最推しの羽川翼と付き合いたい 作:羽川翼はヤベー奴
013.白々しい可愛い女の子
14歳。
6月3日生まれ。
双子座。
B型。
中学2年生。
身長、153cm。
体重、38±kg。
右利き。
視力、左右共に2.0。
両親健在。
お小遣い月に1200円。
公立七百一中学校、2年2組所属。
出席番号28番。
好きな食べ物、ハンバーグ、焼き蕎麦。
好きな漫画、80年代。
好きなゲーム、レトロ。
好きな音楽、フォークソング、アニメソング。
好きな色、紫。
好きなお兄ちゃん、
好きな人、
撫子には大好きな人がいる。
多くの人に囲まれて、多くの人から信頼を寄せられて、誰もが憧れる。
そんな格好良くて素敵な人。
でも、そんな素敵な人には好きな人がいるの。
名前は羽川翼さん。
撫子のライバルにしてラスボス。
あの人よりも選ばれる人にならないと私はいけないんだ。
「学年首席の天才さんでスタイルもとっても良い、天翔お兄ちゃんの幼馴染み……うーん、
前髪を編み込みにして緩い七三の斜めに整えた髪型にする、今のお洒落な流行りを取り入れた撫子は、自室でラフな服装をして過ごす。
「でも、一緒に居た時間じゃ勝てないし、年下の女の子は月日ちゃんと火憐ちゃんが居るんだよね。しかも、2人とも天翔お兄ちゃんのことが大好きだし」
あの2人も私のライバルだ。
共同戦線は張れないよね。
出し抜くにしてもあの2人との約束を破っちゃうと、必ず報復をされてしまう。
あの『ファイヤーシスターズ』相手にそんな事をするなんて、自殺行為でしかないのである。
「女の子としての魅力がまだ足りないのかなぁ?うーん、頭の良さにはそこまで自信は無いけど、天翔お兄ちゃんに勉強を教えて貰ってるし、これでもそこそこできるのにぃ……むぅ」
勉強だけで言うと、羽川さんにも天翔お兄ちゃんにも届かないけど、それでも頑張ってるのに……。
「もう、学校の男子の皆みたいにチョロくて簡単に靡いてくれたらいいのになぁ~……はぁ……」
今日も告白をされた。
まあ、天翔お兄ちゃんと比べてしまうと、どうしても見劣りしてしまうから断っちゃったけど。
ていうか、天翔お兄ちゃんと肩を並べられる男の子は暦お兄ちゃんくらいだと思う。
「どうでもいい男の子に好きになられても困るだけなんだよね。それだけ、告白をされてるって言っても天翔お兄ちゃんは焦ってくれないし」
駆け引きにすら使えない。
撫子にはただの面倒事でしかなかった。
「はぁ……天翔お兄ちゃんの性癖さえ分かれば少しはチャンスがあるかもしれないのになぁ」
勿論、世間話の
「
暦お兄ちゃんは心を奪う系の男の人で、天翔お兄ちゃんは心を奪いたくなる系の男の人。
だから、天翔お兄ちゃんを好きになる女の子は肉食系のガツガツした人が多いんだと思う。
「天翔お兄ちゃんは今まで見てきた女の子の中で、撫子が一番可愛いって言ってくれてる。それって羽川さんよりも可愛いって事だって撫子は勝手に思ってるけど、そこは多分合ってるんじゃないかな?羽川さんって撫子とは別タイプの人だろうからね」
羽川さんも整った顔立ちだとは思うけど、顔の作りに関してだけは私の方が上だと思う。
だからこそ、単純な可愛さだったら負ける気はしないけど、多分これはそういう美醜の問題じゃないと思う。
「でも、だからこそ攻略のしようがないよ……撫子が羽川さんに対抗できるものが『可愛さ』しかないのに、それに目もくれないなんてさ」
『可愛い』を武器にして好きな人に向けて使い倒す。
それこそが、私の
それが通じない事にヤキモキしてしまう。
「世界で最も通じて欲しい人が唯一通じないなんて残酷過ぎだよ……でも、諦められない」
撫子のこの恋は恋に恋している訳じゃない。
人生でこれほど誰かに恋する事は無いと断言できる。
撫子の隣にずっと一緒に居て欲しい大切な人。
「撫子が今の毎日が楽しい日々を過ごせるのは、天翔お兄ちゃんのお陰だもん。だから、好きなんだ」
ここまで吹っ切れた生き方をし始めたのは、他でもないお兄ちゃんのお陰なんだから。
撫子はずっと可愛かった。
嫌味に思われてしまうけれど、周囲の誰よりも可愛かったのは間違いない。
黙っているだけでも皆から親切にされたり可愛がられて、撫子自身もいつしか言葉と本心を押し殺した。
皆に可愛いがられるための行動を自分から取るようになって、周りの人の言われるがままに生きるようになってしまっていた。
その上、元々引っ込み思案で気弱だったこともあってそれが改善される機会も無く、周囲の人間から視線を隠し、目を逸らして、流されるままに生きていたのが、撫子という振り回されるだけの女の子だった。
そんな撫子に天翔お兄ちゃんは言った。
「なあ、もっと好きに生きたら?」
「え?」
そんな撫子に声を掛けてくれたのが天翔お兄ちゃんだった。
あれは月日ちゃんと遊んでいた時のこと。
「好きに自由に生きたらいいと思うぜ。周囲の期待とかどうでもいいんだよ、究極的にはさ。だって周囲の人間の望み通り生きたって、それでお前が幸せになれるって訳じゃないんだぜ?」
全て見透かしたように言ってくる天翔お兄ちゃんを不気味に思った。
周りの人間から向けられる『可愛い女の子』の呪縛。
それを一目で言い当てられた事なんて一度も無かったから。
「誰にどんな事を言われても問題なんてないって。可愛いってのは呪いじゃなくて利点なんだぜ?周りの事なんて全部無視していいんだよ」
「無視してって……そんな無責任だよ……」
撫子には天翔お兄ちゃんの言い分が、第三者視点特有の適当な物言いだと思った。
「頭が悪くても、運動が下手でも、会話をするのが下手でも、何でも可愛いから許されるんだ。なら、好きにやっちまえよ。好き勝手生きてどんな失敗も挫折もぜーんぶ可愛いで許されちまえって。それがお前の才能なんだから」
「そんなのできないよ……撫子にはそんな事……」
内気で、陰気で、気弱で、恥ずかしがり屋。
それが昔の撫子だった。
そんな情けなくてみっともない撫子を見かねたのか、見飽きたのか、天翔お兄ちゃんが私の手を掴む。
「よし!月火ぃ!例の公園に行くぞー!」
「えっ!?ホント!?ヤッター!ライブなんだね!?お兄ちゃんと火憐ちゃん、呼んでくるー!」
「え?え?え?え?」
撫子は天翔お兄ちゃんの余りにもいきなりな提案に、ビックリして目を白黒させてしまう。
撫子は天翔お兄ちゃんに振り回されて、そのまま全く予想に無かった公園に向かうことになった。
「え?公園……?何で?いきなり、どうして?え……?」
「はい、撫子ちゃん。ハンドタオル」
「あ、うん……ありがとう、月日ちゃん。でも、これって一体……?」
ウキウキしている月日ちゃんに渡されたハンドタオルを掴んでみるけど、それでも困惑で頭の中がグルグルとしていたと思う。
混乱していると色々な人が公園に集まってくる。
「な、何でこんなに人が……?」
「まあ、休日だとしてもこんなに人がやって来る事はないよ。火憐ちゃんが天翔お兄ちゃんのライブを盛り上げるために、手当たり次第の家に走って知らせに行ったんだね」
とんでもない行動力だった。
火憐ちゃんはそれを可能にしてしまうバイタリティーが、この時から存在したのだ。
「いいか、千石。
「こ、暦お兄ちゃん……」
撫子は格好良い年上の男の人にドキドキしていた。
アイドル並みに凄く綺麗な顔立ちで、学校でも暦お兄ちゃんは人気者で誰もが憧れてたから。
そして、私もその1人だった。
「まあ、結構失敗することもあるけど、それでも自分のしたい事をしてるあいつに皆が心を動かされてる。あそこまではっちゃけられる奴を他に知らない」
そう言った暦お兄ちゃんはどこか羨望の眼差しを向けているようにも、劣等感を抱いているようにも見えた。
天翔お兄ちゃんは格好良い男性だけど、客観的な事実として見るのであれば暦お兄ちゃんの方が顔は整っていると思う。
暦お兄ちゃんが人気アイドルや人気モデルになれる顔をしているというなら、天翔お兄ちゃんはクラスで2番目くらいの顔立ちだ。
どっちも格好良いけど、比較をしてしまえばきっと10人中9人が暦お兄ちゃんの方が格好良いと言うんじゃないかな?
それでも、暦お兄ちゃんの方が天翔お兄ちゃんの事を眩しく見ている気がした。
「皆ー!盛り上がっていくぜー!!」
「「「イエーイッ!!!!」」」
遊具の上で自分が世界の中心であるかのように笑顔で話す天翔お兄ちゃんを見て、格好良さとカリスマ性で誰からも一目置かれる、暦お兄ちゃんとは違った凄さを撫子は見た。
あれはきっとスター性と呼ばれるものだ。
「行くぞおおおおー!せーのっ!」
「「「よみがえれ ♪」」」
マイクを持ったお兄ちゃんが皆を煽る。
音楽が天翔お兄ちゃんが持ってきたカセットから流れ、ゲリラライブは一気に盛り上がった。
その知らなけれど格好良い音楽とこのステージの勢いに、一瞬で夢中になる。
「空と大地が 交差している
今たたずんでる
この世界で命がうまれ また沈んでく
繰り返される 営みの中」
ライブ特有の熱気を知らなかった私は、胸の内側から溢れるその衝動を理解できないままその歌声に耳を傾ける。
「こんなもんとよぎった
夢は力をなくす
もう一度生まれよう この場所で」
まるで世界中に響けと言うように声を張り上げる天翔お兄ちゃんを見て、期待感が最高潮に高まる。
キィン……という音と共に、全ての音が重なるような感覚がやって来た。
「正義のその奥で夢が息づいている
かさなる力を信じて
正義のその奥に闇がひそんでいる
見きわめろすべてを」
皆が『す・べ・て・を』のところで合わせるように拳を突き上げていた。
「ふり上げた
きりさくためじゃない
ひきあう絆で」
そして、またみんなで一緒に大合唱。
「呼び覚ませ
あざやかに
let there be light
revive a soul」
そこに居たのは間違いなくスターだった。
キラキラしていて誰よりも自由に好き勝手に周囲の人間を巻き込む存在。
撫子も周囲の目を気にしていたのは最初だけ。
タオルを振り回して皆と同じ様に盛り上がった。
その熱に浮かされて、ライブ終わりに天翔お兄ちゃんに色々と言った事を覚えている。
暦お兄ちゃんも月日ちゃんもそんな私に驚いていたけど、その時の私はそんな事にすら気付かないほどに興奮していたと思う。
それに気付いて恥ずかしがった撫子を見た天翔お兄ちゃんは、
「言いたい事があるなら言えばいいんだよ。それで失望なんかされたりしても、お前は可愛いから相手も許すしかなくなるし、それで何か言ってきたら何だったらお前からそいつとの縁を切っちまえ。犯罪とかしなければ、お前の事を一方的に責める奴なんて存在しねーよ」
周囲の人は撫子に『可愛い女の子』を期待して、求めて、縛り付けようとしたけど、天翔お兄ちゃんはそんな事はただの1回もしなかった。
可愛いから何しても許されると、天翔お兄ちゃんは『可愛い女の子』を止めて『可愛さを武器』にして自由に生きろと言った。
「でも、それで皆に失望されちゃったら……怖いよ」
撫子はそんなに強くない。
孤独になってしまったらと思うと足が
臆病者が撫子だった。
「まあ、その気持ちはよく分かるぜ。俺だって失敗をよくするしな」
「そうなの……?」
「好きな幼馴染みに告白をして普通に振られるし、その好きな幼馴染みを毒親から助けようとして、お金を掻き集めたりだとか大人にも頼ってみたりして、いざ助けようとしたら『余計なお世話よ』って突っ跳ねられたり……あれは傷付いたなぁー」
「それで、後悔とかしなかった……?」
「それについては、どうしてそんな事をしたんだと後悔した」
「え……」
まさかの後悔をしていた発言に凍り付いたよね。
やっぱりしているんだと。
辛くて苦い想いなんて撫子はしたくなかったから、それと比べてしまうと今の可愛がられる環境の方がまだマシだと思えてしまう。
「でも、言葉を尽くして仲直りしたし今でも友達やってるからな。なんだかんだ、必死に求め続ければどうにかなるんだぜ?たった1回期待外れの事をしてもどうにかなるもんさ」
そう言って、私の恐怖心をあっけらかんと天翔お兄ちゃんは笑い飛ばした。
それが撫子の不安や心配なんて大したことは無いのだと。
やり直しが幾らでも利く今のうちに好きなようにやれと、天翔お兄ちゃんは撫子に言ったのだ。
「まあ、大きな失敗をした時はその時は俺のところに来いよ。幾らでも恨み節を聞いてやるし幾らでも慰めてもやる。なんなら、周囲の奴らが敵に回っても俺が味方をしてやるし、お前が道を決定的に間違えそうになったら説教して道を元に戻してやる」
天翔お兄ちゃんは得意気で自慢気で堂々とした姿で、私にそう言った。
その姿は撫子とは違って明確な軸がある。
勿論、天翔お兄ちゃんと撫子を比べて、全く別の存在だと言うことはできたけど……それはしたくなかった。
だって、その姿に憧れてしまったから。
天翔お兄ちゃんみたいになりたいと思ってしまったんだから仕方ない。
目指すしかない。
憧れは止められないのだから。
きっとこの時が、私の恋に恋する憧れよりも、天翔お兄ちゃんに対しての憧れの方が上回った瞬間だった。
「……私にできるかな?」
「当然だろ」
「……それって、私が可愛いから?」
「お前が変わりたいって思えたらいつでも変われる。それについては、可愛いかどうかじゃないんだよ。誰だって同じだ。お前がそうしたいって思えばその瞬間に変われる。神頼みなんかする必要もなくあっさりとな」
「そうなんだ……そんな事だったんだ」
自分が閉じ籠っていた殻がその程度のものでしかないことを知った。
「自分がなりたい自分になった方がいいぞ。だって、その方が良い気分になれるからな」
その言葉が私の切っ掛けになった。
「……うん、分かった。信じるよ天翔お兄ちゃん」
「おう!信じろ信じろ」
「あっ、それとね」
私は帽子を取り、天翔お兄ちゃんの
「私の名前は千石撫子だよ。末長くよろしくね?」
それから、もう5年。
撫子は天翔お兄ちゃんと恋人になれていない。
「あれからすごーく頑張って、お兄ちゃんみたいに皆をめちゃくちゃに引っ張って、引き摺り倒して皆が最後には笑顔で笑える女の子になったのに、全然振り向いてくれない……」
絶対に諦めたくない。
それにようやくチャンスは巡ってきた。
あの羽川さんが暦お兄ちゃんに恋をしたのだ。
「だから、暦お兄ちゃん、本当に好き!あの難攻不落の羽川さん落としちゃうんだもん!これで撫子にも可能性が生まれたよ!」
撫子にとっては最大のライバルが明確にコースアウトしてくれたのだ。
これほどの朗報はないよね!
私は
「お兄ちゃんの言う通りに『可愛い女の子』を武器にして、傷心のお兄ちゃんに寄り添ったもん!多分だけど、月日ちゃんも火憐ちゃんも羽川さんが暦お兄ちゃんの事が好きなのは、知らないんじゃないかな?」
人の不幸は蜜の味というけれど、私は天翔お兄ちゃんの今の状態が一番の狙い目だと思った。
傷付いたお兄ちゃんの傷口を甘くて
勿論、私の身体で慰めるのも考えたけど、『可愛い女の子』はそんな事はしない。
もっと効果的に手札を切らないと、『好きな女の子』じゃなくてただの『性欲を抱くだけの女の子』になっちゃう。
それじゃあ、代わりの女の子は幾らでも居るからダメだよね。
私は天翔お兄ちゃんの唯一無二の女の子になりたいんだから。
「でも、まだ足りない……『可愛い女の子』だけじゃ天翔お兄ちゃんを私のものにできないのはもう分かってる」
自分が足りていないのは分かってる。
それこそ、昔の自分が天翔お兄ちゃんに声を掛けられたのは、不自由な生き方をしていて不憫だったから。
それを乗り越えて今の撫子がある。
だから、それを今さら無くしても親身にはなってはくれるだろうけど、二番煎じでしかないからそこまで気を引くことはできない。
新しいアプローチが必要だ。
「私の羽川さんに好きな人ができたという情報は、その内皆が知っちゃう内容だよね。だから、今しかアドバンテージは無いんだ……どうにかしないと……何か、何か何か何か何か何か」
一騎当千の才能だった『可愛い女の子』が通じない撫子は、色々なものが足りなかった。
羽川さんのように『類い希なる頭脳』があるわけじゃない。
育ちゃんのように『誰よりも近くで触れ合える』わけじゃない。
火憐ちゃんのように『同じ目標に努力をしている』わけじゃない。
月火ちゃんのように『遠慮なんて微塵もせずに話せる』わけじゃない。
撫子が持っていない武器を皆が持っている。
そして、そのどれも撫子には持ち得ないものだった。
どうにか、天翔お兄ちゃんの気を引ける新しい何かが欲しい。
撫子は願って、願い続けて……奇跡がやって来た。
身体に蛇の鱗の痕が生まれたのだ。
6月11日。
俺は友達である撫子に呼ばれて、北白蛇神社の長い階段を一段一段上がっていく。
まあ、多分だけど今日なんだろう。
阿良々木と神原によって儀式が行われて救われる日だ。
「まあ、撫子ちゃんは原作ほどに阿良々木に恋してるわけでもないみたいだし、周囲から『可愛い女の子』によるプレッシャーも無い。これで千石が神様になって阿良々木や戦場ヶ原共々、羽川が殺される未来はなくなった。まあ、あれは撫子ちゃんの妄想だったわけだけど、絶対にありえないかと言われると断言はできない」
そう、ほぼありえない結末だが100%とは言えない。
あの妄想が現実になってしまう可能性がある以上は、芽を摘む必要がある。
だから、千石の自己肯定感を上げて周囲からの期待というプレッシャーから解放した。
「そして、今回は撫子ちゃんが怪異と関わる事になった切っ掛けである蛇切縄。これさえどうにかすれば、もう関わりを持つことなんてありえない」
千石撫子は怪異の蛇切縄に憑かれる。
これは千石が告白を断った男子とその男子の事を好きだった女子の2人が、千石に蛇切縄の呪いを掛けたという話。
原作では逆恨みをした男子が呪いを掛けていた事に気付かず、一悶着あった。
「千石に掛けた呪いが跳ね返る中学生は……まあ、自業自得か。必要なら動くけど忍野さんが動かない以上は、動かない事がベストなんだろうな」
原作通りに進んでしまうのならそれがきっと最善だ。
俺は竹林を横目に1人で登っていく。
「もしかして、境内には儀式場が既にあるのか?だとしたら、阿良々木と神原も居るのか。うーん、蛇切縄に噛まれたくはないなぁ」
とはいえ、そこまで大きな事にはなっていないと思っている。
それはそうだ。
蛇切縄は千石が蛇をぶつ切りにして貼り付けにした事で、効力が出てしまった奇特なケース。
だからこそ、蛇切縄の解呪の方法は問題はない。
それについても、しっかりと教えている。
「下手に行動しなければ大丈夫。あとは、頼りになる忍野さんに頼れば問題はない」
結局のところは、学校で蛇切縄のお
そう思いながら、馬鹿みたいに長い階段を登りきった。
「……………………は?」
そこは間違いなく北白蛇神社だった。
管理者が居なくなった事による放置が原因で荒んだ古びた神社。
ここが北白蛇神社なのは聖地巡礼を行った俺が言うのだから間違いない。
だが、ここには存在してはおかしいものが存在した。
いや、存在してはいけないものが存在した。
白くて白々しいのに、この圧迫感は尋常ではない。
まるで境内の中に白波で満たされてしまっているかのようだった。
だが、それは蛇だ。
数万もの蛇がまるで海のように境内の中を占領していた。
「は……?嘘、だろ……?何で?」
それはありえない。
ありえてはならない。
だって、今は蛇切縄の話の筈だ。
「アハハハハッ!!撫子ね、ようやく分かったんだ!どうすれば特別に思ってくれるのか!簡単な事だった!私が特別になっちゃえばいいんだ!羽川さんとも、育ちゃんとも、月火ちゃんとも、火憐ちゃんとも掛け離れた唯一無二の存在!私がNo.1でOnly 1の
──それなのに、千石撫子はクチナワ様に憑かれている。
蛇切縄なんていう雑魚怪異じゃなく、神様に取り憑かれていた。
赤い瞳で実に楽しそうで無邪気な笑顔を向けてくる女の子が、俺は今
蛇のモーゼの先に居る千石は、お賽銭箱の上で輝く白い素足を赤いワンピースから覗かせながら、何もかもから解放されたような素敵な笑顔で俺を見てくる。
「私が悪い子になったら説教してくれるんだもんね!天翔お兄ちゃん!」