#四話の参
ホテルで櫛灘達と別れて一人になった一貫は兵士たちの目がある中、魔法軍部が貸し切っているホテル周辺を散策していた。その理由は櫛灘達が直ぐにホテルから出てきた時にいないと言われて、雷を落とされるのが嫌だったこと。
「君、こんな所で何をしているんだい?」
「ああ、すみません。実はこのホテルに先ほど友人が入ったのですが、一緒に入れなくて」
その間の暇つぶしも兼ねて、一貫は見回りしている兵士へ話しかける。ただ、一貫の言い分に違和感を持った兵士は腑に落ちないといった風に怪訝そうに見る。
「それで戻って来るまで暇だから散策しているんですけど、普段は見掛けない魔法軍部の兵士さんが沢山いたんで驚きました。この辺りで何かあったんですか?」
「……昨夜、この辺りで事件が起こってね。襲撃者達がこの辺りに潜んでいるという情報があるんだ。だから、早く家に帰った方がいいよ」
(おかしな眼を向けられるのは想定内だが、兵士に警戒されていない……どういうことだ?)
「もしかして、ニュースの……確か、魔法学園の建物が複数半壊したんでしたっけ……怖い話ですね」
「うん、その話だ。だからこうして、そんな怖い人達が来ないように見回りをしているんだよ」
「魔法使いが住んでいる建物は魔法で強固しているから頑丈だって聞きましたけど、壊れることもあるんですね」
「そうだよ。武装をしている危険な集団が相手だからこそ、その建物を壊した人たちは私達で必ず見つけるつもりだ」
兵士と話しているうちに、一貫はあることに気付く。魔法学園へ通う学生は総じて髪色は様々だが、黒髪の学生など滅多にいない。開來魔法学園へ通う学生と見られていない可能性だ。
「頑張ってください。そう言えば学生達が狙われたって話ですけど、あの被害を見る限り、ミサイルとか爆弾持ってこないと無理なのでは?」
「今、何と言ったんだい?」
あぁ、ここで疑われたか。
「私、目が良いのがちょっと自慢で。ここからじゃあ……遠いし角度的に見えないですけど、遠目からでも半壊したアパートの一部が黒くなっていたのが見えた気がして」
「どうだろう。僕はそこまで目が良くないから分からないな。とにかく待ち合わせしている人が戻ってきたら、速やかにここを出るんだよ」
「分かりました。今日は早めに帰ります」
「……うん、気を付けてね」
兵士へ一礼し、背中を向けてホテルから歩いて行ける魔法スタジアムの方へ足を伸ばす。ただ、その間も兵士の視線が離れることは無かった。
一般区から魔法区へ向かうバスは朝と夕方が殆どで、昼間の時間帯では1時間に1度もバスが来ない時間すらある。なので一貫は、魔法スタジアムを通り過ぎ、魔法区から一般区へ繋がる一本道を歩いてアパートまでの道のりを歩いている。夏であれば自転車を漕ぐと心地よい風を浴びられる場所だが、歩きの場合は変わり映えしない道がひたすら続くだけだ。
「さて、どうすっかな。ま、出来ることなんてあんまり無いん……今のは?」
次の予定を考えていた一貫だったが、何かが動いた気がしてある方向を向く。伸びに伸びた雑草が埋め尽くす空き地は一見何もない。ただ、何かがあると感じたらしい。
「……当てもない、追ってみるか」
一般区と魔法区を分ける雑木林の先、好き放題に伸びきっている雑草の中を歩く2人がいた。1人は左腕全体が焼けたような怪我をしており、もう1人の男はそんな怪我した男を抱えて歩いている。
「全く、私のことは置いて行けと言ったのに……」
「いいえ、俺は貴方を連れ帰ります。このままでは終わりません。終わらせませんよ」
「あぁ……」
負傷した男は最低限の手当しか出来ておらず、傷も癒えていない。痛みに堪えるように、眉間に皺を寄せている。
「まさか、出来上がった、ばかりの……魔法兵器を、撃つ、とは」
「貴方のおかげで、何とか俺達は逃げられました。ですが、その腕は……」
「あぁ、しばらく私は戦えない。だが、そういうのはまず戻ってからだ」
あぁ、そういうことか。二人は昨夜の……
「昨夜の情報は既に反逆さんへ送っています。そうすればきっと……」
「あぁ、あの人のことだから来てくれるだろう。ただ、それまでに我々がどれだけ時間を稼げるかが問題だ。だが……」
「分かっていると思うが、追手がいる。幸い、一人だ。いざという時は私を置いていけ」
「大丈夫です。私が魔法を使っている以上、そこらの奴に見つけられるはずが……」
誰かがいたことには気付いている。対策に使った魔法の精度も悪くない。確かにこの魔法なら、並大抵の学生や兵士にはまず気付けないだろう。
「おや、こんな所で何を?」
「……は?」
まぁ、そりゃあびっくりするよな。が、驚き過ぎるのもよくないぞ。
「……びっくり、したなぁ。君こそ、どうしたんだい」
「実は私、普段からこの道を使っているんですよ。そうしたら、ちょっと人影が見えちゃって。気になって見に来ちゃったんです」
当たり前だけど、あからさまに警戒しているな。まぁ、この状況で警戒するなって方が無理か。
「そ、そうなんだね。いやぁ、僕達は道に迷ってしまって、まさか人に会うと思わず驚いちゃったよ」
「こちらこそ、です。まさか、こんな所を自分以外で歩く人がいるなんて。それから……そちらの方は怪我をしているみたいですが、大丈夫なんですか?」
「あぁ、うん。心配、してくれてありがとう。これから一般区に向かって病院へ向かうつもりなんだ」
直近の経験から言って、お勧め出来ないな。
「うーん……ここから一般区の病院まで歩いて5キロ以上あります。タクシー呼ぶか、その前にどこかで休んだ方がいいと思いますよ」
「そう、だね。確かにタクシーを呼んだ方がいいかもしれない」
「親切にありがとう。早速タクシーを……」
何処までもしらばっくれるつもりか。まぁ、人のことは言えないか。
「それで。昨夜の襲撃から何とか逃げ切ったレジスタンスが、こんな所で何やってんですか」
「……何のこと、だい?」
「さっき、反逆さんって聞こえましたよ?」
「……」
ようやく白を切るの、諦めたか。
「君こそ、僕たちに何の用だい?」
「ああ、俺は……」
怪我が少ない方の男から、腹のなる音が。そうか、飯食ってない状況か。
「……おい」
「す、すみません。こんな時に」
「一旦、俺の部屋で応急処置と飯を食うってのはどうだ?」
男二人は顔を見合わせて……
「有り難い申し出だが、断ろう」
――余計な人間を巻き込みたくない、といったところか。
まぁ、レジスタンスって、そういう方針だからな。
「じゃあ、今の開來市にいるレジスタンスだけで解決できるのか。拠点は確か、魔法区から最も離れた地区の農家だった気がするが」
「「……」」
「昨日のあれ、マニュピレーターで抽出した魔素の魔法兵器だろ。遠目で見ていたが、あれを撃つ余裕がある相手にあんたらだけで勝てるのか?」
「……ちょっと待て。何故それを」
目に見えて動揺している。そりゃ、そんな単語をその辺の学生が知っている訳ないからな。
「選択肢は2つ。俺に事情を話すか、目的が果たせないまま反逆の元へ戻るか、だ。さぁ、どうする?」