だとして、それ以外の場所では銃撃される危険がないと踏んで、【怪特隊 特務班】怪獣博士:大木田 ソラトと怪獣使い:星見 コウセイはすでに現地に乗り込んでおり、

 

バグリゴンの出現に呼応して再びアリウス自治区に出現した真っ赤な巨人:ウルトラマンオメガに今度はお供の怪獣:ヴァルジェネスが加勢し、マイアからのプレゼントである“赤い星”を持ったまま怪現象:黙示録の天使へと変容した梯 スバルを救う戦いが繰り広げられている禁足地:ポルタパシス(平和の門)を死守するべく立ち向かうものの、

 

猪突猛進怪獣:バグリゴンの猪突猛進ぶりにはヴァルジェネスが加勢しても太刀打ちできず、そこで落とし穴作戦でバグリゴンの足止めを狙ったものの、背面に生えた無数の太いチューブ状の推進器官から炎と噴煙を噴き出す宇宙怪獣である。落とし穴に嵌っても意に介せずに尋常ではない推進力で地面を粉砕しながら進行を続けるのだ。

 

そのため、怪現象:黙示録の天使との死闘が繰り広げられている禁足地:ポルタパシス(平和の門)からは外の世界で持て囃されている巨人と巨鳥が必死にポルタパシス(平和の門)を一直線に目指して迫ってくる宇宙怪獣をどうにかしようとしている姿が視界いっぱいに広がるわけであり、地響きと共に全てが崩壊する 時間との勝負となっていた。

 

そう、宇宙怪獣の目的は“赤い星”であり、それを取り込んだ怪現象:黙示録の天使を目掛けて迫ってきているわけなので、そのことを理解してポルタパシス(平和の門)から逃げ出せば生き延びることはできる――――――。

 

そんなことは最初に誰よりも信頼できる大人であるアユム先生がみんなに説明しているから全員が理解している。

 

それでも、【アリウススクワッド】【ニコメディアトゥループ】が禁足地:ポルタパシス(平和の門)から離れようとしないのは、自分たちの聖地を守るために怪獣と戦う決意をしたからではない。

 

もちろん、宇宙怪獣が物凄い勢いで 住み慣れた寂れた街並みを破壊しながら 一直線に迫ってくるのだ。本当は今すぐにでも逃げ出したいに決まっている。

 

だが、そんなのは言うまでもないだろう。アリウスの子たちは同胞である梯 スバルを救うために誰一人として逃げずに戦っているのだ。

 

だから、みんなが愛した梯 スバルを取り戻すために全力を尽くし、みんなの居場所を守るために巨人と巨鳥が宇宙怪獣に全力で立ち向かってくれているのだ。

 

ならば、信じ合えるものを拠り所にして、やりたいこととやるべきことをみんなで力を合わせて果たしていくだけ!

 

 

 

猪突猛進怪獣:バグリゴン 撃破!

 

 

 

錠前 サオリ「……酷いものだった」

 

錠前 サオリ「私たちは、本当に底辺の人生だったからな」

 

錠前 サオリ「これ以上、落ちる場所も、逃げる場所もないぐらいに」

 

錠前 サオリ「なら、どう転ぼうと、やるしかない」

 

梯 スバル「……怪獣がすぐ目の前まで迫っていたのに、揃いも揃ってバカになったんですか?」

 

秤 アツコ「そういうこと」

 

秤 アツコ「だから、みんなで行こう」

 

秤 アツコ「みんなと一緒なら、力が湧くから――――――、なんて、おとぎ話みたいな理由じゃなくて」

 

 

――――――アリウス(私たち)は、みんなで一緒じゃなきゃ、何もできないんだから。

 

 

秤 アツコ「そうでしょう?」

 

立木 マイア「先輩、そろそろ起き上がりませんか?」

 

立木 マイア「地面に寝転がっていたら、服が泥だらけになっちゃいますよ?」

 

梯 スバル「マイア……」

 

梯 スバル「すでに汚れていると思いますけど?」

 

立木 マイア「それでも、これ以上は汚さない方がいいと思うんです」

 

梯 スバル「ええ。その通りですね」

 

秤 アツコ「だから、みんなで創っていこう」

 

 

――――――私たちの“トクサツ”を! “()んでもなく()労する()高の()り物”をね!

 

 

アユム先生「よかったぁ……」

 

大木田 ソラト「おーい! 大丈夫か、アユ姉!」

 

星見 コウセイ「どうやら、何とかなったみたいだな、アユ姉」

 

アユム先生「うん。ありがとう、二人共。おつかれさま」

 

アユム先生「お腹が空いたよね。とりあえず、これでも食べて小腹を満たして」

 

大木田 ソラト「ありがとう、アユ姉。いつも助かる」

 

星見 コウセイ「ああ、一件落着ってことで途端に空腹感が出てきた……」

 

アユム先生「それで、これがバグリゴンが求めていた“赤い星”みたい」

 

アユム先生「でも、今は水晶のように透き通っているよ」

 

大木田 ソラト「本当だ」

 

星見 コウセイ「これ 目掛けて、バグリゴンが爆進していたわけか」

 

アユム先生「結局、これって何だったんだろう? 太平風土記にもはっきりと形状まで記録されていたけど」

 

アユム先生「スバちゃんが今までの鬱憤や恨み辛みを爆発させた時に結晶が赤く輝いてバグリゴンが再び現れたのを考えると、この結晶に負の感情が集まることで初めて機能するみたいだけど、使い方がよくわからない……」

 

アユム先生「こんな使い勝手の悪いものが、なんでアリウス自治区にあったんだろう? こんなの 持っても、バグリゴンに襲われるだけじゃない?」

 

星見 コウセイ「ホント、なんでなんだろうな?」

 

大木田 ソラト「たぶん、うっかり落としちゃったんじゃないかな?」

 

アユム先生「へ」

 

星見 コウセイ「それってどういうことだ、ソラト?」

 

大木田 ソラト「そのままの意味。うっかりこの惑星に落としちゃった“赤い星”をバグリゴンが一直線に追いかけてきただけで、“赤い星”がこの惑星にあるのも、バグリゴンがこの惑星に来たのも、目的があったわけじゃないと思う」

 

星見 コウセイ「な、なんて傍迷惑な落とし物!」

 

アユム先生「そんなことで 太平風土記の時代から現代に蘇って今回の怪獣災害が起きたとするなら 最悪だよ」

 

アユム先生「あ、赤くなっちゃった。やっぱり、人の良くない感情に反応するものなんだ」

 

星見 コウセイ「でも、これに反応するバグリゴンは倒したから、もう問題はないよな?」

 

大木田 ソラト「ああ、問題ないと思う。“赤い星”に反応する距離まで宇宙怪獣がまた近づいてこない限りは、近くの人間の感情で色が変わるってだけだから」

 

アユム先生「ふーん」

 

 

――――――なら、この土地に蟠る()()()()()()を見つけるのに役立ちそうだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュンチュン・・・

 

 

桐藤 ナギサ「う、ううん……」

 

アユム先生「――――――」カタカタカタ・・・ ――――――枕元でパソコン作業。

 

桐藤 ナギサ「せ、先生……」フワァ・・・

 

アユム先生「あ、おはよう、ナギちゃん」ゴクッ ――――――湯気の立つコーヒーに口をつける。

 

桐藤 ナギサ「おはようございます、先生」

 

アユム先生「ごめん、起こしちゃったかな?」

 

桐藤 ナギサ「いいえ。ですが、もう少しだけ同じ布団に居ていいですか?」

 

アユム先生「うん、いいよ」

 

 

カーテンの隙間から朝日が差し込む中、【ティーパーティー】ホスト:桐藤 ナギサは年季の入った外観と内装のスキマ風有りで軋む床の6畳1間の新築のボロアパートの一室で()()()()であるアユム先生と同じ布団でキーボードを打つ音とコーヒーの香りで目覚めた。

 

そう、桐藤 ナギサと石堂 アユムは()()()()()()()()()()であり、こうして同じ布団で身体を温め合いながら一晩過ごすのは二人だけの秘密であった。それは桐藤 ナギサにとってはかけがえのない親友であり、石堂 アユムにとっては大切なお姫様として愛でている、あの聖園 ミカにさえ秘密のことである。

 

もちろん、対外的には友人同士でお泊まり会をしているだけなので、布団を 人数分 敷いて床に就くのだが、ミッション系お嬢様学校の頂点に君臨する【ティーパーティー】ホストである深窓の令嬢:桐藤 ナギサは 胸襟を開くかのごとく ネグリジェの姿で“近所のおねえさん”を自称する()()()():石堂 アユムの布団の中に 毎晩 入り込んで寝息を立てているのである。

 

そして、互いを抱き枕にして柔らかい肌の感触や温もり、脳に刻み込まれる匂いに包まれた夜は極上の一時であり、絵の世界から出てきたような深窓の令嬢の身も心も自分のものにできたことに果てしない優越感を石堂 アユムは覚えながらも、

 

しっかりとその肉付きや骨格、ホクロの位置や羽の付け根までも目に焼き付けては、キスをしたら吐いてしまうゲロインのために性交渉がしたくてもできない性衝動(リビドー)を絵にぶつけてはスッキリしていたのであった。

 

当然、自分の何もかもが丸裸にされた上に妄想の中で散々弄ばれていることを理解しながらも、綺麗な形のおしりを向けた翼のない裸婦画のモデルにされ、それが“トリニティ謝肉祭(カーニバル)”の美術展に出品となった時はゾクゾクするものがあった。翼がないだけでホクロの位置や体の輪郭はまるっきり桐藤 ナギサであるのに、まさか国家元首に相当する【ティーパーティー】ホストがヌード(裸体)になっているとは誰も思わないのだから、思い込みというのは末恐ろしい。

 

他にも、この6畳1間の高度な耐震措置やセキュリティ完備でWi-Fi完備の新築のボロアパートで他の人には知られてはいけないような赤裸々な密会が行われており、深窓の令嬢:桐藤 ナギサは貞淑な淑女を誑かす悪い大人:石堂 アユムの前では日頃の激務と責任感から解放された 誰も知ることのない ありのままの姿を曝け出していたのだった。

 

そのため、今ではアユム先生のパトロンとなって自分の全てを捧げることを厭わない立派な貢ぎマゾとなっており、【アリウス分校】との歴史的な和解のために綿密な連絡をとるために用意させた新築のボロアパートはまさに神田川の愛の巣となっていた。*1

 

 

――――――そうなったのもそうなるだけの理由があった。

 

 

なぜなら、エデン条約の騒乱の序章である“トリニティの裏切り者”を探し出す段で、【ティーパーティー】ホスト:百合園 セイアが暗殺されたという緊迫した状況で席が回ってきて次の暗殺対象になった桐藤 ナギサがホスト代行として毅然と振る舞いながらも内心では怯えきっていたのに対し、ナギサの次は自分の番が回ってくるはずの聖園 ミカが()()()()()()()()()()()()という どこか他人事のような 絶対安全の立ち位置に居るような立居振舞であることを早くに嗅ぎ取っていた“シャーレの先生”の狡猾な罠が発動していたからだ。

 

前提として【ティーパーティー】は 陰謀渦巻く宮廷劇のごとく 派閥の内外で権力争いが常態化しており、ミッション系お嬢様学校の頂点に君臨する 選ばれた才女たちの麗しき社交の場とは裏腹の 陰湿さが極まる 上辺だけの友愛や敬意が持て囃される、本当の意味での味方や友人というものが存在しない 孤独の群衆であった。

 

そして、その性根が腐った雰囲気を一創作者としての視点から逸早く読み取っていたアユム先生は、学園の頂点に立つ人間になって目下の人間に囲まれていながらも【ティーパーティー】ホスト代行:桐藤 ナギサには 降りかかる暗殺の恐怖を和らげるべく その窮地に寄り添ってくれる人間が誰一人としていない可能性に思い至り、

 

その絶体絶命の危機を利用して『絵に描いたような深窓の令嬢を身も心も自分のものにする』そういった創作のシチュエーションを現実のものにしようとする悪魔の計算が瞬間的に出力されていたのである。

 

理由はいろいろあった。依頼で顧問となった【補習授業部】からすれば、暗殺の恐怖で疑心暗鬼に陥った桐藤 ナギサは強引に退学に追い込もうとしている悪玉であり、徹底的に意趣返しをしてやろうと一之瀬 アスナに続いて石堂 アユムが妹分と認めた才女:浦和 ハナコが何か仕掛けようとしていたことを察知して、責任ある立場の人間として何も間違ったことをしていない依頼人のメンタルケアの必要性を感じていたのもあった。

 

しかし、それはそれとして、まるで小説の中でしか見ることができない『学園の頂点に立つ深窓の令嬢が完膚無きまでフルボッコにされて プライドをズタズタにされて 感情がグチャグチャにされる』場面に立ち会えるかもしれないという 下卑た関心がそこにはあり、創作者として こうした悲劇の実物を鑑賞してネタのストックにする残虐さを緊迫した状況で発揮していたのである。

 

もっとも、良識と常識のある人間として 本当に死なれてしまっては困るわけなので、【連邦捜査部 S.C.H.A.L.E(シャーレ)】への正式な依頼である“トリニティの裏切り者”を探し出して依頼人:桐藤 ナギサの身の安全を確保することこそが最優先事項ではあったが、あまりにも付け入る隙がありすぎたために 浦和 ハナコを妹分にできるほどの大天才:アユム先生が愉悦のために混迷する状況を最大限に利用し尽くすことになったのである。

 

何をしたのかと言えば、暗殺に怯えて数々の隠れ家(セーフハウス)を転々としている【ティーパーティー】ホスト代行:桐藤 ナギサを先回りして二人きりの状況を作り出し、言葉巧みに心身共に疲弊しきった一人の少女の心をトロトロに蕩けさせて、なんと桐藤 ナギサの身代わりにアユム先生がなったのである。

 

いくら、本来の正ホスト:百合園 セイアが暗殺されたことで引き継ぎが一切なかったために ずっとドタバタして 地盤が安定していなかったとはいえ、エデン条約の調印式が迫った今だからこそ、新たに自分たちの代表となったホスト代行:桐藤 ナギサを盛り立てて、常にその心に寄り添って励まし、いざという時は立場や身分を越えて自分が盾になったり身代わりになったりする 心から信頼できる友人や部下がいない――――――、

 

それは【山海経高級中学校】の生徒会長である“黒い門主”竜華 キサキの側には常に護衛:近衛 ミナが居るのを例に出せば、いかに【ティーパーティー】という組織が 命令でしか人と人の繋がりを生むことができない 隣人愛の精神がまったく感じられない 上辺だけを飾り立てる者しかいない裏切り者の巣窟であることが浮き彫りになり、

 

本当に誰も自分のことを心から案じて守ってくれようとする人間がいないという客観的事実で絶望感を後押ししたところに、石堂 アユムは『自分だけが桐藤 ナギサの味方である』と甘い言葉を囁いて抱き寄せ、その裏で五感いっぱいに桐藤 ナギサを味わいながら『“友達”になろう』と誘い、その友情の証として自分が身代わりになることを提案し、実行してみせたのである。

 

結果、ヒフキチであったナギサ様の脳は 大義と疑心暗鬼から友人を切り捨てようとしたナギサに対するハナコの個人的な意趣返しで脳が破壊されることになったのだが、事前にアユム先生と“友達”となっていたことで、完全に桐藤 ナギサの心はアユム先生へと傾いていったのである。

 

ついでに、身代わり作戦によってアユム先生が桐藤 ナギサに成り代わったことに感づいていながらも見て見ぬフリをした【正義実現委員会】が最高権力者(ホスト代行)の命令に従ったことで“トリニティの裏切り者”聖園 ミカの命令は無効化され、真正面から【正義実現委員会】とぶつかることになった【アリウス分校】の刺客たちは一網打尽にされてしまったのである。

 

どれだけ大人ぶった子供たちが一生懸命に悪知恵を働かせようが、本物の悪党である()()()()の前では猿知恵や児戯でしかないことを知らしめる一件となっており、

 

桐藤 ナギサの身代わりになることで依頼人の安全を確保すると同時に、“トリニティの裏切り者”かつ“アリウスの裏切り者”でもあった【補習授業部】白洲 アズサの寝返りで【アリウス分校】の暗殺部隊の襲撃が筒抜けになり、一時的に“桐藤 ナギサ”となったことで【正義実現委員会】の指揮権を得て縦横無尽に動かしてみせたのだ。

 

これまで隠れ家(セーフハウス)を転々として逃げ惑っていたのが一転して【正義実現委員会】を率いて勇ましく陣頭指揮をする桐藤 ナギサの変わりように驚愕する“裏切り者”聖園 ミカに向けて、【正義実現委員会】に最終命令を下し、超音波威嚇装置:ソニッターから放たれた閃光で目を眩ませた一瞬の後、

 

シュルリと衣擦れと共に作り物の翼が地に落ち、フード付きの防弾ベストを着込んだ“桐藤 ナギサ”が 最後にフードを上げて よく見たら背丈が全然ちがう その正体を顕にした――――――。

 

つまり、暗殺目標であった桐藤 ナギサは身代わりとして戦場に立ったアユム先生とは 絶対 別の場所に居るわけであり、自分たちがまんまと誘い出され、今まさに包囲殲滅されるのだと悟った“裏切り者”はホッと息を吐くと 一言 礼を言って玉砕したのであった――――――。

 

そんなことがあった後、まさか“トリニティの裏切り者”が自分が必死に守ろうとしていた幼馴染の親友:聖園 ミカだったことにショックを受け、信じられるものを何もかも失った桐藤 ナギサを優しく抱きしめて 泣くのを我慢しているのを解き放ち、そこで何度も何度も 泣きじゃくる女の子の声に重ねるように“友達”であることを心の傷に擦り込ませて、こうして桐藤 ナギサの心は石堂 アユムのものと完全に成り果てた――――――。

 

 

アユム先生「安心して、ナギちゃん。スバちゃんはナギちゃんと同じ、生真面目で、責任感が強くて、仲間思いの素直で素敵な女の子だったから」

 

桐藤 ナギサ「……それは私の時と同じように 状況を利用して 傷心に付け込んで“友達”になったからですよね」

 

アユム先生「うっ」

 

桐藤 ナギサ「いいんです、先生」

 

桐藤 ナギサ「先生が私のことを【ティーパーティー】ホストとしてではなく、一人の人間として好意を持って『“友達”になりたい』と言って、私の身代わりまでしてくれた一生の恩を忘れたことはありませんから」

 

桐藤 ナギサ「そして、この温もりや胸の高鳴りを教えてくれたのは、先生だけです」

 

桐藤 ナギサ「スバルさんの為人を詳しく知ることができて希望が見えてきました。私と似たタイプということなら、ミカさんの手綱を握るよりは楽なはずですから」

 

アユム先生「それは良かった」

 

桐藤 ナギサ「本当に先生は()()()()ですね」

 

アユム先生「うん。だから、今日も言うね」

 

 

――――――ますます素敵で綺麗で魅力的な女の子になったね、ナギちゃん。

 

 

6畳1間の新築のボロアパートの一室で人数分の布団を片付けた後、ちゃぶ台の上に置かれた それぞれが淹れたコーヒーと紅茶の香りが爽やかな朝の空気に満たされる。それは同時にねっとりと熱を帯びた視線を向け合う湿った雰囲気でもあった。

 

そして、朝食の合間に一口飲んだコーヒーカップとティーカップが代わる代わるに入れ替わり、直接的な()()()()()行為は絶対にしないが 間接的な()()()()()行為はいくらでもする仲となっていた二人は、こうして二人きりの“友達”の時間をまた心ゆくまで楽しんだ。

 

ヨーグルトやゼリーを掬ったスプーンを相手の口を“あーん”して食べさせ合うし、果ては膝枕を堪能しながら哺乳瓶に入れたミルクで割ったコーヒーや紅茶を味わう“赤ちゃんごっこ”なんてのもしているのだ。

 

こんなことは裏切られた後でさえも絆は途切れやしなかった唯一無二の幼馴染の親友であろうともできるはずがなく、

 

こんなことをするのは常識的に考えてもいくらなんでもおかしいとは頭で理解していても、絶対に許されるはずもない いけないことを現在進行形でしている背徳感と、これまで誰も与えてくれなかった 全身全霊で愛される温もりが 脳が破壊されたナギサ様の頭の中で快楽物質をドバドバ分泌させており、人生で一番つらい時に“友達”になってくれた人が与えてくれる快楽の虜となっていた。

 

だからこそ、正真正銘の()()()()である石堂 アユムが“自分と似ている”と評した【ニコメディアトゥループ】梯 スバルも自分と同じ運命を辿ることになるのを想像し、嫉妬混じりの希望がやがては愉悦となって胸の中で拡がっていくのだった。

 

そう、あれだけ猜疑心に満ちて頑なだった 立場や境遇がエデン条約の時の自分とそっくりと言える アリウス生の暫定リーダーが まさに人生のドン底で“友達”になってくれたアユム先生の手によって あられもない姿になっていくのを想像すると、胸がすく思いになると同時にわかりあえるものがあることを確信でき、彼女とは個人的に仲良くなれそうな気がしてくるのだ。

 

現状、【アリウス分校】は帰還を果たした【アリウススクワッド】を暫定生徒会とし、【連邦生徒会】の承認を目指して独立自治を始める準備が整い、長年に渡る内戦や今回の怪獣災害で破壊された街並みを建て直し、新生の象徴となる立派な学び舎も建設中である。

 

しかし、独立自治を目指す以上はいつまでも【トリニティ総合学園】の政府開発援助(ODA):借款なしの無償資金協力に頼り切りになるわけにもいかないため、【アリウス分校】独自の財源確保が急務となっていた。

 

そこで“シャーレの先生”の案では、“連邦生徒会長”失踪で閉校となって居場所を失ってしまった【SRT特殊学園】の生徒たちと同様に、全体的に高い練度を活かして訓練所の教官となることが推奨されていた。これ自体は当初から進められていたものであった。

 

それと同時に、アリウス生に汚れ仕事を斡旋してくる悪い大人たちを釣り出してブラックマーケットの勢力を一掃する浄化作戦も展開されることになり、キヴォトス全体の治安の回復に陰ながら貢献することになったが、表立って顕彰できることではない。

 

そうして 誰もが【アリウス分校】の独立自治の将来設計に頭を悩ませる中、伝統的に【アリウス分校】を導いてきた血族である“ロイヤルブラッド”秤 アツコがこれからの【アリウス分校】の使命ともなる指針として閃いたものこそが、トクサツ撮影であったのだ。

 

 

トクサツ:()んでもなく()労する()高の()り物

 

 

それはこれまで歴史の闇に葬られてきたアリウス生たちの長く険しい苦難の記憶を現代に人間ドラマとして克明に描き出すことであり、

 

遥か昔の時代からの長きに渡る対立から 互いに傷つけあった末に互いを許し合う 心温まる和解までの流れを K-DAYを迎えて怪獣災害に見舞われるようになった世相と現代の価値観に合わせた 肩肘張る必要のない 娯楽性を認めた映像作品として完成させることを国家プロジェクトに据えたのである。

 

それはまさしく“アリウスの図書館”とも呼ばれるポルタパシス(平和の門)に秘蔵されたアリウスの記録と母校の記録を照合し、誰でも閲覧できるようにしたいと考えていた【ティーパーティー】ホスト:桐藤 ナギサの構想に合致するものであったのだ。

 

その歴史ドラマのオオトリを飾るのは、【トリニティ】と【アリウス】の将来的な和解を願って築かれたポルタパシス(平和の門)を災害の化身である怪獣から守り抜いた巨人と巨鳥、それから等身大の英雄――――――。

 

 

――――――秘境に築き上げられたポルタパシス(平和の門)は今こうして平和への願いを結実したのであった。

 

 

*1
フォークグループ:南こうせつとかぐや姫の8枚目のシングルとして1973年9月20日にリリースされた。

作詞:喜多條忠 作曲:南こうせつ 編曲:木田高介

神田川沿いの狭い下宿で暮らすカップルの銭湯での待ち合わせなど、ノスタルジーな風景は現在でもpixivやニコニコ動画でのMADなど様々な創作のネタにされている。

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