「シェリーさん、今日のご飯ですがー…………あら?」
シェリーさんといつものようにお買い物に来たところ、シェリーさんの姿が忽然と消えていた。さっきまで隣にいて、あれやこれやと話をしていた筈なのに。
――どうせお菓子とかそこらへんを取りに行ったんでしょうけれど。
――そしていつの間にか籠の中にお菓子やらジュースやらが入っているんでしょうけれど。
シェリーさんとのお買い物は、気がつけば買う物が増えている。やってることが子どものそれ。けれどどこまで行っても、『ハンナさんと食べたくて』だとか『ハンナさんが好きそうだと思って』と目的がわたくしになっていて――それを返しにいくこともできずに、結局買うことになる。
……甘いんでしょうかね、わたくしは。
シェリーさんとお買い物をする度にそう思いもする。けれど、お菓子だとか、ジュースだとか、そういったのに触れることがなかなかなかったものだから。新しい物を触れるきっかけをくれていると思えば、それもいいことなのかと思う。――シェリーさんがそこまで考えてくれているかは、別だけれど。
「お野菜は、買った。お出汁、お味噌、お醤油、ある。……あと、は…………。水曜日、だから、お魚、ですわね」
頭の中で買う物をリストアップ。曜日替わりで安いものを買うのは買い物の基本。そして必要なものだけを買うのも買い物の基本。
今日はお魚が安い日だからと、生鮮コーナーに回って、目に付いたのは、一つのポップ。
『寿司を食べないと死ぬ! ということはありませんが、お寿司を食べると幸せにはなれます』
このお店特有の謎ポップ。どこの誰が考えているのかは分からないけれど、店内を回ると一つは目に付く、それ。
目についてしまった時点で、書いてしまった人の術中に嵌まってしまっている気がするのだけれど、目に入ってしまったものは仕方が無い。一応見てみようと近づいてみると、ポップの下にあったのは、ポップの内容の通り、パックのお寿司。
別々のネタが8貫セットになっているもの、マグロだけのもの、イカだけのもの、サーモンだけのもの、はたまた納豆巻きだけのものなど、様々なバリエーションのものが並んでいる。
「寿司……うーん…………」
値段で言えば惣菜のお弁当の方が圧倒的に安いし、栄養価で言っても焼き魚の方が栄養価も高いし、たくさん食べられるから、これまでお寿司に手が伸びることは基本的になかった。
の、だけれど。
――『ハンナさん知ってます? お寿司のネタで有名なカンパチは出世魚と呼ばれていて、ワカシ、ハマチ、ワラサ、ブリと変化していくんです。あとおいしいんですよ』
お寿司のパックを見ていたら、勝手にドヤ顔をして解説をするシェリーさんの顔が浮かんできた。
「…………」
シェリーさんは頭の中でデコピンしておくことにする。
なんでシェリーさんの顔が浮かんだかと言えば、理由は簡単。ちょうど三日前に、水族館にデートをしに行ったから。
謎解きの企画があるから、という理由で行ったものの、シェリーさんは持ち前の推理力であっという間に謎解きをクリア。想定していたよりも時間がかなり空いたことから、シェリーさんとゆっくりと水族館の展示を見ることになって。
「ハンナさんハンナさん、見てください! カニがいますよ! カニはですね――」
シェリーさんは魚については明るいわけではなかったようで、展示されている説明書きを読んだり、その場でスマホで調べたりして、様々な解説をしてくれた。
――鰯は回遊魚と言われていますね。あと刺身や焼き魚にするとおいしいですよ。
――マグロですが、ご存じの通り泳ぎ続けていないと死んでしまいます。あと、よくどこそこマグロ、と呼ばれるものがありますが、これは水揚げされた港の話なので、獲ってきた場所とは関係無いらしいんですよね。もちろん、マグロはおいしいですよ。
解説の最後には、食べられるかどうか、おいしいかどうか、の言葉が含まれていたのが、とてもとても印象的だった。
シェリーさん、スマホで調べているページを間違ってるんじゃないかと思えるくらいに、食べられるかどうかの部分については詳しかった。
「あー………………」
そんなことが、ほんの数日前にあったものだから。寿司のパックを見たらシェリーさんの顔が浮かぶのも、仕方が無いと思う。
「…………一応、入れておきましょうか」
カゴの一番上に入れて、買い物を再開。決して、そんなに困窮しているわけでもないのだし。シェリーさんに食べてもらいたいというのもあるし。
……そういえば、とスーパーの中を歩きながら、考える。
昨日、シェリーさんは突然『牛乳ありますか?』だとか電話をしてきて、そして答えを聞くなり、それ以上何も聞かずに、焼き芋を買ってきた。
――なんでも『焼き芋を見つけたらハンナさんの顔が浮かびまして!』だとか『ハンナさんが焼き芋を頬張って「うんめ~ですわ~」って言ってるのが見たくて!』どうとか。
「…………」
――さて、さっきの自分の行動を思い返してみましょうか。
――やってることがまるっきり一緒ですわね。シェリーさんと。
人のことは言えませんわね、と思うし。お買い物をしていて、相手の顔が浮かぶというのはよくあることなのでしょうか? というのを、エマさんあたりに聞いてみたいと思う。
さて、スーパーを一周しましたが、シェリーさんは――と思い、レジ周辺を見回して。
「あ、ハンナさんハンナさん! やっと見つけました!」
店中に響き渡りそうな跳ねる声と共に、シェリーさんが駆け寄ってくる。その手には、ポテトチップスの袋と、お寿司のパック。
「ハンナさんを探してるところで見つけまして! 日曜日にハンナさんと一緒に行ったのを思いだしたら食べたくなっちゃいました!」
「水族館に行って食欲刺激されてんの、シェリーさんくらいですわよ」
「ハンナさんも『確かに、おいしそうですわね』って言ってたじゃないですか~」
「存在しない声真似しないでくださいまし。言ってねーですわよ」
「あれ? そうでしたっけ?」
シェリーさんはにんまりとした顔を浮かべて、そして手に持った物を籠の中に入れようとして。
「あれ」
それに気づいたようだった。
「ハンナさんもお寿司ですか」
それはそれは、嬉しそうな顔をして。とてもとても、嬉しそうな声をして。シェリーさんは言う。
「――――シェリーちゃんの解説のおかげですかね~」
誇らしげな声色の、鼻下を擦ったシェリーさんが見えて。
今日は。今日ばかりは。わたくしは人の事をまったくもって笑えないから。
「…………そういうことにしときますわ」
わたくしは――。
シェリーさんの発言に、【賛成】するしか、できなかった。
まのさばワンドロ テーマ『すし』 で作成したものです。
前々回のワンドロ テーマ『水族館』(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27941489)と繋がってる部分があったりなかったりします。
シェリハンの二人で当たり前のように一緒に買い物しててほしいし、一緒に住んでてほしい。