諸々あって淀んだ日々を送っていた高校生西東成世は、ある時“元”神を名乗る者ディーに目を付けられる。

『僕の暇潰しに付き合う気はないかい? 報酬は……そう。君の無くしかけの光を取り戻す。なんてどうかな?』

 異世界へ赴き、世界のどこかに居る勇者を見つけ出せ。

 旅の相棒は謎のデカい苺大福もどき。チートスキルはあれど使いどころは難しい。

 それでも成世は前へ進む。大切な人を取り戻すために。

 これは、たったそれだけの物語だ。





 なお、勇者(悪友)を見つけたら一発ぶん殴って連れ帰る気まんまんの模様。


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頭に苺大福を乗せた男

『やあ君! ところで突然だけど、僕の暇潰しに付き合ってくれる気はあるかい?』

 

 突然見知らぬ相手にそんな事を言われて、首を縦に振る者は居ないだろう。俺もそうだ。だが、

 

『ちょっとちょっとっ!? 話を聞いてくれてもいいじゃないかい? 決して損はさせないとも。そう。例えば……』

 

 聞き逃せない内容があれば、当然話は違うものだ。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 瞳を開けると、そこは木々が生い茂る森の中だった。

 

 木漏れ日は差し込んでいるものの影もまた多く、目にこそ見えないが何かの鳴き声が聞こえる事から生物が居る事は間違いない。

 

 俺がついさっきまで居たのは病院の一室。それが少しの暗闇と光を越えた瞬間急に森の中という事であれば、普通はパニックになるし落ち着いて思考なんかしていられない。ただ、

 

「……どうやら着いたようだな。胡散臭い奴だったが、言ったことはあながち嘘という訳ではなかったようだ」

 

 事前に知っていれば話は別だ。

 

 

“異世界に転移させる”。そんな定番だが眉唾な言葉を“元”神を名乗る怪しい者に聞かされた時は何を馬鹿なと思ったが、それからの諸々の説明と本当にそれらしい場所に跳ばされた事を考えれば、ある程度は本当だったのだろう。

 

 自分の格好を確認すれば、ここに来る前と何も変わっていない。

 

 いつも通りの学校の制服。いつも通りの祖父譲りの浅黒い肌。いつも通りの……自分の身体だ。

 

 奴曰くこの異世界に適応させるために少し弄ったらしいが、目立った違いは見当たらない。そして、

 

「異世界……という割には、日本でも時々ありそうな森の中だな。多少木々が大きいくらいのものか?」

 

 辺りの様子を見て、俺はそう一人で呟く。別に植物の専門家ではないので、精々がそこらで見る木よりも少々大きく茂っているくらいしか分からない。

 

「プ~イっ!」

 

 まるで「そうだね」とでも言うかのように、俺の頭の上でポヨンポヨンと謎の物体が飛び跳ねた。 

 

 ()()()()()()。その“何か”を遠目で見ればそう見えるかもしれない。薄桃色の柔らかそうな肌に丸い外見をしている。

 

 ただそれは遠目で見ればの話だ。近くで見ると明らかに違うということが分かる。何せ、クリクリとした目と口がある四、五十センチ程の苺大福は流石にないだろう。

 

 よく見れば目の上の方に触角のようなものが二つにょっきりと生えていて、何やら身体の後側は尾のように細くなっている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あまりはしゃぎすぎるな。“プゥ”」

 

 この謎の生き物、“元”神曰く俺に与えたチートスキルの産物だというプゥは、俺が注意すると弾むのを止める。言う事を理解する知性と自分の意思がしっかりとある証拠だ。……頭の上からは離れようとしなかったが。

 

「まったく。……それにしてもあのバカ。前から異世界に行ってみたいだなんて言っていたが、まさか本当に行くとは。何をしでかすか分からん大バカ野郎め」

 

 俺はこの異世界に先に来ているらしい悪友のあっけらかんとした笑顔を想像し、少し苛立たしくなって拳を握りしめる。

 

「異世界に行くのまではまだ百歩……いや一万歩譲っても良い。あのバカなら奇跡的にやらかしてもおかしくはないからな。だがこっちに何の連絡も無しに出発し……それで待ち合わせに()()()()遅れるとはどういう了見だっ!」

「プ~イプ~イっ! ププイプイ!」

「……すまない。一瞬だが我を忘れた。今はそんな場合ではなかったな」

 

 頭上からのぽよぽよした感触と明るい声に、俺はハッとしてよしよしとプゥの頭を撫でると、プゥはうっとりと目を閉じて気持ちよさそうにする。

 

 しばらくそうしていてふと気づくと、

 

「むっ!? ……流石は異世界だ。少し思い出し怒りをしている間に木々が勝手に形を変えるとは。これは進むのが難しいかもな」

 

 周囲の風景が変わっていた。

 

 まるでとんでもない突風でも吹いたかのように近くの木々の枝は曲がり、葉は巻き上がり、地面は軽くえぐれている。

 

 恐ろしい話だ。まさか思い出し怒りをしてプゥに意識が向いているたった一分足らずの間にこうも景色が変わるなんて流石異世界。丁度自分を中心に地面がえぐれているようだが、それは何かの偶然だろう。

 

「どのみちここでじっとしている訳にもいかないか。まずは人里に出なければ。荷物は…………これだな」

 

 “元”神が餞別代りにと持たせたリュックサック。

 

 何故か少し離れた場所に移動していたそれの中身をざっと確認して背負い、男は一緒に置かれていた灰色の外套と、何かの金属でできた滑らかな手触りの棒を手に取る。

 

 俺がやるべき事はもう既に決まっている。

 

 古今東西の異世界転移のお約束。

 

 チートで第二の人生を謳歌し、楽して自分だけの国を築きハーレム三昧を楽しむ……という事ではなく、

 

 

「待っていろよ時久(バカ野郎)。さっさと見つけ出して力尽くでも引っ張って帰るからな」

「プ~イっ!」

 

 

 この世界のどこかに居るという俺の悪友。ある意味天に愛されたような幸運と悪運を備えた生粋の冒険野郎。桜井時久を探し出し、とりあえず一発殴って首根っこを掴んで元の世界に帰還する。奴の妹、今も病室で眠り続ける大切な人の所に送り届け、眠りの淵から引き戻してもらうために。

 

 

 こうして俺、西東成世(さいとうなるせ)は謎の苺大福モドキのプゥと共に異世界に足を踏み入れた。

 




 どうも! 知らない方は初めまして。作家未満の物書きの黒月天星です。

 如何でしたでしょうか? 今作は現在やっている企画(自分だけ)。昔設定だけ考えた作品の導入部分だけを投稿して供養しようという物の第三作目にあたります。


 なお続きません。あくまで供養ですし、導入部分と簡単なあらすじだけという企画ですので。


 こちらは私が一番最初に投降した作品『異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません』のさらに前段階で設定を考えていた一作を少し手直しした物になります。ある意味で原点の作品ですね。

 ただ設定的に桜井時久サイドの方が話が盛りやすく、結果的にあちらの話を進めていくという事になりましたが。

 また、向こうの作中で一方その頃的なこちらの内容も少し出していますので、以前その作品を読んでいただいた読者の方からしたら少し先の展開も分かるかもしれませんね。

 さて。三日間続けてきた短編連続投稿ですがこれでいったん最後となります。

 少しでも皆様の暇潰しにでもなったのなら幸いです。



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