――もしかしたら、自分が犯人とみなされ、処刑されてしまうかもしれない。
そんな疑心暗鬼に満ちた、初めての魔女裁判が始まった。そして、殺人という罪を犯した、とある人物が、処刑された。
その人物に投票することはおろか、処刑ボタンさえもこの手で押すことを強いられ、更には処刑の様子をまざまざと見せつけられたかと思うと、今度は別の問題が発生して――――。
魔女裁判が行われることを告知されてから、彼女たちは一時も気の休まることのなかった。その結果を表しているのか、彼女たちは、疲れ切った様子で地下一階まで戻ってきた。
「ハンナさん、エマさん、おやすみなさい」
「おやすみなさい、ですわ」
自由時間が終わる時に交わす、いつものやりとりを終え、ハンナは牢の中に入って――。
「――――っ!?」
不意に、背後から抱きしめられる感覚があった。
一瞬、叫び声を上げかけたハンナは、背後から香ってくる花のような香りに、そして背後から回された手の見覚えのある袖に、すんでのところで声を抑えた。
「――ちょっとシェリーさん、驚かせないでくださいまし。っていうか、寝る時は定められた部屋に入るのが規則ですのよ? せっかく生き残ったのに、懲罰房行きなんかしたら目も当てられませんわ」
ハンナはてっきり、背後のシェリーから『てへっ。ついハンナちゃんを抱きしめたくなりましてー』だとかの、いつものような声が聞こえてくるかと思った。
「…………数分だけ、数分だけでいいんです。このままで、いさせてください」
「…………」
縋るようなシェリーの声は、いつもの明るいを通り越して騒がしいものではなく、とても小さな、囁くようなものになっていた。
後ろから回されている手は、ハンナのお腹の辺りでしっかり組まれている。そしてその手には力が入っているのがありありと分かった。
やがて、すりすりと音がして、後頭部に、額か何かが擦りつけられるような感覚がある。
それが少しだけ続いて、息を吸う、音がして。
「…………ハンナさん、生きてます、よね……?」
頭上から聞こえてきたのは、確かにシェリーの声ではあった。けれど、それは震える、か弱い女の子の声だった。
「まだ、一緒に、いてくれて、ますよね…………」
腹部に回されている手に、きゅっと力が込められた感覚があった。息が詰まりそうになった。
「…………わたくしには、ちゃんと足はありますし、地面に足を付けてますわ。わたくしの魔法は飛ぶことですけれど」
一応、ジョークのつもりだった。でも頭上からは、シェリーの笑うような声は聞こえてこなかった。小さなうめき声が聞こえるばかりで、いつもの明るい彼女はどこかに忘れてきてしまったかのように思えた。
ハンナは小さく息を付いてから、腹部に回されている手を優しく撫でる。その意図を分かってくれたのか、シェリーはハンナを抱きしめる手を緩める。
ハンナは反転して、シェリーと向かい合う。
見上げた
「わたくしは、生きてますわ。シェリーさんが頑張ってくれたおかげで」
「――――」
シェリーの目が見開かれたかと思うと、くしゃりとその顔が歪む。
魔女裁判の場で、更にはその前の調査の中で、シェリー以外にも、エマが、メルルが、皆が、勇気を出して発言して、頑張ってくれた。そうじゃなければ、今ごろあの女神像の中に居たのは自分だっただろう、とハンナは思う。
体力おばけのくせに、肉体的にも疲れ切って。更には体調が悪くなるくらいまで、自分を心配してくれた、愛おしい大事な人。シェリーが安堵感で泣きそうになっているのを、ハンナは何もしないでは、居られなかった。
シェリーがしてくれたように、今度は、ハンナから。その背中に手を回して、抱きしめてやる。背中をぽんぽんと叩いて、あやしてやる。
「貴女のおかげですわ、名探偵の、シェリーさん」
「…………」
前から抱きしめられているせいで、シェリーの心臓の鼓動を、胸に直接感じる。シェリーの心臓が、嫌と言うほどに高鳴っているのが分かる。
ハンナの魔法は、空を飛ぶことだけ。心を癒やすこともできないし、その体の震えを変わってやることもできない。
ハンナができることは、今にも泣き出してしまいそうなシェリーを、慰めてあげる事だけ。
抱きしめられた安心感からか、シェリーはハンナの肩に顎を乗せて、再びその背中へと手を回してくる。そして、強く強く、抱きしめてくる。
「………………~~~~」
やがて、嗚咽が、肩から聞こえてくる。背中に回される腕には、きっと無意識なのだろうけれど、強い力が込められていて、体がみしみしと音を立てているのが分かる。
結構、痛い。
いや、かなり、痛い。
声が出そうなくらいには、痛い。
でも、痛いということは、痛覚があるということは――それは、自分自身が生きている事の証。シェリーがくれる痛みは、『まだあなたは生きているんですよ、ハンナさん』と言外に伝えてくれている。
だからこの痛みは、必要な痛みだし、その痛みがあることが嬉しいことだとも思う。
ただ、これを続けてたら、割と本当に、医務室送りでメルルの世話になりかねないと思う。 タップするように、シェリーの背中をぽんぽんと叩く。
「シェリーさん、子どもじゃないんですから、泣かないでくださいまし」
「…………ぐずっ、…………十五才は、十分まだ子どもですけど」
泣いているのは否定しないんだな、と思う。
そんなところが、なんだかやけに、愛おしく思えた。
「確かに。……でも、今のシェリーさんはらしくありませんわ。いつもみたいに無駄に元気で、無駄にぴーちくぱーちく騒がしい声をあげててくださいまし」
「~~~~~~~~ッ!」
「………………う、」
頭をぽんぽんと撫でながらそう言ったところ、これまでにない体のきしみを感じた。
痛い、けど、それを指摘はしない。きっと、私の愛おしくて大事な人は、いっぱいいっぱいなのだろうから。
その顔は、肩に載せられているから、ハンナからは見えない。
のだけれど。きっと、その顔は――――。
「大丈夫ですわ。わたくしは、貴女と、ずっと一緒」
きっと、自分と同じ表情を、しているのだろうと思った。
最初の魔女裁判を終えた後に結局の所やっぱり体調を崩すくらいに全力心配していたシェリーに安心感から抱きしめられて体が軋むくらいに痛いんだけどほんの少しだけだからと痛みがあることが生きている証拠と実感するハンナのシェリハンを創りたいんですよ僕は(ここまでノンブレス
8月24日のTwitter(X)より
こんな物語が読みたかった。
なので、書きました。
とある方のシェリーちゃんとハンナちゃんのイラストを見てから、シェリハンっていいなぁ……ってなって。
まのさばをプレイしながら、作中で描かれていない部分でのシェリハンを色々と想像して。
第一回の魔女裁判を抜けて、安堵した今しかこの物語は書けないと思って、書きました。
私のプレイ状況はまだ、第一回の魔女裁判が終わったばかり。
シェリーちゃんやハンナちゃんやエマちゃんが、どんな結末を迎えるのか、一切知りません。
怖さと恐れとほんの少しの希望を持ちながら、プレイしています。
願わくば、作中の中で幸せなシェリハンがずっと続いていたらいいなと願ってます。