デンジと儚き青髪少女   作:あめざり

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折り返しです


君の手はまるでシベリア

翌日、朝9時。

いつもの喫茶店より1時間と半分早く待ち合わせた水族館だが、切符を買い入場を済ませると、いつも通りの少し早めの昼ご飯の時間となっていた。

 

「緊張してる?」

 

ペラがそんな言葉を吐く。

デンジは首を勢いよく振って否定するが、嘘である。

デンジの心臓は今にもエンジンがかかりそうなほど激しく高鳴っていた。

 

何といっても今日のペラの可愛さは格別である。

オーバーサイズのセーターを羽織った上半身に、足の細さをより強調するようフィットしたジーンズとスニーカーを合わせた下半身。

比較的アクティブな印象の服の印象を落ち着かせるような、ブラウンに染まった肩掛けバッグ。

水族館に漂う青いライトの影響で、神秘的な雰囲気も感じられる。

 

手を差し出すペラとそれを受け取るデンジ、二人の初デートが幕を開けた。

 

 

 

「見て見てデンジ君!イソギンチャク!」

「うげぇ、うにょうにょしてて気持ち悪ぃ!」

「えー?可愛いと思うけどなあ」

 

「なあ、クラゲってうまそうじゃねえか?」

「クラゲって毒あるから食べたら死んじゃうよ?」

「だいじょーVでしょ!俺死なねえし!」

「うそつき」

 

 

 

順路に沿って歩く二人。

デンジの目の端に、『イルカショー公演中』と書かれた看板が目に入る。

 

「なぁ!イルカだってよ!見にいかねぇ?」

「いいじゃん行こ行こ!私イルカショー見るの初めてだし!」

 

なかなか乗り気のペラ。

どうやら相当楽しみなようで、デンジが手を引かれる側になっている。

 

座った席は一番前の水まみれの席。

暫くするとイルカが水槽に現れ、様々な芸を見せ始める。

泳ぐ、回る、飛ぶ、全ての動きで激しく水しぶきが舞い、最前列の観客はそれを思う存分に浴びてしまう。

 

「あはは!結構体濡れるんだね!」

「そ、そーだな」

 

ペラの服は体に張り付き、髪は濡れて水滴が滴っている。

それを見たデンジの顔は一段と火照った。

 

「ん?どうしたのデンジ君、顔赤いよ?」

 

デンジの方を向いて首をかしげるペラ。

すると彼女はデンジの頬をツンツンと指で押し始めた。

 

「風邪ひいちゃだめだぞ?」

「は、はい……」

 

デンジは固まるしかなかった。

まるで全身が攣ったのかと勘違いするほど体に力がこもっている。

気づけばイルカショーも終盤だ。

天井から吊るされたカラフルな輪を、イルカたちが列になって飛びくぐっている。

その度に席には水しぶきが飛び、より一層2人の体を濡らした。

 

 

 

「……ねえ」

 

イルカショーの後、再び順路通りに歩いて数十分、大水槽の前でペラがつぶやく。

 

「デンジ君は、学校に行ったことある?」

「あぁ、あるにはあるけどよ」

「私はね、行ったことないんだ」

 

ペラがデンジの手を一層強く握る。

前髪が邪魔をして、ペラの目元は見えない。

 

「私は孤児でさ、貧乏だった親は私を残してどっかいっちゃたの」

 

ペラの言葉は独り言に似ていた。

語りかけるというよりも、自分の過去を思い出しているような。

 

「だからかな、人の温かみってやつが欲しかった。私の地元の人たちの手は、みんな冷たかったから」

 

ポケットから一輪の花を取り出す。

ペラが取り出したそれは、デンジがあの時渡した、血の匂いのする赤い花。

 

「デンジ君が教えてくれたんだよ。人の手が、はじめてあったかいと思えた」

 

そう言って彼女はデンジに花を渡し、つないでいた手を離す。

 

「でもね、私は冷たい方が性に合ってる」

 

ペラはデンジを一瞬見つめた後、すぐに顔を逸らし背を向けた。

 

「今日、楽しかったよ」

 

そう言って去ろうとするペラの手をデンジは掴む。

 

「俺さ……ペラん事好きだよ。だからよ、そのさ」

「……何」

「もうちょっと、一緒に居たかった」

 

引き止める言葉も、手も振り払って、彼女は早足でデンジの元を去った。

手元に残されたのは、渡したはずの赤い花が一輪だけである。

 

何故彼女が去ったのか、デンジは知る由も無かった。

 

***

 

結局、デンジは帰路についた。

それしか道がなかった。

途中、もしかしたらと喫茶店も覗いたが彼女の姿はなかったのだから。

 

「……ただいま」

「デンジ、話がある」

 

傷心のまま帰って早々、ナユタが部屋の中心で座して待っていた。

こう言う時のナユタは、基本お説教タイムが始まる合図である。

 

「んだよ」

「最近会ってる女、あれ誰」

 

話の内容はどうやらペラについてのものらしい。

デンジは不貞腐れながら答える。

 

「俺が前悪魔倒した時会ったンだよ。でもよぉ、今日なんか怒らせちまったのか、急に不機嫌なっちまって……」

「アイツから離れたんだったら良かった、けど諦めるようにも思えないな……」

「あァ?ナユタ、そりゃ流石にヒドくねぇ……?」

 

ナユタはデンジの失恋を安堵している様子である。

普段からデンジに対してややこしい感情を寄せているナユタではあるが、流石に今回の発言は無神経が過ぎると言わざるを得ない。

 

「はぁ……やっぱりデンジは気付いてないか」

「ん?何をだよ」

 

デンジが投げかけた問いに対して、ナユタは手元にネズミを置きながら答え始める。

 

「私の能力でネズミを支配してあの女を追いかけてた。そしたらやっぱり、別の狙いがあったみたい」

 

ナユタは人差し指を自分の左胸に当て、「分かるよね?」とでも言いたげにデンジに視線を飛ばす。

 

「ペラがポチタん事狙ってるって?」

「違う」

「じゃー何狙ってるっつーんだよ」

「……今指したでしょ?」

 

「あの女の狙いは私の……『支配の悪魔の心臓』だよ」

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