ロボットがいる日常に人々はどう対応するだろうか。
今からそう遠く無い未来。
街にはアバターと呼ばれるロボットが溢れていた。
元々は不登校の少年が学校生活を体験する為に開発したものが始まりだった。
作り自体も単純なもので、ファミリーレストランに導入されている配膳ロボットに携帯電話を取り付けただけのものだった。
使用する際は、携帯のテレビ通話を接続した状態でロボットをラジコンで動かした。学校側の協力を得ていたので、下校時間になると、保健室の一角に待機、充電させて貰う。移動を最小限に済ませ故障などのリスクを抑えられるのだ。
学校側も少年がそれをきっかけに学校に慣れてくれて、登校につながれば良いと考えていた為、当初は協力的だったという。
だが、少年がロボット通学を開始すると意外な効果が現れた。
少年が不登校になった原因であるいじめがなくなったのだ。少年に向けられたいじめ行為だけではなく、学内で陰湿に行われていたであろういじめも全て無くなった。
それもそのはずである。
その少年は学校生活の一部始終を動画にアップしていたのだ。
衆人環視の元では陰険で卑怯な流石のいじめっ子も自らの行いを改めざるを得なかったのだろう。彼らにとっていじめは遊びでしか無い。それで人生を棒に振る愚は避けるのだ。
学校側は動画の公表をやめるよう少年に要望したが、全ては遅きに失した。学校側は生徒達のプライバシー保護の為に顔にモザイクをかけると少年に約束させるに止まった。反響が大きすぎたのだ。なお少年が意図的にいじめ行為が行われそうな場所をあえて撮影し続けた事には大人達は気付かなかった。
いじめの撲滅に役に立つ。
その結果が広まると、他の学校でも真似をする生徒が出て来る。
学校側も興味は持ったが、まだ様子見の段階だったので、まず動いたのは被害者側の生徒だった。彼らの目的は復讐だったが、ロボット導入により改善したという事実を誰も否定出来なかった。
そして、希望者にはロボット通学を認めようという風潮が広がる。
そうすると、もはや不登校者に限らず、持病を持つ者や、通学時間の長い者、果ては子供の学校生活を心配する親にまで学校通学に代行ロボットを使う生徒は広がった。
その状況に後ろ暗い事を陰でやっていた一部の教師は戦々恐々となり抵抗したが、ロボットという選択を排除するに足る、メリットを超えるデメリットを提示できずすぐに沈黙する事になる。逆にそういった輩が浮き彫りになった事で、学内環境はさらに改善され、生徒の安全を守る事に寄与した。
そうやって通学代行ロボットが浸透していくと、
ロボット市場は活性化し、加速度的にロボットの性能は上がっていく。
まずは最もネックとなっていた、通学という長距離の移動を可能にする為、耐久性が格段に向上。すぐに自宅から自走で通学出来るロボットが新進の電機メーカーより開発されると、その後を追うように大手電機メーカーもより自然に通学できる様改良版を次々と発表していった。通学代行ロボットという呼び名ではなく、ゲームなどのキャラクターを指していた「アバター」という名称が使われる様になる。マスコミ受けを狙い、普通科でも無く、通信科でも無いアバター科などを設立する学校も出てきた。
アバターの機能も徐々に増えていく。
移動手段が小径のタイヤ型からキャタピラ、段差も登れる三輪型などを経て、まだ高価だったが二足歩行型もチラホラと出てくる。
他にもドアの開閉などを可能にするAI制御のマジックハンドまで装備される様になっていくと、パソコンのタイピング作業程度はこなせる様になるまで時間はかからなかった。
ここまでアバターの性能が上がりだすと、
広がりは学校に留まらず、大人の間でも広がり始める。
これにはカラクリがあった。
かつてコロナの時に流行ったリモートでの業務。社長、社長とチヤホヤされたいからか、会社にいないと仕事が発生した時即座に動けない!問題の共有も難しい!リモートは非効率的だ!などなど難癖をつけて、社員達を再び会社へ縛り付ける事に成功した経営者達。
しかし、コンプライアンスだ!ハラスメントだ!とがんじ搦めになっていく社会で、従業員たちとの距離の取り方が非常に難しくなっていく中、リモートへの回帰が密かに望まれていた。
そういう隠れた需要が実はあったのだ。
しかし、今更やっぱりリモートが良いなどとどの口が言うのかとお叱りを受けるのを恐れてなかなか言い出せずにいたのだ。
そこにこのアバターブームである。
これ幸いと経営者達は飛び付いた。
アバターさえあれば、現場で直接対応できる!
会社で業務を行うのだからデータの持ち出しも防げる!
セクハラもパワハラもやりにくくなる!
通勤中の交通事故も防げる!
まさにこれこそ新時代の働き方である!と日本中の企業がアバター勤務を導入していく事になった。
ここまで来ると、街はアバターだらけになった。
その頃には椅子にモニター付きのヘッドギアと手摺りに操縦桿が付いたコックピットの様な完全没入スタイルでアバターを操作する事が一般化していた。常時アバターと接続して、トイレ以外は椅子から降りずに生活する者も少なくなかった。
日々の買い物すらアバターを使う様になると、最早生身で他人に会うのが恥ずかしいと言いだす者まで現れ出す。
運動不足で肥満率が上昇している事もその原因と考えられる。
本来は運動をして改善しようと考えるのが健全な思考なのだが、アバターを知ってしまい、それに依存していた人類は、むしろ肉体が邪魔だと考える様になっていた。
ちょうどそのタイミングで触覚や味覚、嗅覚などの感覚をアバターを通じて共有できる様になる。
最早、肉体に未練を持つ人類は殆どいなかった。
人々はアバター本体に自らの脳を直接移植した。
そして、アバターは新たな人類となった。