物心、というか。
自分の記憶がハッキリしたころには、この世界は俺に厳しかった。
ちょいとシャレならんレベルで。
俺は前世の記憶が少しだけある。
男だった記憶だ。
しょうもないことしてしょうもなく死んだ。
まあそんなしょうもない男だった俺なんだが、今世俺が何してるかって言うと…
「お〜にさーんこ〜ちら。手〜パンパン♡」
「くっ!!」
結婚式で着る白無垢を俺の小さい体にスケールダウンしたものを着用しながら、異形のものの攻撃から逃げていた。
本来重い白無垢を着ても軽快に動けるこの体の性能には驚かされる。
目の前の異形は、簡単に言えば『鬼』と言える存在だ。
赤の隈取り、ギターの弦のような飾りを身にまとった存在。
前世で見た事のある『仮面ライダー響鬼』、ニチアサの特撮番組で見た事のある存在なのだ。
裁く鬼。
裁鬼と呼ばれる存在が俺を攻撃している。
「キミたち鬼も飽きないねぇ…ワタシの夫だけでは足りなかったかい?」
「足りないッねぇっ!!!」
季節は夏。
夏の
どのような対策かは忘れてしまったがそんな数の多い魔化魍を倒すためにこの鬼はバチを持っている。
音撃棒と呼ばれるソレで果敢に攻め立ててくるも、俺は攻撃する気がなく逃げに徹しているだけなので回避は容易い。
「おっと危ないッ!あははっおっしい〜!!」
「ちっくしょ」
「キャ〜ンッ!!」
俺が回避し、明確な隙を晒した裁鬼に対して小さな影が襲いかかる。
小さいとは言っても中型犬サイズの影は裁鬼の太ももを的確に抉りとり膝をつかせた。
「ぐぁっ!!」
「油断大敵♡ウチの子は夫とは違って優秀だからね〜!!」
「キュンキュン!!」
中型犬サイズの影の正体は狐だった。
普通の狐と違うポイントはサイズと、尾の数。
三本の尾を揺らしている獣を見て、鬼は呟いた。
「三本だと…!!何人食わせた…!!!」
「それ聞く必要ある?本能に従って、自然災害として人間を減らしてるだ〜け♡」
「ふざけるな!!」
この狐。
私の子どもの名前は九尾。
大陸から伝来した妖怪で俺が育てることになった。
元々俺の他に童子と呼ばれる番がいたのだが目の前の鬼とは違う別の鬼、『響鬼』に倒されてしまったのだ。
相当苦戦させて物語のスパイス程度にはなったようだが…晴れて未亡人となり片親としてこの子を育てることになったのである。
とはいえ、この子とてつもなく育成難度が高い。
集落を九個壊滅させたにも関わらず育ち切らない。
伝承では九つある尾もまだ三つしかないのだ。
伝承にある先人には頭が下がる思いだ。
原作に居ない魔化魍だし、俺はなんか見た目が幼いし。
訳の分からないことばかりだが、生きた自然災害が考えることでもない。
「片親家族には苦労が絶えないのよ〜?餌の調達も一苦労だからね〜。あ、お昼ご飯の時間だから行くね♡」
「クソっ!待て!!」
俺と子どもが生まれて早二週間。
山間の集落を壊滅させるだけだったが…まあウチの子に都会は早すぎますね。
◇ ◇ ◇
最近、たちばなを拠点とする猛士を悩ませる事案が発生した。
事の始まりはちょうど二週間前。
群馬の赤城山付近で異常気象が発生。
様々な情報を照らし合わせた結果、大昔に中国で発生した異常気象に酷似している事が判明した。
行方不明者が続出していたことから猛士からも人員を派遣し調査を行った結果、中国で発生し大災害を巻き起こした魔化魍、『九尾狐』の誕生を知ることになる。
九尾狐は情報から成長は遅い代わりに、成長し切ると天災の如き暴れ振りを見せる。
そこらの魔化魍が三日四日で成長し切るというのに九尾狐は二週間たっても成長を終えていなかった。
「…九尾狐、どうにかならんもんかね…」
たちばなで『おやっさん』の愛称で親しまれる立花勢地郎は、鬼達のシフト表を見ながら呟く。
『王』の立場でいる中、暗躍する勢力という悩みの種に頭を痛めているのにその上、情報の中で特に危険視されている『オロチ現象』に比類し得る九尾狐すら出てきた。
「裁鬼さんも、姫にのらりくらりとかわされてしまったようですし…」
「うーん…童子を倒したのもヤツの自滅みたいなものだったし…」
勢地郎の娘、立花日菜佳が現状について確認するように口に出したあと、勢地郎が童子の境遇を思い返す。
九尾の童子が倒されたのは一週間前。
理由は分からないが、童子は単独行動を行い響鬼に対して果たし状を出した。
元々、九尾の童子、姫は攻守に別れて行動する。
姫が九尾を守り、童子が餌を狩り鬼も狩る。
そのような分担であるはずが、姫は最初から九尾をワンオペで育てていたようで童子はその様子に辟易したのか、拗ねたのか…自滅するように鬼に挑んできた。
九尾童子の近接戦闘能力は目を見張るものがあり流石の響鬼も苦戦を強いられた。
響鬼紅でも攻めきれず、危うく倒されるところだったが響鬼の機転によりディスクアニマルで牽制、気を取られたところに清めの音を流し込んだ。
その時、童子は姫に対する恨み言を叫びながら爆炎に呑まれ土に還っていった。
『俺だって…!俺の子でもあるのにぃッ!!』
どっちみち、童子の自滅はこちらにとっては有利な出来事であったことは間違いない。
ただ、童子とは違うベクトルで姫は厄介だった。
こちらと真面目に戦おうとしないのだ。
九尾は夏の魔化魍のように分裂することはなく、弦、鼓、管の鬼が総出で対処に当たれる魔化魍ではある。
そのため、発見情報があればシフトに入っている鬼を向かわせるのだが如何せん戦果は乏しい。
九尾はまだ小さい。
守る必要すらないほどに俊敏で、今の九尾ですら脅威だった。
だから姫も怪人態にはならないし、猪突猛進に突っ込んでくる鬼の攻撃を避けて隙を無理やり作り九尾の攻撃を滑り込ませる戦法を主とする。
九尾の攻撃力も侮れるものでは無いし、すぐに回復できるほどのものでも無いため、回復する頃にはもう逃げているのだ。
九尾を先に倒そうにも母親が隙を作ってやるまで隠れて出てこない。
探そうとすれば姫が逃げようとする。
そんなスタンスはめっぽう強く、最近の魔化魍の異常発生のせいで手隙の鬼が少ないこともあり討伐できていない。
「受けに回るしかない…か。響鬼たちには苦労をかけるね…」