悪魔が見つめるその先に   作:偶像崇拝

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第三十二話

 フロストのおかげで何とか地獄から戻って来る事が出来た。

闇の悪魔は闇の中では無敵に近いという意味がよく理解できたよ。こっちの一撃をすぐに理解して斬られた箇所をすぐに切断して新しい腕を生やしたり、再生させたりするのはさすが死を経験したことのない超越者だと言わざるを得ない。

 

「ここはビルの屋上か」

 

「おかえり」

 

 辺りを見渡すと天使の悪魔やサメの魔人と言った面々が倒れている。

全員が同じ場所へと帰還させられたわけではなく、このデパートの中にランダムな場所で帰還させられているのかと一人納得した。

 屋上の一角のテーブルにフロストが珍味を食べながら告げて来る。

まだ珍味を食べてるのかと言いそうになったが、それを飲み込んで言わなかった。僕らが地獄へと送られたのは時間にしてどれくらいだろう?

 

太陽の高さを見るに少なくとも半日くらいは経過しているかもしれない。

地獄とこちらではもしかすると時間の経過速度も若干変化している可能性が高いな、これは。

 

「どういう状況ですか?」

 

「人形の悪魔が強化された。闇の悪魔の肉片を取り込んだ」

 

「あの時の……」

 

「人形にされた者達も強化された。でも、私達にとって脅威にはなり得ない」

 

 屋上から下を見下ろすと周囲では人形達と公安の制圧部隊が戦っている。

強化されたも人形という事には変わりなく、契約した悪魔が暴れており、問題なく制圧されていた。ということは一番厄介なのは人形の悪魔本体ということかな。

 闇の悪魔の肉片を取り込んだという事は夜になれば、一切のダメージが入らない可能性もある。

僕がやったみたいに闇を打ち払い、無防備な状態の時に攻撃を叩き込む必要が出て来る。闇を打ち払えるなら光で無くとも炎の明りでも構わないか?

 

検証が必要だね。

 

「あの女も動いた」

 

「マキマさんが?」

 

「人形の悪魔の制圧が目的じゃない。目的は別にある」

 

「別の目的ですか……」

 

 マキマさんの目的か。

各国からデンジ君の心臓を狙って刺客が放たれているのは当然把握しているだろうし、地獄へと送られる前に見たメンバーを思い出す。

 刺客からデンジ君を守るという意味では些かメンバー構成がおかしい気がしていた。

確かに守りを得意とするメンバーではあったけど、それが公安に属する中でも一流クラスなのかと問われれば、僕はこう答えるだろう。

 

明らかに一流ではないと。

つまり、マキマさんは本気でデンジ君の守りを固めていた訳ではなく刺客を誘っていたのではないかと推察している。

七詩と呼ばれた女性は既に彼女の手に堕ちたことは把握出来ている。じゃあ、次に狙うのは……人形の悪魔? それとも中国からの刺客であるクァンシ?

 

「あの女は誘ってる。チェンソーは餌、来るべき時に備え戦力を欲している」

 

「そういうことですか。デンジ君を囮に向けられた強力な刺客を支配するつもりなのか」

 

「それが最有力」

 

「うぅ……ここは?」

 

 その時、倒れていた天使の悪魔が目を覚まして周りを見渡していた。

フロストがゆっくりと近づき、彼を無表情で見下ろしている。自身に影が差し、真上を見上げるとフロストに見下ろされているという事に気付き器用に後退る。

両腕が無くなっているからバランスも取りにくく難しいだろうに、さすがは悪魔の身体能力だと素直に感心する。

 

「氷の悪魔……!」

 

「闇の悪魔に一瞬で制圧された気分は?」

 

「情けないに決まってる。あぁ、そうさ。僕は何もできなかった。一時的に組まされたバディですら守ることもできない無力な悪魔さ!」

 

 フロスト、煽ってるなぁ。

一瞬だけむっとした表情を作るがすぐに後悔しているという顔に変わって俯き、力なく言葉を紡いでいた。その言葉に自身の無力さを呪っているような懺悔にも聞こえた。

……若干、やけくそになってない?

 

「地獄に送られた時点で生きることを諦めていた。到着してすぐに自分達よりも格上の悪魔から見られている事には気付いていた。扉が開き、闇の悪魔が現れ、後ろからは君の本来の姿で現れた。超越者に挟まれた気持ちがわかるかい? 生きた心地がしなかったよ」

 

「弱者の考え」

 

「常に強者である君にはわからないだろうね。だからこそ、そこの人間君は異常なのさ」

 

 確かに超越者に挟まれるのは生きた心地がしないだろうな。

どんな強い相手でも戦えることに喜びを覚える輩ならば別だろうけど、本来なら天使君の考え方が普通の思考だな。

 

「失礼ですね、全く。僕を異常者扱いするのはやめてくださいよ」

 

「他の人間達を見ただろう? あれが超越者を見た時の人間の反応だよ。息をすることも忘れ、生きることに絶望する。決して立ち向かって勝てるという希望を抱けないのさ」

 

「確かにその答えも間違っていないと思います。でも、生きることを諦めない気持ちさえあれば、抵抗して活路を見出そうとするはず」

 

「ふっ……その考えが弱くない証拠さ」

 

「私が興味を持った時点で弱者ではない。弱き者では彼の力を理解できない」

 

 諦めという感情は時には足を引っ張ることもある。

絶対に勝てないと思ってしまった時点で勝敗は決し、闘志すらもなくなってしまう。だからこそ、戦う上で大事なのは戦闘力はもちろんのこと、強い精神力も求められている。

 強い気持ちは時に自身の限界を超えることもあると言われるくらいだからだ。

最も限界を超えると言ってもそれは基礎能力に戻づいて計算されるから基礎がしっかりとしていなければ意味のない話だけどね。

 

「弱者は強者の前で何もできない。悪魔もまた同じ、強い悪魔の前に弱い悪魔は淘汰される」

 

「そういうことなんだ。だから君は特別なんだよ……あの刀を扱える時点でもね」

 

 天使君の視線は僕の腰にある鞘に収まっている刀に向けられている。

地獄で完全な状態で呼び出した存在に、そしてその正体にも勘づいてしまったのか。刀が使い手を選び、相応しくない者には死が与えられる。

 

「そう、レックスは特別。未知を内包した希少な人間。私は知りたい――その根源を」

 

「近い」

 

「気のせい」

 

 特別な人間だと言われ、悪い気はしないけどなんだかなぁ。

フロストの僕の力の根源を知りたいという気持ちが再燃して偉く距離を縮めてきた。まだ僕の方が背丈も大きいから上目遣いに近い感じだけど無表情だから実にシュールな光景だ。

それでも瞳の中には確かに強い理性の光を宿しているのがわかる。

 

「まぁ、今はおいておきましょう。それで天使の悪魔はどうするつもりかな?」

 

「どうするも何もないよ。両腕が無いんだ、戦えるはずもない。今の僕は無力だよ」

 

「そうですか。では無事を祈ります。僕も狙われている立場ですからあまり派手な動きをするつもりはないんですけど……」

 

「(闇の悪魔に立ち向かって、なおかつ無傷で善戦している時点で十分目立ってるよ)そう。気を付けてね、僕はこんな状態だしゆっくりさせてもらうさ」

 

 まぁ、この状態では戦えるわけもないか。

彼の本質は怠惰だけど、吸い取った寿命を消費して武器を作ることに特化している。戦闘力として期待することは無理だよね、少なくとも今の状態では。

 

ドォォンっとビルに振動が伝わるほどの大きな音が聞こえた。

 

「っといったいなんですか」

 

「人形の悪魔とチェンソー、そして武器人間の戦闘が始まった」

 

「はぁぁ、次から次へと。このままじゃビルが持ちませんね」

 

 聞いた限りでは人形の悪魔VSデンジ君&武器人間という構図のようだ。

一時的に協力をしている感じか、それに武器人間の正体はフロストによるとクァンシだということだけど……。建物を壊して移動しているのかな。

 

「フロスト、僕は始末をつけてきます」

 

「私もいく」

 

 僕とフロストは屋上から建物を飛び移り、戦闘音が発生している地点に向けて移動した。

下に移動するよりも屋上伝いに走った方が早いからね。徐々に戦闘音が大きくなり、その発生源と思われる場所へと到着した。

そこには人形の悪魔とチェンソーの悪魔となったデンジ君、そして弓矢?の武器人間と思われるクァンシを発見する。

 

それに周りには人形にされた人間が複数居るけど、部分的に人へと戻されて身体の自由が完全に効かない状態になっているようだ。

自我もあるし、訳も分かっていない状態かな。でも身体は操られて自分の意思では動かない感じだね。

 

「デビルハンターにこれを殺せますか?」

 

「無理無理無理!! 俺ぁ、人殺しになりたかねぇぜ!!」

 

 人形の悪魔が人形を部分的に人間へと戻し、それをデンジ君へと差し向けていた。

言葉を交わせる以上、人形にされている所を見ていたデンジ君は彼らを殺すことは人殺しと同義だと思い、踵を返して逃げている。

 

「人形にされた人間は元には戻らない」

 

「悪魔の力は万能ではない」

 

「なんだぁ!?」

 

「これは……!」

 

「やはり来たか」

 

 フロストの足元が凍り始め、それが一気に地面を這うように侵食する。

空中に飛んでいなかった人形以外は足が凍り付き、身動きを取れなくなった。そのまま地面から氷の刃が突き出して人形を貫いていた。

僕も刀を一閃し、空中に飛んでいた人形の首をすべて斬り飛ばした。

 

「デンジ君、彼らは人には戻れない。人形にされてしまった人間はもう人ではない。人形の悪魔が人間のフリをさせているだけです」

 

「で、でもよぉ! あいつらは困惑して血も流すんだ」

 

「それは闇の悪魔の肉片を取り込んで人形の悪魔が強化された事で能力が昇華されたことでより精巧な人形として再現されたにすぎないと思います」

 

「なるほどな。確かにそれなら納得もいく話だ」

 

「武器人間だったんですね――クァンシ」

 

「ふん、説明する必要もなかったからな」

 

 デンジ君の戸惑いを打ち消すようにあれは人間ではないと説明する。

実際問題はどうなのか、正確には僕にはわからない。それでも一つだけわかっていることがあるとすれば、それは人形から人間へと戻ることは不可能だという事だ。

 

「途中で見た人形の戦闘痕はあなたの仕業でしょう? 貫通力の強い攻撃手段を持っているようで」

 

「お前に言われても皮肉にしか感じないな。闇の悪魔相手に一歩も引かずに戦える人間が何処にいるというのだ?」

 

「なんのことだか」

 

「私はお前を過小評価するつもりはない。いや、更に評価を上げたと言っても良いだろう。この目であの戦いを見れただけでも十二分に価値はあった」

 

「私を無視するとは良い度胸ですね」

 

 ここに来るまでに見た何かに撃ち抜かれたような戦闘痕は間違いなくクァンシの仕業だと確信に近いものがあった。それは今の勘所の姿を見て確信したと言っても良いだろう。

クァンシの方も僕の事をかなり上方修正したとみて間違いなさそうだし、彼女が完全に意識を失った状態まで戦うのは待つのが正解だったか。

 

自身を無視するように話している僕らに闇の悪魔の肉片を取り込んでパワーアップした人形の悪魔が表情を歪めながら襲い掛かって来る。

 

「黙っていろ」

 

「兄ちゃんには手出しさせねえぜ! うらぁぁぁ!!」

 

 クァンシが腕を彼女へと向けると弓矢を射出し、身体を穴だらけにしてデンジ君も追撃と言わんばかりにチェンソーで身体を切り刻む。

しかし、人形の悪魔は冷静に言葉を紡いでいく。

 

「無駄です。ちくちくと感じるだけです。痛覚も他の人形と分散できるのです」

 

「ちっ! どうすんだよ、聞いてねえぞ!」

 

「少しは自分の頭で考えろデンノコ」

 

 壊れても再生していくのは闇の悪魔の肉片を取り込んだからか。

それに痛みを他の人形へと分散できるという言葉。世界中に点在する人形に痛みを分け与えれば、痛みなど無に等しいことになる。

 

でも、その言葉は同時にヒントにもなり得た。つまり、彼女は全ての人形とリンクしているという考えることもできる。

 

「あなた達にとってタイムリミットです」

 

「あぁ? 何言ってんだ?」

 

「しまった。夜が来る」

 

「私の時間です!」

 

 人形の悪魔の上半身が黒へと変色し、少しだけ禍々しさが増した。

でも闇の悪魔と対峙した時とは比べ物にならないほど弱く感じる。一方は超越者、もう一方は肉片を取り込んで悪魔だから当然と言えば当然か。

 姿がブレたと思うとデンジ君が吹き飛ばされ、クァンシの放った弓矢は全て手で掴み取られている。

再び姿がブレ、僕の方へと攻撃を仕掛けて来るが……。

 

「あまり吠えない方が良い。弱く見える」

 

「っ!!」

 

 繰り出された拳は僕の前に出たフロストによって指一本で止められていた。

彼女にとって人形の悪魔はその辺の有象無象と変わらないと言わんばかりだ。無感情に相手を見下ろし、触れた箇所から一気に凍り付いていく。

 まずいと思った人形の悪魔は瞬時に飛び退き、腕の一本を自ら破壊することで凍り付くことを回避する。

身体を回復させるがフロストに対する警戒心が一気に跳ね上がっていた。

 

本体でないことは気付いているはずだ。

 

「身体のスペックも本体で無くてこれか……」

 

「ぎゃははは!! 闇を打ち払う光の力を見せてやらぁぁ! これが俺の光の力だぁぁ!!」

 

 その時、デンジ君の笑い声が聞こえたかと思うと夜なのに明るかった。

その正体は彼が吹き飛ばされた先がガソリンスタンドで頭からガソリンを被ってチェンソーの刃を回してぶつけることで火花を散らして己の身体に引火させていた。

僕のやり方と違うけど、デンジ君ならではのやり方だった。確かにその方法なら闇を打ち払う事も可能だと思う。

 

問題なのはその方法は常人では決して行えないという事。それをしたら普通の人間なら全身やけどで無事どころでは済まないからだ。

不死性という特性を活かし、後で血を飲めば回復できるからこそのやり方だ。

 

「あぁぁアアァァァああぁぁぁ!!」

 

「あははは!! 光の力は効果抜群だなぁぁ!!」

 

「調子に……なっ!!」

 

「そろそろ終わりの時も近いですね」

 

 炎を纏ったデンジ君の攻撃は効いている。

やはり完全な闇の中で無ければ、ダメージ自体はしっかりと入っているのがわかる。嫌がる様子から見ても間違いないと思う。

 腕を振るってデンジ君に反撃しようとしていたのですべての腕を斬り落とし、彼に攻撃が届かないようにする。

人形を操って攻撃を加えようとしているとそれはクァンシによって人形が撃ち抜かれ、完全に無力化されていた。

 

そのまま人形の悪魔へと突っ込んだデンジ君は笑いながら身体を切り刻み、彼女の四肢が斬り落とされた状態で完全に無力化していた。

 

 

 

これで決着かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

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