――「来年は、私がエスコートさせてもらってもいいですか?」
私は、ハンナさんに嘘を吐きました。
いえ、正しくは嘘を吐こうとしてついたわけじゃないのですが。結果として、言葉が嘘になってしまった、ということで。
「ハンナさん、桜、綺麗ですねー!」
「…………そう、ですわね」
一歩、一歩。ゆっくりと。並んで歩くハンナさんからの声は、少し遅れて聞こえました。ちらりと隣を見ると、ハンナさんも頭上に広がる桜色を眺めているのが分かります。
表情はいつもどおり。少なくとも、つまらなさそう、というものは感じません。けれどどこか、反応がゆっくり目なのは。
「貴女ねぇ……。昨日の今日じゃ何も変わらねーでしょうに」
私の視線に気づいたのか、ハンナさんは私の方をじろりと見てきます。そして言い終わると、小さくため息。それはどちらかと言えば、笑みを抑えきれないときの吐息。
思わず、口元が緩んでしまう気がしました。ハンナさんと、通じ合った気がして。
「てへ。ハンナさんとまたお花見したくなっちゃいまして」
「時間にしても昨日のからまだ半日も経っちゃねーんですのよ? 余韻もへったくれもねーですわ」
「だってー、ハンナさんとお花見をしたくってー。今度は私がハンナさんをお連れしたかったんですよぅ」
「呆れた。犬か何かですの、貴女は」
ハンナさんの声は、それでも柔らかさがあって。怒られてるようには思えませんでした。
見ているのは、昨日見に行った公園とは方向としては逆側の、河川敷沿いの桜。場所こそは違えども、ハンナさんと一緒に桜を見るということは、変わりません。
なぜ二日続けてハンナさんと花見に来たかと言えば。
――確認がしたかったんです。
昨日、ハンナさんと見た桜は、これまで見た桜とは、違って見えました。
ハンナさんと手を繋いでるからか。
ハンナさんの声を聞いているからか。
はたまた、ハンナさんの金色の綺麗な髪が時々見えるからか。
どうしてか、分からなかった。
だから、知りたくなった。
――理由なんて、それで充分ですよね?
『ハンナさんと一緒に見る桜が、どうして綺麗に見えるのか』――と。
◇◇◇
ハンナさんと並んで歩くこと、30分ほど。
ちょうど花見客向けなのか、お団子を売っている場所を見つけて、ハンナさんと一緒に座ります。
飲食用のベンチに座るとき、ハンナさんが息を吐いて座るのが見えました。
「ハンナさん、連日の花見で、疲れてないですか?」
「平気ですわ。そんなに歩いてはいませんもの。――っていうか、連日のっていう自覚はあるんですのね」
「そうですかー、よかった」
ハンナさんから湿り気のある視線と共に、『ま、いいですわ』の言葉を頂きました。
「で? 日中の花見はどうでした? シェリーさん」
まだ三つついたままのお団子を手にしながら、ハンナさんは問います。どうやらお団子よりも、優先したいことがあったようで。
――貴女が答えるまで、わたくしは食べませんわ。
そう言うかのような視線に感じられました。言われたわけではないですが、その目が、そう言っているように感じました。なんとなく、ですけど。
「んー。そうですねー…………。夜の桜とも違う見え方ではありましたが、変わらず綺麗に見えました!」
正直な感想を言うと、ハンナさんはしばらくじぃっと私の方を見てから、少しだけ目を細めて。
「そりゃ、よかったですわね」
そう一言言った後に、お団子を食べ始めました。
「…………」
私は、ハンナさんの望む答えを返せたのでしょうか?
それはハンナさんの中でしか分からないところなので、私が知る由はありませんが。
――少なくとも、ハンナさんの頭が私の肩に載ってることからすると、○かどうかは分かりませんが、少なくとも✕ではないのだと思えました。
少し休憩をして、それからも桜並木の下をハンナさんと歩幅を揃えて、一歩一歩、ゆっくりと歩いて。
河川敷の桜並木を、端から端まで眺めて。
結局。
その謎は、解明しきれませんでした。
『ハンナさんと一緒に見る桜の花は、綺麗』
成果としては、その事実を確認するに留まりました。
けれど、進展がなかった訳ではなく、事実を確認したということも一つの成果です。なので、今日はよしとしましょう。
「…………えへ」
「シェリーさん、みょーに嬉しそうですわね。そんなに昼間のを見たかったんですの?」
「ええ。それも、もちろんあります」
『も』という言葉に引っかかったのか、ハンナさんは首を傾げます。私の言葉を少しだけ待つようにして、続かないのを見てか、すぐにいつもの顔に戻ります。きっと『いつものことでしょ』とでも思ってくれてるのでしょう。
「ハンナさん、桜が散るまで、あと何回かお花見しませんか? 桜吹雪のタイミングでも、ハンナさんとお花見したいです」
「またですの? シェリーさん、ほんっと桜見るの好きですわね」
「ええ、ハンナさんと見るのが好きです。なので一緒にお花見しましょう」
「貴女ね…………、そういうこと、人がいるところで言わないでくださいます?」
手を繋いだまま、ハンナさんは器用に肘を入れてきます。ハンナさんが否定の言葉を言わないで肘を入れるときは、OKのサインなのは、この一年で学びました。
――そして、『いいってことでいいですか?』と聞いたら、怒られることも学んでいます。
だから私は、ハンナさんの手を握ることで、答えとします。
「今度はまた、私からお誘いしますね!」
「――――ええ、お待ちしてますわ」
優しく微笑むハンナさんの髪に、一枚桜の花びらが付いているのが見えました。
帰り道は、もっと、ゆっくり、歩くことにしましょう。
ハンナさんについた花びらが、落ちてしまわないように。
ハンナさんと、桜。この二つが合わさるとどうして綺麗に見えるのか――。
この謎を解き明かすのは、どうやら来年へ持ち越しのようです。
来年までの間に、別の形で謎が解決するかもしれません。
でもその時は、来年にまた一緒に桜を見ることで、その事実確認をする事としましょう。
ハンナちゃんと一緒に見る桜がなぜ綺麗に見えるのか。
シェリーちゃんはその謎を解明すべく、ハンナちゃんとデートへと向かった――――。
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こちらの作品の続きのような立ち位置ですが、単体でも楽しめます。