文世さんが学校へ登校してきたのは、梅雨が明けて夏の香りがやってくる頃だった。
その頃には休んでいた他のクラスメイトも無事に復活していて、久しぶりに登校してきた文世さんは机の周りに人だかりができるくらい人気者になっていた。
みんなに話しかけられて困りながらも嬉しそうな顔をする文世さんに、僕の胸の中はぽかぽかするくらい嬉しい気持ちでいっぱいだった。
「どうしたんだよ、こくとー。ニマニマしちゃって」
「なんだか嬉しくて」
「そっかー。まあ僕も久しぶりにみんなの顔が見れて嬉しいけどなー」
「そうだね」
あれだけ静かだった教室が、久しぶりに騒がしくも楽しい活気に包まれる。
それもあってか時間はあっという間に過ぎて、気づけば下校時間がやってきていた。
今日の家事は朝のうちに片付けてしまっていたので、少しだけ時間がある。拓海くんと一緒に帰ろうかなって思っていたけど、用事があるみたいでスタスタと家へと帰ってしまった。
その代わりじゃないけど、隼也くんが一緒に帰ろうと誘ってくれた。ルンルン気分でランドセルを背負って教室を二人で出ようとした時、声をかけられた。
「こくとくん、今いいかな?」
「文世さん? どうしたの?」
「えっとね……」
ちらちらと隣にいる隼也くんを見る文世さん。
隼也くんはニマニマとした笑みを浮かべて、僕の肩を叩くと正門前で待ってるから頑張れよーっと、僕を置いて行ってしまった。
「どうしたんだろう、隼也くん……」
「多分、気を遣ってくれたんだと思う。それでね、こくとくん」
「うん」
「覚えてる? 私がバケモノに呪われた時のこと」
「覚えてるよ。忘れたくても忘れられないかな」
あれは凄かった。きっと一生忘れることはないと思う。
それだけ強烈だったんだ。
そんな僕に文世さんはクスリと笑う。
「ありがとう。こくとくんがいなかったら、今頃私どうなっていたか」
「ううん、僕はなにも出来なかったし……」
「でも、お狐様はこくとくんのおかげだって」
「え、お狐様に会ったの?」
驚いた。文世さんがお狐様に会っていたなんて。
でも文世さんはふるふると首を振った。
「ちがうちがう! 会ってはないけど、夢の中にお狐様が出てきてね。あの童にお礼を言わねばならんぞって」
「そっか、それで」
「……きっと普通の人に話したって信じて貰えないだろうけどね」
そうだろうねと僕は苦笑いした。
たしかに僕たちが経験した事は非科学的で、普通の人なら絶対に信じてくれない様なものだった。
僕だってあんな事がなければ、胡散臭いとしか思ってなかったはずだ。
まさに超常現象としか呼ぶ事はできないだろう。
「文世ー! 早く帰ろうよー!」
「うん! いま行くー! ……じゃあこくとくん、また明日ね」
「うん、また明日」
そういって笑顔で教室から出ていく文世さんに、僕は手を振った。
正門に着いた時、隼也くんはまだニマニマと僕を見ていた。誤解があるようだったから、バケモノや呪いのことは伏せてあった事を話すと、なーんだと残念そうに肩を落としていた。
「こくとにも春がきたのかーって思ったのに、つまんねーの」
「春は過ぎたよ?」
「そういう意味じゃないやーい」
二人でそんな事を話していると、前から制服を着た女子高生の集団が歩いてくる。
僕の目にはすっごく大人っぽくて、綺麗に映った。
隣の隼也くんは目で追っている。
笑顔が輝いていて、毎日がとても楽しいんだろうなと伝わってくる。
でも、すれ違う時に聞こえた会話はとてもじゃないけど笑いながら話すような内容ではなかった。
「そういえば、聞いたあの話」
「なになに?」
「あー、もしかしてあれ? あの世行き電車ってやつ」
「その電車がどうしたの?」
「雪は知らないんだ。あの世行き電車って最近噂になり始めた怪談でさ。その電車に乗ったら死んだ人に会えるだって。でも、その電車に乗ったが最後一生帰ってこれないらしいよ」
「うっそ、こわ…」
「でも、なんで帰って来れないのに怪談になってるんだろうね」
「そこはつつかないー! こういうのは面白いからいいんでしょー!」
一人のツッコミにケラケラと笑う女子高生達。
もっと日常的な会話かなと思っていたら、まさかの怪談だった。
「あの世行きの電車ねー」
「隼也くん、知ってるの?」
「うん、塾の先生がその怪談を昨日してたんだよー。その先生、怖い話が好きでさ」
「隼也くんもじゃない?」
「まあねー!」
その怪談が引き金になったのか、隼人くんが塾に着くまでの間、ずっと隼也くんお気に入りの怪談を聞かせられる事になった。
息継ぎをしてるのか分からないくらいのマシンガントークで、僕の頭の中には会話の内容の半分も入ってるかどうかも怪しい。
でも、隼也くんが楽しそうに話す、それだけで嬉しかった。
「こくとは、いつも通りまっすぐ家に帰るのかー?」
塾に着くと隼也くんがそう聞いてきた。
たしかにいつもならそうなんだけど、今日は違った。
「ううん、今日はちょっと寄るところがあるんだ」
「そっかあ。じゃあ、気をつけて帰れよー」
「うん、また明日ね」
「また明日なー」
お互いに手を振って別れを告げる。
僕は隼也くんの姿が塾の中へ消えていくのを見届けて、目的地まで歩き出した。
向かうのは飛鳥さんのお家。
つまりは超常現象解決倶楽部の拠点だ。