ドラゴンボール×Re.ゼロから始める異世界生活 作:オレタチ青い人
スバルは肩を貸したまま、真っ直ぐ悟空を見た。
「ウルガルムを倒そうとするのも、レムを止めるのも、お前一人。俺達が来るまで全部背負い込んで……挙げ句の果てに、その傷だ」
スバルの視線が、魔獣の歯形が刷り込まれた悟空の左腕に落ちる。
魔獣の牙痕からは、今も血が滴っている。
脇腹も未だ激痛が止まず、界王拳の反動で全身の筋肉が悲鳴を上げていた。
言葉が出なかった。
昨夜も、自分一人で魔獣に挑んで、駆けつけたスバル達によって何とか助かった。今だってそうだ。
「お前がそうする気持ちはわかるよ。傷ついてほしくないんだろ?自分以外の人に。
……俺だってそうだってのによ」
一呼吸おいて、再び話し始める。
「お前にも、レムにも、ラムにも、もちろんエミリアにだって、傷ついてほしくない。
けど、お前が…誰かを助けるために傷だらけになる事を選ぶってんなら、俺も覚悟はできてる」
「スバル……」
スバルは肩を貸したまま、小さく笑った。
「だから、もっと誰かを頼れよ。くだらねえプライドとか、責任感とか、そんなもん今は捨てちまえ!
いらねぇもん全部取っ払って、そしたらまずは俺を頼れ!''友達''として、俺が一番にお前の助けになりたいんだよ!」
その叫びが、胸の奥深くまで響いた。
悟空の見開いた目は、友の熱い瞳を見据えていた。
今までの悟空にとって、エミリア、レム、ラム、スバルまでもが、仲間であるとともに、守れなければいけない対象だった。
だからこそ、傷ついてほしくない、守らなければ。その気持ちだけが先走っていた。
焦るあまりに一人で戦い、一人で決着をつけようとしていた。
──それは、仲間を信じていないのと同じではないか。
頭の中が、すっと冴え渡るのを感じる。
「っはは…確かに、そうだったな。よし、分かった!」
悟空は笑った。
それは先ほどまでの無理に作った笑顔ではない。
肩の力が抜けた、本当の笑顔だった。
スバルの肩から腕を離し、自分の足で立つ。
「あんがとなスバル、なんだかちょっと体が軽くなった気がすっぞ!」
「……なら良かったよ。調子は…もう大丈夫そうだな」
「おう!!」
まだ全身は悲鳴を上げている。
界王拳の反動も、ウルガルムの呪いも消えたわけではない。
それでも先ほどまでとは違った。
一人ではない。
そう思えただけで、不思議と身体は軽く感じられた。
「やっと、
ラムの指示通り再び顔を上げ、レムを見る。
純白の角を輝かせ、狂気に任せてモーニングスターを魔獣に振り回している。
対照的に、悟空の頭は冴え渡り、微笑みを浮かべている。
先ほどまでの悩みはもうない。不思議なほどまでに心は穏やかだ。
一人じゃ無理なことでも、仲間が居れば出来る事は多大にある。
「スバル、なんか策はあるか?」
「あるっちゃあるんだが…まずレムを抑えるやつと、角を狙う奴、魔獣を引きつける奴で分けようと思う」
スバルが腰に携えた剣に手をやり、顔を歪める。
「……が、昨夜でも分かる通り、俺って魔獣を引きつけちまう体質かもしれないんだ。だから引きつけ役は俺が適任…なんだが、そうなっちゃうと俺なんか一瞬で食い殺されちまうし、かと言ってレムを抑えられる力が俺にあるかと言われると……」
「ないわね。確実に」
「ハッキリ言うね!?まぁそう言う事で…悟空と姉様がなんとか援護して、俺にレムの角を狙わせてくれないでしょうか…」
恐縮そうにスバルがそう申すと、
「ああ、もちろんだぞ!オラもそう考えてたしな」
即答だった。
奇しくも悟空も同じような事を考えていたため、次の行動は早い。拳を握り、レムを見据える。
「おめぇが角を狙うんなら、オラがレムを抑える。ラムは魔獣を頼めっか?」
「当然よ。ラムを誰だと思っているの。蒸かし芋が得意料理の可憐な少女よ」
「なんか心配になる通り名だな…まぁでも作戦は決まった。あとは、実行するだけだ」
各々が覚悟を決め、横一列に並び立つ。
右に悟空、真ん中にスバル、左にラム。
三人の視線の先には、未だ狂気に身を委ねるレムがいる。
血と魔獣に地面が覆い尽くされていくという惨状の中、悟空の心は冷静だ。
隣にはスバルが、そしてその隣にはラムがいる。
自分だけではないと言う、その事実が、心強かったのだ。
「よし……行くぞ!!」
そのスバルの合図に、三人とも一斉に走り出す。
目的はたった一つ、レムを助ける。今はそれだけでいい。
三人の意思が、確かに一つへと結ばれていた。
十五歩程度走ったところで、魔獣が唸りを上げて飛びかかってくる。目を赤く輝かせ、涎を撒き散らしながら。
やはり、狙いはスバルか。
「フーラ!!」
風が通り過ぎ、空中でウルガルムが縦に身体を断たれる。
勢いを保ったまま、割れた死体がラムの隣を過ぎ、地に落ちる。
まだ次が来る、右、上、左、正面。
やはりスバルと一緒にいる時のみ、狂ったように魔獣たちが襲いかかってくる。
しかし、対処はしやすい。今は隣に頼れる仲間がいるのだから。
「だあっ!!でりゃあ!!」
「本当に数が多い…それもこれもバルスのせいだわっ!」
「何か言い返したいけど、この状況だと何も言えねぇよ。けどお陰で…あと少しだ!」
右と正面から来る魔獣を悟空が、左と上をラムが討ち倒し、その間を掻い潜ってスバルが鬼まであと数歩のとこまで迫る。
「アウゥッ!?」
狂気の瞳が、こちらへとギョロリと向かれる。
とんでもない威圧感がスバルにのしかかる。息が詰まり、一瞬足が怯む。
けど、折角悟空とラムが作ってくれたチャンス。考えた作戦。
「無駄なんかにさせてたまるかよ!」
懐から小さな袋を取り出し、勢いよく地面に向かって投げる。
ボンッッ!!!
地面に袋が触れた瞬間、そこを中心にして、白煙が生成される。
瞬時に拡大し、スバルも、悟空も、ラムも、魔獣も、レムでさえ無差別に飲み込む。
白色に視界が奪われ、頼りになるのは聴覚と嗅覚だけ。
邪魔な煙を退けようと、腕を大きく振り上げた途端、
「そうはさせねぇぞ!」
「─っ!?ウガァっ!」
突然、両脇下に筋骨隆々の腕が潜り込み、その腕を曲げ、羽交締めの状態が完成する。
「こいつをやったのはいつぶりだっけなっ…!今だスバル!やれーっ!!」
「!…そこね!フーラ!」
その掛け声と共に、風が白煙を裂き、レムの髪が靡く。
靡いた水色髪が再び片目を隠す頃には、白煙が裂かれた事によってできた道を、スバルが走っていた。
手には剣を握り、標準を純白の角へと合わせるように構える。
「逃走用に煙玉と、護身用に剣貰っといて良かった…!村の人たちには頭上がらねぇぜ!」
さらに
狙いはただ一つ。レムの額から伸びる、純白の角。
それさえ叩けば、鬼化が解除される。そう信じるしかない。
だが、そう簡単にはいかない。レムも拘束を解こうと両腕を強引に振り回し、悟空の腕の中で身体を激しく捩る。鎖がジャラジャラと蠢く。
その度に、悟空の身体が大きく揺さぶられる。相変わらず馬鹿げた怪力だ。鬼化というのはこんなにも凄いものなのか。
「すまん悟空…!あと少しそのままで…!」
「分かってる…っ!おめぇの目一杯の力叩き込んでやれ!!」
心配いらないと、そんな言葉を叫ぶ。
が、そこらかしこにできた傷と、全身を駆ける痛みによってそろそろ限界だ。
界王拳も、先ほどのことを危惧して使わない。ここで決めるという思いのみでレムを拘束している状態だ。
スバルが悟空に言われた通り、目一杯の力を引き出すために、剣を大きく振り上げる。
そして、一気に踏み込み、レムへ向かって前進する。
「これでっ…!!」
レムを止める。その気概で、出来ると信じて剣を振り下ろす。
「うおぉっ!…おっ?」
しかし、振り下ろした剣に、何かが当たる感触はなかった。
遅れて、音がやってくる。
ドオォォォン!!
その爆音の最中、悟空の声が耳に入る。
「なっ、なんちゅー奴だ!地面をっ…いっ!?」
レムの右足を中心に、大きな、そして深いクレーターが生成されている。
スバルの首筋あたりの直線上にあったレムの角は、今はスパルの膝あたりにある。
その地面の陥没は悟空の足、そしてスバルの踏んだ足場さえも飲み込んでいた。
勢いのままにスバルの迫り来る右膝をレムは首を曲げて避け、後ろの悟空に ゴッ、と鈍い音が立ちながら直撃する。
「ごぁっ!?」
「ちょっ…ぶべっ!!」
スバルの体が空中で一回転し、陥没していない地面の外に顔面から落ち転がる。
悟空の体が衝撃によって、拘束しているレムごとクレーターの曲面に倒れる。
「っ…だぁくそっ!あと少しだったのに…!!」
うつ伏せのスバルが両手で上半身を起き上がらせ、悔しさを噛み締める。
作戦は失敗した。誰もがそう思った。
その隙を、この鬼は見逃すはずがない。
レムは拘束から逃れるため、体を起き上がらせ…
……られない。
体を、起き上がらせることができない。
ピクともしないわけではないが、どんなに力を入れようとも、悟空の両腕にさらに力が入り、拘束が強まる。
「アァ!!グアアァ!!」
「へへ…ぜってぇ離してやんねぇぞ…!まだ、終わってねぇかんな!」
その呟かれた一言に、スバルがはっとする。
そうだ、まだ終わっちゃいない。悟空がレムを拘束してくれている限り、作戦は失敗していない。
たとえこの作戦が失敗しても次はある。が、出来ることならここでレムを止めておきたい。
こんなチャンスは、二度とあるか分からないのだ。
そして何より、悟空が信じてくれている。
''菜月 昴''を信じて、まだレムを拘束してくれている。
手放した剣に向かって手を伸ばす、友の思いを無駄にしないために。
柄まであと少しというところ、スバルは見た。見えてしまった。
あれは…子犬か?
おかしい。
いや、何か違和感がある。あいつは……
ボゴッ
直後、スバルの腹の下の地面が盛り上がった。
それはやがて範囲を広げていき、
「ぼわぁっ!?」
地面が爆発し、発生した土砂流がスバルの体を大きく、空へ吹っ飛ばす。
土砂と共に舞い上がったスバルの身体が、空中で何度も回転する。
何が起きたのか理解できない。
ただ、先程視界に映ったものだけは、はっきりと捉えていた。
あの魔獣の子犬。
昨夜、悟空が確かに倒したはずの一匹。
いや、違う。あれは別の個体だ。
さっき見たのは
「バルス!!」
桃髪の少女の声が響く。その手には杖が握られていた。
「大丈夫だ!!これでいい…いや、これがいい!!」
回転する視界の中、なんとか体勢を整えようと、手足をバタつかせるが無謀だ。
これまで覚えたスキルも無駄な知識も、こんな状況では活かせやしない。
ならやることは一つ。
諦めないこと。
自身とともに、宙を舞う剣に向かって手を伸ばす。
届け、届け。
あと、ほんの少し────!!
────しかし、願いも虚しく。伸ばした指先が宙を掻く。
「――っ!」
静かに、悔しそうに目を閉じる。
届か、なかった…
……そう諦めかけた時、
キィッンッ!!
甲高い音が鳴り響く。
「えっ?」と再び目を開けた時には。
剣が回転し、こちらへ向かってきていた。
「おわっ!?…とっ!」
偶然にも、伸ばした手が危なげながらも剣の柄を握り、すぐさま離さないよう手に力を込める。
何が起こった?と、ラムの方に目を向けると、彼女の持つ杖がこちらに向かれている。
「…いいエイムしてるぜ姉様!良いとこあるじゃねぇか!」
「舐めないでちょうだい。レムほどではないけれど、ラムも良いところは元々沢山あるわ。これで良いんでしょう、バルス!」
再び両手で剣を握り締める。
と同時に、体が地へ落ち始める。
「ああ、百億万点やるよ!」
彼女の自信満々の問いに、それに見合った評価をつけ、
収まり始めた視界の回転を利用し、視線を地面の方に向ける。
真下には、未だレムを抑えてくれている悟空と、拘束を解こうと暴れているレム。
彼女の純白の角は、運良くこっちに向いてくれている。
なんと絶好のチャンスだろうか。レムは拘束を解こうとするのに必死で、まだこちらに気づいていないようだ。
あとは、自分自身の問題だ。
正直、いくら剣道を習っていたからといっても、こんな状況ではあの角ピッタリに剣を振れるかどうかは怪しい。
「でも、やるしかねぇんだよ。いいや…やれ、俺」
自分に命令し、すっと息を吸う。
託してくれた仲間がいる。信じてくれる友達がいる。
それに応えなければ。奇跡でも、ご都合主義でもなんでも良い。
剣よ、当たってくれ!!
そう思いを込めながら、大きく剣を振り上げ、タメを用意する。
「笑えレム。今の俺たちは鬼より──」
奇跡を願う剣が、振り下ろされ───
「──鬼がかってるぜ!」
甲高い鋼を打つ音が、魔獣の森に鋭く響き渡った。
もう、ニ章も大詰めに入ってきました。
はたして悟空とスバル達の戦いはどう収束していくのか...次回も見ていってください!
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