机の上に座って油揚げを美味しそうに食べる、真っ赤な着物のを着た女の子。
それだけなら変ではないんだけど、その子には獣耳とふかふかの尻尾がついていた。
明らかに人じゃない。じゃあ、何だろう。
その答えは飛鳥さんが出してくれた。
「こんばんは。稲荷塚家の神様」
「え……」
「こんなわしをまだ神様扱いしてくれるのかの」
稲荷塚、それは文世さんの苗字だ。
目の前にいる女の子は文世さんの家の神様だという。とても信じられないけど、たしかに人ではないし神々しいような気もするので神様なのかもしれない。
けれど、そんな神様はしょんぼりとしていた。
さっきの笑顔はどこへやら。耳も尻尾もへにょりとしている。
「はいもちろんです。貴方様の結界は見事なものでした。それこそ神の所業に他ならない」
「ハッ。わかりやすい世辞じゃな。それでこんな惨めな神になんの用じゃ」
神様は乾いた笑い声を出す。
「実は文世さんがここ1ヶ月、どこに伏せっています。その原因を貴方様に聞きにきたのです」
「いやお主ほどの者ならすぐに分かるじゃろう」
「それが貴方様の結界が見事な物過ぎて、よく見る事ができず……」
「なんじゃあれは世辞じゃなかったのか。余計惨めじゃのう」
褒められたのに全然嬉しそうじゃない神様はぽつりぽつりと話し始めた。
「文世が寝たきりなのは、魔に魅入られたからじゃ」
「魔に……?」
「そうじゃ。もともとオカルトが大好きな子ではあったが」
神様がいうには文世さんは、本やネットにある怪しげなの儀式を実際にやってみたり、さらには心霊スポットに行くぐらいのオカルト好きな女の子だったらしい。
そんな子だからびっくりするくらい人間じゃないものを引き寄せていたとの事。
「わしも神じゃ。そんな者など相手にならぬ。文世がそれを連れ帰るたびに滅しておった。しかしな……」
「――貴方様でも対処できない者が現れた」
「そうじゃ。文世のやつ、とんでもないものを連れてきよった。わしでも相手にならぬ人型のバケモノをな。そのバケモノはわしを家から追い出し、文世とその家族に取り憑きよった。家には瘴気が満ち、もうわしの手にはおえぬ。今はあの家に収まっておるが、時期に周りへと伝染していくじゃろう……」
神様はそういうとぶるりと震えて、手に残っていた油揚げをひょいと口に頬張った。そして窓の外に映る月を見上げると、小さくため息を一つ。
僕は飛鳥さんと神様をやり取りを見ているだけだったけれど、神様の背中はとても悲しんでいるように感じた。
「のう、おぬし名は何という」
「飛鳥、凪山飛鳥と申します」
「そうか……。飛鳥よ、お主にひとつ頼みがある」
「はい」
「どうかあの家の者たちを救ってはくれまいか。お主ほどの力があれば、あのバケモノを滅する事もできよう。頼む」
神様は飛鳥さんに深く頭を下げていた。
神様が頭を下げるなんてすごい事なんじゃないだろうか。
ふと隣にいる愛さんを見れば目を見開いて驚いていたので、やっぱりすごい事らしい。
飛鳥さんって一体……。
「もちろんです。元々そのためにここに来たんですから」
「ありがとう。この恩は必ず返そう」
飛鳥さんの頼もしい言葉に神様はパッと笑顔になると、もう一度深く頭を下げた。
それからは神様と飛鳥さんが少し話をして帰る事に。
出口の近くにいたのでどんな話をしていたかは分からないけど、ふたりともずっと固い表情をしていたので、難しい話なのだろう。
また愛さんに抱えられて帰宅する事にほんのちょっとだけ心躍りながら教室を出ると、神様から声をかけられた。
「おい、そこの童」
「ぼ、ぼく?」
「そうじゃ。お主あまり良くないものに憑かれておる。文世ほどでないが、気をつけるんじゃぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「うむ、では頼んだ」
神様はそう不吉な言葉を僕に言って消えた。
あまり良くないものってなんだろう。せめてそれは何なのか言ってくれれば良かったのに、と不安になる。
でも僕にはどうにもできないので、忘れる事にした。
切り替えが早いのは自分の長所だと思う。
場所は変わって夜の学校の校庭。
「さて、神様からは有用な情報をたくさん仕入れる事ができた。これなら文世さんを助ける事が出来るだろう」
「本当ですか?」
「もちろんだとも。今すぐに稲荷塚家に行ってもいいんだが、しかし今は丑三つ時。バケモノたちの力がもっとも強くなる時間だ。これは避けたい」
飛鳥さんの言葉に愛さんもそうですねと頷く。
丑三つ時って何なんですかと聞けば、人間ではない者たちがもっとも活発に動く時間とのこと。
神様を追い出すくらいの力を持ったバケモノが、元気いっぱいになってるって事だ。
文世さん、大丈夫なんだろうか。
「じゃあ、いつバケモノを退治しに行くんですか?」
「不安そうな顔をするねこくとくん。でも、焦りは禁物だよ」
飛鳥さんはそう言って笑うと愛さんに車を持ってくるようにと指示を出した。
「今から3時間後、日が昇ると同時に私たちは稲荷塚家へ入り、バケモノを討伐する。もちろん君にも同行してもらうよ。助手なんだ、私のかっこいい姿を間近で見ていてくれたまえ」
「はい!」
「いい返事だ。では、行こうか」