デンジと儚き青髪少女   作:あめざり

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皆殺しは4VS1拍子で

初手はペラの拳から始まった。

エンジンありきの最高速ではなく、肉体のみの素早いジャブの連打。岸辺はそれを最低限の動きで回避しながら懐に潜り込み、瞬く間にナイフを三度、ジェットの脇腹に突き刺す。

しかし痛みで怯むこともなく、岸辺の足元を掬いあげるような蹴りはペラの拳から始まった。エンジンアリの速度ではなく、肉体のみの素早いジャブの連打。

岸辺はそれを最低限の動きで回避しながら懐に潜り込み、瞬く間にナイフを三度、ペラの脇腹に突き刺す。しかし痛みで怯むこともなく、岸辺の足元に体勢を崩すための鋭い蹴り。

一瞬、岸辺の体幹がブレた。

コンマ秒単位の戦いにおいて、そのブレは隙である。

つまりだ、直線軌道を躱せない。

肘に生やしたジェットエンジンによる超加速、そこから繰り出される顎へ向かった一直線のアッパーカットは、岸辺の意識を鈍らせる。

ジェットエンジンの轟音が響く、それと共に繰り出される最高速での飛び蹴りが岸辺のあばらに深々と突き刺さり、岸辺は倒壊した瓦礫の山まで吹き飛んだ。

土煙が立ってすぐ、ペラは自信の右手の照準を瓦礫の山に合わせ、その形状を変化させる。

木の枝のように華奢な腕が、丸太のような機関銃へと……

 

「これで終わり」

 

高速で回転する銃身から20mmの弾丸が連射される。

十秒か、二十秒か、その射撃は銃身が赤熱化するまで続いた。

 

「さて、今度こそナユタちゃんを……」

 

彼女は戦いを終えて、背を向けた。

当然である。機関銃の連射を受けて生きている人間はいない。

岸辺はもちろんの事、ペラも不可能である。

 

突如、彼女の右足に、違和感が走る。

その違和感を探るよりも前に、身体が右に傾いた。

斬れていたのだ、足が。

即座に足を再生させ、何とか転倒を防ぐペラ。

 

「……ッ!今度は何……!?」

 

ペラから困惑の声が上がる。

顔を上げるとそこには一人の女性が立っていた。

スーツに眼帯、両手に剣を携えた、不気味なほど無表情な女性。

名前をクァンシと言う。

元々は中国のデビルハンターだったが、マキマに敗北し支配され、支配が解けた今は公安のデビルハンターとして悪魔を斬り殺し続けている。

 

ペラは瞬時に構え直すが、それよりも早くクァンシは地を蹴った。

瞬間移動かのようにペラの視界から消えたクァンシの剣は、一本が首に、もう一本が腕へと振られる。

 

飛んだ首から全身を再生させるペラ。

背後には崩れかけの剣を交換したクァンシと、スキットルの酒を飲み干している岸辺が立っていた。

 

「格闘技術は俺以上、エンジン噴射の最高速はお前以上だ。貧血になるまで粘るぞ」

「……了解。もうヘマはするんじゃないぞ」

「ちょーっとタイム、服着させて!全裸は恥ずかしいや」

 

そう言ってペラは自分のしたいからセーターを剥ぎ取り、足から着始めた。

頭が大きすぎて普通に服が着れないのは武器人間の定めである。

 

「よしっと、リベンジ開始」

「…ん」

 

ペラの構えがまた変わった。

格闘技でもない、頭と体を地面スレスレまで下げている。

その状態から身体中のジェットエンジンを唸らせながら最高速で頭から突進する。

迎え打つようにしてクァンシは剣を振るう。

殆ど残像しか見えない打ち合いの結果は、ペラの勝ちで終わった。

両手に抱えられた岸辺とクァンシ、直後2人は手を離され、空中に放り出される。

 

「空中で"これ"、避けられる?」

 

ペラの左腕が、先端から肩まで変異する。

優に100発は超えるであろう小型ミサイルが、2人の上空より降り注いだ。

 

「ばんっ!!」

 

その弾幕と同時にクァンシは眼帯を取り、その中から血まみれの矢を取り出す。

瞬間、空を覆っていた小型ミサイルの半数以上が途中で爆発した。

爆炎の中から見えたクァンシの姿は、頭中に棘の生えた『弓矢の悪魔』の姿であった。

 

「あはっ!大怪獣バトルだねぇ!」

 

ペラの自由落下がエンジンによる急降下に移る。

残り半数のミサイルが岸辺とクァンシを追い続け、ペラはクァンシの方へと向かった。

正真正銘の真っ向勝負。

クァンシは多少の被弾など気にせず照準をペラに合わせ続け、ペラは飛んでくる矢を交わすため上下左右にエンジンを吹かしながら軌道を変えながら距離を詰める。

ペラの体勢が頭からの突進から足によるヒーローキックへと変化する。

変化したのはそれだけではない。

ゼンマイのような音が鳴ったかと思うと、ペラの全身が大きな空対空ミサイルへと変化していった。

 

その状態のまま、ペラがクァンシの体を貫通しながら超高速で地面へと向かっていく。

だが、クァンシもやられたままではない。

最大限振り絞った矢をかすかに原型の残ったペラの頭部へと直撃させる。

しかしその状態でも必死に傷を再生して、彼女はそのまま突き進む。

 

そして、周囲に爆炎と血肉を撒き散らしながら、着弾地点に大きなクレーターを作り上げた。

 

「……ハァ…ハァ、ようやく…片付いた……」

 

貧血を起こしたのか、ペラはため息を吐きながらその場に座り込む。

ここでの彼女の失敗と言えば、復活阻止のためクァンシの頭部を遠くに投げ飛ばさなかった事と……疲労で背後を警戒していなかった事だろう。

 

背後から岸辺がペラの首をナイフで掻っ切る。

動脈の損傷である、当然血が吹き出す。

しかしその傷は、すぐに塞がった。

ペラは振り返って岸辺の首を鷲掴みにする。

 

「見事に騙されてくれたね」

 

もとよりこれが狙いであったのだ。

岸辺はクァンシ程強く無くとも警戒心が強い。

そのために貧血のフリをして、岸辺が弱った自分にトドメを刺すのを待った。

どれもこれも、ソ連の部屋で習った技術である。

 

「私が今、手のひらのエンジンを点火したらどうなるかな。例えば私ならすぐに再生するけど……貴方は武器人間かな?」

「……チッ」

「これで、本当の本当に終わ……」

 

恐らく、エンジン点火の直前だったのだろう。

突如現れた暴走車が、ペラの体を跳ね飛ばした。

 

「次から次へと……!」

 

揺れる視界の中、ペラが車の窓越しに見たのはただの一般人であった。

しかし何かおかしい。どうにも虚ろな目をしている。

言うならば正気が無いのだ。

そこで思い当たる、死体すら操るとある悪魔、支配の悪魔の存在を。

次々と現れる暴走車、街中のクレーターが大渋滞に陥る。

だがナユタの力なら支配する為に近ずく必要があるはず……そう考えてペラは辺りを見回す。

ただ今度は岸辺の姿が見当たらない。

知らぬ間にどこかの車が回収したと考えるのが妥当だ。

そしてもう一つ。

 

「リベンジ……いいかい?」

 

支配された人間が与えた血によって、クァンシが再生していた。

幸いと言うべきか、変身するだけの余力は無いようだがそれはペラも同じ。

剣も変身も無しの相手に対して、同じく素手だが能力使用可能なペラ。

条件を見ればペラが負ける要素は無い……だが、その相手は岸辺を持ってして「素手の殴り合いなら全人類最強」と評されるクァンシであった。

 

***

 

「よお先生、大丈夫か?」

「人使って車で特攻、お前にしてはいい作戦を考えたもんだ」

「俺も轢き殺された事あっからな、学習したってわけっすわ」

 

クレーターから少し離れた所でデンジとナユタ、そして岸辺は話し合っていた。

戦闘で得た知識を共有する、団体戦の基本のキである。

 

「にしてもどうやった。ナユタはあの量を支配できねえだろ」

 

ナユタはまだ成長途中の悪魔である。

その為、一度に支配できるのは3体程度、その上近づがなければ支配ができない。

その条件下であの量の人間を操るのは実質的に不可能である。

 

「最初の1人以外は支配してないんすよ。それ以外のはチェンソーマンのファンだって言わなかった奴脅して無理やり車ん乗せた普通の人間です」

「……お前は本当にデビルハンターに向いてる」

 

苦笑まじりに岸辺は答える。

実際、最初の一轢き以外正確な攻撃は必要ない。

実に理にかなった作戦だ、到底デンジが考えたとは思えないほどに。

 

「じゃあ俺からも情報をやる。お前の彼女はバケモンだ、昔の俺でも勝てるか怪しいレベルのな」

 

岸辺は人差し指を立てながら語り始める。

 

「問題だ。そんな奴が上空を飛び続けて一方的に攻撃し続けないのは何故だと思う?」

「うーん…手加減すか?」

「馬鹿か」

 

岸辺の主導がデンジの頭に炸裂する。

馬鹿げた答えには暴力で、と言うのが岸辺流の教育なのだろう。

 

「いいか、奴はエンジンを吹かすのに血を使ってる。つまりあの高速移動は諸刃の剣って訳だ。お前は作戦を考えとけ、クァンシの足止めも長くはもたんだろうし、俺は他の課にも連絡を入れておく」

「よしナユタ!作戦会議だ!」

 

ナユタは無言で手をVの形にして応えた。

 

***

 

「2勝1敗……これで私の勝ちだね」

 

もはや原型もとどめていないクァンシを見下ろしながらペラが吐き捨てる。

連戦に次ぐ連戦に次ぐ連戦、流石に体力の限界も近い。

 

(中々疲れた……エンジンもあと数回吹かせるかどうか……それにデンジ君はまだ生きてるだろうし、ナユタちゃんは見当たらない……)

 

ただ、確実に聞こえる足音が一つ。

それとチェンソーのエンジン音が土煙の中から響いていた。

 

「デンジくーーん!!出てきなよ!!決着付けてあげる!!」

 

そんな誘い文句は、エンジン音と共に虚空へ消える。

先ほどまで聞こえていた足音も何故か少しも聞こえなくなった。

ペラは再度周りを見渡す。

車も乗客が全員逃げ出し、動かない障害物となっている。

 

(ゲリラ戦でもするつもりなのかな)

 

さて、悪魔が恐れるデビルハンターとは何だろうか。

圧倒的な身体能力?街を埋め尽くすほどの物量?神童と崇められる程の頭脳?

どれも違う。

短絡的だが行動の読めない、頭のネジが吹っ飛んだ人間が最も恐れられるデビルハンターなのだ。

 

突如、周囲に重低音が鳴り響く。

ペラの耳が受け取ったその音は、まるで瓦礫を押し除けて突進してくるような、そんな音だった。

 

「これが俺ン奥義!!ブルドーザーだアアァァ!!」

 

ナユタの運転したブルドーザーは上に変身したデンジを乗せ、進路の全てを叩き壊しながら、ペラへと一直線に突き進む。

即座に残り僅かな血でエンジンを点火し、真正面からブルドーザーを抑えるペラ。

だが出力が足りないのか、ジリジリと押され始めている。

 

「デンジ!!今!!」

 

ナユタの掛け声と共にデンジは高く飛び上がり、チェーンを前方のブレード部分に引っかけた。

 

「必殺!!ブルドーザーロデオォ!!」

 

そのままデンジはチェーンを使ってブルドーザーの前方を浮かせた後叩き落とし、ペラの身体を押し潰した。

 

「……がッあァ……ほんともう……めちゃくちゃ…」

「勝てりゃいーんだよ勝てりゃァ!!」

「…そうだね……私も……」

 

掠れた声を上げるペラ。血まみれで内臓見えている、到底戦える状態ではない。

 

「勝てれば……いいかな」

 

再びペラのエンジンが起動する。

側から見れば最後の悪あがきにしか見えない行為だが、ペラにとっての勝ちは、ナユタの奪取である。

それ故、ナユタがすぐ近くにいる状況は、今までで最も可能性のある勝ち筋であった。

 

最高速とは程遠い、だがそれでも車の速度など優に超えている。

勝ちを確信したデンジも、未熟な悪魔であるナユタ本人も反応することは出来ない速度。

彼女はそのままナユタを両手で抱え、低空飛行のまま飛んでいってしまった。

 

***

 

主戦場から数キロ離れた路地裏、そこにペラは不時着し変身を解く。

正確に言うなら、維持できなかった。ペラが変身に使うための血があまりに不足し過ぎている。

側には気絶したナユタ、悪魔と言えど血は通っている。

ナユタの腕の肉を噛み切り、そこから血を補給する。

今ここで殺してしまっても良いが、そうすると心臓の移植がうまくいかない可能性もある。

死なない程度の量、それが飲める血の総量であった。

だがそれでも幾分か状態は良くなる。

ナユタを抱え、路地裏を出ようとした、その時だった。

 

「痛ッ!……ナイフ?」

 

彼女の背中にナイフが刺さっていた。

つまりそれは、近くに追手がいることを意味する。

足音も無く近づき、的確にナイフを投擲できる敵、現状の彼女には部が悪い相手だ。

 

突如、背後から物音がした。

決してミスでは無く、姿を現したと言うことなのだろう。

振り返るとそこには、見知った女性が立っていた。

 

「久しぶりだね」

「……レゼ」




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