窓から見える今夜の星空はとても綺麗だった。
いつもなら寝てる時間だし、この部屋から星空を見たことなんて無かったから、余計にそう見える。
でも僕はそんな星空を見てしまうほどに暇だった。
「まだかなあ、飛鳥さん」
だって、迎えに行くと言った飛鳥さんが来ないから。
正直、騙されたのかなとも思う。
超常現象解決倶楽部なんて胡散臭いし、僕はオカルトをあまり信じていない。
夜の学校を案内するなんて、先生にバレてしまったら怒られるだけで済むとも思えないし。
でも……。
「……お金、受け取ったからなあ」
机の上にある分厚い封筒。
あの時は目の前に大金が現れて、思わず頷いてしまった。
けど時間が経つにつれて、心の中の不安がどんどん大きくなる。
僕はその不安を消そうと星空をじっとみていた。
その時だった。
突然窓の外に女の人の顔が、ドアップで現れた。
「わっ!」
びっくりして僕は後ろへ尻餅をついた。
見間違いかなと目を擦ったけど、やっぱりいる。
窓の外、短い黒髪を七三に分けた鋭い目の女の人が僕をじっと見ている。
その女の人はガラリと窓を開けると、部屋に入ってきて、お辞儀をした。
「はじめまして、こくと様」
「え、だ、誰?」
「私は飛鳥の侍女をしております、凪山愛と申します。飛鳥に代わり、こくと様をお迎えに上がりました」
侍女……?
なんでメイド服……?
どうして窓から……?
色んなハテナマークが浮かぶ僕を、愛さんはひょいと脇に抱える。
「へ……?」
「では、参りましょう」
愛さんはそう言って僕を抱えたまま、窓の外へ出た。
月明かりが照らす街の中を、屋根から屋根へ飛び移りながら進んでゆく。
僕は何もできないから、その街並みを見るだけで精一杯。
でも、じっくりと見る事なんてできなくて。
それでも見続けたのは、普段見ることのない夜の街がとても綺麗だと、そう感じたからだった。
――
「こんばんは。どうだった、空の旅は?」
僕が通う小学校の校門前。
そこにはもう飛鳥さんがいて、愛さんの腕の中から優しく下された僕にそう言った。
「……すごかったです」
「それは結構。では、案内役お願いね」
飛鳥さんはそう言って進んでゆく。僕の後ろにいた愛さんもそれに続いた。
でも、僕は疑問に思う。
学校には防犯設備があって、簡単には入れないはず。
それなのに二人は涼しい顔なんだ。
どうするのかなと思って、僕が聞くと飛鳥さんは笑って右手を上げた。
「問題ないよ、私たちには」
パチン。
飛鳥さんが手を鳴らすと、校門の前にあった防犯カメラがかくんと動かなくなった。
それに閉じているはずの校門が勝手に動き出して、僕たちを歓迎するみたいに開いてゆく。
「ほらね? では、行こうか」
驚く僕に、飛鳥さんは得意げに笑った。
――
僕たちの目的地は文世さんのクラス、つまり僕が通う教室だった。
ガラリとドアを開いた先にある室内は、窓から差し込む月明かりで少しだけ明るい。
「……ここで何を調べるんですか?」
「調べるというか、会いにきたっていうのが正しいかな?」
会いにきたって誰に?
飛鳥さんは僕の問いに答える事はない。
スタスタと教室の中央に行って、そこで懐から出した何かを天井に向かって振り回し始めた。
よく見るとそれは、油揚げだった。
「え?」
僕より年上の女性が真夜中の教室で、油揚げを振り回している。
へんてこりんだ。
僕は一体何を見てるんだろう。
隣にある愛さんを見る。
「……ふふっ」
真面目な表情だけど、肩が震えて小さな笑い声が聞こえた。
やっぱりおかしな光景なんだ。
僕が正しいんだと分かった。
「んー、おかしいな。これで会えるはずなんだけど」
飛鳥さんは油揚げを振り回しながら、首を捻る。
そして、しばらくして振り回すのをやめた。
肩を落として、僕らの方へ帰ってくる。
僕はそこで気づいた。
「ダメだね、失敗。これで会えると思ったんだけどなあ」
「飛鳥さん」
「ん、なんだい?」
「会いたい人って、どんな人なんですか?」
「うーん、私が会いたいのって人じゃなくて神様なんだよね。それも狐の神様。油揚げが好物っていうから、ここで振り回したら出てくるかと思ったんだけど、失敗だね」
はぁ、とため息を吐く飛鳥さん。
僕はそんな飛鳥の近くを指さして、こう言った。
「神様って、いま油揚げに噛みついてるその女の子ですか?」
「へ……? あっ!」
僕が指さした先。
飛鳥さんが持つ油揚げをはむはむしている女の子がいた。
いつからそこにいたのか。
それはもう美味しそうに幸せそうに食べている。