逆行の刃   作:C E L I C A

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3,判断

 我妻善逸は、気がつくと全身を包帯でぐるぐる巻きにされていた。

 

(ここは……どこかで見たことがあるような……?)

 

 古い記憶を手繰りながら、辺りを見渡す。すぐに答えは出た。

 

(ここ、那田蜘蛛山⁉ 隠の人もいるし、若いカナヲも……。これ、走馬灯? それとも夢? 

まるで俺が……)

 

──過去に戻ってきたみたいだ。

 

 ☀ ☀ ☀

 

「……カナヲ様、お体は大丈夫ですか?」

 

 隠として戦闘後の処理を進めながら、後藤はおずおずと栗花落カナヲに声をかけた。

 

「カナヲでいいよ。さっきは驚かせてごめんね」

 

 カナヲはふわりと微笑む。

 

「いえいえいえ、私たちもかなり混乱していましたので……! 何もお気になさらず!」

 

 後藤は頭巾が脱げそうな勢いで、勢いよく顔を横に振った。周囲の隠たちもそれに続き、無言で頷く。実際、後藤の言う通り、つい少し前まで彼らは大混乱に陥っていた。

 

 ☀ ☀ ☀

 

 ──鬼殺隊は解散したはずなのに、なぜ自分たちは隠の格好をしている? なぜ若返っている? ここはどこなんだ? 夢か? 本当に夢なのか?

 

 だが周囲には、自分と同じように困惑する『元』隠たちが大勢いた。皆で状況を整理し、記憶をすり合わせ、やっと気づいた。

 

 ここは那田蜘蛛山。そして──恐らく自分たちは、『二度目』の人生を歩み始めているのではないか、と。

 

 ならば、まずはこの山での後処理を終えなければならない。そう判断し、前回の記憶を頼りに現場へ向かっていたとき、彼らは呆然と立ち尽くすカナヲを見つけた。

 

 最終決戦後もカナヲと縁があり、交流のあった後藤が代表して声をかけると、カナヲは静かに涙を流していた。

 

「……目が見える。体も若い。──だったら、きっと……」

 

 その先の言葉は続かなかったが、後藤には彼女の思いが痛いほど伝わった。自分も、全く同じことを考えていたからだ。

 

(そうだよな。この時代なら、炭治郎も、柱の皆様も、まだ生きている……。

それが、どれほど嬉しいことか。

……ただし無惨はいるが、アイツが何度現れようが、絶対に殺す)

 

 カナヲが落ち着くまで、後藤は何も言わず、ただ側にいた。そして、合流した隠たちと共に現場へ向かい、今に至る。

 

 ☀ ☀ ☀

 

 場面は変わる。

 

 冨岡義勇と胡蝶しのぶは、向かい合っていた。

 

「さあ冨岡さん、どいてください」

 

 しのぶは表面上は穏やかだが、内心は激しい怒りで渦巻いている。それを辛うじて抑えていた。そんなしのぶに、義勇はきっぱりと言う。

 

「それはできない」

 

「なぜです? その鬼に、一体どんな情を?」

 

 しのぶは刀を真っ直ぐに構え、じりじりと詰め寄る。一方、義勇は禰豆子を片腕に抱えていた。禰豆子は抵抗せず、大人しく身を委ねている。

 

「禰豆子は鬼だが、人を喰ってはいない。それは、今の様子を見れば分かるだろう」

 

 しのぶは首を傾げて疑問の意思を示すが、その動作に可愛らしさというよりかは、むしろ怒気をまとっているようだった。

 

「私には分かりませんよ、冨岡さん。なぜあなたが、その『人喰い鬼』を庇うのか。

大人しくしているのは……今だけでしょう? 鬼とは、元来『そういうもの』なんですから」

 

 そう言うと、しのぶはふわりと跳び上がる。その羽織の動きと相まって、まるで本物の蝶のように宙を舞った。義勇は禰豆子をかばいながら、片腕で応戦する。

 

 打ち合いは短く、何度も繰り返された。

 

(……早く来い。伝令が来なければ、このまま戦いが終わらない……)

 

 義勇はそう祈るように思いながら、刀を振り続けていた。禰豆子も、しのぶも傷つけぬように。そして、炭治郎の息が続くように。

 

 ☀ ☀ ☀

 

 カナヲは、全力で駆けていた。

 

 一通りの後処理を終え、カナヲの頭に浮かんだのはただ一つ。

 

(そうだ。私はこの時、炭治郎と禰豆子さんを──追っていた)

 

 痣によって早逝した炭治郎の姿を思い出すと、自然と涙があふれる。はっきり見えるはずの視界が、滲んでいく。

 

 気づけば、じっとしていられなかった。その思いを、後藤は正確に汲み取った。

 

「もう、こっちは大丈夫だ! あいつらのとこへ行ってこい!」

 

 少し遠くから聞こえた後藤の声に、カナヲは胸がいっぱいになりながら、ひたすら走り続けた。

 

 そして、見えた。

 

 禰豆子を抱えた義勇と、攻めかかるしのぶ。そして、少し離れた場所には、倒れたままの炭治郎。戦っている二人は炭治郎に気を回せていないようだった。

 

(……後藤さんたちも、一緒に来てもらえばよかった)

 

 後悔は一瞬。すぐに首を振り、炭治郎の元へ駆け寄る。生きている……その体温を感じるだけで、涙がまたこぼれそうになった。左腕にそっと触れる。しわしわだったはずのその腕は、若く、力があった。

 

 生きている。

 

 抱き上げると、華奢な見た目に似合わず、軽々と持ち上がる。今すぐ後藤たちのもとへ運ぼうとした、そのとき。

 

「伝令‼ 伝令‼ カァァ‼」

 

 鴉の声が響いた。

 

 その瞬間、義勇としのぶの動きが止まる。義勇とカナヲは表情こそ変えなかったが、内心で大きく安堵していた。

 

「伝令アリ‼ 炭治郎・禰豆子両方ヲ拘束、本部ヘ連レ帰ルベシ‼ 

炭治郎、額二傷アリ、竹ヲ噛ンダ、鬼禰豆子‼」

 

 しのぶはハッとした。

 

「もしや冨岡さん、このことを分かっていて、その鬼を庇っていたんですか?」

 

「そうだ」

 

 義勇はコクリと頷いた。

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