続きどこですか
「トレーナーはどうして私をスカウトしてくれたんですかー?」
「どうしたいきなり?」
いつもの放課後、ストレッチを手伝ってくれているトレーナーになんとなく聞いてみた。
「だってスカウトしてくれた時の模擬レースだって9人中8着だったじゃないですか。私より早くて強い娘は他にもたくさんいたのになんで私をスカウトしてくれたのがなんでかなーって」
この1ヶ月ずっと疑問だったこと。ただ嫌だったわけじゃない。むしろ嬉しかったしありがたかった。ともすれば、トレーナーについてもらえなかったかも知れなかったのだから。
「そりゃお前。俺はトレーナーなんだから。最初から速くて強いウマ娘育てるよりも、誰も注目してないようなウマ娘をG1勝てるくらいに育て上げた方がトレーナーとしてカッチョイイだろ?それに特に取り柄のない1年目の新人トレーナーがそんな有望株スカウトできるわけないし。」
「えー?なんですかそれ。私ってばありあわせ扱いですかー?」
呆れて少し笑ってしまった。あけすけすぎる。他のウマ娘なら怒って契約解消までまっしぐらでもおかしくない。まぁこの物言いも嫌いではない。ある意味で信頼の証だろう。
「ていうかナチュラルにG1目指せって言われてます?先週のメイクデビューも7着だったんですよ?私的には未勝利戦かってあとは1回2回勝てればはなまる満点だと思うんですよー。ちょっと厳しいかなーって。」
なので私も開きなおる。最初からこんなに志が低いとバレるとスカウトされないと思って隠してた思いをぶちまけてみる。まぁこのトレーナーなら受け止めてくれるだろうという甘えと、契約解消になったらそれはそれでトレーナーも新しく相性のいい娘と契約できるならいいんじゃないかなという諦めと。
「確かにそうかもな。」
トレーナーが少し笑いながらあっけらかんと肯定する。少しポカンとしてすぐにムッとしてしまう。そりゃあ自覚はありますけど、それはそれとしてトレーナーにはちょっとは慰めてほしいのだ。この面倒臭い女心をわかって欲しい。言い返そうと口を開いた瞬間
「でもそんなこと言いつつ誰よりも負けず嫌いだろ?」
そんな予想してなかったことを言われた。
「あの模擬レースで、1番ギラついてたのがお前だった。周りより能力値が低いのは事実だろうけど、それを受け入れた上で最後まで全力で追い縋ってた。負けたあとも『まぁこんなもんか』みたいな雰囲気出しつつターフを見ながらレースを振り返ってたろ?反芻して反省して何がダメだった、何が足りなかったか次のために考えて、それに基づいて練習をしていた。」
確かにそうだけど、そんなの負けるために走る奴なんていないんだから当たり前のことだ。
「さっき言ってたことも本心なんだろうよ。けど、これから先勝てば勝つほど次の目標がある。それを前にして『諦める』って選択肢がお前から出てくることは絶対にないと思った。勝負の世界にいる限り1番必要なその飢えを持っていたからお前をスカウトしたんだ。足りない能力は最高率で俺が伸ばす。飢えが満たされない限りお前は必ずそれに応えてくれる。そしたらほら、卒業する時お前はG1ウマ娘だ。」
チョロいと思われたくなくて、口角が上がってきそうなのを必死に我慢する。なんだか自分以上に自分のことを知られてるみたいでむずむずする。ていうかさっきスカウト理由聞いた時に言えばいいのに。自分に見切りをつけてるようなことを言ったからちゃんとした理由を教えてくれたのだろうか。でも、あぁ、なんて幸運なんだろう。こんなに色々足りない私に、身の丈に合わない欲を諦観で誤魔化そうとしている私に、こんなにも期待してくれるトレーナーと出会えた。本当にここに入学してよかった。じゃなきゃ今頃地元で理想と現実のギャップで腐っていた。
「そこまで言われちゃ仕方ないですね〜。G1、目指しちゃいますか!」
誤魔化すように飛び上がりながら宣言する。嬉しさで声が弾んでしまうが仕方ない。トレーナーと何より自分に対する決意表明だ。
「私はトレセン学園の中で下から数えた方が早いくらい脚が遅いです!でもトレーナーが期待しくれるならどこまでも速くなってみせます!だからトレーナー、ちゃんと見ていてくださいね?」
少し呆気に取られてる様子のトレーナーがどこか愛おしく感じる。先ほどまであった他の相性のいいウマ娘がいるんじゃないかなんて思考は消し飛んだ。
「改めてこれからよろしくお願いします。期待してますよー?トレーナー♪」
視界が少し開けた気がする。これから2年間とても、とても楽しみだ。