拠点フェイズでは小説形式でお送りします。
ということで、改めて在留調停者兼トゥスクル副王に昇任したうちはウチワです。
何故、俺が副王なの!? と今でも疑問に思うが、ウルトリィとカルラからの説明で改めて、俺のバックボーンを軽く説明することになり。
彼の救世主その人であるなら無碍にするわけにはいかないと、何処かで聞いたことのあるやり取りが続き、気がつけば副王なんて偉そうな地位についていた。
俺に政なんて無理だし、政治の世界に関わるつもりもない。という主張については、万が一聖上であるハクオロが崩御された場合に備えた役職で、次の聖上が決まるまでの暫定ポジなのだとか。副王という地位はベナウィが考えたらしい。
まあ、暫定政府としての権限しかないのならオンカミヤムカイの特務調停者のようなものか、と納得して承諾。
「兄者は救世主だったのか!」とキラッキラ目を輝かせる義弟から目を背けつつ、ようやく安からな時間が過ごせるのだと安堵した。
ケモミミ少女たちの睦まじい姿を日々、目の当たりに出来ると思うだけで、少しだけチャクラが回復したのだった。
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時刻は朝の六時。
春の芽吹きを感じさせる涼やかな風が、広間に集まった人々の間をすり抜け上座に座す俺の頬を撫でる。
段差を隔てた先には二十人の役人たち。インカラの元で政権を支えていた彼らは、新たな主人としてハクオロに忠誠を誓った。
広間に集まった皆々は薄い座布団の上に腰を下ろしながら、リラックスした様子で気心の知れた友人たちと言葉を交わし、クロウの通った声が広間に響き渡ると一斉に背筋を伸ばす。
「ハクオロ皇、御出座であるッ!」
ドリィとグラァが重厚な両扉を開くと、トゥスクル国初代聖上、ハクオロが現れた。
低頭する皆の前をゆったりと歩き上座の中央ーーつまり、俺の右隣に座る。
そう。副王の俺は何故か、ハクオロの左隣という位置なのだ。
「それでは、これより朝礼を始めます。まず初めに、先日のご報告からーー」
司会進行役を務めるエルルゥが手にした木管を広げる。
事務的な報告が続く中、次いで読み上げた内容にエルルゥの可愛らしい眉が怒りのそれとなる。
「お姉ちゃんの寝言が煩いーーって、何よこれ!? アールールゥ〜!」
怒り眉で尻尾をピンと立たせたエルルゥの怒声が響く中、傍に控えたベナウィの冷静な声。
「本日の朝礼は以上となります」
「皆、今日もよろしく頼む」
『ハッ!』
場を締め括ったハクオロに一同抵頭すると「ハッハッハッ、アルルゥ殿は相変わらずですな」、「あれがないと一日が始まった気がしませぬ」など会話に花を咲かせながら広間を出ていく。
その様子に改めて顔を赤らめたエルルゥ。ハクオロはそんな彼女を労うように肩を優しく叩いた。
「さて、ちょいと町にでも向かうとするか。貴公はこの後早速政務か」
聖上になってから政務政務政務の政務漬けになってるハクオロ。
インカラは為政者としても失格で、ろくに書簡も見ずに豪遊三昧だったらしい。
そのツケを拭う羽目となったハクオロには同情しかない。
「何か用事が?」
「うむ、鍛冶屋の親方に依頼していた品が出来上がったと聞いたんでな」
今後、一般の兵士にも忍びの技術を仕込む予定のため、町で一番の鍛冶師にクナイなどの作成を頼んだのだ。
流石の俺も、忍び道具を自作するほどの腕前は持ち合わせていないから、餅は餅屋に頼むべきだろう。
まあ、その後にケモロリたちを影から見守り護衛するという大事な任務が控えているけど。
「そうか。いや、しかしそれならばウルトリィたちに頼めば良いのでは? 副王であるウチワにも政務に就いて貰いたいのだが」
「いやいや、俺のような粗忽者が政務など務まらんよ。それに直接この目で見ないと武器の仕上がり具合が分からんから」
「いやいやいや、ウチワを粗忽者だなんて誰も思っていないさ。前はよく意見を出してくれたじゃないか」
「あの頃を比較しても意味がないだろう。規模も何もかも違うのだし。それに武器を取りに行ったらユズハちゃんの検診という大事な役目が……」
何が何でも手伝ってもらうぞ。強い眼差しから感じ取れる心の声を、のらりくらりとやり過ごしていると、まさかの声。
「あ、それなら私が代わりますね」
側で話を聞いていたエルルゥの申し出。
ケモミミ少女を尊重する立場の俺からして、それを断るということはエルルゥの薬師としての腕前を否定することになる。
たった一言で退路を絶ってみせたエルルゥの手腕に、思わずぐぬぬをしていると。
「諦めろウチワ、我々は一蓮托生だ。カルラ」
「了解しましたわ。さ、行きますわよ主様」
「貴公……!」
まさかの我が巫女の裏切り⋯⋯!
素早く俺の右腕に腕を絡ませてきたカルラは、ギリヤギナ族の剛力を遺憾無く発揮し、強引に俺を執務室へ連れて行こうとする。
「裏切るのか貴公⋯⋯! 我が巫女よ⋯⋯!」
「裏切るだなんてとんでもない。ただ、少しだけ主様のお時間を拝借するだけですわ」
涼しげな目元を緩ませながら軽い足取りで廊下を歩くカルラ。
その上機嫌な様子から、何かしらの取引きがあるに間違いないと当たりをつけた俺は、自然と胡乱な目つきとなる。
「⋯⋯酒か?」
「蔵にある上物を一樽」
「ハクオロ、貴様ァー!」
カルラが大の酒好きなのをいいことに買収したな! こうなることを見越して!
「俺にはケモロリたちを見守るという大義があるのだッ! っていうか無闇矢鱈とくっつくな!」
チャクラで身体強化して無理矢理腕を引き抜く。
二の腕に柔らかい感触が伝わって来るし、良い匂いがするしでドギマギするんだよ!
未だカルラの、童貞を拗らせた高校生を大人の魅力でからかいボディタッチで誘惑する女子大学生感には慣れない。
絶対、童貞を殺すセーターとか似合うよなコイツ。
「あら。私から離れてしまうだなんて、寂しいですわ」
「幼い少女を見守ることも大切ですが、今は政務に集中しましょうウチワ様」
にこやかに微笑みながら俺たちのやり取りを眺めていたウルトリィが、慎ましやかに俺の手を握る。
シルクのような滑らかな手触り。
俺のゴツい手を両手で優しく包み込むように握りながら、ポッと色白の頬に朱が差した。
「それに、わたくしでしたら影で見守らなくても⋯⋯その、わたくしのすべてを見ていただいても⋯⋯」
「良いですわね。主様には私たちのすべてを知っていただきたいですし。もちろん、隅々まで⋯⋯」
愉しげなカルラだが、その眼差しは獲物を前にした肉食獣そのもの。
ウルトリィも恥ずかしそうに視線を逸らしていながら、ちっとも嫌そうな素振りを見せない。
ヤバい、このままだとオンカミヤムカイの二の舞に⋯⋯!
「ウチワ政務に入りまぁすッ!」
身代わりの術でハクオロと入れ替わった俺は、脱兎の如く走り出すのであった。
しばらく拠点フェイズが続きます。