一般通過シシ神転生者   作:ヤックルたんペロペロ

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千と千尋の翌日にAKIRAを見るのはカロリーが高い…。


16話 大掃除☆大作戦

 戦後は一気に文明が進み、吾輩の記憶に残る『現代』へはもうすぐである。

 

 東京オリンピックやテレビの普及に、アポロ11号の月面着陸や大阪万博。この時代の人間は未来の日本人よりもエネルギッシュだ。

 

 その裏では公害問題などが生じ、生死のバランスは常に均一を保とうとするのだなあと感じたり。

 

 吾輩はといえば、ここ最近はずっとゲーム漬けの日々を送っていた。シシ神のお仕事以外はゲーム喫茶に入り浸り、コーヒーと主流煙をお供にするおっさんたちとインベーダーゲームに興じている。

 

 以前使っていた『鹿山』はうっかり池で犬神家のようになりお亡くなりになってしまったので、現在は『鹿野(かの)』と名乗っている。

 

 

 今日は平日のためか、ゲー喫茶に訪れたがいつものおっさんたちはいなかった。

 

 喫茶店の中はヤニ臭さが染みついていて、ゲームの台にはコーヒーの染みもある。清潔感に乏しいが、だからこそこれが逆に良い。

 

 吾輩は椅子に座り、職人の如き手さばきで100円を入れ、ゲームを始めた。

 

「おい、そこのヒョロイ兄ちゃん」

 

 ゲームをやっていると、店にヤンチャな姿をした人間たちが入ってきた。リーゼントに学ラン。いかにも不良である。

 

「俺たちちょっと金欠なんだよねぇ」

 

「話しかけてんだから手ェ止めろや!」

 

 ヤンチャな人間のリーゼント()が、吾輩の頭に刺さる。なんだこのオスは? まだ時期じゃないのに発情期なんか? 吾輩と縄張り争いをしたいというなら望むところだが、あいにくと今の吾輩に角はない。

 

「……おい、小僧ら、その(ひと)に絡むのはやめときな」

 

 見かねたテンチョーがヤンチャな一人の人間の肩をつかんだ。

 

 そのオスは「ああん?」とメンチを切ったが、店長のまくったシャツの腕を見るなり途端に大人しくなる。

 このテンチョーは腕に龍のタトゥーをしているのだ。なかなか立派なそれに吾輩は河の主を思い出して褒めたところ、テンチョーはサングラスを指でクイッとして口角を上げていた。

 

 ヤンチャな人間たちは結局、ゲームをすることなく帰っていった。

 

 ゲーム喫茶でこうして遊んでいると、ああいった人間たちに絡まれることが多いのが面倒だったりする。

 

 ジャンプさせて「ヒャハッ! 小銭持ってんじゃねぇか!!」だけだったらいいのだが、中には手を出してくる者もいるので、()()()を超えてきた時は吾輩も対処せざるを得ない。

 

 吾輩から『奪う』覚悟があるのなら、『奪われる』覚悟も持たなければならない。

 

 当たり前のことだろう?

 

 

「鹿野さんよぉ、コーヒーのお代わりいるかい?」

 

 

 頷いた吾輩に、テンチョーは新しいコーヒーを注いでくれた。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 テンチョーのタトゥーを見る機会が多いためか、久しぶりに河の神に会いたくなった。

 

 思い立ったが吉日。

 

 吾輩は河の神のもとへ向かうことにした。交通が発達した今は、わざわざ山を突っ切ったり川を歩かなくとも乗り物に乗って向かうことができる。

 

 大まかな目的地に着いたら、「河の神よ〜い」と人間には分からぬ(コミュニケーションならぬ)神ニケーションでやつを呼んだ。

 

(……ん?)

 

 しかし待てども返事がない。もしかしたら出かけているのかなあと、仕方なく近くの森で草を食むなどして待つこと数週間。

 

(やっぱり帰って来ぬなぁ…?)

 

 まさかあの規模の神が早々死ぬとは思えぬし、いったいどうしたのだろうか?

 

 この河の主なのだから、長期間留守にするとも思えない。

 

 気になり河の流れに沿って歩いていた吾輩はそこで、奇妙な声を聞いた。

 

 

『………テ』

 

 

 河の中からその声は聞こえてくる。不思議に思い水に顔を突っ込んで耳を澄ませてみるが、その声は川の音にかき消されてうまく聞き取れない。

 

(吾輩、あんまり泳ぐの得意じゃないんだけどな……)

 

 渋々着ていた服を脱ぎ捨て、河の中に潜った。数分潜っていると意識がだんだん暗くなってきて、そうだ人間は息継ぎが必要だったのだと、慌てて水中から顔を出す。

 

 そんな間抜けに思える行程を繰り返すことしばらく。吾輩は声の聞こえる場所へ到着した。

 

『タス……ケテ……』

 

 声のここいらの下から聞こえていた。一目見ただけではただの泥の山である。

 

(其方はなぜそんなところで沈んでおるのだ?)

 

『………!! ソノコエハマサカ、シータンカ!!?』

 

(……………河っち!!?)

 

 そんなまさか…いや、そのまさかだ。

 

 河っちがなぜか泥の中に埋まってしまっている。なぜこんな有様になっているか尋ねると、どうやら人間たちが不法投棄したゴミが河に堆積していった結果、このようなベトベターの如きすがたになってしまったらしい。

 

 この汚れのせいで神の力も弱まってしまっているとのこと。人間が河の神を殺そうとするとかマジでやばい時代になってるな…。

 

(大丈夫だ、河っち。吾輩が何とかしてお主に溜まったケガレを薄めよう)

 

『スマナイナ、シータン…』

 

 気にするでない。吾輩がお主と何百年友神をやっていると思っているのだ。

 

 

 しかしこのケガレを一人で片づけるのは難しい。

 

 悩んだ吾輩は、河の神の友神でもある“友龍”に相談することにした。

 

 すると友龍は「各地の龍神を集い、ケガレの除去を行ってはどうか?」と提案した。

 

 グッドアイディアである。

 

 早速吾輩と友龍は龍神ネットワークをたどり、各地の川に赴いて神手(ひとで)を募った。

 

 龍神たちは快くその申し出を受け入れ、来るべき某日。吾輩たちは計画を実行した。

 

 

 そう────『一斉大掃除大作戦』である!!

 

 

 この作戦は一種のお祭りめいた騒ぎを見せ、龍神だけでなく多くの異形たちが河の中に入り、ゴミを取り除いていった。

 

 そのクライマックスにはベトベターを脱した河の神が水の中から大きな飛沫を上げて頭上へと駆け上がり、そのウロコを紙吹雪のように舞わせながら謝辞を口にした。

 

 

『皆に感謝する』

 

 

 ワァーッと、地響きの如き歓声がいたるところで上がった。

 

 狸たちは楽器に変化をして音楽を響かせ、ひよこやダイコンは踊り狂う。

 

 そんな中で吾輩の側に降り立った河の神は、吾輩に頭を下げた。

 

『有難う、友よ』

 

 照れくさくなってしまった吾輩は、河っちの顔に角で頭突きをした。

 

 

 

 

 

 しかしそれから少しして、吾輩はあることに気づいた。

 

 

(………あれ? 千と千尋の神隠しで河の神が綺麗になるイベント、吾輩が奪っちゃってね?)

 

 

 時期的に、おそらくマジですぐに千と千尋の神隠しが始まろうという頃。

 

 吾輩は急いで泥んこになりに向かった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 油屋には日々、八百万の神たちが足を運び、日ごろの疲れを癒していく。

 

 そんな人間が働くには完全なアウェーな場所でひょんなことから働くことになった「千尋」改め「千」は、教え役のリンとともに大釜の担当になった。

 

 いざその大釜の場所に向かってみると、さながらプール開き前の5月のプールのような有様だった。

 

「こりゃあ掃除すんのも一苦労すんぞ…」

 

 うへぇ…とリンがうなだれる。

 千は時折ズッコケながらもリンとともに掃除を進めていった。

 

 

 そんな折である。

 外はあいにくの雨の中、湯屋に向かって突き進む小さな山の如き何かの姿があった。

 

 それは周囲にヘドロをまき散らし、えも言われぬ悪臭を放ちながら進んでいく。

 

 外で店を開いていた黒き者たちはたまらず店じまいをし、灯りを消した。

 

 ポケモンで言えばベトベトンのような見た目にその酷い悪臭。当然周囲はこの神を『オクサレ神』だと思った。

 

 いくら相手が神だとはいえ、白米が一瞬で腐敗するような客は他の客の迷惑になる。

 

 従業員たちは謹んでお帰り願おうとするが、オクサレ様は止まらない。

 

 その間に他の客の避難誘導は進み、とうとう湯屋の中にオクサレ様が入った。

 

「ようこしょお越しくだひゃいまひた」

 

 対応に出た湯婆婆の鉤鼻に、これでもかと悪臭がブローを叩き込んでくる。

 一方で大釜担当ゆえに客の対応に立たされた千も、今すぐに鼻を押さえて逃げたい衝動に駆られた。

 

 オクサレ様は手(のようなもの)を伸ばし、二人に差し出す。お金らしい。

 湯婆婆はこの金を千に受け取るように命じた。しかし、その手はなぜか一歩身を引いた湯婆婆を追従する。

 

(あ、あたしに受け取れってことかいッ!!?)

 

 千は湯婆婆の横でどうすればいいかオロついている。

 湯婆婆は『覚悟』を決め、笑顔を崩さずその手にヘドロのまとわりつく金を受け取った。瞬間、鳥肌が立つ。例えるならその感触は素足で芋虫を踏んでしまうような──そんなおぞましい感覚が全身に鳥肌を立たせる。

 

「しぇん、おきゃくしゃまのご案内は、頼んひゃよ」

 

「ひゃいっ」

 

 オクサレ様は千の後に続き、回廊を進む。

 

 途中、千の分まで朝飯を取りに行っていたリンがこの一部始終を目撃することになった。オクサレ様はその一瞬、チラリとリンの方へ顔を向ける。途端に体全体がブワリと震え、周囲にヘドロをまき散らした。

 

「ぎゃあっー!! あ、あたしの服にドロが!!」

 

「ひょれ、おひゃくさまの前で悲鳴をあひぇるんじゃない!!」

 

(清掃という名の)被害を大きくしたオクサレ様は、ようやく大釜へと到着し、その身を湯の中に浸す。

 

 さすがは神々が足しげく訪れる湯屋だ。一度入れば日頃の疲れがふっと抜けていく。

 

 しかしてオクサレ様の汚れは相当なもののようで、そう簡単には落ちやしない。オクサレ様は手ぶりで千に追加の湯を求める。

 

「わ…わかった! 任せて!」

 

 千はとても良い子だった。悪臭を放つおじさんにもこんなに優しくしてくれる。オクサレ様は泣きたくなった。こんな優しい子を自分は今、ヘドロまみれにしている。最低だな、吾輩()って…。

 

 

 若干鬱になっていれば、頭から大量の湯が流れてきた。

 

 あとはたっぷり含んできたゴミを千の協力で取ってもらうだけだ。

 

 千はしっかりとオクサレ様の体の異変に気づく。従業員総出で綱引きの開幕である。

 

 ゴミは少しずつ少しずつ、オクサレ様の体内から抜け出ていく。そうして最後の釣り糸を千が抜いた後、彼女は体勢を崩し────、

 

「わっ!!」

 

 大釜の中へ落ちてしまった。

 

 

 

 何かが、彼女の体をつかむ。

 

 それは星のような輝きを放ちながら、ゆっくりと千に顔を近づけた。

 

 それに顔はない。ただ──ただ何となく、彼女にはそれが笑ったように感ぜられた。

 

 

 

 湯から飛び出た大きな手は、千を湯釜の外に出す。

 

 水面の波紋すら生じず、場はシンと静まり返った。が、ゴミの中に混ざっていた砂金に、わあっと従業員たちから驚きと歓喜の声が上がる。

 

「静かにおしっ! まだお客様がおいでなんだよ!!」

 

 湯婆婆のお叱りの後、また静寂さを取り戻す。

 

 はたして何分ほど経ったか。ふいに大釜の湯が揺らめきが生まれた。

 

 千やリン、従業員だけでなく、固唾を飲んで様子を見守っていたほかの客もいったい大釜の中からどんな姿の神が現れるのか、熱い視線を向ける。

 

 ────チャポン。

 

 

「「にっ、人間!!?」」

 

 

 その中からひょっこりと顔を出したのは、なんと人間の青年であった。先日入ってきた千の件もあったため、まさか本当の人間ではないかと疑う者もいた。

 

「ゆっ…湯婆婆様、あの者、湯婆婆様を呼んでおられるようですが…」

 

 青年はまるでこっちに来いと言わんばかりに手で湯婆婆を呼び寄せている。

 

 湯婆婆は困惑を飲み込みながら青年の元へ向かった。

 

「何だ…? 湯婆婆のやつ、アイツになんかもらった瞬間に顔色を変えたぞ?」

 

「え? …あ、本当だ」

 

 青年からもらった団子のようなものに意識を取られていた千は、リンに小突かれて湯婆婆の方を見た。

 

 湯婆婆は渡された何かをサッと懐に入れると、ものすごいスピードで男の従業員の元に向かい、何か指示を出した。その従業員が足早で去っていったところを見ていた千の視線の前に、湯婆婆が現れる。

 

 一瞬身をすくめた千だが、湯婆婆はたいそう彼女を褒めたたえる。

 

 すると場は一気に先ほどの熱を取り戻し、従業員や客一同、やんややんやの盛り上がりを見せた。

 

 

 

 

 

「お、お客様、お召し物でございます」

 

 一方で千に視線が注がれている中、従業員の男は大釜から出た青年に着物を差し出した。

 

 青年は慣れた手つきで帯を締めると、場が熱狂している隙にその場から立ち去る。

 その後ろ姿を従業員の男はじっと見つめた。

 

「いったいあの(ひと)は、どんな格の高いお方だったのだろう…」

 

 湯婆婆のあの反応を鑑みても、絶対に失礼をしてはいけない相手なのは確実だった。

 


・ゲーム喫茶店の店長

ヤのつく人。猫が飼いたい。

 

・鹿山

うっかりポックリ

 

・ハク

あとで多くの龍神を巻き込みお祭り騒ぎがあったと知り、私も参加したかったな…と思うなどする。

 

・ニガダンゴ

河の神製。

 

・湯婆婆

シシ神草、ゲットだぜ!

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