漆黒の意思とは、目的のためならば人殺しさえ厭わない意思のことである。

 黄金の精神とは、『正義』の輝きの中にある美しき精神のことである。
 
 その男の瞳には漆黒の意思が宿っていた。敵ならば殺し、敵でなくとも必要ならば殺す。そんな男が最後に成し遂げたのは自分の息子を守ることだった。

 これは漆黒と黄金。その両方を併せ持つ男が透き通った青へと向かう話である。


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第1話

 

 

 

 塩の香りとともに、生暖かい風が吹いている。

 何処にでもある、ありふれた日常の風景がやけに懐かく感じる。

 全てに決着がついた日から思う。

 今までの冒険は、長い、長い、白昼夢で、あれらは幻想だったのではないか、と。 

 でも、違う。あの日々は確かに現実だった。

 一切として現実味の欠片はないけど、確かに僕が体験した数奇で奇妙な冒険だった。

 ありがとう……ジャイロ。

 本当に……本当に……「ありがとう」…それしか言う言葉が見つからない…。

 

「家に、帰ろう」

 

「この大西洋を渡って」

 

 祈っておいてくれ、ジャイロ。

 航海の無事を……。

 


 

 

 

 

 

 

 これは過ちへの罰とでも言うのか。

 

 

 

 

 

 これは今まで行ってきたことに対する罪なのか。

 

 

 

 

 

 それでも。それでも。

 

 

 

「遺体を使うのはここまでだ」

 

「ジョージ・ジョースター。お前に会えてよかった……。それだけで……いいんだ。それだけで、何ものにも替えられない」

 

 

 

「『交換できない』……幸せがあった」

 

 

 

 もっと早くに気づくべきだった。何時だってそうだ。ことが起きてから、後悔してから気づく。それが僕だ。

 

 けれども。そんな僕でも────

 

「等価で交換される」

 

「だが何ものにも交換できない意味もここにはある」

 

 

 

 

 

 父親として……息子(こいつ)を守ることくらいはできた。

  

 

 

 

 


 

 

 

 ここは……何処だ?

 

 僕は確かに死んだ。

 

 そのはずだ。

 

 じゃあなんだ、ここがあの世だって言うのか?

 それにしては随分と無機質というか人工的っていうか。

 というかこの鉄の箱は一体「これは、私のミスでした」

 

「!?」

 

 気付いた時には血塗れの女が向かい合うかたちで座っていた。

 

 まさかスタンド攻撃を受けてるのか?いや僕は死んだ。さっき確認した。それに攻撃を仕掛けるだけならわざわざ姿をだす意味がない。

 

「私の選択、そしてそれによって招かれた全ての状況」

 

「結局、この結果に辿り着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて」

 

 おい待て。一体全体なんの事だがさっぱり分からないぞ!僕の方が正しかったなんて言われてもあんたと僕は初対面だろ!

 

「……今更図々しいですが。お願いします、ジョニィさん」

 

 ……待て待て待てなんで僕の名前を知ってるんだ?というか今更って何なんだ………………まさか。

 

「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」 

 

「何も思い出せなくても、恐らくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから」

 

 同じ選択……。

 

「ですから……大事なのは経験ではなく、選択」

 

「あなたにしか出来ない選択の数々」

 

「責任を負う者について、話したことがありましたね」

 

「あの時の私には分かりませんでしたが……今なら理解できます」

 

 

 

 

 

 

  

 まさかとは思った。その可能性がないとは言い切れなかった。けど今ここで確信に変わった。

 並行世界から彼女は来た。いやもしかしたらこの世界そのものが並行世界なのかもしれない。

 

 あの世界の僕が、一体どんな選択を取って、どんな最後を迎えたのかは見当もつかないし、理解もできないだろう。

 

 

「大人としての、責任と責務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択」

 

 けど、大人としての責任と義務。

 

「それが意味する心延えも」

 

 「……ですから、ジョニィさん」

 

 そしてそれが意味する心延え。

 

 それらは理解することができた。

 

「私が信じれる大人である、あなたになら。この捻れて歪んだ先の終着点とは、また先の結果を……」

 

 僕は、あんた達に信頼される程の人間じゃあない。

 何年もかけて、いくつもの犠牲を払ってスタートラインに立った(0になった)ような人間(クズ)だ。

 

 

「この捻れて歪んだ先の終着点とは、また先の結果を……」

 

 正直並行世界の僕が何を思ってそうしたかはどうでもいい。

 

「そこへつながる選択肢は……きっと見つかるはずです」

  

 でも……ここでもし『NO』と言ってしまったら────

 

「だからジョニィさん、どうか──」

 

 

 

 

 

 『納得』することができない。

 

 そう思った。

 

 

 

「……僕の友人が言っていた。『納得は全てにおいて優先する』と」

 

「だから──

 

僕もそうすることにするよ」

 

 

 


 

 

 

『残り200mを切った。先頭は依然としてヴァルキリー!先頭は依然としてヴァルキリー!』

 

 ゲヘナ学園自治区。混沌を極め、ただ一人の生徒によって均衡が保たれているキヴォトス有数の危険地帯。

 そんな危険地帯の外れにある競馬場は今日も賑わいを見せていた。

 賑わいは熱狂に、熱狂は喝采へとゴールが近づくにつれ変わっていった。

 

『地を駆ける者よ、仰ぎ見よ!これこそが天空を駆ける最強の王者だ!』

 

『一着はヴァルキリー!一着はヴァルキリーです!これにて重賞五連勝!瞬きすら許されない走り!一体何処まで羽ばたいていくのか!?』

 

 まさに圧倒的。他にどのように形容すればよいのだろうか。見る者全てにそんな印象を抱かせる。

 世代最強。競馬ファンからも関係者からも認められ、現代最強の呼び声すら挙がるその競走馬の名は『ヴァルキリー』。

 そんな最強の主戦騎手は『ジョナサン・ジョースター』。数年前に突如として降り立った男。獲った勝利は数知れず、まさに天才と呼ぶに相応しい男である。

 


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