ドラゴンボール×Re.ゼロから始める異世界生活   作:オレタチ青い人

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皆さんのおかげで、なんとお気に入り数が100を超えました!本当にありがとうございます!!
前回はついに魔獣のボスを倒すことに成功し、今回はどうなるのか、ぜひ見てってください!


第二章10 赤猿と青鬼

 

 

 

 

 

「…ん?」

 

 

 暖かい日差しを受けながら、悟空は目を覚ました。

見慣れない天井が視界を覆う。背を支える柔らかな感覚は、ベッドであると気づいた。

 

 つまり自分は助かったと言うことだろう。やはり、スバル達に任せて良かった。

ぼんやりとした意識のまま、悟空はゆっくりと瞬きを繰り返す。

そのまま、身体を起こそうとして───

 

 

「いっでででで……っ!?」

 

 

 全身に走った鋭い痛みに、思わず顔をしかめた。

 

肩、脇腹、腕。

噛み裂かれた箇所全てが熱を持ち、骨の髄まで軋むように痛む。

特に界王拳五倍の反動が酷い。

筋肉がちぎれかけようとしていると思えるほどの痛みに、悟空は思わず苦笑を漏らす。

 

 ふと右腕を見ると、上腕から手首に至るまで、白く浮かび上がる傷跡が悟空の腕をびっしりと、埋め尽くしている。

右腕だけじゃない、左腕、ついには体全体にそのような跡があることに気づいた。

そして、その傷跡からは、森へと''糸''が伸びていた。

 

 

 「うわぁ…なんだこりゃ」

 

 

 思わずそんな声が漏れる。

あまりにグロテスクな自分のその体に、笑いすら浮かべてしまう。

 

 

「そういや、スバル達はどうなったんだ?」

 

 

 頭をよぎったのは、スバル達の安否だった。

なんとか魔獣の群れのリーダーをぶっ倒したと言っても、その後のことはスバルに任せっきりにしてしまった。

レムや子供達は本当に無事なのか。

ラムやスバルに怪我は無かったのか。

 

 気になり始めると、じっとしていられなかった。

 

 

「っしょ……っと」

 

 

 悟空はベッドの縁へ手をつき、ゆっくり身体を起こす。

だがその瞬間、全身の傷が悲鳴を上げた。

 

 

「…っツ…!!いっちち、けど…あの時よかいくらかマシだぞ」

 

 

 全身に走る痛みは、盗品蔵での騒動が終わり、ベッドで目覚めた直後よりかはまだ良い方だ。

あの時は腕など、少し体を動かすだけで超が付くほどの激痛が全身を巡っていたが、今回は体全体を起こしても一瞬のズキッとした痛みしか感じない。

やはり、ある程度自分の限界を知っておいて良かった。と、あの時アドバイスをくれたエルザに心から感謝する。

 

 

「よしっ…じゃあ、行くか」

 

 

 ベットから立ち上がり、体を走る痛みを我慢しながらも、悟空は歩み始めた。

 

 

 


 

 

 

 

「ん?あいつは…」

 

 

 部屋を出て正面の玄関から建物から出て、少し歩いたところに、ある人物を見つける。

 

 

「──起きたのね、ソン」

 

 其処にいたのは、桃色髪のメイド──ラムだった。

その顔を見て、安堵感が体をよぎる。

良かった、ラムは無事そうだ。彼女の体を見た感じ、''糸''が体から出ている様子はないようだ。

 

ラムは村の広場の真ん中に立ちながら、こちらへ歩いてくる悟空を静かに見つめていた。

 

 

「人の体をそんなにジロジロと見て、いやらしい。痛みでどうにかなりそうなのは分かるけど、その捌け口をラムに向けるのはやめなさい」

 

「いやらしいって…別にそんな目で見てたわけじゃねぇぞ?まぁ無事そうで良かったぜ」

 

 

 ラムの変わらないその態度に、ひとまず胸を撫で下ろす。

広場には村の老若男女が揃っており、それぞれが不安さに肩を寄せ合っていた。しかし、村の子供達は別だった。

昨夜呪いにかけられた子供達から''糸''は消えており、元気に辺りを走り回っている。

 

その子供達の様子を見て、大人達の顔から不安の色が少し消えているように見えた。

悟空も、その子供らの様子を見て、ふっと笑みをこぼした。

 

 

「…そういや、あの後どうなったんだ?すげぇ大変だったろ?」

 

「大変ではあったけど、ソンが群れの核を潰してくれたのと、エミリア様の助けのおかげで、比較的楽に村に戻ることができたわ。最後、バルスに庇われたのは心外だけれど」

 

「おお、そりゃ良かったけど、その庇われたっちゅうのは?」

 

 

 悟空はラムが最後にぼそっと呟いた、その言葉に関心を寄せていた。

 

 ラムの話によると、村まで後少しと言うところで、気を抜いてしまった。

それによって、崖の上から降ってくる魔獣の群れに気づけず、後一歩で噛まれてしまうという所──

──スバルがラムを突き飛ばし、その魔獣の猛攻の身代わりになってしまったらしい。

その後は駆けつけたエミリアによってなんとか助かったものの、特にスバルは危なかった状態だったため、仙豆を使った事を告げられた。

 

 以上の話を、ラムは気難しそうに話した。

 

 

「やっぱりあいつはすげぇや!自分は弱えとか言ってたくせに、しっかり根性あんじゃねぇか!」

 

 

 そのラムとは対照的に、悟空は感心と、スバルへの賞賛を思っていた。

 

あの魔獣の唸りが響く森の中。

震えながら、それでも魔法を叫んだスバルの姿を思い出す。

力は無い。戦う術も少ない。

それなのに、怖いはずなのに、立ち向かった。

 

 強いことが必ずしも、誰かを救うことには繋がらないんだな、と悟空は気づいた。

弱くても誰かを助けることができる、それをスバルは体現していた。

 

 

ぐぅ〜

 

 

 場違いな音が、その場に響いた。

ラムがじとり、とした目で悟空を見る。

悟空は数回瞬きをすると、「へへへ」と、照れくさそうに頭を掻いた。

 

 

「すまねぇ、ちっと腹へっちまっ「食らうがいいわ」

 

 

 瞬間、口内に何かがねじ込まれる。

反射的に噛む。次に、凄まじい熱気が唇を焼き、口内が火傷する。

 

 

「ぶっ!!?あっちぃ!」

 

 

 そのねじ込まれたものを手に取り、口から抜き出しその姿を見る。

それは蒸された芋だった。赤紫色に包まれた黄色の果実から、ほくほくと湯気が立っていた。

未だ悟空の口内には芋の欠片が残されており、はふ、はふ、と熱を逃がすように息を吐きながら、悟空は慌てて口の中の芋を飲み込んだ。

 

 

「昨夜のお礼よ、ありがたく食らいなさい」

 

「んっ…はぁ!すっげぇ熱かったけど、すっげぇうめぇぞ!!」

 

「当然よ。ラムの得意料理だもの」

 

 

 胸を張るラムに、悟空は内心(蒸かし芋が得意料理とか変わってんなぁ)と笑いながら思う。

再び芋に齧り付けば、ほくほくとした甘みと、絶妙な塩味が口いっぱいに広がった。

その蒸かし芋の旨さが、体に走る痛みを少し忘れさせてくれる。

 

 

「ソンが外に出てきた理由は分かるわ。バルスとレムはあそこの宿で眠っているはずだから、様子でも見に行ってあげなさい」

 

「んっ?本当か!サンキュー!」

 

 

 礼を言いながら、悟空は蒸かし芋を片手に、ラムの指差した宿の方へ視線を向けた。

 

 村外れに建てられた小さな木造の宿。

窓は閉じられているが、中から人の気配がする。

ラムがその悟空の横を通り過ぎた時、

 

 

「なぁ、ラム」

 

「……何?まだ蒸かし芋が足らないの?」

 

 

 何かに気づいたように彼女を制止する。

振り返ったラムは、相変わらず素っ気ない顔をしている。

その返事に「そう言うわけじゃねぇんだけどよ」と否定しながら、その体に薄い疲労が滲んでいることを察していた。

 

 

「おめぇもちょっとは休めよ?色々あって大変だろうしよ」

 

「ソンに言われずとも、後々そうするつもりだわ」

 

 

 その返事に悟空は眉を下げて笑い、宿の方へ振り返ると、歩みを進めた───

 

 

 

 

 

 コンコン、とドアをノックし、

 

 

「オラだぞー!入っても良いか?」

 

 

 返事はない。

だが、中からは確かに二…いや、二人と一匹の気配を感じる。

 

 悟空は少しだけ首を傾げると、「入っぞー」と声を掛けながら、ゆっくり扉を開いた。

 

 部屋の中は静かだった。

窓から差し込む柔らかな日差しが、木造の室内を淡く照らしている。清々しい毛布の匂いと、木の香りが部屋を覆っていた、

 

 まず目に入ってきたのは、ベットに横たわっているスバルだった。

彼の体の節々から''糸''が出ているのが見える。

 

 その顔色は悪くない。

呼吸も落ち着いているし、胸も規則正しく上下している。

仙豆のおかげか、ぱっと見、悟空にあるような白い傷跡も見当たらない。

 

 

「一応、無事そうで良かったぞ。けど……」

 

 

 悟空は、スバルの体から出ている''糸''に目をやった。

糸の数は悟空よりも多く、それぞれが複雑に絡み合っているようだった。

まだ終わっていない。その現実に気づくと、部屋の入り口で再び左拳を強く握る。

 

 

「仙豆でも呪いが解けねぇってんなら、直接術者をぶっ倒すしかねぇか…」

 

 

 そう呟きながら、部屋の中に入ると、椅子にもたれかかりながら、寝息を立てているエミリアが左側に居た。

銀髪の少女は、椅子に浅く腰掛けたまま眠っていた。

長い睫毛は静かに伏せられ、彼女の体内のマナがほぼ空っぽな状態なのを感じると、こっちもこっちでかなり大変だったんだなと察せる。

 

 

「……おめぇ達はすっげえ頑張ってくれた。だから、あとはオラに任せてくれ」

 

 

 そう言い残し、悟空静かに部屋から出て、戸を閉める。

さて、次はレムの様子でも見に行くか、とでも思い廊下に目をやると、

 

 

「少し、話があるかしら」

 

 

 クリーム色を縦ロールにした少女──ベアトリスが、目線の先に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ───────────────

 

 

 

 その少女に連れてこられたのは、宿の裏。日差しが当たらない日陰だった。

 

 

 

「んで、さっき言ってた話ってなんだ?」

 

 

 早速本題に入る。こんな人気のない場所に連れてくるのだから、さぞかし大事な話に違いないが、勿体ぶってもしょうがない。

悟空が問いかけると、ベアトリスは腕を組んだまま、じっとこちらを見上げた。

青い瞳はいつものように尊大そうに細められているが、その奥には少しの疲労が滲んでいる。

 

 ベアトリスはゆっくりと、その唇を開くと──

 

 

「あと半日ほどで、お前は死ぬかしら」

 

「おう、そうか」

 

 

 あまりにも安易と返された言葉に、「は?」と、ベアトリスの表情が固まった。

 

 宿の裏側。

建物が作る影の中は昼だというのに薄暗く、湿った土の匂いが鼻を掠める。

遠くでは村人達の話し声や、子供達の笑い声が聞こえていたが、この場だけは妙に静かだった。

 

 だからこそ、その言葉は妙にはっきりと耳に残った。

 

 

「ず、随分とあっさりしてるのよ……死ぬのが怖くないのかしら」

 

「死ぬのは怖えけど、オラの、えーっと…故郷じゃあ何回か死んだり生き返ったりしてたからな。慣れちまってんのかもしれねぇ」

 

「倫理もクソも無い所なのよ、お前の故郷」

 

 

 呆れ果てたように、内心目の前の男に引きながら、ベアトリスは額へ手を当てた。

 

 だが、本当に理解できなかったのだ。

死という言葉を前にして、人はもっと取り乱すものだとベアトリスは思っていた。

顔を青ざめさせ、声を震わせ、助かる方法を必死に探す。それが普通のはずだ。

 

 なのに目の前の男は違った。

 

 まるで「明日は雨らしいぞ」とでも言われたような気軽さで受け止めている。

恐怖が無いわけではない。今の悟空の言葉には、確かに“死ぬのは怖い”という感情が含まれていた。

 

 死を理解した上で、こんなあっけらかんとした態度をとっているのだ。

その在り方が、ベアトリスには不気味ですらあった。

 

 

「呪いのせいだろ?オラが死ぬかもしれねぇのは」

 

「察しがいいかしら。そうなのよ、お前は体の中のマナ…いや、''気''と言ったかしら。その気が全て吸い尽くされ、死ぬのよ」

 

「気?なんで気なんだ?確か、アイツらはマナを餌にしてるっておめぇ言ってなかったか?」

 

 

 昨日聞いたベアトリスからの助言、それを悟空は思い出していた。

彼女の話だと、体内からマナを吸い上げる。そういう類の呪いだと言っていたはず。

 

 

 

「普通ならそうかしら。でも、お前の体には''気''というウルガルム達にとって真新しいエサがあった。飢えたウルガルムはお前のそのちっぽけなマナだけじゃ満足せず、ついには''気''にも手を出し始めたのよ」

 

 

 ウルガルム…それがあの魔獣の名前だろう。やけにぴったりな名前だ。

その情報を聞いて、悟空の中で少し不快感が芽生える。

  

 

「げっ……いつものとは別のもん食って、うめぇんか?」

 

「お前のその''気''を感じれば分かるはずなのよ」

 

 

 そうベアトリスに言われ、悟空は自分の体の中を確認するように、目を閉じる。

悟空の体の中では、刻一刻と、凄まじいスピードで気が減り続けていた。これを受けて脳内に浮かぶのは、気を旨そうに貪るウルガルムの姿だった。

確かにこの調子じゃ半日…いや、もしくはそれよりも早いかも知れない。このままじゃ死んでしまうことは確かだろう。

 

 

「でもよ、解決策はあんだろ?呪いをかけたヤツを直接ぶっ倒しゃあいい。おめぇが教えてくれた事だ」

 

「まぁお前が助かるにはそれしか無いかしら。けど、それは無理な望みなのよ」

 

「へ?なんでだ?」

 

 

 ベアトリスははぁと、一息ついてから話を続ける。

 

 

「あれほどまでに多大なウルガルムの群れの中から、正確にお前に呪いをかけたヤツを全て殺すことは不可能に近いかしら。その前にお前の方が先に力尽きてしまうのよ」

 

 

 ベアトリスの言葉は、冷静だった。

感情で脅しているわけではない。

事実だけを並べた、一人の死にゆくであろう者へと向けた結論だった。

 

 ウルガルムは一匹ではない。

森に巣食う無数の魔獣達、そのどれが悟空に呪いを刻んだかは分からない。

つまり──悟空が生き延びるには、森中のウルガルムを狩り尽くすしかない。

 

 そう、ベアトリスは考えていた。

 

 

「それなら分かるぞ、オラに呪いをかけたヤツ!よくわかんねぇけど、呪いをかけたヤツとかけられたヤツを繋ぐ''糸''?が、オラには見えんだ!」

 

「糸……?」

 

 

  ベアトリスの眉がぴくりと動いた。

 聞き返した声には、僅かな動揺が混じっていた。

 

 

「糸っちゅうより、管の方が良いかもな!今もオラの体から出てるぞ!それを追えば、呪いをかけたヤツが分かる」

 

「聞けば聞くほど、お前という人間が分からなくなってきたのよ。その糸についてはベティーも知らないけど、()()()()()()とでも名付けておくかしら」

 

 

 マナの通り道…しっくりくる名称だ。

 

 悟空は自分の腕から数本伸びる白い“糸”を見下ろした。

それは脈打つように微かに震えながら、森の奥へと伸びている。

まるで獲物へ続く一本道だ。

 

 

「お前のその戯言が本当なら、さっきの話も不可能では無いかしら」

 

 

 さっきの話──悟空に呪いをかけたヤツを正確に殺すことだろう。

この糸があれば、それも現実的に可能な範囲になってくる。

方向性が決まったことにより、悟空の体により一層熱が入る。

こんな所でモタモタしちゃいられない。スバルを──呪いに侵された友を救うため、孫悟空は動き出そうとしていた。

 

 

「よし…じゃあ行ってくる」

 

「なに、()()()一人で行くのかしら?」

 

「おう!もうこれ以上スバル達を頑張らせるわけにゃあ……って」

 

 

 今さっき呟かれたベアトリスの言葉に、意識が行く。

悟空はぴたりと足を止めた。

 

 今、ベアトリスは確かに言った。

 

 ――“お前も”、と。

 

 

「……おめぇ、さっき、“も”って言ったか?」

 

 

 その問いに、ベアトリスは冷静に答える。

 

 

「確かに言ったのよ。呪いに侵されたお前達を救うため、森に一人で入って行った無謀な奴がいるかしら」

 

「……ッ!!誰なんだ、ソイツは!あんな危険なところに一人で入っていくヤツなんて……!!」

 

 

 悟空の声が強くなる。

その瞬間、脳裏に嫌な予感が走っていた。

 

 まさか。アイツか?

 

悟空は脳を巡らせ、考えた。エミリアとスバルは寝ているし、ラムは蒸かし芋を村の人たちに配っている。

……考えた結果、候補は絞られる。

 

 無意識に口を手で覆い、汗が額から流れ落ちる.

 ベアトリスはそんな悟空を見上げ、小さくため息を吐いた。

 

 

「そう、あの水色髪の────」

 

 

 そのベアトリスの言葉が吐かれる前に、悟空の体は動いていた。

 

 一瞬で森の方向へ振り向き、ドンっ!!と思い切り地面を蹴る。

──瞬間、宿の裏に突風が巻き起こった。

 

 

「…ッ!」

 

 

 ベアトリスの縦ロールが激しく揺れる。

悟空の姿は、もうそこには無かった。

 

 砕けた土と小さなクレーターだけが、その場に残されている。

ベアトリスは、過ぎゆく悟空の姿をただ見つめることしか出来なかった。

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 悟空は森の中を全速力で駆けていた。

身体中に走る痛みなど関係ない。気にしている暇などない。

 

風が頬を叩く。

枝葉が視界の端を高速で流れていき、地面を蹴るたび、鈍い痛みが脚の筋肉を軋ませた。

 

 だが、悟空は止まらない。

 

 視界の中には、無数の“糸”。

自分の体から伸びる白い線が、蜘蛛の巣のように森の奥へ広がっている。

 

 おそらく、自分たちを助けるために森の中へ入って行った人物とは、

 

 

(レム……!!)

 

 

 彼女しかありえないだろう。

思い返してみれば、宿の中に彼女のマナはなかった。しょんべんでも行ってるのかと思い深くは追求はしなかったが、それが仇になった。

 

悟空は歯を食いしばる。

 

 もし、自分がもう少し早く気づいていれば。

もし、ベアトリスの話を聞く前に違和感を覚えていれば。

……そんな後悔が脳裏を掠める。

 

 

「くそっ……!」

 

 

 森の木々を蹴り飛ばすように、悟空は加速した。

悟空の行先、それは糸が伸びている方向ではなく、一つの少女のマナが感じる場所だ。

 

 地面を蹴るたび、森が揺れる。

木々の間を赤い影が駆け抜け、その後ろに突風だけが残されていく。

悟空は気配を探る。

 

 レムのマナ。ウルガルム達の禍々しい気配。それらを追い、悟空はただ駆ける。

 

 ──森の奥。

 

 そこだけ、不自然に空気が淀んでいる。

 

 

「ッ……!」

 

 

 悟空の視界が開けた。

 

 崖と、周りの木々に囲まれた空間。

地面には無数の爪痕と血痕が刻まれ、何匹ものウルガルムの死骸が転がっている。

 

 その中心に、彼女はいた。

 

 

「レム!!」

 

 

 ヤケクソ気味にそう叫んだ。この声が届くかは分からないそんな距離で、ただ叫んだ。

 

その先で、水色の髪を揺らしながら、レムは巨大な鎖付き鉄球を振るっていた。

 

 鎖のジャラジャラッ!という音と共に、棘鉄球が唸りを上げる。

振り抜かれたそれがウルガルムの頭蓋を叩き潰し、肉片と血飛沫が霧のように舞った。

 

 見た限りだと、返り血であろうものが服や肌などに張り付いている以外に、彼女の体に傷はないように見える。

焦りの中で、少し安堵感を覚える。

 

 

「良かった…怪我はねぇみてぇだな…」

 

 

 だが、安心しているのも束の間、先程の呼びかけが届いたようなのか、レムがゆっくりとこちらへ首を傾けてくる。

 その瞬間、悟空の背筋にぞわりとした悪寒が走った。

 

 レムの片目──蒼玉のような左眼だけが、ぎらりと妖しく光っていた。

額から伸びる一本角。

その周囲で、膨れ上がったマナが暴風のように渦巻いている。

 

 だが何より異様だったのは、その表情だった。

 普段の彼女からは想像もできないほど、感情が抜け落ちている。

いや、違う。

 

感情が''狂気''だけに塗り潰されていた。

 

 

「……レム……?」

 

 

 そのあまりの変貌ぶりに、悟空はそう呟くことしか出来なかった。

そして、次に悟空を襲ってきたのは''殺意''だった。

 

 反射的に構える。あまりにも巨大な殺意。それがレムから向けられていた。

 

 

「……っ…一体、なんでそんなんになってんだよ、レム!」

 

 

  悟空の問いに、レムは答えなかった。

 返ってきたのは、純白の一本角を輝かせた、獣のように低いレムの呼吸音だけだった。

 

 

「グウゥッ……!!」

 

 

 喉の奥で唸るような声。

それは人のものとは思えないほど濁っていて、周囲に漂う惨状と混ざり合っている。

 

 レムの足元には、潰されたウルガルムの死骸が積み重なっていた。

砕けた牙、千切れた肉、飛び散った血。

その中心で、彼女はただ一人立っている。

 

 

「…界王拳…!!」

 

 

 

 対話はもう通じない、そう悟った悟空は、界王拳を使用する。赤白いオーラが、体を包む。

一旦気絶させれば、彼女の''狂気''は収まるだろうか。しかし悟空にとって、正気を失っているその姿は、気絶とほぼ変わらないように見えた。

 

 

「ガアァ!!」

 

 

 そう声を上げながら、レムが腕を振り抜き、鎖の音と共に棘付き鉄球が悟空を襲う。

その攻撃はこれまで戦ってきた者達と比べると随分と遅く、粗い攻撃だった。

それを後ろに飛び避け、鉄球が過ぎ去った後、もう一度、彼女の姿を見る。

 

 

 純白の一本角を輝かせ、体の至る所に赤を纏い、狂気の笑みを浮かべるその様。

その姿は、まるで────

 

 

 

 

───────''鬼''と、そう呼ぶ他無かった──────

 

 

 

 

 ───────次回へ続く…………

 




悟空がマナの通り道を見ることができる件については、悟空だけの特異体質です。パックとのマナの修行によって、それがより鮮明に見えるようになった、と僕は妄想しています。
第二章も終盤の終盤に入り、レムの悟空の戦いが始まろうとしています。
次回では一体どうなるのか、気長に待っててくれると嬉しいです!

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