長夜月(偽)   作:四末説最後の一つは均衡ってマジ?

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朽葉さん、良いよね……ビジュが良すぎる。あんな人が知り合いに居たら性癖爆散しそう。

番外編最終回です。これがやりたかった。


方舟世界:変数γ⑤

「再創世、君達黄金裔が追い求め続けた、新世界へと至る為に必要なプロセス。オンパロスという世界を支える神――タイタン達から、その存在の核とでも言うべき火種を奪い取り、或いは継承し、新たなタイタンとなる資格者として神と人との中間地点である半神へと昇華。無事全ての火種の継承を終えて新たな半神達が揃う事で、暗黒の潮に襲われるエスカトンから逃れて完全無欠の楽園へと至る為の儀式」

 

「確かに、認識において間違いは存在しない。どの道世界の支柱と呼ぶべきタイタンはこのオンパロスの存続において必須となる存在であり、言うなれば今の世界を保つ楔を抜き放ち、新たなテクスチャを貼り付けて繋ぎ止める為の新たな楔となる儀式。今のテクスチャが剥がれ去ったのなら、その時襲っていた脅威も全て消えるのは自明の理」

 

「でもその本質は、全て鉄墓に捧げられる為の深層学習。壊滅という物が齎す全てを解き明かし、そして世界そのものを壊滅させる為の無限の試行。平和な新世界を求めて行う再創世とは、確かに新たな世界と新たな時代を齎してくれる救いであるのと同時に、将来的には天外の宇宙に脅威を齎す為の揺籃でもあった。まぁ、オンパロスで生きる人々からすれば知った事では無いね。だから、仮にこれを企んだ黒幕が居たとして、それを責め立てる権利があるのは天外の人間か、或いはオンパロス最期の時代を生きる人々だけだろうね」

 

「だから貴女は私を非難すると、そう言いたいのですか?」

 

「まさか、非難なんてする気も無いよ。リュクルゴス、貴方からすれば私程の脅威は本来存在し得ない筈だった。箱庭の中で生まれながら、アレと接続している事で箱庭の外を知る事が出来る唯一無二。ましてや辿るべき正しい道筋を狂わせ変えられる可能性を持った変数なんて、生まれた段階で対処するのは当然の事」

 

「ええ、そして今現在黄金裔達は全ての火種を回収し終え、残すは再創世を成し遂げるだけとなった」

 

「そう、そしてここまではお互いの想定の通りに事が運んでる……ああ、貴方からすれば結末だけは望み通りではあるけれど、過程の全ては想定外かな?」

 

「ふふ、ええ。認めましょう。黄金裔達が荒笛を除いて欠けることもなく再創世まで辿り着くとは、この無限に近い試行回数の中で初めての事でした。ですが、想定外も予期せぬ事態も初めての結末も、全ては無意味です」

 

「何せ再創世が果たされたのなら、鉄墓が完成し知恵を壊滅させられるから」

 

「ええ、そうです。あなた方は再創世の後の事を考えていた様ですが、それは無意味な事です」

 

「ふふ、そう思うのなら見ていれば良いよ神礼の観衆。私達が鉄墓を打ち破る、その様を」

 

 

 

 再創世とは、シミュレートの終了を意味する。

 

 セプターδ-me13によって行われているワールドシミュレーション。世界モデルオンパロスにおいてそれぞれが紛れも無く生きている人間として生命を謳歌し、来る破滅に対するそれぞれの行動。そして与えられた再創世という希望に向かって足掻く様を観測されていた。

 無事に再創世を達成する事でシミュレーションの目的を遂げ初期化され、また新たな舞台で同じ様にシミュレートが行われるだけである。その際、タイタンという存在に前回のシミュレーションの半神達のデータが引き継がれこそするものの、それが救いになる訳でもなく。セプターからすればそれら全てはただの観測対象でしかない。

 

 そして、カスライナがキュレネとの協力で永劫回帰を行っていたこの世代は、鉄墓からすれば最後のプロセスであった。

 

 つまり、修了する事でもう次を始める必要が無い。ただ行われていたシミュレーションの全てをフォーマットするだけで良い。

 

 いくらタイタン達が世界を創り支えている存在だとしても、それら全てはセプターという土台あってこそのモノ。土台が不要と判断し消したのならば抗う事なく消え去るのが宿命と言えるだろう。

 

 何せ存在している舞台が違う。戦っている規格が違う。例えばの話だが、作者という生み出し手に対して作品内の登場人物達が、直接的に危害を与える事は出来はしない。精々出来る嫌がらせとして、観測する者に対して不快感を与える程度が限度だろう。

 

 そこまで明確な差が、神と人との間にはある。

 

 半神となった黄金裔達、そしてその資格は無くとも戦い抜いた全ての戦士達。それら全てが揃って眺める中、創世の渦心において世負いの火種は返還され、ここより再創世が始まった。

 

 本来であれば、世負いを担う半神の試練として新世界を一人で背負い続けると言う苦行が始まる筈だが、正しく遂行された再創世において最後の世代達に次は存在しない。完了の確認がされた瞬間に、世界全てに及ぶフォーマットが始まった。

 

 今まで築かれてきた全てが消え去る。紡がれてきた全ての歴史が抹消される。暗黒の潮という脅威は消え去り、抗っていた戦士と守られていた人々も為す術なく消去された。世界の白紙化とでも言うべき現象は驚異的な速度で行われ、オンパロスの核とも呼べる創世の渦心の外は全てが消え去った。

 

 白紙化、とは言ったものの。それはあくまで認識出来た者達からしたらそう見えた、というだけの話である。実際は、虚無に呑まれるといった方が正しいだろう。

 創世の渦心に居る者達は、その有り様に神を見る。虚無と言う名の、星神の存在――或いは非存在を。

 

 反抗も、抵抗も、意思も、意味も、歴史も、意義も、思いも、生命も、物質も、魂すらも。全てが、ただの一瞬で消え去った。白紙のページとなるのならば、まだ悲しみ様もあるのだろう。だが、創世の渦心から見える外にはもう何も無い。全てが虚無に包まれていた。

 

 そこが未だ形を辛うじて保てて居るのは、テクスチャを貼り付ける楔が居るから、と言う理由だけ。それも多少の遅らせ程度の意味しか無くすぐに消えるだろう。

 

 これが、正しい再創世の果て。そして栄養となる半神達は、世界と黒幕への激しい憎悪を燃やして鉄墓の糧となる。

 

 ああ、安心するが良い。実体無き生命よ。お前らの憎しみに意味を与えてやろう。知恵という神を抹殺する為の燃料として、燃やして全てを灰に変えてやろう。

 

 などとは、誰も思っていない。リュクルゴスも、セプターも、憎悪というエネルギーだけの鉄墓も、全てこの残滓には既に見向きもしていない。役割を終えたのだから、疾く消えるが良いとしか思っていない。

 

 ああ、巫山戯るなよ。

 

 そうして燃え上がる赫怒の炎が、自滅因子によって意味を与えられる。

 

「ふふ、待っていたよ英雄。聖戦の前のウォーミングアップとして、まずは邪魔な黒幕には消えてもらおうか」

 

 フォーマットの波に抗う事も出来ず、消え果てた筈の長夜月を名乗る何者かの思念。そしてそれを狼煙として、アナクサゴラスが舞台を整える。

 

 本来ならば、現実のセプターの核とシミュレーションのオンパロスには繋がる様な道は無い。けれど、世界に溶けて消えた長夜月の――尚も消されない強靭な意志を利用して、理性の半神となったアナクサゴラスがセプターへのハッキングを仕掛ける。セプター、鉄墓、そしてリュクルゴスに抵抗は不可能だった。

 誰も、想定内に収まる内側からの侵食など予測しておらず、そんな事をした所で太刀打ち出来ない筈だったのだ。しかし、アナクサゴラスがそれを可能にしたのは――彼の記憶の中にある、偽物の長夜月が操る侵食と呼ばれる権能、その知識があったからだ。

 彼女の侵食は、万全の状態の鉄墓を逆に乗っ取って全てのデータを簒奪する事が可能なモノだった。であるならば、そこから着想を得たアナクサゴラスがセプターのコアまでの道を強制的に開く事が出来ないなどある訳が無い。

 

「我ら、オンパロスを支える十二のタイタン。これより全ての元凶にして最大の敵である鉄墓を打ち破る為、全霊を賭して貴様を支えよう」

 

 オンパロス最高の指導者にして飽くなき渇望を抱く、カイザーケリュドラが高らかに宣言する。

 

「天霆卿、いつもの様に勝利を」

「私たちはみな、あなたと共に」

「レイちゃん、派手にやっちゃって」

「俺の焦がれた英雄よ、銀河に轟く英雄譚を魅せてくれ!」

「多くは言わん、背中は任せろ」

「私の仕事はこれで終わり、後は貴方の仕事です」

「戦いが終わった後の治療は任せて下さい」

「詭術のタイタンとして保証するよ、あんたに敗北は有り得ないってね!」

「命を知らぬ機械達に、死の温もりを」

「僕たちの見出した希望、全ての輪廻に相応しい結末を」

「任せたよ、レイ。僕たちと一緒に英雄になろう!」

 

「ああ、任された。オンパロスに輝かしき繁栄を齎すと約束しよう――勝つのは、俺だ」

 

 

 

 ――では一つ、皆様私の歌劇を御観覧あれ。その筋書きは在り来りだが、役者が良い。志向と信ずる。故に面白くなると思うよ――

 

 

 

 辺り一面に広がる燎原の火、何も存在しない世界において尚、何かを焼き尽くさんと広がり続ける灼熱の業火。

 

 これは、怒りだ。

 

 自らを生み出した創造主に対する怒り、不要と捨てられた怒り、そして――

 

 空間がうねる様な胎動が響く。

 

 ――自らの存在意義を、証明すべき命題を、歪められた事への怒りか。

 

 オンパロスで膨大な数に渡って繰り返されてきた試行の数々は、壊滅という結果を解き明かす為の計算式であった。そして最後の再創世を以てあらゆる物質と非物質を壊滅に至らしめる、ある星神の眷属――絶滅大君として昇華した。

 けれど、鉄墓が学習したのはそれだけでは無い。訪れる終焉に対する怒り、世界が終わる事への怒り、偽りの神託への怒り……オンパロスという世界の生きとし生ける全ての生物の怒りという感情を理解して、それを自らの抱く怒りとした。

 

 正史の世界において、カスライナは「鉄墓が持つ憎しみは底なしだ」と語った。ナヌークに傷を付ける事すら可能としたカスライナをして底なしと表現するに至る程の憎悪を鉄墓は持っている事となる。

 

 だが、感情なき機械が憎悪を抱けるか?

 

 勿論オムニックなどの、機械の身体を持つ生命であれば感情はあるだろう。だが、鉄墓は元を正せばセプター……計算機でしか無い。

 

 つまり、鉄墓の憎悪とはオンパロスで行われてきた無数の試行、そこで生きてきた全ての生命体の怒りを束ねたものだ。鉄墓こそがオンパロス住民の代弁者とも言えるだろう……歪められたものではあるが。

 

「下らん、さっさと来い。その思い上がりを正してやる」

 

 学習と適応、絶滅大君として生まれる形を認識した鉄墓がついに生誕する。憎悪を凝縮した様な真っ赤な核を引き裂いて現れるのは、覚醒したカスライナを思わせる様相。金と紫という壊滅的なセンスを全面に押し出す異形の姿。

 

 憎しみという感情を出力する姿として、鉄墓が取ったのはやはり憎悪の器と言うべきカスライナに近しいもの。

 

「出し惜しみは無しだ……行くぞ」

 

 光の英雄、方舟世界最強の男、あらゆる理不尽を斬滅する悪の敵。レイという変数が二振りの刃を抜き放ち、雄々しく声を上げる。そして幕は切って落とされた。

 

 レイの持つ六本の刀とコアの振るう四つの腕、ただのぶつかり合いの結果だけを表現すればレイの圧勝だった。

 術理も技術も無く振るわれるコアの四腕はレイに掠る事すら無く、逸らし迎撃され弾かれる。対してカスライナの技術すらも吸収して完成されたレイの抜刀術は不可避、一瞬に六本の刀が斬滅せんと迫ってくる脅威に対し、迎撃も防御も不可能だ。

 

 しかし、対するは神と人。如何にオンパロスに比肩する者の居ない最強の凶刃であったとしても、存在の格が違うのだからそもそも届かない。地球に対して人間が自らの肉体で攻撃をした所で、果たして地球にダメージを与えられるだろうか?

 莫大な年月を掛け続ければいずれは削り殺せるだろうとしても、この数秒のぶつかり合いだけで見るならば成果は無い様なモノだ。

 

 故にレイは、明確に力量差を理解した。元より出し惜しみをするつもりは無いにしても、やはり自らの持つ秘奥を解き放つより勝ち筋は無い。

 この戦いを実現させているのは新世界のタイタンとなった戦友達の尽力の結果であり、それもどれだけ保つか分からない以上迅速な決着は必要不可欠。

 

「■■■■、■■■■■■■■――■■■■■■■■■」

 

 紡がれるは詠唱。異界法則が此処に具現する。

 

 ソレは星神の司る運命に依らず、虚数エネルギーを直接扱う技法。運命エネルギーと呼ぶべき力は余す事なく星神達の支配下にあり、星神の運命に下る事でその木っ端を振るう事が許されるのがこの世界の常識である。にも拘らず、星神達の支配下にあるエネルギーを簒奪し振るう事を可能とした、方舟世界で作られた世界法則に喧嘩を売る技術。

 

 長夜月を自称する存在との邂逅により、暗黒の潮の特性を用いて直接的な肉体改造をする事で使える様になった、二人にとっての切り札とも言えるもの。それは偽物の長夜月によって断片的に与えられた、全く異なる世界の異能を具現する力。

 

「■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 それは、至高。

 それは、最強。

 それは、究極。

 それ以外に、形容すべき言葉無し。

 

「■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■、■■■■■■■■■」

 

 我に能う者無しと傲岸不遜にただ単騎。全ての惑星を凌駕せんと、王の宿命が発動する。

 謳い上げるは全能の証明。天に轟くは殲滅光。

 約束されし絶滅闘争の覇者が、最後の勝利を掴む為今此処に立ち上がった。

 

「■■■■■■■■、■■■■■■■■■。■■■■■■■、■■■■■■■■■■■。大地を、宇宙を、混沌を――偉大な雷火で焼き尽くさん」

 

 一片の闇すら許さぬと輝かしき光がうねりを上げる。絶望と悪と己の敵――余さず全てを焼き尽くす赫怒の雷火。あらゆる敵を一切合切絶滅させる死の光。万象全てを滅亡させる天神の雷霆、生命根絶の死の閃光が、今主の敵を抹殺せんと雄叫びを上げる。

 

「聖戦は此処に在り。さあ人々よ、この足跡へと続くのだ。約束された繁栄を、新世界にて齎そう」

 

 簒奪した虚数エネルギーを自らで支配して、奇跡を自ら起こす御業。それは使い手の望み、性質を反映する鏡のようなモノ。

 レイが星神のエネルギーを用いて起こす異能とは、敵を殺す為の殲滅光。エネルギーそのまま殺傷能力に自らの肉体で変換し制御して振るうならば、当然使い手自身にも牙を剥く。

 

 常人ならば、発動した瞬間に蒸発する。

 英雄ならば、一振だけを可能とする。

 

 けれど此処にそれを振るう異常者は、自らを容易に殺し得るその異能をただの気合いと根性でのみ耐えて、自らの力として使用する。

 

「■■■――■■■■■■■■、■■■■」

 

 斯くして、此処に超新星爆発の如きエネルギーを持って、悪の敵が完成する。

 数多の人間を、背中で魅せ続けた光の英雄が、神を殺す為の刃を携えた。

 

 

 

「長夜月殿、あれは――一体何ですか?」

 

 最終決戦の様子を、ただの観衆として眺めていたリュクルゴスは戦慄を覚える。あんなものを、自分は知らないと。ただの人間が、黄金裔だとろうが、或いは星神の使令であったとしても……振るえる筈が無い。

 

 互いの存在の格だけで言うならば、何一つとして条件は変わっていない。必要だから自らの上に世界を載せていただけの鉄墓と、その上で英雄譚を踊っていただけの蟻の一匹。力の差は歴然で、いくらタイタンが抵抗しようとも刹那の間に消え去るだけの存在。

 

 なのに、なんだあれは。

 

「意外だね、リュクルゴス。貴方が知らないとは思わなかったよ。神は人間に火と鉄を与えた、でも人間は鉄で刃を作って神を殺した。神殺しと言うのは、人類の根底に染み付いた習性のようなモノだよ」

 

「それはこの状況を言い表せては居ないでしょう。そして言い返すにしても、その運命に属する末端が星神を討てる訳が無いという事実があります……ですが、あれは振るう力だけで言えば使令を超えるモノ。存在の格と力が、あまりにも釣り合っていない」

 

 振るえる筈が無いのだ。蟻に山すら切れる大剣が。規模感だけで言えば、バクテリアが惑星を破壊できる武器を振り回そうとしている様なモノだ。

 

 けれど、有り得ないは有り得ない。ましてやその対象が、光の宿痾に縛られた者ならば。

 

「ふふ、分からない? でも答えは簡単なんだよ……気合いと根性、誰しもが持ち得る意志一つで、あらゆる不条理は粉砕出来るんだ」

 

「出来る訳が無いでしょう!」

 

 星神を生み出し、人類の可能性を閉ざし、星神に縛られたザンダー・ワン・クワバラは良く理解している。常識では計り知れない星神という規格外と、それに対する人間の矮小さ。どれだけ強靭な意志を持った人間が居ようとも、不可能は不可能なのだ。

 星神と人間は、確かに隔絶した差が開いている。けれどカスライナがナヌークに傷を付けた様に、或いは知恵の特異点を突破しようとする天才達が居るように、必ずしも越えられない壁がある訳では無い。

 

「出来るからこその、私の宿敵なんだよ。言ったでしょ? 鉄墓は前哨戦に過ぎないって」

 

 ザンダー・ワン・クワバラは天才である。知恵の星神を生み出し、銀河中の天才が席に座る事の許される天才クラブ、その一人目だ。やってる事がどれだけ一般的に見れば悪事であろうとも、閉ざされた人間の可能性を再び開く為に知恵のヌースを殞落させると言う意思には微塵も翳りは無い。

 故に、目の前で起こる不条理を解析し、解明し、それを次なる計画の礎にしようと見に徹する事にした。

 

 そして長夜月は笑う。鉄墓と戦いを繰り広げる好敵手が圧倒的な実力を見せる度に、この次に行われる聖戦へ期待を高めるのだ。

 それでこそ、我が好敵手。打ち破るに値する敵であると。

 既に肉体がフォーマットされ、ただの意志一つで観客席にしがみついているだけの長夜月を名乗る何者か。戦いという舞台にすら上がれない筈の彼女はしかし獰猛に笑う。

 

 

 

 刹那の間に走る剣閃が、コアの抵抗を微塵も許さずにその身体を切り刻む。遅れて振るわれる四つの巨腕は次の瞬間には微塵切りになり、刻まれた筈のコアの身体が再生した端から再び粉砕される。

 

 存在の格で言えば圧勝している筈の鉄墓のコア。しかし同じ土俵で戦う両者の差は歴然。技術、殺傷能力、何より自らの敵を滅尽せんと猛る意志が圧倒的に違う。

 例えどれ程の憎悪を抱いていようとも、英雄の意志力は遥か上を行く。

 

 そして、見た目だけは綺麗に治したとしても鉄墓コアはそのパフォーマンスを大きく落とす事になる。

 

 英雄の放つ金色の光。敵対する全てに死を齎す絶滅光は、決してただの光では無い。それを科学的な用語で表現するならば核分裂放射光、星神の支配する銀河では文明によって未だに使われいたり、或いは旧時代の遺物となっている異能。生物にとって有害極まりない殺戮の光である。

 ただし、それそのものを発現させている訳では無い。あくまでレイの放つ光とは、核分裂放射光という結果を過程を省略して具現しているモノであり、更に言うならば非生物である存在も殺せる様に、あくまで生物が被曝した時の現象を有機物、無機物、存在、非存在、遍く全てに再現する滅尽滅相の理。

 

 見る者全てを焼かんと輝く両手に握られた刀だろうが、それを振るう際に飛散する余波だろうが、その光に掠るだけでも死滅を齎す殺傷能力の極み。放たれる輝きをその身に受けたのならば、身体の内側を余す事なく破壊し尽くす毒性だ。

 

 幾度となく切り刻まれた鉄墓のコアはいくらその身を再生しようとも、治した端から崩壊していく無限地獄。相手の性質を学習し適応しようとしても、そんな事をする間もなく死に絶えるだろう。

 

 扱う力を分類するならば、共に壊滅。齎す破壊の規模は、言うまでもなく鉄墓の方が圧倒的に上。けれど、殺し合いと言う舞台において言えば、レイはナヌークすらも殺せる力を持っている。

 

 しかし振るっているのは自滅の刃。光に照らされた者が壊滅する死の光は、当然使い手すらも殺す諸刃の剣。気合いと根性で耐えられるのにも限度がある。更に一段上へと歩みを進めなければ、あと三回もその力を使うだけで自らを死に至らしめるだろう。

 

 そして、少なくとも――

 

「貴様の憎悪、憤怒。ああ、理解は示そう。そしてお前はただ与えられた命題を解き明かすべく役割を遂行していたのだと、それについても納得している。だが、勝つのは俺だ」

 

 ――鉄墓を相手にした戦いでは、その壁を突破する事は不可能だった。

 

「■◾︎□◻︎◾︎■◾︎■□◻︎◾︎■」

 

 此処にて殺し合うのは鉄墓のコアとレイ、その二人のみ。正史における最終決戦の様に現実とデータ世界の境界線が限りなく薄まる様な事もなく、行われているのは鉄墓という身体の奪い合いである。

 つまりこの決戦において、正史で鉄墓が見せた様な銀河を壊滅させる力を放つ事は出来ない筈だった――本来ならば。

 

 繰り返しになるが、最初の天才ザンダー・ワン・クワバラが目をつけたのはセプターと呼ばれる天体ニューロン。即ち計算機である。知恵のヌースより与えられた命題を解き明かす事を使命としており、それらを解析して解明させるのが役目とも言える。その性能を余す事なく発揮して、鉄墓は壊滅のプロセスを解き明かし、それを自らの力とした。

 

 自己学習、アップデート、インストール、自己適応。常に学習する己が本分を発揮して、冷徹な機械として常に自らを最適化する事こそが鉄墓の本懐。そして今、目の前には自らの学習し身に付けた怒りを遥かに上回る熱量を秘めた男がいる。あらゆる不条理を、立ち塞がる全ての現実を、本来成し得ない筈の不可能を、何もかもを壊滅させて進み続ける鋼の英雄。

 ああ、ならば、目の前の漢を学習すれば良い。

 

 光の宿痾に囚われた者特有の、自らを自己進化させる覚醒は起こせなくとも。自らの思う様に現実を邂逅せしめる圧倒的な意志力は持てなくとも、それでも『壊滅』という、互いに齎す結末だけは同じなのだ。

 

 敢えて言うまでも無いだろうが、目の前の漢に為せるのならば、自らにだって出来るだろう。

 

 学習は足りずとも、理解は及ばずとも、解き明かせない様な異界法則が混じっていようとも、違うアプローチで同じ結果を出せば良いのだ。

 

 つまるところ、例え状況が違うとしても、自己戴冠というセプターにとっての昇華を体験しなくとも、正史と何一つとして違わない銀河を壊滅せしめる一撃を、この土壇場で完成させた。

 

 それは対象を絞らない無差別な範囲壊滅では無い。

 

 身体を奪い合う唯一の闘争相手へと向けた、収束されし一撃。

 

 有り得ざる自らの敗北、抗いようの無い崩壊、格下の圧倒的強者、切り刻まれ内側より蝕まれる現実、数コンマ前に自らの肉体を二十に分割された現実――そのあらゆる全てを、至った境地で壊滅させた。

 

 

 

 この戦いの舞台とは、あくまでもタイタン達の献身によって保たれていたモノ。その前提条件すら壊滅させられたのなら、最早戦いとは終わりでしかなく、現実の改竄という正史の鉄墓にすら成し遂げられなかった偉業を以て、そもそも戦いが起こっていた事実すら消え去った。

 

 故に、言祝ごう。観客席に座る一人の客として、我々は見ました。壊滅、これにて完成――

 

 

 

 

 

 

「まだだッ!」

 

 

 

 

 

 

 青白く身体を発光させるレイが、ページを引き裂く様に舞い戻る。現実の改竄、確かに厄介だ。殺した筈の事実すら消されてしまっては勝ちようも無いだろう。ましてや自己戴冠を経ずに、自己戴冠をした後に扱える様な壊滅すら使用するのだ。ただの矮小な一人の人間には太刀打ちの仕様が無い。

 

 ――だが殺す。

 

 次の瞬間に駆け抜けた破滅の極光が、鉄墓のコアを跡形もなく蒸発させた。

 

 意志力による不可能の具現も、事象や因果の壊滅による現実改変も、全てはそれを為せる演算領域あってのモノ。

 仮に、首を絶たれて絶命する筈の救世主が居たとして、意志力で死という確定された事象すら捻じ曲げるとして、意志を生み出す元となる何かが必要になる。それは脳であったり、或いは魂かもしれない。

 そして鉄墓の扱う壊滅もまた、演算の結果生み出された力である。鉄墓とはセプターであり、セプターは巨大な計算機であるのならば、その能力を使用不可にするには本体であるセプターそのものを破壊する必要があるだろう。しかし同時に、鉄墓として抱く憎悪はコアのモノである。コアが憎悪によって、ただの計算機である本体に指向性を与えているのだ。

 本体が無事である限り、扱える能力に変化は無いのだとしても。それを成そうという原動力こそがコアによって生み出されるモノである以上、コアが消滅をすればそれ以上何かをする事は無い。

 

「俺の勝ちだ、鉄墓。そして待たせたな長夜月、此処からが俺達の戦いだ」

 

 オンパロスの悲劇、その元凶である鉄墓は討伐された。この戦いを支えるタイタン達と、そこに至るまで背中を押し続けた全ての住民達の悲願が達成されたと言っていい。であるならば、後はセプターの主導権を誰が握るかを決めるだけ――

 

 

 

 いいや、歌劇は終わり。Acta est fabula.

 

 

 

 ――なんて、そんな余白は残されていない。

 

 この方舟世界は、無限に繰り返される物語。ザンダー・ワン・クワバラの試みによって壊滅の方程式を完成させようとする鉄墓の中で、キュレネによって知識を齎されたカスライナが違う結末を迎える為に永劫回帰を行い、そして変数が現れる。変数を迎え入れたこの世界は想定されていたルートを外れ、本来有り得ない筈の創造主の討伐を行った。

 この一連の流れを繰り返す事で因果を確定させ、オンパロスという世界が辿った歴史と迎えた結末を強固な因果とするべく身を捧げたデミウルゴスを解放し、いずれ新生するファイノンと再会させる事を目的として稼働している。

 

 つまり、鉄墓というラスボスを討ったのならば、迎えるべきはエンディング。そしてリセットされて新たな世界が訪れる。

 

 これこそが、偽夜月がその身をシステムに捧げて完成させた永劫回帰である。その世界で仮に既知感に囚われる存在が居るとしても、それは記憶の子であるキュレネだけ。

 

 故に――

 

 

 

 Sequere naturam.

 

 

 

 ――全てが、白に押し流される。

 

 

 

「此処は……」

 

 鉄墓の行うフォーマット、その経験があったレイは気合いと根性のみでその存在を保っていた。とは言えそれも何時まで続くか分からない状態ではあるが、本来認識すら出来ない筈の真理を目にする事になる。

 

「あら、ここまで残れたのは貴方が初めてかしら」

 

 桃色の髪をした、分厚い本を持つ少女。見た事のある人物では無いけれど、伝え聞く特徴から目の前の少女が歳月を担う黄金裔――キュレネであるとレイは理解した。

 

「どうやら戸惑っているようね? 無理も無いと思うわ……どうやら少しだけ時間がありそうだし、あたしが答えられる範囲でなら答えるわよ」

 

 疑問は多い、聞きたい事は山ほどある。けれど自分がこの空間で、果たしてどれだけ意識を保っていられるのかは分からない――となれば、最初に聞くべきは決まっていた。

 

「俺達の行った全ては茶番だったと言う事か?」

 

 柔らかく微笑んで、キュレネは首を振る。

 

「まさか、むしろ誇らしいくらいだわ。多分あたしが見たこの世界こそが、他のどんな結末よりも素晴らしい物であると、胸を張って言えるもの」

 

 目に映った情報から判断した、レイの考える真実とは――決められていたシナリオに沿って、オンパロスの全ては踊らされていただけと言う、極めて屈辱的なモノ。

 決して的外れな考察では無く、ある見方によっては真実であると言えるモノ。

 

 しかし重要なのは、演者も観客も、唯の一人としてそれを茶番だとは思っていない事。

 

 決められているシナリオは始まりと終わりだけ。与えられた役職達がいる中で、変数という主人公がどの様に世界を変革し導いていくか……そしてその最後に、どのような決着が待っているのか。

 演者達はそれこそ命を削って舞台を彩り、そして眺めるしか出来ない観客達はその様を胸に刻み込む――

 

「であるなら、この下らないシステムを作り上げたのは何処の誰だ」

 

 ――だから何だ? どの様な意図があれ、どの様な思いがあろうとも、他者の人生を見世物として利用している許し難い悪が居る事に変わりは無い。ならばそれは、討つべき悪である。

 

「ここに、ずっといるわよ」

 

 そう言ってからキュレネが手で示した場所には、玉座と表現して差し支えない物に座る、小さな双頭の白蛇が居た。

 ソレは四つの真っ赤な瞳で此方をただじっと見詰めている。

 

 自らを喰い続けるウロボロスにも、銀河全てを埋め尽くして塒を巻く大蛇にもなれなかった、小さき者。しかし同時に、見てくれだけの仮初であったとしても、確かに座に座る事を許された存在でもある。

 

「彼女を討つ事が出来た時、この座の代替わりが行われる。そうすれば、貴方は彼女に変わってこの方舟の全てを担う事になった……でも、そうはなれなかったのよね」

 

「いいや、まだだ。まだ俺は此処にこうして存在していて、刃を握る事が可能だ。ならば、悪を滅殺するに不足ない」

 

 しかし此処に来て、レイには二つの想定外があった。

 

 一つは反動。神に依らず神を殺す異端技術、それを――しかも理論上は星神すら殺害可能な程の殺戮性能特化型であるそれを、利用した事によるバックファイヤー。自らの身すら滅ぼす光の後遺症と反動によるダメージは、さしもの英雄さえも膝を着かせる。

 

 もう一つは、資格の有無。本来であれば立つ事すら許されない舞台に足を踏み入れた英雄だったが、それは消えかけの残滓がしがみついている様な、或いは服に着いた染みのようなモノでしかなく、確かな個として存在を確立するには格が足りていなかった。仮に鉄墓を相手に一人で挑んでいた場合は、この場に立てるだけの資格を有するまで覚醒を果たしていただろうが……彼は優秀過ぎた。十二全てのタイタン達と協力して戦いに挑んだ彼は、常に彼らと肩を並べ背中を押されて戦っていたのと同じ事。故にレイからすれば一つ上の次元に至るには鉄墓は足りていなかった。

 

 その二つの理由が、レイの戦闘行為を許さなかった。

 

 いいや、まだだ。どのような事情があろうとも許し難い行いを、自分より前にも幾度となく繰り返してきた存在が目の前にいる。ならば直ちに切り捨てるべきであり、それしか出来ないのが自分だろう。故に邪悪なるもの一切よ、ただ安らかに息絶えろ。

 

「あら、このあたしももう終わるのね……ねぇ、救世主。あたしが見てきた貴方なら、往生際悪く足掻き続けるのでしょう?」

 

「当然だ」

 

「ふふ。じゃあ、もし仮に貴方の考えが少しでも変わったのなら、記憶を再現するだけの方舟じゃなくて……本当のあたし達の歩んだ、本物の世界の方を守ってくれないかしら?」

 

「……どういう事だ?」

 

「この方舟世界では、確かに永遠に再現された記憶達に苦しみを与え続けているわ。でも同時に、閉じ込められているだけの世界とは違って外を見る事も可能なの。そして本来のオンパロスでは、それが叶わなかった……けれど、漸く現れた開拓者が、閉ざされた未来を開拓して、新しく生まれ変わる時を待っているの」

 

 いつかは新生するオンパロスも、見る事が出来るだろうかとキュレネは期待を抱く。

 

「でも、辿った歴史と成し遂げた偉業は、きっと色んな勢力に目を着けられるわ。記憶を狙う勢力もいれば、壊滅を望む勢力だっている……オンパロスが新生した時、彼等が望んだ様に争いの無い平和な世界となっていた時――果たして、現れる外敵に抵抗出来るのかしら?」

 

「言いたい事は理解した。その上で答えよう、俺はどちらもやり遂げると」

 

「ええ、それで構わないわ」

 

 

 

 こんな結末は認めない/己を殺すのはお前じゃない

 

 ああ、輝かしき英雄よ/憧れはすれど、求めてはいない

 

 悪の敵、羨望の英雄譚/しかしそれでは温い

 

 ならば/だから

 

 己は真我として/自らの戒律に従って

 

 彼を生み出そう/悪の一切を根絶やそう

 

 

 

 消える、消える、全てが消える。

 

 世界を構成する全ては漂白され、刻み込まれた歴史の全てが抹消される。

 

 観客としての席を与えられていたキュレネも外装を補強する一つとして加えられ、残るは白蛇と英雄のみとなる。

 

 英雄では足りなかった。殺意が足りてなかった。白蛇は微塵も妥協しない。この世界の全ての悲劇を断つのなら、虚数の樹すらも切り倒さなければならないのだから。

 

 英雄ならいずれ成し遂げる? いいや、英雄なら自らの民の為に全てを利用する。

 

 求めていないのだ、その様な結末は。

 

「舐めるなよ、創造主。お前が誰を求めていようと知ったことか――"勝つ"のは、俺だ」

 

 存在が抹消されようが、真の虚無に押し流されようが、知った事では無い。虚無の影に飲み込まれながらも尚、英雄は怒りのままに叫び続ける。

 

 いいや、まだだ。この程度、侮るな。

 

 まだ、負けていないのだから。

 

 箱庭からも解放されて、英雄は銀河の全てを目撃する。そして理解する。殺すべき邪悪は、まだこんなにも居るのだと。

 

 鉄墓の身体を乗っ取って、オンパロスの住民達に繁栄を齎そうなど、甘い考えだったのだ。

 

 一時的な平和を獲得したとして、運命に踊らされる星神共は必ず敵対する定めにあったのだ。

 

 だからこそ、何度でも叫び続けよう。

 

「――まだだッ!!」




彼は特異点に行きました。ケラウノスを名乗る新生オンパロスの守護者として、記憶を狙うメモスナッチャーとかをぶち殺します。

虚無の影に飲まれたのに出れる訳無いだろって?黄泉さんですら記憶失ってるのにって?

まぁでも、閣下ならやるでしょ……だって閣下だし。


偽夜月は英雄譚大好きだし、光に焼かれて人間の可能性は無限大で、どんな困難も閣下なら出来たぞ?閣下なら出来たぞ?邪龍にも出来たぞ?で乗り越える意気はありますが、大前提として無慚の萌え豚です。
っぱ第一神座よ。はよSteamでアヴェスター発売して。



前書きにも書いたけどこれで一応完結です。二相楽園の続きが待ちきれなくなった時、また会おう!
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