シェリハン作品   作:みょん!

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貴女の手が自由なものになってから

 布団の中で、シェリーさんの手が動くのが分かった。

 それまでわたくしを抱きしめて胸の前で組んでいた手が、何かを探すように動く。危うく変なところに手が伸びそうになって、手でガードする。

 ――貴女が探しているのは、こっちでしょう?

 言葉にしなくても、目を合わせなくても、きっと伝わるだろうから。シェリーさんの指を、指の腹で撫でてやる。

 頭のてっぺんに、ほんの少しだけ熱のこもった息がかかる。

 それが合図だった。

 シェリーさんの手が、わたくしの手をたぐり寄せて、両方の手で優しく包む。指の一本一本を撫でるようにしていたかと思うと、軽く揉んだり、指を絡めてきたり。軽く握ったり、放さないように強く握ったり、繋ぐ手の形を変えたり――。

 シェリーさんの手つきは、優しいもの。痛くもなければ、嫌な気持ちでもない。だから振り払うこともないし、引き剥がすこともない。ほんの少しくすぐったく思うだけだから、このままにする。

「~~~~~~っ! ちょっとシェリーさん!」

「えへ」

 ただ、時々舐めたり甘噛みしてくるのは、止めてほしいのだけれど――。

 

 シェリーさんが、わたくしが、牢屋敷にいるみんなが、魔法を失って、数日。シェリーさんの手から【怪力】が無くなって、数日。シェリーさんはことあるごとに、わたくしの手を弄ぶようになった。

 何かと、理由を付けて。

 理由をこねくりまわさなくても、『ハンナさんの手、触ってみたいです!』だとかでもいいのに、『手相見せてください!』だの『ハンナさん、手、疲れてませんか? マッサージしてあげましょうか』だの言って、わたくしの手を触ってくる。

 そしてわたくしの手を両手で持って、そして掌を揉んだり曲げてみたり、指を撫でたり。それから手を繋いで、きゅっと優しく力を入れて。顔を合わせて、くすぐったくて笑い合った。

「ハンナさんの手って、本当に小さくて柔らかいんですねー」

「今更ですの? あんだけわたくしと手を繋いでたくせに」

「私だって色々と気を付けてたんですよぅ」

 拗ねたような言い方をして、子どもっぽく分かりやすく口元を尖らせて、そして吹き出すようにくすくすと笑ったシェリーさん。そのやりとりはそれで終わったけれど――それはシェリーさんの本心だったんでしょうね、と思う。

 シェリーさんと実際に手を繋いだことは、まだ両方の手で数えきれる程度しかない。けれどその経験した数で言えば、両手両足どころじゃないくらいに、やった覚えがある。

 毎日のように手を繋いで、牢屋敷中を歩き回ったり、最期に手を取ってもらったり――わたくしの記憶は、シェリーさんと一緒にいる記憶で溢れている。

 シェリーさんの【怪力】の魔法は、わたくしの【浮遊】の魔法のように、自分で意識して発動させるもの、というわけではない。もちろんシェリーさん自身でコントロールしてきた部分もあるのだろうけれど、魔法は、勝手に、無意識に発動してしまう。

 わたくしのお願いを叶えてくれた時、わたくしの叫びを聞いてくれた時、あの頼もしいほどの圧倒的な力は、シェリーさん自身を縛っていたのだと、魔法を失った今は、はっきりと感じる。

 牢屋敷(ここ)に連れてこられた日、わたくしの手を引いたその時から、シェリーさんはわたくしを、大事に扱ってくれていたのだなと、分かる。

 その、反動というものなのでしょうか、と思う。

 

 ――シェリーさんが、わたくしの身体によく触れるようになったのは。

 

 特に触れてくるのが、手。

 ベッドで一緒に寝る時、布団の中でわたくしの手を弄ぶのがシェリーさんの日課のようになっている。

 ――ハンナさんの手は柔らかいですね、だとか。

 ――ハンナさんのこの手でぬいぐるみ作ったり気球作ったりしてたんですね、だとか。

 ――ずっと触っていたくなります、だとか。

 ベッドの中で、手に触れられながらすぐ近くで囁かれる度に、胸はうるさくなるわ触れられてる所は熱くなるわ、むしろ変に汗も出そうになるわで、寒いはずの監房の布団は、今のところ寒さ知らずになっている。――それがいいかどうかは、置いておくとして。

 そして今も、その日課は続いている。

 掌を指先で押してきたり、かと思えば指先を抓んできたり、指の間に指を滑り込ませてきたり、そのまま握ってきたり。

 シェリーさんが手を繋ぐ形を取るとき、その度に、つい無意識に握り返してしまう。そしてすぐ後ろからくすぐったそうな吐息が漏れ聞こえてきて、勝手に口元が緩む。――最近は、その繰り返し。

 手を繋ぐと落ち着く、というのはこれまでの経験で嫌と言うほどに知っていたのに、いざされる側になると、それが正しいものだったんだなと改めて実感する。

 シェリーさんがそれを分かっているかは分からないし、これまでのシェリーさんの言動からすると、『ハンナさんの手に触れていたいんです』というだけ、なんだろうけれど。

 ――それに、安らぎを貰っている自分がいるのは、確かだから。

 

 だからわたくしの手は今日も、シェリーさんの手に包まれる。




魔法を失ったあと、シェリーちゃんはハンナちゃんの手の感触を確かめるようににぎにぎするのが癖になってたら可愛いな、という妄想。
興味津々な顔でハンナちゃんの手をにぎにぎするのもいいし、ハンナちゃんとくすぐったそうに笑い合っててもいい。
幸せなシェリハンはここにあります。
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