コンビニの前。
僕がぼーっと待っていると、店のドアが開いて女の人が出てきた。
その手には、ジュースの缶が二つ握られていた。
「はい。これはさっき君の手を強引に引っ張ってしまったお詫びだ」
「ありがとうございます……」
「このジュースは美味しいぞー。私が一番好きなジュースなんだ」
ニコリと笑う女の人から受け取ったジュースには、桃の絵が描かれていた。
僕はプシュっと缶を開けて一口。
こくんと喉を通ればさわやかな桃の味が口いっぱいに広がった。
病みつきになりそうなその味に、僕はどんどんジュースを口に運んだ。
そんな僕を見て女の人は嬉しそうにしている。
「さて、君にはお礼を言わなければいけないな。あの時に君が桃をくれなければ今の私はない」
「実はあの桃は偶然もらったものだったんです。でも、それで貴方が救われたなら良かったです」
「本当に君は……、善い人間だね。素晴らしいよ」
「……そうでしょうか」
「うん、誇っていい」
そこまで言われると僕としても嬉しい。
やはり良いことはするべきだと、道徳の授業は正しいんだなと思った。
きっと僕の顔は緩んでいるだろう。
そんな僕に女の人は恥ずかしそうに咳払いを一つした。
「あー、さてそんな君にもう一度お願いしたい事がある。その人柄の良さを見込んで、改めて私の助手になってくれないだろうか?」
「んー」
僕は悩む。
それに疑問もあったので、女の人に聞いてみることにした。
「あの……気になってたんですけど、なんの助手なんですか? それにその制服ってこの近くの中学校のものですよね。学生が小学生を助手にするってなんだかおかしなような……」
「おお、そうだね。気持ちが先走って名乗るのを忘れていた。私はこういうものなんだ」
女の人にそう言って手渡されたのは、一枚の名刺だった。
そこにはこう書かれている。
「超常現象解決倶楽部、
「そう、私は超常現象解決倶楽部というものをしているんだ。君にはその助手をしてほしい」
「なるほど……」
いや、なるほどと頷いていいものなのかな。
超常現象解決倶楽部って、胡散臭いものの助手に僕はなってくれないかと頼まれているのに。
きっとオカルト好きな隼也くんなら喜んで飛びついていくんだろうけど。
そんな僕の心を読んだのかもしれない。女の人いや飛鳥さんはカバンから封筒を一つ取り出した。
なんだか分厚い……。
「これはなんでしょう」
「私は恩人に対して、タダでお願いするほど恩知らずではない、ということだよ」
なんだろうと、封筒をひらけば数えきれないほどの札束。
こんな札束見たことない。
僕はびっくりして、その場に固まった。
「それは前金だ。正式に雇用となればそれよりも高い報酬を約束しよう」
「え、え?」
「さあ、どうする?」
飛鳥さんは笑顔で訊ねてくる。
僕の頭はパニックだ。
超常現象解決倶楽部というヘンテコな仕事だけど、助手として雇って貰えれば大金が入ってくる。
こくんと唾を飲み込む。
これだけあれば生活は楽になる。お姉ちゃんに喜んでもらえる。
しばらく悩んだ後、僕はゆっくりと確かに頷いた。
「よし! では、これからよろしく。私の助手くん」
「はい……」
この選択が正解なのかは分からない。
けど、これで確実に生活は楽になるはずだ。
飛鳥さんは嬉しそうに手を出してきたので、それを握った。
「で、早速初仕事を頼みたい」
「初仕事……」
「君の学校の案内だよ。実は文世さんの家に居たのは理由があったんだ」
飛鳥さんが話してくれた、その理由。
長い間、寝込んだままの文世さん。病院で診てもらっても原因不明で、最後に頼ったのが超常現象解決倶楽部だったらしい。
「これでも有名なんだよ?」
飛鳥さんは得気にそう言う。
「それで学校の案内……」
「そう、まずは原因を調べなければいけないからね。今日の夜、迎えに行くから準備しといて」
飛鳥さんはそう言うと、早足でどこかに消えてしまった。
引き止める事もできない早さだった。
その場にポツンとジュースを持ったまま、たちつくす僕。そして、ポケットに入った分厚い封筒。
カアカアとカラスが鳴いている。
「あっ、早く帰らないと」
今日は色んな事があったけど、それを考えるのは後。
早く帰って家事をしないと。
僕はジュースを一気に飲み干して、封筒を落ちないようにポケットにぐっと押し込んで、走り出した。