デンジと儚き青髪少女   作:あめざり

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甘い味を教えて

カランカランと、扉につけられた鈴の音が響く。

デンジが連れられたのは悪魔退治の現場から少し離れた、よく言えば昔ながらの、悪く言えば古臭い喫茶店。

 

「ここ、私の行きつけの店なんだ」

 

彼女はガラガラの店内を見回し、店の角にある狭っこい席に向かう。

デンジが彼女にソファ席を譲り、彼女は微笑みで返した後スカートを抑えながら腰を下ろした。

 

「マスターマスター!コーヒーを一つと……」

 

少し言い淀んでデンジを見る。

デンジは考えた、できるだけ格好つけられる飲み物は何かと。

思い返せばマキマもアキもレゼも、デンジが大人だと感じる人は総じてコーヒーを飲んでいた。

 

「俺もコーヒーかな」

「やっぱコーヒー二つ!」

 

マスターはやれやれと言った感じでコーヒーを入れ、小さな机に二つ運んだ。

 

「隣の子は?」

「んー、命の恩人かな。そうだよね?」

 

彼女は顎を下げながらデンジに問いかける。

デンジの声帯は強張り、固まった声で答えを返す事になった。

 

「そ、そう、おれ、おんじん」

「かっこよかったもんね」

「かっこいい、おれかっこいい」

「あはは!おもしろーい!」

 

緊張し続けているデンジとは対照的に、彼女は笑顔を絶やさず話し続ける。

 

「じゃ、ごゆっくり」

 

そう言って喫茶店のマスターは机にコーヒーを二つ置き、カウンターの方へと戻っていった。

 

「私ペラって言うんだ、君は?」

「デンジ」

「ふぅん……デンジ、デンジ君かぁ」

 

身体をフラフラと揺らしながらデンジの名前を繰り返すペラ。

彼女はしばらくすると体の動きを止め、今までよりもいっそう頬を赤らめて、こう囁く。

 

「デンジ君みたいな面白い人、はじめて」

 

声が、耳の奥で響く。

それと共に思い出したのは、同じようなカフェで、レゼに言われた同じ言葉。

 

『デンジ君みたいな面白い人、はじめて』

 

ペラとは違う声で再生されたその言葉は、デンジの頬を紅色に染め上げる。

今ある現実と、過去の思い出。二つの声が心臓の鼓動を極限まで高鳴らせた。

 

「ほらほら、早く飲まないと冷めちゃうよ?」

 

ペラはコーヒーの入ったカップを爪先で軽くたたきながらそう言った。

デンジは震える手で取っ手に指をかける。

 

「うげっ……」

「あはっ!何その顔!強がらなくてもいいんだぞ~?」

「だってドブみてえな味すんだもんよ!」

「それならさ、ミルクとお砂糖入れて飲む?」

「んだよそれ」

「えっ……知らないの!?」

 

目を見開きながらデンジを固まりながら見つめるペラ。

彼女はすぐに表情を戻し、デンジのコーヒーを自分の方へと寄せる。

 

「なら、私が教えてあげる」

 

ペラは机の端にある砂糖とミルクに手を伸ばし、それらをデンジのコーヒーへと大量に投入した。

 

「はいどーぞ」

「……どーも」

 

少し迷った後、デンジは薄茶色になったコーヒーを一気に飲み干す。

先程とは違ってデンジの顔色は明るく、むしろおいしいと言ったような表情だった。

 

「うっめえ!!なにこれ甘!!」

「そうでしょそうでしょ。どう?コーヒー好きになった?」

「超好きだぜ!!超!!」

「ふふっ、それならよかった」

 

砂糖とミルクを手に取ったばかりの手でペラはデンジの手を握り、微笑む。

 

「デンジ君の知らないことは何?お酒の味は?飛行機に乗った事は?」

 

重なった手と手、覆い被さるように置かれたペラの手が、デンジの手をそっと撫でる。

 

「……私が教えてあげる。何もかも、教えてあげるよ」

 

そう言ってペラはデンジの手を引き、手の甲を上にして顔へと近づけ、そして……

 

「手の甲のキスは、まだ知らなかったかな?」

「え、あっアあ……」

「またねデンジ君、明日も私はここにいるから」

 

そうとだけ残して、彼女は店を出た。

情けない声を捻り出した後、デンジは体の力を抜かし、椅子にへたり込んでいた。

 

***

 

デンジは放心のまま帰路につき、気がついたらドアの前であった。

何かを考えようとしても、手の甲の湿りが意識を飛ばす、それの繰り返し。

そう、何かを思い出す事もできずに。

 

「……デンジ、何これ?」

「ナ、ナユタ……それはよぉ、元々割れてて」

「そんな訳ないでしょ!!」

 

お気に入りの皿を割られ、それをそのまま放置し、新しい物を買ってきたわけでもない。

実際はその道中で悪魔と小悪魔に出くわしそれどころではなかったのだが、ナユタがそんなデンジの愚行を大人しく許すはずもなかった。

 

「買ってくる!!今から買ってくっから!!」

「今すぐ!!ダッシュで行ってこい!!」

 

そう言ってナユタは勢いよくドアを閉め、デンジは財布を握りしめながら走ってスーパーへと向かうのだった。

 

***

 

午前10時30分、喫茶店の開店時間丁度、デンジは店の前で立って待っていた。

側から見れば古臭い喫茶店に開店前から並ぶ珍しい人と見られるかもしれないが、正確に言うとデンジが待っているのは開店ではない。

 

「デンジ君、今日も早いね」

「飯食いきただけだぜ」

「まだお昼には早くない?」

 

数日前に出会った彼女、ペラである。

デンジはペラと初めて会ったあの日から、毎日開店前から店に並んでいる。

そうすると丁度店が開く頃、彼女が店の前へとやってくるのだ。

座るのは、いつも通りの角にある小さな席。

 

「じゃあ……シーフードカレーっての一つ」

「私はコーヒーおねがい」

「俺もコーヒー一つ!!」

 

ここ数日間、デンジはペラの注文する物を真似している。

別に大きな理由があるわけでもなく、なんとなくと言うだけなのだが。

 

「私と同じのばっか頼んでさ、もしかして私とお揃いがいいの?」

「そういうんじゃなくってよ……ここのコーヒーうめぇし……」

「ふぅん」

 

ニヤニヤと笑いながらデンジを見つめるペラ。

デンジは反射的に目を逸らした。彼女の後ろの窓から指す光のせいなのだろうか。

 

「そんなにお揃いがいいならさ、明日私とお揃いのとこ行かない?」

「それってのは……どーゆー事っすか」

「デートだよ、デート!」

 

思わず逸らしていた目線を目の前の彼女に戻すデンジ。

その首は、無意識で縦に振られていた。

 

「デンジ君はどこ行きたい?」

 

首を傾げながら問いかけるペラに対して、デンジは必死に錆びついた脳を回して考える。

しかしデンジの記憶にある行き先は、かつてマキマと行った映画館ハシゴ、もしくは早川家で行った北海道のみである。

瞬間、デンジの目にシーフードカレーが映る。

そこには海老が入っていた。

デンジはそれほど常識があるわけではないが、海老が海に住んでいるということくらいは知っている。

そして海に関係ある場所、水族館だ。

なにせデンジも行った事が無い。

だがどこか、海には特別な思い出がある。

レゼと偶然たどり着いた砂浜や、マキマと行くはずだった江ノ島。

好きな人と行く場所として頭に刷り込まれたのが海であった。

 

「水族館……とか?」

 

これが正解なのかどうかは分からない。

デンジは震えた声で返す。

 

「うーん、水族館かぁ……私苦手なんだよなぁ……」

 

返ってきたのはそんな、正解とは程遠い答え。

だがその直後、ペラは「だけど」と繋ぐ。

 

「デンジ君となら、楽しそう」

 

こうして、デンジの2回目のデートが決まったのだった。




ヒロインの事を好きになって欲しいという感じで書いています
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