シェリハン作品   作:みょん!

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図書館ではお静かに! ですわ!

 定期テストを前にした休みの日。

「ハンナさん、勉強会しましょう!」

 いつものようにノックもせずチャイムも鳴らさず、なんなら来るという連絡もせず、シェリーさんが寮の部屋にやってきて、開口一番そんなことを言ってきた。

 リビング兼玄関に続く扉を開けると、「あ、ハンナさんおはようございまーす!」と遅れた挨拶をしてくる。まったくもって順番が逆。まぁいつものことだからいいのですが。

「寮の部屋は隣なんですし、別に勉強会もへったくれもねーんじゃねーんですの? っていうか、手に何も持ってないじゃないの」

 ――貴女、何しに来たんですの? と暗に言うと、シェリーさんはぷぅ、と頬を膨らませる。

「ハンナさんの家でやるのもいいんですけど、時には場所替えましょうよー」

 そして、そんな甘えるような声を出す。

 これまでの勉強会と言えば、シェリーさんがお菓子や飲み物を準備したりと万全の態勢で開始して――結局、勉強の時間よりも『息抜き』の時間の方が多かった。

 どれもこれも、勉強中にシェリーさんが甘えてくるからで――いやまぁ、わたくしもそれに抗わなかったのも悪いといっては悪いのだけれど、悪いの度合いで言えば圧倒的にシェリーさんが上だと思う。

「で? 行くんならどこに行きますの? 喫茶店とかファミレスとか?」

 これまで触れてきたものの中で、学生たちが勉強会をするとすれば、そういった所が多かった。ほどよくお金がかかるものの、シェリーさんとなら……と思っていると。

「ふっふっふ……。シェリーちゃんにとっておきの場所があるんですよー。しかも、お金がかからずに勉強会ができる場所が!」

 まるでわたくしの思考を読んだかのようなことを、シェリーさんが言ってくる。

 それはそれはドヤ顔で言ってくるシェリーさんに。ほんの少しの期待と、同じくらいの不安と、また楽しいことをしてくれるんだろうな、というわくわくが、わたくしの中にあった。

 

◇◇◇

 

「ここです!」

 シェリーさんと一緒に寮から歩くこと、二十分ほど。シェリーさんに連れられてやってきたのは。

「図書館、ですの」

「はい! ここなら冷房完備、学習机も完備ですよ~」

 褒めて褒めてと言わんばかりの声の弾みよう。確かに図書館で一緒に勉強をするシチュエーションの作品もあった。盲点だった。確かにここなら――――シェリーさんも、静かでしょうね、と思った。

「ハンナさん、なんか違うこと考えてません?」

「……気のせいですわ」

 妙な鋭さを見せるシェリーさんだったけれど、それも一瞬のことで。すぐにいつもの人なつっこい笑みになって、わたくしの手を引く。

「さ、図書館デートしましょう! ハンナさん!」

 

 ――今、デートって言いました?

 

◇◇◇

 

 シェリーさんと一緒に学習スペースを回ること、しばらく。

「考えることはみんな一緒なんですね~」

 二人分並んで空いている机は、一つも見つからなかった。

 図書館の中は一般の人ももちろんいるものの、大半が同い年くらいの人ばかりで。なんなら。

「うちの制服を着てる方もいらっしゃいますわね」

「穴場だと思ったんですけどねー」

 手を繋ぎながらも、器用に肩をすくめるシェリーさん。声は本当に残念そうに思える。

「シェリーさんは来たことありましたの?」

「いいえ!」

 自信満々に言ってのけた。

「…………それでなんで、わたくしを連れて来たんです?」

「それはほら、ハンナさんが選んでくれた本の中に、そんなお話がありまして。ハンナさんとやってみたいなって思ったんですよ、図書館デート」

 手段と目的が逆になっているのは、まぁ置いておくとする。『ハンナさんが読んでいるもの、私も知りたいです!」と言ってきたシェリーさんと一緒に古本屋に言ったのは今年の春頃の話で。早々に読破報告を貰ったし、『よく分かりませんでした!』と言ってのけたシェリーさんだったから、何も残ってないと思ったのだけれど――その本は、自室の本棚に保管されている。好きな本だし――。だから、シェリーさんの口からそんな事が出てくること自体、嬉しいと思えたし、なんだか胸がむずむずとするのが分かった。

「着眼点はいいと思いますわよ」

 だから、なんでしょうね。シェリーさんを思わず褒めてしまったのは。

「へへ、ハンナさんに褒められちゃいました。ついでにもっと褒めてください。シェリーちゃん可愛い大好き、えら」

「じゃあとても偉いシェリーさん、一緒にテスト勉強ができる机を探してくださいます?」 

「最後まで言わせてくださいよぅ」

 一度褒めたら調子に乗るのがこの人。言う事が分かったから、途中で遮る。

 ぷぅ、と頬を膨らませたシェリーさんは、けれどすぐに表情を戻す。『じゃあ今度は中の方を探しましょう!』とわたくしの手を引く。

 高い高い本棚の中を、手を繋いで歩くのは新鮮で。いつか牢屋敷の中で巡ったときには本を吟味するようなことはなかったから。いつか、シェリーさんと一緒に勉強以外の目的で図書館に来るのもいいのかもしれない、と思う。

 シェリーさんは推理小説。わたくしは恋愛漫画。それぞれのオススメを選んで、図書館の中で読んで――そんな、少女漫画の中で行われるようなやりとりを想像しながら、わたくしはシェリーさんに手を引かれるままに図書館の中を、右に左に。上に下に。けれども空いている学習用の机は見当たらない。

「せっかく図書館に来たのに二人で並ばないと勉強会じゃ…………あ』

 シェリーさんが何かを見つけたように言葉を止める。シェリーさんの視線の先を見てみると、そこにあったのは。

 正方形の、大きな机。

 椅子も各辺に三つずつあって、大人数で学習する際に使うであろうことが分かる。

「使ってる人もいませんし、ここにしませんか?」

 というシェリーさんの言葉に賛成し、大机で勉強をすることにした、のだけれど――。

「――――で、なんでシェリーさんはこっちに来やがってんですの?」

「えへ」

「えへじゃなく。空いてるでしょう。向かいとか、角とか」

「だってー、ハンナさんと一緒に勉強したいんですもん」

 シェリーさんは、家に居るときと同じくらいの甘えた声を出す。

 ――だってじゃねーですわよ。だってじゃ。

 机は秘録、向かい合わせでするには少し遠いから、角々を使うならまだしも。角に座っているわたくしの隣に来て学習道具を広げて。そして勉強をし始めたほんの数分後、すり、と頭を擦りつけて甘えてきた。図書館の本の匂いの中に、シェリーさんの匂いを感じる。シャンプーの甘い匂い。胸がどきりとなる。

「……せめーですわ」

「私は平気です!」

 自慢げに言ってくる。ここは図書館、声を大きくすんなー、ですわ、と人差し指を口元に当てると、シェリーさんはぺろりと舌を出す。

「はぁい。……でも」

 小さく返事をして、そして。手を、上に載せてきて。

「ハンナさんは、この席はいや、ですか?」

「…………」

 その言葉を言うのはズルいと思う。この体勢で言うのはもっとズルいと思う。わたくしが返せないと分かって言ってるんだろうというのが分かる。

 目を見て、まっすぐに見てきて。くりくりとした丸い目で見つめてきて。ゆっくりとその目を細めるのが見える。

「………………嫌、じゃ……ねーです、けど……」

 シェリーさんの顔が、にこーっと、嬉しそうなものになる。すぐ隣で見る恋人の笑顔は、安らぐもので、愛おしいもので、そして――胸が高鳴るもので。

 そして、シェリーさんは。顔をゆっくりと近づけてきた。

 ――あの、シェリーさん。流石に図書館じゃ……。

 かと、思うと。

「ハンナさん、髪、ホコリついてますよ」

 だとか言って、髪に触れてきた。

 ――されるのかと思ってしまった。

 そう思った自分が恥ずかしくて、バカみたいで――爆発しそうになった。

「さ、始めましょうか」

 そんあわたくしのことなんて一切気にしてないかのように、シェリーさんは問題集を正面に、教科書を左に、そして参考書をその上に並べる。

 ……いやべつに期待してたということじゃないですし、図書館はそういう場所じゃないですし。

 ――それはそうとして胸がドキドキしてるのはどうしてくれよう、と思うけれど、図書館で騒ぐなと言ったのはわたくし自身なのだから、ここでシェリーさんにブーメランをぶちかますわけにもいかない。

「…………そう、ですわね」

 あーんな空気を作っておきながら、コイツは。ロマンチックも何も分かってねーんですから! 図書館デートとか言っておきながら! 結局やることは勉強じゃねーですの! そういうところがノンデリって言われるんですのよ!

 そう、胸の中だけでシェリーさんに思う存分反論をして。

 それから意識を切り替えることにする。

 今は勉強をする時間。『そういう』のは、寮に帰ってから――。

 ちゅ、と。頬に何かを感じた。

 柔らかい感触。それから、一部にだけ涼しい感覚、が――――。

「てへ。やっぱり、したくなっちゃいました」

「――――――――」

 隣を見る。にまっとした顔をして、シェリーさんが言う。

 顔がどうしようもなく熱くなるのが分かる。

「――――このノンデリゴリラ。バカ犬」

「増えましたねー」

「嬉しそうにすんなー、ですわ」

「じゃあ、きゃん……! って言えばいいですか?」

「声真似下手ですわねー。エマさんならともかく、ヒロさんに聞かれたら無言で火かき棒持ち出されますわよ」

「ヒロさんならありえそうですねー。エマさんに対してだけは視界狭まりますし」

 だなんて話をしていたら、カウンターの向こうにいる司書さんの目がこっちに向いているのが見えた。

 ――知らず知らずのうちに、いつものノリで話をしてしまっていたのに気づく。

「しー、ですよ、ハンナさん」

「貴女に言われたかねーですわよ」

 そもそもの原因が、シェリーさんがキスしてきたことなのは、この人は分かってるんだろうかと思う。けど、家での勉強会もそうだったから、いつものこと扱いなんでしょうね、と思う。

 さっきから心臓がうるさいのはどうしてくださいますの。ねぇシェリーさん。

「さ、やりましょうか!」

「…………後で覚えておきなさいな」

 せっかくのテスト勉強しに来たのに、集中できなかったら本末転倒もいいところ。

「え」

 だと言うのに、シェリーさんが何やらきょとんとした顔をするのが見える。変なことを言っただろうかと思う。『覚えとけ』は常套句だと思うのだけれど。

「家に戻ったら思う存分いちゃいちゃしていいってことですか?」

 だとか、どうとか。今からそれが待ち遠しいと言わんばかりの顔をしてきた。

「…………やっぱ貴女はバカ犬ですわ。ゴリラは撤回します」

「…………あれ、弱くなってません?」

「【怪力】が無くなったからいいでしょうよ。――――っていうか黙れー、ですわ。そろそろつまみ出されますわよ」

「そしたらハンナさんの家で勉強会ですね」

 元に戻ってるじゃないの! とツッコミかけたところを、必至に抑える。シェリーさんといると、本当に気が休まらない。勉強しに来たのに気がついたらいつものやりとりを交わしている。

 本当にこの人は。まったくもう、この人は!

 わたくしを退屈させないことについては、一流なんですから!




シェリーちゃんとハンナちゃんが図書館デートするお話が読みたかったので書きました。
二人はいつもいつでもどこでもいちゃいちゃしててほしい。
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