Blue Archive -Document SKIP feat.OMEGA and...- 作:LN58
――――――度重なる怪獣災害が学園都市:キヴォトスを襲った。
その度に【NDF】と【怪特隊】が対応に当たるものの、真正面から怪獣を倒す術を持たないがために最終的な解決はウルトラマンオメガが現れて怪獣を倒してくれるか、破壊の限りを尽くして追跡不可能な領域まで怪獣が去るのを待つかの二択となっていた。
そのため、どうあっても怪獣災害による物的損失や経済的損失は拡大の一途を辿ることになり、不幸にも怪獣災害という惨劇の舞台となり、その復興予算や防衛予算を賄えない自治区は衰退の一途にあった。
もちろん、怪獣災害は学園都市:キヴォトスのみならず、キヴォトスの外でも起こっており、学園外勢力である企業は自社の存続のために進退を決することを迫られ、
その結果、学園都市:キヴォトスからの撤退や活動の縮小を余儀なくされた企業も少なくなく、それによる経済活動の衰退の影響がキヴォトス各地で現れ始めたのである。
学園都市:キヴォトスの北端にある キヴォトス最大の領土を誇る【レッドウィンター連邦学園】もまたその影響が顕著であり、財政悪化のためにストライキや粛清の嵐が吹き荒れていた。
そんな中、【出版部】もまた自分たちの生き残りを賭けて、他の自治区に市場を開拓するべく、もっとも裕福なお嬢様学校と知られる【トリニティ総合学園】で頒布活動を開始したのであった――――――。
アユム先生「あれ、これってメルリー先生の同人誌だよね。【トリニティ】でも紙の本が流通し始めたんだ」
桐藤 ナギサ「ご、ご存知なのですか、先生!? これを!?」
アユム先生「うん。メルリー先生の作品は電子本で 全部 持っているし」
アユム先生「なるほど、度重なる怪獣災害の影響でキヴォトス全体が不況に陥ってきたから、メルリー先生も食うために他の自治区に新規層を得ようとしていたんだね」
アユム先生「それで、新規開拓先として【トリニティ】が選ばれ、好評を博しているみたいですね」
桐藤 ナギサ「では、これは【トリニティ総合学園】の精神と風紀を乱し 逸脱行為を煽動するために仕掛けられた攻撃ではないと?」
アユム先生「はい。
桐藤 ナギサ「………………」
アユム先生「ただ、これは間違いなく由々しき事態だね……」
桐藤 ナギサ「先生もそう思われますか?」
アユム先生「うん。つまり、メルリー先生が他の自治区に新規層獲得のために紙の本の頒布活動をしないと食っていけないぐらいに
桐藤 ナギサ「!」
アユム先生「すでにいくつかの自治区が経済破綻して、経済難民と化した住民たちが首都:D.U.に押し寄せて新たな混乱を生み出しています」
桐藤 ナギサ「では、事の本質は度重なる怪獣災害が原因で、これからも自治区の外からこういったものが数多く流入してくることになると?」
アユム先生「それ以上に人! 人です! いずれ大量の難民が押し寄せてくることになるはずです!」
アユム先生「そして、聖書の教えにある弱者救済の御題目を悪用されて、トリニティ自治区が難民たちの植民地になる可能性が大いにあります。それは【ティーパーティー】ホスト:桐藤 ナギサが私財を搾取されて難民様の毎日の炊き出し係になるということです」
桐藤 ナギサ「――――――ッ!」
桐藤 ナギサ「先生、それはいったいどうすれば――――――?」
アユム先生「とりあえず、この紙の本の頒布活動をしている人間には思い当たりがあります」
アユム先生「捕まえるなら、こういった紙の本が出回る少し前辺りに宿泊を始めたレッドウィンター生を探してみてください」
アユム先生「これだけ紙の本が出回っているということは相当な在庫を抱えているわけですから、聞き込み調査をするだけでも尻尾は掴めるはずです」
桐藤 ナギサ「わかりました。早速、捜索に当たらせます」
アユム先生「もっとも、これを有害図書として発禁にすることは もはや不可能の段階だろうね」
桐藤 ナギサ「ど、どうしてなのですか!?」
アユム先生「知っていますか? 【アリウス】でもコーヒーやお茶のようなものがよく飲まれていたんですよ?」
桐藤 ナギサ「……それはまだ知らなかったことです」
アユム先生「ええ。私もソラトさんから聞いて、実際に梯 スバルにお願いして作ってもらったんですよ。かぼちゃケーキと一緒に味わいました」
桐藤 ナギサ「は、はあ……」
アユム先生「聞くところによると、野生種のレタスやタンポポ、枯れたカブの根っこ、アザミ、ニガナの葉、余った食材の野菜たち……」
アユム先生「そういった有り合わせのものを何でもかんでも混ぜ合わせてローストして擦り潰すと、コーヒーの色をした何かになって、成績優良者が温かい水をもらえる“ウォータータイム”の時に、それを飲んでいたみたいです」
アユム先生「ただ、ベアトリーチェはそれすらも『贅沢するな』と禁止していたので、みんな こっそりと飲んでいたって話です」
桐藤 ナギサ「…………え」
アユム先生「わかりますか?
アユム先生「だから、こういった娯楽も 一度 体内に入ってしまえば 二度と忘れることができない麻薬みたいなもので、生徒たちは新刊を求めて販売人の前で自然と列を作ることになるでしょうね」
桐藤 ナギサ「そんな…………」
アユム先生「そうなるのも度重なる怪獣災害で窮屈とした空気がキヴォトス中で蔓延して、そこからの解放という意味で非日常の刺激に飢えているからなんですよ」
アユム先生「みんな、気疲れしているんです。楽しいことでパァーッと気晴らしがしたいんです」
アユム先生「だから、普段ならば冷静な判断で見向きもしないような 公序良俗に反するような出版物に好奇心が動かされるわけなんです。刺激を求めて」
アユム先生「これを『つい魔が差した』と言うわけです。退屈さや窮屈さからの解放を求めた結果、社会のルールや公序良俗から食み出すようになるわけです」
アユム先生「つまり、危険信号です。ただでさえ、【トリニティ】はエデン条約の騒乱の極度の緊張状態の後で弛緩した空気になっていたところに、怪獣災害の悪影響がスルリと人々の心に入り込んできたんです」
桐藤 ナギサ「では、どうしたらいいのでしょうか? 先生の予想では このまま【正義実現委員会】を動かしたとしても、この本の読者が進んで捜査の妨害をするようになるということですよね?」
アユム先生「簡単ですよ、そんなの」
アユム先生「同人誌の販売許可を出せばいいんです。つまり、同人誌即売会の開催です」
桐藤 ナギサ「どういう意味ですか、先生!? それって!?」
アユム先生「このまま【正義実現委員会】を動かして販売人の逮捕や同人誌の没収に踏み切れば反発されるのは確実。それどころか、下々の要求を踏み躙る お上に対する負の感情を募らせることになります。それはこれから怪獣災害の悪影響が拡大する中で致命的な亀裂を生み出すことに繋がります」
アユム先生「なので、そういったものの取り扱いを許可する特別な場所を用意することです」
桐藤 ナギサ「先生、それは『ブラックマーケットを作れ』と言うのですか!?」
アユム先生「ちがいます。『グレーゾーンを作れ』と言っているのです」
桐藤 ナギサ「え?」
アユム先生「つまり、そういったものを手にとってもいい場所を
桐藤 ナギサ「!」
桐藤 ナギサ「そういうことでしたか! ようやく理解できました、先生!」
桐藤 ナギサ「そういうことでしたら、こちらから その、同人誌というものの販売場所を用意してあげましょう、ええ!」
アユム先生「そうです。言うなれば、延焼防止建築物を設けるのです」
アユム先生「出所不明なのが管理者の側で不安ならば、目の届く場所で売買をするようにルールを定めてしまえばいいのですから」
桐藤 ナギサ「はい!」
桐藤 ナギサ「……ところで、先生もこういうものを描いてらっしゃるんですか?」
アユム先生「もちろん。そりゃあ、“トリニティ
アユム先生「でも、あの絵を描きたくなったのは、あまりにもその女の子のおしりが魅力的だったからねぇ」
アユム先生「もしリクエストがあったら、忙しいから一枚絵だけど、桐藤 ナギサのために描いてあげるよ? 何でも、ね?」フフッ
桐藤 ナギサ「う、うぅ……」モジモジ
アユム先生「ともかく、今回の無許可の同人誌の頒布活動はこれから予想される大量の難民が押し寄せてくることの予兆だから、今のうちにしっかりと対策を練っておいてね」
桐藤 ナギサ「はい。わかりました、先生」
――――――本は一つのタイムマシンですから。
円堂 シミコ「あくまでも比喩としてですけど」
下江 コハル「どういう意味?」
アユム先生「わかるよ、シミコ」
円堂 シミコ「そうですね。世の中には多くの媒体がありますよね。本以外にも動画や映画、ゲーム、音楽……、他にも挙げきれないほどにたくさん」
円堂 シミコ「それらは、私たちに情報や物語、時には感情を伝えてくれます」
円堂 シミコ「その中でも、私が本を好きな理由は心に余裕をもたらしてくれるからです」
アユム先生「そうなんだ」
下江 コハル「なんか わかんなくなってきた……」
円堂 シミコ「映画やゲーム、動画を見ている間、それに集中しないといけません」
円堂 シミコ「でも、本はちがいます。多くの媒体の中で最も制限が多いものです。当然ですが、本は少しの画像と文字で全てを表現しなければならない」
円堂 シミコ「だからこそ、余白を考える隙間を与えてくれるんです。寛大な媒体と言いますか」
円堂 シミコ「私にとって本を読む行為は過去との対話でもあります」
円堂 シミコ「全ての書き手は、過去から今に渡ってきた人たちですから、」
円堂 シミコ「だから、タイムマシンに例えてみました」
アユム先生「たしかに、本は時間を掛けて出版されるもんね」
円堂 シミコ「はい。本を読んでいると、作者が遠い過去から私に話しかけているような気持ちになるんです」
円堂 シミコ「先程も言ったように、本は『自分で考える余裕』を私たちに与えてくれるのですから……」
円堂 シミコ「作者に、私なりに考えと答えを返したいと思う、そんな自分がいて……」
円堂 シミコ「それって、本当に素晴らしいことだと思っているんです」
アユム先生「だから、シミコは本を大切にしているんだね」
円堂 シミコ「はい。ですので、今【トリニティ】で起きている非公認書籍のことも、どこか好意的に見ているのかもしれません」
アユム先生「………………」
――――――なら、後世の人間が今を生きる人たちが重ねてきた選択を文書化した『歴史』にはどういった答えが返されるのだろうか?
それは“シャーレの先生”であり“SKIPのおねえさん”にして“怪特隊の母”である地球人:石堂 アユムが【怪特隊 特務班】が謎の重力波の調査に廃工場へと出動した時の経験を経て抱いた想いだった。
そこで出会ったのは時をかける怪獣:クロノケロスであり、未来の世界で母親が負傷したことで 人間大のサイズの子供の個体も 傷付きながらも母親を救おうと助けを呼ぶために この時代に時間移動してきたのである。
その時の時間移動で生じた重力波が【怪特隊】で観測されることになり、その後【怪特隊 特務班】と接触したことで時間移動を駆使して廃工場を逃げ回る中、唯一 Kモニターを持っていなかった大木田 ソラトを見て警戒心を解き、後からやってきた星見 コウセイも事情を知って武器を下ろすのだった。
しかし、人と怪獣、互いの存在に怯え合っている以上 完全に警戒心を解くことは容易ではなく、ふいに星見 コウセイに接近していた怪獣の姿を捉えて反射的にKモニターのスタンガンカートリッジを向けた百合園 セイアを咄嗟の判断で抑えたアユム先生であったが、
アユム先生が引き連れていた対小型怪獣兵器:
そして、およそ30分後に廃工場に再び重力波と共に怪獣とコウセイが現れ、それまで必死に大切な仲間の無事を信じて探し回っていた面々はようやくホッと一安心となり、
この時、戻ってきたコウセイとアユム先生の時計の時刻が30分ズレていたことから、この廃工場に現れた小型怪獣には時渡りをする習性があることが判明。
更に、ソラトの知る“時をわたる怪獣”の知識に加え、コウセイが目撃した謎の空間で鳴き声が聞こえていたということで『怪獣には仲間がいる』ことが推測され、その場で時空漂流獣:クロノケロスと命名されることとなった。*1
このため、【怪特隊 特務班】の作戦目的が怪獣の捕獲から親の元に帰そうとクロノケロスの保護に移行するのだが、追い詰める度に時間移動を繰り返して、人と怪獣の鬼ごっこは延々と続いてしまうのだ。
なお、そんな多対1の鬼ごっこの中の一場面において、男二人で挟み込んで怪獣に飛びかかった瞬間、クロノケロスが時間移動したことで、なんとソラトとコウセイが抱きしめ合うという、それはあまりにも気まずい――――――、
まあ!
あ?
え?
なんだよ。← 怪獣使いです
なんだよ。 ← ウルトラマンです
まあまあ! ← シャーレの先生です
否、なんとも微笑ましい光景が見られ、お互い満更でもなさそうなのもあって、アユム先生は思わずガッツポーズをとっていた。
そんなこんなで、時間移動する前にクロノケロスを捕まえるのは無理だと あきらめのムードが漂ってきたかと思いきや、そこで怪獣博士:大木田 ソラトが“クロノケロスの声真似をして警戒心を解く”という機転で落ち着かせることに成功。
これで 一旦 落ち着いたのだが、安心したことで緊張状態が解け、幼体故に不完全な時間移動を何度も繰り返した反動で放出されるはずのエネルギーが逃げ場を失って制御不能になったことに加え、背鰭に神経伝達を阻害する謎の装置が刺さっていた影響で体調が急変し、クロノケロスが生命の危機に陥ってしまうのだった。
そこで怪獣に対する救命蘇生法が行われることになり、謎の装置を除去した上で患部の治療を施し、怪獣生物学の見地からクロノケロスの
それは大きな衝撃を伴った。怪獣の事情を知ったことで同情することにはなっても 衰弱していくのに何かしてやれることはないと思って 側で見ているだけだった“預言の大天使”百合園 セイアの心を動かしたのだ。
きっと、アユム先生は助けられる命ならこんなふうに怪獣であろうとも救いの手を差し伸べてくれる――――――。
これこそがアユム先生の溢れんばかりの優しさなのだと思い至って、自分よりも力が弱いアユム先生に代わって怪獣の
それには怪獣博士:大木田 ソラトや怪獣使い:星見 コウセイも加わり、三人で声を張り上げて怪獣の命を救おうと必死になった。
その甲斐あって、クロノケロスは死の淵から舞い戻ることになり、自分のことを助けてくれたことを理解して完全に懐いたのだ。
一方、時をわたる怪獣であることを踏まえて、クロノケロスに刺さっていた謎の装置を分析にかけたところ、組成自体は
そうして、アユム先生が導き出した答えというのが、クロノケロスの衰弱の原因である謎の装置の正体が対怪獣用特殊兵器であり、神経伝達を阻害する仕掛けが施されていることから現状の学園都市:キヴォトスではまだ未発達の怪獣生物学の知識が活用されている節があり、『このクロノケロスは未来から来た』のだと推察したのである。
となると、クロノケロスがまさか時をわたる怪獣だとは思い至らなくても、怪獣生物学が発達していることが窺えるほどの科学力でわざわざ神経伝達を阻害して確実に怪獣を衰弱死させるような回りくどい特殊兵器を用いることを
こんな手段を取るとすれば、思い浮かぶのは キヴォトスで随一の科学力を持つ 合理主義の権化とも言える“ビッグシスター”調月 リオぐらいなものだが、どれくらい先の未来かはわからないが、怪獣が衰弱するのをじっくりと待てる余裕が生まれているとは 到底 思えない――――――。
嫌な想像が掻き立てられ、『これは未来で何か良くないことが起こったのでは?』という推測を立てると、回復したクロノケロスが『ソラトとコウセイに付いてきて欲しい』と擦り寄ってきたため、本当は元の時間軸に戻ってこれない危険性もあって怪獣博士と怪獣使いを行かせたくはなかったのだが、
かつて、明晰夢を見るかのように はっきりと意識を持った状態で場所や未来・過去・現在を問わず観測できる未来予知ができていた“預言の大天使”百合園 セイアがクロノケロスと接触したことで再び未来を垣間見たため、
未来のデータをしっかりと手に入れた上で必ず戻ってくることを約束した二人が未来へ行くのを祈るような気持ちで見送ることになったのである。
百合園 セイアの言った通り、無事に現代に戻ってくることができた大木田 ソラトと星見 コウセイをセイアと共に温かく迎えたアユム先生は任務完了を言い渡すと同時に、いつも通りに空腹になっている二人に食糧を渡して未来で何があったのかを訊いたのだった。
しかし、そこで二人の口から聞かされた未来というのは
もちろん、それは“預言の大天使”百合園 セイアも同じであり、今まさに怪獣災害に立ち向かって懸命に生きている自分たちの未来が
しばらく言葉も出ない状態だったのだが、リラックス効果のあるハーブティーをその場でセイアが人数分を淹れると、そこから【怪特隊 特務班】の全員でウルトラマンオメガが時空漂流獣:クロノケロスの親子を救出する様子を撮影したものを静かに見ることになった。
破滅の未来で倒れ込んでいたクロノケロスの母親もまた攻撃を受けて瀕死の状態で土砂に埋もれていたが、オメガによる
その最中に 怪獣の親子を傷付けた 禍々しいデザインのミサイルが大量に飛来。時間稼ぎのためにレキネスが念動力でミサイルを食い止めると、
不気味な警報音と共にミサイル攻撃の第二波が開始され、その間にレティクリュート光線のエネルギーを拳に込めたオメガ式電気ショックにより、ついにクロノケロスの母親は意識を取り戻したのである。
しかし、警報音と共にミサイル攻撃を行った本体と思しき謎の艦隊が空中に出現し、それまでの比ではないミサイル攻撃でクロノケロスの親子を完全に葬ろうとしたが、レキネスアーマーになったオメガによって成す術なく全機撃墜されたのであった。
こうして無事が確保されたクロノケロスの親子は群れの仲間と合流するため、再びどこかの時代を目指して時渡りの旅路へと向かい、こうしてソラトとコウセイをちゃんと元の時代に送り届けてくれたのであった――――――。
基本的にウルトラマンオメガが戦っている時間は10分足らずであり、すぐにクロノケロスの母親の救出に取り掛かったため、破滅の未来のデータもわずか10分足らずの記録に留まった。
そのため、たったそれだけのデータでは年代の特定は難しく、いったいどれくらい後の未来であのような光景が拡がることになるのかを 推測ではなく 想像するしかなかったのだが、
『このままだと未来はこうなってしまうだろう』と言う いつかの予想が圧倒的な現実感を伴って記録されていたのだ。“色彩の嚮導者”プレナパテスと化した
実際、未来でオメガは何を助けて、何を破壊し、何と戦ったのか――――――、それを考えるとゾッとするものがあった。
空中に現れた攻撃艦隊は有人だったのか、無人だったのか――――――、もしも あの艦隊に未来人が乗っていたなら、『ウルトラマンが人類と敵対する』という とんでもない展開になっていたことになる。
しかし、そのことを必死になって否定すれば、次に向き合わなければならないのは『すでに人類は滅び去った後』という、それこそ目を背けたくなるような 救いようのない事実である。
百合園 セイア『怪獣との戦いは いつまで続くと思う、先生?』
アユム先生『二人が見てきた光景が、ただひとつの未来とは限らない』
アユム先生『――――――
アユム先生『私はそう信じる。絶対に未来はああはならない。そうならないように頑張るから』
――――――それが
【怪特隊 特務班】の拠点である【太陽倉庫】に帰還した一行の様子はどことなく暗い――――――。
時空漂流獣:クロノケロスの時間移動の余波を浴びたことで再び未来予知を体験した“預言の大天使”百合園 セイアはおそらく冬真っ盛りの時期で鍋を囲っている大木田 ソラトと星見 コウセイの姿を見たことで未来から帰って来ることを断言してみせた。
身も心も蝕むほどに正確すぎる未来予知というものは あまりにも現実感があり過ぎて『未来は何があっても変えることができない』という先入観を病弱な少女に植え付けることになり、エデン条約の騒乱の火種となり続けたのであった。
しかし、現在では あれだけ傍若無人に一人の少女の人生を振り回し続けていた予知能力は鳴りを潜めることになり、病弱の身から打って変わって潜入活動もこなすほどに活動的となり、こうして【怪特隊 特務班】の一員として積極的に現場に駆けつけていた。
そうした日々の中で『未来予知なんてなくても人は逞しく生きていける』ことを本当の現実を生きる中で得られる実感によって、未来予知によって人生を縛られていた過去の自分と決別していたのだと、百合園 セイアは信じ切っていた。
そうして、クロノケロスとの接触でしばらくぶりに発動した未来予知に対しても かつてのような悲壮感が湧き上がることもなければ、どこか他人事のように未来予知で与えられる現実感を受け止めることができるようになっており、アユム先生はそれを『
これまでは一方的な未来予知によって圧倒的な現実感を押し付けられて辟易していたわけなのだが、いつの間にか 自分にとっては要らない現実感に対してノーを突きつけられるぐらいに成長をしていたのである。
だからこそ、『前よりも未来予知を使いこなすことができるようになっているんじゃないか』と思うようになり、予知能力なんてもう懲り懲りだとばかり思っていたのが、少しばかりもったいないと思うようにもなっていた。
しかし、その直後にもたらされたのは
それでも、
出動前に【太陽倉庫】内にネズミ捕りを仕掛けていた星見 コウセイに対し、ネズミのことがかわいそうだと大木田 ソラトが思い、
帰還後に【太陽倉庫】内のネズミ捕りの代わりに、ネズミが嫌がる忌避剤になる唐辛子を置くという共生のための折衷案が実行されたのだ。
――――――なにも、相手を殺し尽くしたいと思っているから命を奪いたいのではない。
対話か、殲滅か。共生という困難でありつつも尊い道を胸を張って歩むためには、まだまだ人類の知恵は絞り尽くされてはいないのではないだろうか。
だからこそ、生きるためには強くならねばならない。自分自身が淘汰されないためにも。
けれども、その目的のために同時に優しくあらねばならない。自分という存在は自然の一部でもあるのだから。
進む先を間違ってはいけない。目標を見誤ってはいけない。理想を忘れてはいけない。
自分を曲げずにまっすぐに進もうとして 他者を省みない独り善がりに突き進んだ果てに、辿り着いた場所が潮の流れに大きく流されていただなんてこともありうるのだから。
そうなったら、気付いた時にはもう手遅れ――――――、
そうであったとしても、そんな道理を抉じ開けて無理を押し通してでも助けようとしてくれる人はいるかもしれない。
それこそが本当の強さ、優しさ、勇気が紡ぎ出す未来なのだと信じて――――――。
桐藤 ナギサ「――――――それで、チェリノ会長。こちらが私たちからの提案『トリニティとレッドウィンターの間の文化交流協定』の詳細です」
桐藤 ナギサ「本協定は“シャーレの先生”が保証人となり、【図書委員会】の判断の末、進められます」
桐藤 ナギサ「そして、私たち【ティーパーティー】もこれに異論はありません」
桐藤 ナギサ「ただし、今回のように協議が進んでいない状態で、本のような媒体を流通させるのはご遠慮いただきたいです」
桐藤 ナギサ「問題ないですね? そちらの【出版部】部長:荒槇 ヤクモさんの言う通り『文化は巡るべき』ですから」
――――――
連河 チェリノ「う、うむむ……」
――――――
――――――
連河 チェリノ「めんどくさい」
連河 チェリノ「というか、【出版部】が勝手にしたことだろう」
連河 チェリノ「いや、
連河 チェリノ「そうだ、それだ!」
――――――
――――――
連河チェリノ「理解した。そして、今回の件に限り【シャーレ】は【レッドウィンター】に代わって発言するとする」
――――――
アユム先生「え、私?」
桐藤 ナギサ「ということは、“シャーレの先生”に……?」
――――――
連河チェリノ「そうだ! つまりは【シャーレ】は【レッドウィンター】の代理人だ、今回だけな!」
連河チェリノ「【レッドウィンター】は【シャーレ】に全決定を委任する!」
連河チェリノ「何よりおいらは、今から大事な用事を済ませなくてはならないのでな!」
――――――
桐藤 ナギサ「だ、大事な用とは……?」
――――――
連河 チェリノ「それは昼寝だ!」
――――――
今回の件も“シャーレの先生”が間に入ったことであっさりと問題を解決できたわけなのだが、
こうして、またしても【ティーパーティー】ホスト:桐藤 ナギサの 深窓の令嬢らしい貞淑さに由来する ともすれば潔癖症から来るヒステリックな対応で【トリニティ】中が振り回されそうになり、
依然として エデン条約の騒乱の時から浮き彫りになっていた 些細な誤解から火事を起こす【トリニティ】の問題体質と、お上である【ティーパーティー】の認識と下々の認識との落差が顕著であった。
もちろん、今回の件は他の自治区の人間が無許可で同人誌の頒布活動を行ったことが外交問題に直結する事態になったため、法に基づけば【出版部】が悪いのは明らかなのだが、
それ以上に大衆は 度重なる怪獣災害で疲弊もしくは窮屈さに追いやられた日常からの解放を求めて 非日常の刺激に飢えて遵法精神が侵されており、将来的に更なる危機を呼び起こす危険信号を発していたのである。
そのため、結果としては【ティーパーティー】が譲歩する形とはなったものの、エデン条約の時から長く続いた緊張状態から解放された弛緩された空気と、権威が失墜して信頼の回復に努めなくてはならないために自重を求める圧力があった。
それでも、信頼できる誰かに相談をすることによって冷静な判断を下すことになり、危うく火事になりそうだったところを小火騒ぎで収めることができたのだ。最小限の努力で最大限の成果を得たと考えるなら、これは勲章ものだろう。
円堂 シミコ「――――――【出版部】のみなさん、本当におつかれさまでした」
三善 タカネ「いえ、【図書委員会】と【正義実現委員会】の方々に迷惑をかけてしまいましたわ」
三善 タカネ「申し訳ありません」
静山 マシロ「そうでもないですよ。【出版部】のおかげで、私たち【正義実現委員会】が図書館に行く機会が増えました」
静山 マシロ「みんな、本そのものに興味が湧いたみたいなんです。私も正義のこと以外に興味を持つようになりましたし」
荒槇 ヤクモ「なんだかんだで、今回のトリニティ遠征は大成功です」
アユム先生「これからも、ヤクモのことを見ているからね」
荒槇 ヤクモ「あ、どうしたんですか、先生? どうしてスケッチブックを開いて私のことを写生しているんですか?」
アユム先生「え、新刊のネタにするからだけど?」
荒槇 ヤクモ「へ」
アユム先生「ほら、喜びなさいよ、ヤクモ。ユメヲカケル先生の新刊が出るんだよ」
荒槇 ヤクモ「な、内容は……?」ゴクリ・・・
アユム先生「“荒槇 ヤクモ 総受け本”」
――――――お前を同人誌にしてやろうか。
荒槇 ヤクモ「ヒュッ」
アユム先生「新刊を出すことを発表すると同時に、リクエストを募集しちゃおうかな?」
アユム先生「いや~、どんなエグイ組み合わせやプレイのリクエストが届くのか、今からスゴク楽しみ!」ニチャア・・・
荒槇 ヤクモ「ひ、ひぃい! 先生! そ、それだけはご勘弁をぉおお!」ゾゾゾ・・・!
アユム先生「これに懲りたら、他の自治区の同人誌の頒布活動の許可を取ること。私が口添えしてもいいから、自分の仕事に誇りがあるのならば、自信を持って堂々となさい」
アユム先生「でなければ、税金を払わずに国外逃亡していたでしょう。キヴォトス屈指のお嬢様学校のうら若きお嬢様方から金を巻き上げて過去最高の売上で有頂天だったろうけど、そうなったら国際指名手配犯になって目的である販路拡大は大失敗どころか、自分の人生にピリオドを打つところだったんだからね」
荒槇 ヤクモ「は、はい。今回は良い経験になりましたぁ……」
荒槇 ヤクモ「で、でも、新刊を出してくださるんですよね? 【出版部】と紙の本の受託販売の契約をしてくださるんですよね?」
アユム先生「条件がある」
荒槇 ヤクモ「――――――『条件』? 何でもおっしゃってください! ユメヲカケル先生の新刊のためなら、【出版部】は何だっていたしますよ!」
アユム先生「私には電子本の売上があるから、紙の本の方の取り分は全部チャリティーに回して」
荒槇 ヤクモ「……『チャリティー』ですか?」
アユム先生「あなたの
アユム先生「そうしたら【出版部】はチャリティーイベントを利用して販路拡大ができるわけでしょう?」
アユム先生「今の御時世、度重なる怪獣災害で世間が暗い気分になっているわけだから、金のあるところからじゃんじゃん寄付金を巻き上げて、景気のいいことをしまくって経済を回すのよ!」
――――――それをやって欲しいの、【出版部】部長:荒槇 ヤクモに!
荒槇 ヤクモ「…………!」
荒槇 ヤクモ「そういうことですか」ニヤリ
荒槇 ヤクモ「さすがは先生! 最初から先生に頼らなかった自分の間抜けさを呪いたい気分ですよ!」
荒槇 ヤクモ「わかりました。後日、企画書をお渡ししますので、それまでに新刊の内容を詰めていただけると助かります」
アユム先生「うん。いつも通りにね」
アユム先生「でも、せっかく また会えたんだからさ?」
――――――帰りに同人誌みたいなことをしていかない?
アユム先生「ねえ、ヤクモ?」フフフ・・・
荒槇 ヤクモ「は、ふぇ……」
荒槇 ヤクモ「あ、先生……」
アユム先生「まだ大人じゃないわけだから、今回も全年齢版だとしても、ちゃんと満足させてあげるから。ね」
アユム先生「またヤクモのことを“添削と校正(意味深)”してあげるね」フフフ・・・
荒槇 ヤクモ「は、はい、先生。よろしく、お願いします……」ドキドキ・・・
アユム先生「可愛いよ、ヤクモ」ナデナデ
荒槇 ヤクモ「は、はぅううう……」キュウウウウ・・・
アユム先生「また会えてよかった」
――――――世の中、どんどんメチャクチャになっていっているからこそ、その中でもっとも確かなもの、思いを届ける情熱を絶やしてはいけないのだ。