『俺達に明日はいらない』(偽原題:Bomber and Cradle)   作:ばばばばば

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チェンソーマン レゼ編はね、あのほろ苦い結末が良いんだよ
だから安易なハッピーエンドはありえないし、変えちゃいけないし
見た者の心をめちゃくちゃにしなきゃいけないの


1.あるジェーンのために花束を

「は?」

 

 

 早川アキが思わず右目を押さえたのは、バディである天使との連絡がつかず、思案に暮れてタバコの煙をくゆらせていた時であった。

 

 

 突然、右目に光景が飛び込んでくる。

 

 

 太陽がいっぱいな田舎の漁村、目の冴える青い海と静かに打ち寄せる白い波、そんな穏やかな風に揺られるヨットと帆。

 

 もしも自分に余生なんてものがあったなら、こんな海辺の家に居を構えて過ごすのもいい。

 

 

 しかし、早川アキがそんな感情を抱いた瞬間、全ては崩壊する。

 

 

 景色全てを揺らす大爆発。

 

 平穏という言葉が似あうその場所は、次の瞬間には全てが消し飛び、かき混ぜられ、泡立った。

 

 

「未来の悪魔、今の光景は一体なんだ?」

 

 

 その爆発の中心には二人の男と女がいた。

 

 両方とも見知った顔。

 

 前者は奇妙な同居人、後者は仲間を殺した敵。

 

 敵である女の爆発によって男の全身は血煙と化して吹き飛んだ。

 

 

 こうして早川アキはまるで真夏に侵された質の悪い幻覚を見せつけられることとなる。

 

 

 自分の問いかけに何一つ言葉を返さない悪魔に内心で唾を吐きかけながら、早川アキは自分の同居人に電話をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぼんやりと待ち人が来るまで過ごしていたデンジは鳴りだした携帯を眺める。

 

 

「……つうかこれも置いてった方が良いヤツだったな、相手は……、ゲッ、ハヤパイじゃん」

 

 

 表示される相手の名前を見て、デンジはコーヒーと同じぐらい苦い表情を浮かべ、しばらく悩んだ後で電話に出る。

 

 無事か? 今どこにいる。 何をしている。そこで待っていろ。とにかく余計なことをするな。

 

 

〈いいか、喫茶店にいるならそこでコーヒーでも飲んで待ってろ、いいな?〉

 

 

 言葉を雪崩のように畳みかけてくるアキに、デンジは曖昧な返事を繰り返しながらふと思ったことを聞いてみる。

 

 

「なぁパイセン、コーヒーってどこがうめぇんだ? よく飲んでるヤツいるけどメチャクチャ味まじィじゃん」

 

〈……あぁ? 急に何言ってやがる。いいかデンジ、とにかく今から迎えに行くからそこを動くな〉

 

「あんな苦ぇ泥水、何がウマいんだよ。牛乳と砂糖ぶっこんでもドブ味がきえねぇし」

 

〈だからガキなんだよ、お前は〉

 

「おー アレだな? 大人になると飲めるってよく聞くぜ、やっぱコーヒーってそういうもんなんだよな?」

 

 

 勝手に納得した様子のデンジにアキはなぜか強い焦燥感を感じた。

 

 

〈飲みたいなら淹れてやっても、……いや今日は帰りにコーヒー牛乳でも買ってやる。 だからデンジ、やっぱりお前今すぐ家に帰れ、俺も合流する〉

 

「家かぁ……、そういやセンパイにはうめぇもん色々食わせてもらったな、アンタが言うならコーヒー牛乳ならオレでも飲めるかもしんねぇ」

 

〈あぁ、だからお前は――〉

 

「……でもわりぃんだけど、コーヒー牛乳は買ってこなくていいよ」

 

 

 恐らくここが彼らの分水嶺だった。

 

 アキの言葉で何気なく、デンジは振り返り、外の窓を眺め、()()()()しまう。

 

 

「アキとかパワーと居れば、オレもコーヒーがそのうち飲めるようになってたのかもしれねぇなぁ……」

 

 

 そしてデンジは携帯をテーブルに置いたまま、立ち上がった。

 

 

「ま、オレは苦ぇより甘ぇほうが好きだ。だって甘いしな、じゃあな、あんがとよアキ」

 

 

 そのソファーを軋ませる音と遠のく声を聞いてアキは何かを悟り、携帯に大声で問いかけるがデンジからの返事は聞こえない。

 

 

「マスター、もう行くわ、たぶんなんだけどよオレたちこの店に当分これねぇかも、代金は……」

 

「いいよ、サービスしておくから、早くむかえに行ってあげるといい」

 

「マジ?」

 

「また来なさい、今度は君にもっと美味しいコーヒーを出せるように僕の方も腕を磨いておくよ」

 

「サンキューだぜマスター!」

 

 

 さて、少年はどこまで話を聞いていたものか、喫茶店の主人の言葉の途中ですでにドアベルは子気味良く鳴っていた。

 

 

 勢いよく飛び出したデンジはその駆け出しそうな勢いで路地へ向かおうとするが、直ぐに思いなおし、その速度を緩めようとする。

 

 走って向かうのも何だか自分が浮かれているようでカッコ悪い、デンジはそう思い直し歩こうとするも、その歩調は大股でまだ早い。

 

 

 そして、ようやく少年は少女に出会う(ボーイミーツガール)

 

 

 路地裏の中ほど、此方を見て足を止める少女を見てデンジも立ち止まる。

 

 初めに口を開いたのは少女の方からだった。

 

 

「その花束なに? 浮かれすぎでしょ」

 

 

 花束を担いで駆け寄る様は、傍から見ればどう考えても浮かれた男だ。

 

 

「これは……、アレだよ、オレが食べる用だよ、サラダだサラダ」

 

「デンジ君、喫茶店でサラダ頼んだときないじゃん」 

 

 

 言葉を詰まらせるデンジ、それを見て少女は控えめに笑った後、その顔を無表情に変える。

 

 

「なんでいるのかなぁ……」

 

 

 彼女に笑顔は既になく、その色は冷たい。

 

 

「もしかして本気で逃げられると思ってる? ソ連だって、公安だって、その他の国も全部敵に回して、私たちどこへ行っても追われるんだよ」

 

「オレだって一応よぉ考えてみたんだぜ、今のままで働くのも最近楽しくなってきてたしな」

 

「だったら――」

 

「でもレゼの方がもっと楽しそうじゃん」

 

 

 誰もそんなことは聞いていない、今は危険性の話をしているというのにレゼの前に立つ少年は、そんなことを思考の天秤に欠片も載せずにあっけらかんとそう答えた。

 

 その無計画さにレゼは震えるほど苛立った。

 

 

「なんで……」

 

 

 苛立ったが、それでもその震えが次第に違う意味の震えとなっていることに、レゼは努めて気づかないふりをしようとした。

 

 

「おっ、それ食った時あるぜ、ワリとうめぇんだよ」

 

 

 突然デンジはレゼが握りしめ、茎が潰れかけてしまった花を指さす。

 

 レゼが何も言わないことをいいことに、その握りしめた指のこわばりを解すように奪い取ると、デンジは一方に持ったモノを突き出す。

 

 

「ン、交換だ。コレやるよ」

 

「……私は花なんて受け取れないよ、それに逃げるなら邪魔でしょ」

 

「えー、じゃあ捨てても……、いや、もったいねぇな、後でオレが食うからレゼが持っといてくれよ」 

 

 

 とぼけたように話すデンジにレゼはもう限界だった。

 

 逃げるなんて言葉が自分の口から出ている時に、先ほど犬のように駆け寄ってくる姿を見た瞬間から、そもそもこんな場所に来ていることそれ自体が。

 

 もう完全に自分は彼に負けてしまっていたのだとレゼは気づく。

 

 

「デンジくん」

 

 

 レゼは無知で馬鹿な年ごろの少年を自分に惚れさせるなんて造作もないことだと思っていた。

 

 だが今更になって彼女は思い知ってしまう。

 

 

「一緒に逃げよっか」

 

「おー、なんだかワクワクしてきたな」

 

 

 この失敗することが定まっている逃避行に自分も楽しそうだなんて思ってしまったのは、どうしようもなく彼女がこの男の子を好きになってしまっているということだ。

 

 

 

 

 だがしかし――

 

 

「ダメだよね、デンジ君」

 

 

 そんな砂糖とお菓子で作ったお城のような甘い理想は、きっと苦くて強固な現実の前に沈んで溶けてしまうだろうと、レゼには分かっていた。

 

 

「マキマ……!」

 

 

 背後から聞こえる声と背筋に張り付くような視線。

 

 レゼが振り返ると、そこには黒い影が立っていた。

 

 薄暗い路地の中でさえただ一人、彼女だけが際立って影を落として見える。口調は柔らかいはずだというのに、心臓を鷲掴みにするような冷たさがそこにはあった。

 

 

「帰ろうデンジ君、貴方にはアキ君やパワーちゃん、帰るべき家があるはずでしょう?」

 

「マ、マキマさんじゃん!? いや、その、これはァ……! 違くてェ……!!」

 

 

 最悪なタイミング、逼迫した状況、今すぐ自身の生存の可能性を探す為に全てのリソースをつぎ込まなければいけないその渦中。

 

 

「……違うって、何? デンジ君そういうこと言っちゃうんだ。私と逃げようって言ったのに……」

 

 

 だというのに軽口でなく本心から、そんな拗ねた言葉が自分の口から出ていることにレゼは驚いた。

 

 

「逃げまァす!! 」

 

「公安を辞めちゃったらどうなるか言ったよね? デンジ君は悪魔扱いで、もう一緒に働けなくなるんだよ?」

 

「きゅ、休職! オレいったんお休み取りたいですマキマさァん!!」

 

「デンジ君……、私よりマキマの方が大事なんだ」

 

「あ゛ぁァ゛ァ!! イッシンジョウのせいで辞めまァす! マコトにごめんなさいマキマさん!!」

 

 

 

 レゼは国を敵に回せて美女一人で心揺らぐデンジに呆れながらも、こんな人じゃなければ自分と逃げようなんて本気で言ってくれないだろうとも思ってしまう。

 

 

「悪ィけどオレはレゼと行くぜ、マキマさん!!」

 

 

 デンジは突然レゼの体を引き寄せる。

 

 そんな程度のことでレゼは自分の不満が萎んでいきはじめていることに気づいてしまう。

 

 急に体に触れられても抵抗する気も起きない、レゼは自身の体が抱えられるままにされてしまった。

 

 

「そう……。アキ君達や私よりそっちを選ぶんだ。……なら、少し計画を修正しないとね」

 

 

 誰にも聞かれぬまま、マキマは路地から動かず小さな声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

「あぁ!! チクショー! ぜ、絶対にマキマさんに嫌われた!! い、いいもんネ! オレはレゼと逃げるもんねー!!」

 

「なにそれ? デンジ君は可愛ければそれでいいんだ」

 

 

 そのままデンジはレゼを腕に抱きかかえたまま、全力で走り続ける。

 

 何故か追撃は無い。

 

 おそらく攻撃の手段がないわけでも、諦めた訳でもないこと、きっと自分達はマキマの手の上にいることをレゼは理解していた。

 

 何も楽観視できない絶望的な状況。

 

 

「ち、ちげぇよ、もっとこう……、いろいろあるよ!」

 

「じゃあ具体的に言ってよ」

 

「わ、笑ってる時とか、前歩いてコッチ振り返った時とか、メシん時とか、とにかくこう、なんか目にとまった時とか……」

 

「時とか?」

 

「……カワイイ」

 

「フフッ 結局可愛いじゃん……」

 

 

 レゼは全力で走りながら必死に言葉を振り絞ろうとするデンジの顔に思わず吹き出す。

 

 

「うおぉぉぉ!? でも仕方がねェだろカワイイんだから! つーかタイム! 走ってる時に聞くのナシだナシ!!」

 

「デンジ君って私が好きなの?」

 

「す、好きィ!!」

 

「どのくらい?」

 

「こンくらいイィィィィィィィ!!!!」

 

 

 デンジの走る速度がさらに上がり、レゼの体を抱く腕にいっそう力がこもる。

 

 結末の見えた最悪の選択をしてなお、変わらないデンジ。その胸に頭を預け、レゼは揺られる。

 

 

 せめてオープニングは爽やかに。

 

 彼らの逃避行は始まった。

 

 




オレぇ……、ホントは……、実はホントはああ……、映画……、展開知ってたけど何故かラストで引くほど驚いててぇ……、ホントはぁ、もっと二人のイチャイチャと青春が見てぇですっ! ホントはダメだけど!ひでえ事だけど……! 二人の青春シーンとかもホントは……! 5話分!! いや10話分くらいOVAでほしい!!

たくさん二人の青春を見たいい!!
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