怪異さんにも、視力矯正が必要な時代がやってきました。
※専門用語あり
※作者、眼鏡業界経験者ですが、記述内容の全てが正しいわけではありません。
あくまでも創作としてお楽しみいただき、ご指摘等ございましたら、ご教授願います。
※この作品は小説投稿サイトネオページ、Xfolioにてマルチ投稿しております。

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実際、どうするんでしょうねぇ…(純粋な疑問)


のっぺらぼうが眼鏡を作りに来た件について、そもそも目どこだよ…

 「………」

 「………あ、あの」

 「し、失礼しました!少々、お席でお待ちいただいてもよろしいでしょうか!?」

 

 さて、どうしたものか。

 突然のことで驚いてしまったが、お客様に失礼な対応を取ってしまったのは事実。

 改めて謝罪も含め、挽回せねば…

 

 「お待たせしてしまい、申し訳ありません。改めて、ご用件をお伺いさせていただきます」

 「はい、実は、最近本を読むときに文字が、見えづらくなってきて…」

 

 なるほど。

 悩みとしては、眼鏡屋に来るお客様の中でごくごく一般的で何もおかしい内容ではない。

 

 「老眼鏡を作りたいなと──」

 「かしこまりました!」

 

 ──お客様がのっぺらぼうじゃなければね!!

 目!!どこ!?

 

 

 ※

 

 のっぺらぼう。

 日の本の国においては、かなりメジャーな種族である。

 目、鼻、口のない顔面凹凸がない人間の姿をした怪異である。

 そう、目!鼻!口!がなく、顔面の凹凸がない!人間の姿をした、怪異なのである。

 

 少し脱線して、専門的な話をするとしよう。

 そもそも眼鏡というものは鼻と両耳、三点で支えて装用するものであり、黒目の位置にレンズの中心部分を設定して作成するのではある。

 

 賢明な皆様ならばお気づきであろう。

 のっぺらぼうに、耳はあっても黒目と鼻がない。

 つまり、詰みである。

 

 覚悟を決めて、問診をしよう。

 

 「お待たせしました!いくつか、お伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 「はい、お願いします」

 

 Q1.今まで眼鏡の経験はありますか?

 A.初めてです。

 

 「………………」

 

 Q2.眼科に通ってますか?

 A.処方箋を出してもらおうと受診したら、ここの眼鏡屋さんなら対応してくれると、紹介状を書いてくれました。

 処方箋は出なかったです、ここで検査ができるとも聞きました。

 

 「…………………………」

 

 ──諦めるな眼科!!

 そして、何故こちらに丸投げしてくる!?

 

 「ちなみに、その紹介状は──」

 「あ、これです!宮代眼科からの紹介で来ました」

 「あー、あの宮代眼科……」

 

 いつも無茶振りな処方箋書くところだよ!!

 先代からお付き合いがあるとはいえ、ちょっとどうなの!?

 ツッコミを入れてても始まらない。

 できることはやっていかないと、のっぺらぼうのお客様、八ノ瀬様をいつまでもお待たせするわけにもいかない。

 幸いにも今日は平日で客入りも少ない。

 時間をかけて、しっかりとやっていきたい。

 

 「では、一度機械で見てみますね」

 

 一旦オートレフ(皆さんご存知、気球が見える機械)で眼球状態と大まかな度数を確認をしなければ始まらない。

 アルコール消毒を済ませ、機械に顔を乗せていただいたタイミングで、私は気づいてしまった。

 

 そも、機械は眼球を認識できるのか……?

 

 ピピ、という音ともにカメラが眼球を探し始める。

 

 私の危惧は的中してしまった、眼球を認識しない。

 

 「目を大きく開けて、お待ちください。この機械は眼圧を測るわけではないので、空気は出ませんのでご安心を!」

 

 自動認識がダメなら手探りだ!

 手動に切り替えて、レバーで操作する。

 

 「今、画面に気球は見えてますか?」

 「見え、ないです」

 

 なるほど、ならこの辺か。

 眼鏡屋歴12年、色んなパターンを見てきた経験から推測してカメラを動かしていく。

 ──しかし、カメラは眼球を捉えない!!

 

 「よろしければ、気球が見えたら教えてください」

 「あ、はい」

 

 ここか?

 それとも、ここか?

 

 「あ、見えました!」

 

 そこか!

 

 「では、そこで目を大きく開けてお待ちください!」

 

 いけるか!

 読み取ってくれるか!?

 オートレフ君を信じて、レバーにあるボタンを押す。

 

 

 ※

 

 「さて、どうしよ」

 

 結論、読み取りはできなかった。

 八ノ瀬様には大変申し訳なかったが、考える時間と確実な測定をするために情報が足りなさすぎる。

 機械の不調を理由に一旦帰宅していただき、後日予約して再来店ということになった。

 

 こういうときは、先代のノートに頼るしかない。

 以前一つ目のお客様が来店された時にも、先代のノートにはとても助けられた。

 元々異なる者が集まりやすい、この場所では先代が手探りで集めた情報がまとめられている。

 

 ──欠点としては、先代こういうまとめ方下手くそだから見たい情報がすぐに見つからないことかな!?

 

 そんなこんなしてる間にもお客さんは来店されるわけで、対応もしなければならない。

 チェーンの眼鏡店ならともかくとして、個人経営はワンオペがほとんどである。

 

 「おう、ねーちゃん!年金入ったから、眼鏡作りに来たぞぉ」

 「まぁ、それはありがとうございます!」

 「そんでな!今の眼鏡でも見え方は困ってないんやけど、夜になると見にくいから、ちょっと調整してほしいんやわ、あと近くも見えたら嬉しい!」

 

 おっと、これは長くなりそうな予感だ。

 

 札束を握り締めた老師に眼鏡を提案して、三時間が経った。

 色々な要望を聞いていくうちに複数本持ってもらうのがよさそうなので、予算範囲内で抑えつつ、高品質提案でいい落とし所をやっとこさ見つけた感じである。

 左右それぞれ遠くと近くの見方をわけるんじゃないよぉ、絶対目の負担になってるよぉ……

 

 それはそれとして。

 八ノ瀬様の度数を計測しなければならない。

 最終手段としては、既存の老眼鏡での手探り提案だが、乱視やらプリズムがあったとした場合、さらに時間を掛けなければならない。

 せめて、過去に眼鏡作成経験があれば、カルテやら何やら残ってるんだけど、ないものねだりをしても仕方ない。

 

 同業にも当たってみたいが、怪異に対して眼鏡を販売してる物好きは当店くらいである。

 先代がたまたま霊感があっての営業である。

 参考になるのは先代の残したカルテ達と伝承伝聞関連の書籍である。

 

 そもそもの話である。

 のっぺらぼうってどうやって視認してるんだろう?

 

 本来、人間であれば目に受けた光の反射から、眼球を通し視神経を通じて脳に伝えている。

 いわゆる、望遠レンズやカメラと作りは似ている。

 ならば、その光の受け皿である目がないとなると?

 

 オートレフでの検眼では、目を認識しなかったが、八ノ瀬様自身は気球を認識することができた。

 つまり機械が眼球を認識しなかった、それだけ小さな目がある可能性。

 あるいは、のっぺらぼうという種族が目以外の器官で視界を捉えてる可能性。

 

 一人で考えてても仕方ない。

 個人店であるがゆえの暴挙『お客様には申し訳ありませんが、本日の営業は終了致しました』を発動!

 元々閉店三十分前だし、セーフだと思いたい。

 しかし、当たってみるにしても眼鏡屋というのは閉店時間がどうしても夜になってしまう。

 馴染みの宮代眼科は閉まってるし、そもあそこの主治医はご家庭のために早々に帰ってしまう人だ。

 アポでも取らなければ会うことはできない。

 

 となると、宛があるとすれば──

 

 

 ※

 

 「というわけで、助けてください」

 「大体の事情はわか、いや、わかんねぇからな??」

 

 怪異には怪異を、専門家である現役陰陽師に聞くのが手っ取り早い。

 

 「そこをなんとか!」

 「ひとまず詳細を聞かせてくれないかなぁ!?」

 「そこはほら、陰陽術でわかるのでは!?」

 「わかんないなぁ!?」

 

 どうやら説明とは、どの業界においても必要なことらしい。

 怪異にも個人情報があるので、詳細な部分を省いての説明というのが、これまた骨が折れるんですわ。

 

 「とりあえず、のっぺらぼうについて知りたいです」

 「……意地でも省くね、しかしのっぺらぼうときたか」

 

 さすが馴染みの陰陽師、ある程度察していただけた様子。

 

 「私も専門じゃないけど、彼らにも視覚はあるはずだよ。でなきゃ、超音波とかの類いを発してることになる」

 「そういったものは、感知されないと?」

 「私の知ってる限りではね」

 

 たしかに八ノ瀬様は画面の映像を確認することはできていた。

 音響反射から情報を得ているのであれば、テレビはもちろん、スマートフォンの画面を確認することはできない。

 現代社会で情報を得るのは大変なことだろう。

 

 「つまり、器官による視覚は存在してる。それが小さすぎて見えないのか、隠れてしまっているのかはわからない」

 「個体差ということですか?」

 「私の知識不足だよ」

 「堂々と言えるのは、とても清々しい」

 

 まぁ、そこは怪異だし、人間はおろか、生物としての常識が適応されているかは不明だ。

 

 「視覚を必要としない人種もいるくらいだし、別エネルギーで観測してる可能性もあるね」

 「え、そんな人間いるんですか?」

 「ある砂漠地帯の少数民族がそうらしいけど、本筋からずれちゃうから説明は省くよ」

 

 のっぺらぼうにしかない視覚がある。

 これが今のところ最有力候補ではあるが、まだわからないことが多すぎるのも事実。

 頼れる専門家であった、陰陽師にも限界はあった。

 時間もないため、地道に試しながら手探りでやっていくしかないのかもしれない。

 

 「そうだ、せっかくだし私の定期検診の予約をしちゃってもいいかな?ここのところ、霊がボヤけるようになってきちゃってて」

 「それは当然のことなのでは?」

 「ハッキリ見えないと仕事上困るんだよねぇ」

 「というか、営業時間中に取りに来てくださいよ」

 「だって、私の仕事終わる時間にはもう店締めちゃってるじゃん」

 「そんな貴方に朗報、今ならアルバイト募集中」

 「本職が履歴書に書けないのに、副業書けるとか嫌だよ」

 

 新規顧客のつきにくい個人店経営。

 先代のコネもあり、怪異の皆さんによくしてもらってるが、それはそれこれはこれである。

 

 「また、なにかあったら連絡させてもらうよ」

 

 情報は微妙であるが、来店予約は取れた。

 営業活動に来たわけではないため、大変複雑な心境である。

 次に頼る場所は──

 

 

 ※

 

 「というわけで、何かご存知ないでしょうか?」

 「対処できないから君のところを紹介したんだけどねぇ」

 

 責任は取ってもらうぜ、宮代院長。

 眼科が閉まってるなら、本人に電話をすればいいじゃない。

 思い立った私は天才である。

 

 「まぁ、こちらとしても無茶振りをした自覚はあるけど、目に携わる仕事してる身としては、お手上げだよ」

 「まぁ、宮代先生は眼鏡屋も目に携わる仕事であることをご存知でない!」

 

 というわけで、あまり期待できそうにない。

 

 「いいんじゃないかな、のっぺらぼうだけに目がない、目がねぇ、眼鏡、ってね!」

 「うちに二度と紹介状を書かないでください」

 

 

 ※

 

 結局、頼りになったのは先代の残したカルテ。

 陰陽師からのちょっとしたアドバイスとなってしまった。

 ここからは私の仕事である。

 

 八ノ瀬様に多めの時間をいただき、試せることは試してみるしかない。

 元々のっぺらぼうを客にするなんて想定してない。

 現代医学も怪異に対する理解が進みつつあるが、不可思議なことが多いのもまだ現実。

 何より、一度請け負った仕事を投げ出すなんて私の性分が許さないし、八ノ瀬様のためにも、今後やってくるかもしれないのっぺらぼうのためにも、やれることはやらねばならない。

 

 先代のカルテに前例があってよかった。

 字が汚く件数は少ないが、ないよりましである。

 

 「──お待ちしてました」

 

 Challenge①

 「普段本を読む距離はこのくらいで?」

 「そうですねぇ、これが日に日に見づらくなってて」

 「それでは、一度既存の眼鏡をいくつかお持ちしますので、しっくり来たのを教えてください」

 

 機械が読み込まないのなら、アナログでバトルしかない。

 八ノ瀬様の年齢からして、選択肢も狭めれるのは大きなアドバンテージである。

 

 「あ!これが見やすいかもです!」

 「お、ありがとうございます!ちなみに、ぼやけます?」

 「そうですね、ないよりはましかなって状態です」

 

 Challenge②

 「では、こちらで右と左を交互に隠してもらって、見え方に違いがあるかを確認ください」

 

 前回は同様したしまったが、斜眼器先生を思い出せてよかった。

 ご自身で目の位置を確認したいただき、瞳孔の距離を実測する!

 

 「左が、少しだけ見やすいですね」

 「ありがとうございます」

 

 よしよし、情報が集まってきた。

 テンパってしまうのは私の悪い癖だ。

 近年機械に頼りっきりなのもいけない。

 

 「……なんで、両目隠すんですか?意味、あるんでしょうか?」

 「目の休憩と思ってください」

 

 誤魔化せた、かな。

 

 Challenge③

 「今、機械を通して画面を見ていただいてるのですが、見えますか?」

 「はい、大丈夫です」

 「片目ずつに今、動かしたのですがこちらも問題なさそうでしょうか?」

 「大丈夫です」

 

 大勝利!

 大雑把な度数と瞳孔の位置、そして視覚があるということを認識できれば後はいつも通り!

 先代のメモにのっぺらぼうに視覚あり、と書かれてたのが今回の決め手である。

 

 その後、細かな微調整と実際の仮枠をいくつか試していただき、測定自体はとてもスムーズだったと言える。

 初装による違和感とフレームの選考が中々うまく改善できなかったが、及第点と言えるだろう。

 

 「今日はありがとうございました」

 「レンズの取り寄せと作成にお日にちをいただきますので、一週間後の来店をお待ちしてますね!」

 

 八ノ瀬様の表情、こちらからはわからないが、多分笑顔な気がする。

 

 「んん、いい仕事したなぁ」

 

 あとは、宮代眼科に文句と陰陽師に報告して、カルテとのっぺらぼうのマニュアルを追記すれば、今日はいいかな、うん!

 あとは来店したお客様の対応だけど…

 

 ……この地響き、嫌な予感がする。

 店の扉がノックされた。

 

 「はいはー、い……」

 「あ、すみません、み、宮代眼科、さ、さんから、こちらを、しょ、しょう、紹介いただい、た、たのです、が」

 「……おうふ」

 

 目の前にいたのは、間違うことない、巨人。

 いや、デカすぎるだろ……




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