私は君の手を握る   作:久遠の語部

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第5話-1 下心なく、打算なく

 土日明けの月曜日、私達はいつも通り授業を受けていた。携帯端末に届いた通知と、珍しく行った全校集会でされた話を受けて、

 クラス中、学園中にホッとした空気が流れている。ピリピリしていないのはいいことだけど……

 

 「……」

 

 やっぱり、風音と雫は信じていない。そうだよね。魔法軍部を襲撃したレジスタンスが壊滅したのはわからないけど……

 今までいなかった学生達を私達は見ていない。名簿までは知らないけど、あのホテルで雫が知っている人はいなかったという。

 

 二人はどう思っているだろうか。

 

 「……」

 「──」

 

 

 二人共、学園側の言い分を信じていないようだ。

 

 「そうだ。雨森さん」

 「はい」

 「申し訳ないんだけど、間縞教諭から呼び出しを受けているの。放課後でいいから職員室に来て欲しいわ」

 「は、はい……」

 

 ふぅん……安全なら私達の方で確保しているんだから、呼ばれる理由なんてないと思うんだけど。

 

 「……」

 「──」

 

 風音と視線を合わせる。ちょっと、作戦会議が必要かもしれない。

 

 事件の影響が残っている中でも授業は平常通り進み、昼休みを過ぎて……放課後となった。

 

 「じゃあ私、職員室に行くね」

 「待って、雫。私も行くよ」

 「え、あ、うん」

 

 廊下を歩いている間、雫が私に話しかける。

 

 「ねぇ、火ノ華ちゃん」

 「なに?」

 「火ノ華ちゃんは呼び出しを受けてないよね?」

 

 雫は私が間縞教諭を嫌っていることを知っている。だから、無理しないでいいと言っているのだろう。

 

 「うん。けど、今日の呼び出しって要は勝手にホテルを抜け出したことでしょ。間接的に私も関わっているんだから、いた方がいいかなって」

 「で、でも……」

 「いいの。それに、あいつに言ってやりたいこともあるから」

 「な、なら……うん、ありがとう」

 

 まずは同行に成功した。それにしても、私と風音だけじゃあんな意見出なかったなぁ……

 

 ──時間は少し戻って、昼休み。

 

 「はぁ、呼び出しか」

 「何よ、半分あんたが原因なんだけど」

 

 結局、授業中に考えてもいい案が出なかったから、どうせならと思って一貫君に頼ろうと決めた。何かいい案を持っている気がしたから。

 

 「いや、それよりも胡散臭いなって」

 「私ならそんな呼び出し無視できるけど、雫はそこまで出来る子じゃないし、あいつが何をするか分からない。そもそも、私達にあんな行動させたんだから責任くらいとってよ」

 「変な勘違いが起きねぇかその言い方。とりあえず、どうするかだな」

 

 煩いわね、こっちは真剣なの。雫の身が危ないかもしれないのに、放っておける訳ないでしょう。

 

 「結局、向こうが何をしたいかだな。どうせ、魔法軍部へ入れみたいな流れだろ」

 「それは私と風音でも分かっているの、最近そんなのばっかだから」

 「詳しい訳じゃないが、魔法軍部ってあんまり人が入ってないんだろ。ってことは、櫛灘さんや東雲さん、他の優秀な学生を勧誘して成功させることに意味があるって訳か」

 「……そんなこと、分かっているわよ」

 「どんな事情かは置いといて、それに意味があるとするなら、なにかの見返りがあるってことだよな」

 

 そういう話、好きじゃないんだけど。

 

 「……嫌な話、しないでくれる?」

 「いや、これは必要だ。相手の思惑が分かれば、そうならないように持っていけばいい。それにバーコードだって馬鹿じゃない。何か感情的に言われても、それなりの逃げ道は用意しているだろ」

 「だったら、あいつが基本的に有利じゃない。私達は学生であいつは仮にも先生よ。どっちが有利だなんて……」

 

 だとしたら、初めから私達に勝ち目なんてないじゃない。

 

 「だったら、あいつのペースに合わせる必要ってあるのか?」

 「……どういうこと?」

 

 ──相談した時間は15分くらい。でも、その時間だけで私達は十分な作戦を貰った。

 

 一貫君に相談して、私達でもいけると思ったんだから。自信を持って、火ノ華。

 

 「失礼します」

 

 何人もの先生が私達を見る中、間縞教諭の席へ到着した。

 

 「何だ、櫛灘もいたのか」

 「はい、先週のことなら私にも関係があるので」

 

 正直、さっさと帰りたいところだけど、こいつが何を言うのかは確認しないとね。

 

 「そうか。じゃあ、さっさと本題に入ろう。どうして金曜日は担任の土屋先生にも言わず、ホテルを出てきたんだ」

 

 うわ、見下す話し方が本当にムカつく。ここに来る前は過去に成果を出していた人だと担任の土屋先生は言っていたけど、それって昔の話でしょ。

 

 「え、えっと……そ、それは……」

 「どうした。何か理由があるのだろう?」

 

 雫は焦りから声と手先が震えている。雫を眺めるその口角が、厭らしく吊り上がった。こいつもしかして……!

 

 「ちょっ……」

 「私は今、雨森に聞いている」

 

 ……ああ、本当にそう言ってきた。うん、一貫君の考えは刺さるのかも。

 

 「ご、ごめんなさ……」

 「はい、私が雫を連れ出したからです」

 「もう一度言う。櫛灘、私は雨森に聞いている」

 

 癪に障る、とでも言いたげな顔ね。露骨に圧をかけているけど、ここで怯んでいる場合じゃない。

 

 「私が雫と一緒にホテルを後にしたのは知っているんですよね」

 「そうだ」

 「それだったら私が話します。あぁ、それから……他の先生の目がある職員室じゃなくて、個室で話せばいいじゃないですか。わざわざ先生達を沢山集めて話すことなんですか?」

 「どこで話をしようと俺の勝手だし、自分の行動だから説明できると思っただけだが」

 「はい。だから、私が連れ出しました。理由はあのホテルにいると危ないと感じたから。これでいいですか?」

 「……ほ、火ノ華ちゃん?」

 

 周囲の先生たちから動揺の声が漏れている。魔法で誰かを黙らせたことはあったけど、言葉だけでやるのがこんなに怖いなんて。

 昼休みに一貫くんと話したことを思い出す。

 

 ──じゃあ、櫛灘さんはどうして雫さんを庇う。いくらバーコードからの呼び出しとは言え、話をするだけなら一人で行かせていいだろ。

 ──他の人がまだ戻ってくるかも分からない。そんな状況で魔法軍部と繋がりがある先生達へ雫一人で行かせたくないからよ。雫は卒業後に両親へ恩返しがしたいって言っているのに。

 ──恩返しは置いとくとして、あるのか。櫛灘さんには?

 ──何が?

 ──覚悟だよ覚悟。雨森さんの分まで櫛灘さんが狙われる……その覚悟はあるか?

 

 怖い、逃げたい。でも、雫には手を出させない。

 

 「一応聞くが……どうして危ないと思った?」

 「雫が魔法軍部に誘拐されると思ったからです」

 

 逸る気持ちも、一貫君の言葉を思い出して落ち着かせる。

 

 「な、なんだ、唐突に」

 

 そうだ、声のトーンで相手の様子を伺えと言っていた。大丈夫、私は今、落ち着いている。

 

 「先週の金曜日、雫の様子を見にホテルまで行きました。そこで見たんですけど、どうしてホテルの中まで魔法軍部の人が見回りしていたのですか?」

 「彼らは職務に励んでいただけだ。そう警戒しなくていいだろう」

 「街の巡回なら分かりますが、ホテルの中まで各階にいる必要ってあったんですか?」

 「…………」

 

 他の先生達は、私達へ口を挟めずにいる。緊張から、吐き気がする。

 

 ──だって、相手は間縞とは言え、教諭よ。

 ──間縞たちに引け目を覚えるのは、相手が先生だからか。

 ──当然じゃない。何でそんなことを。

 ──じゃあ、こう言うか。魔法使いとして櫛灘さんと間縞にはどのくらいの差がある?

 ──そう言われると、あまり差がないような……

 ──じゃあ、そんなに差のない魔法使いが、自分たちの将来を好き勝手にしようとしている。お前はどうしたい?

 

 だけど、一貫君の言われた言葉を自分の中で反復していると、一人じゃないと思えたから。

 

 「ああ、万が一レジスタンスが襲撃した場合、素早く対処できるだろう」

 「だったらどうして、雫のアパートが被害を受けたんですか?」

 「それは小癪なレジスタンスが君達を狙ったからだ。第一、君もレジスタンスの被害に遭ったじゃないか?」

 

 (ここだ。)

 

 それは間縞が知らなくて、私が知っていること。うん、一貫君の言っていた通りだ。必ずボロが出るから、そこまで待てと言ったのは本当だった。

 

 「何を言っているんですか。私は魔法軍部の人にレジスタンスと間違われて撃たれたんですよ」

 「……」

 

 間縞教諭の表情が明らかに固まった。

 

 「なのに、安全の確保を魔法軍部で行うって何ですか。仮に間縞教諭の言う通りだったとして、魔法軍部に見回りを依頼した上でレジスタンスから襲撃を受けたのなら、魔法軍部だけではなく魔法学園にも責任があるのでは。ふざけたことを言うのもいい加減にして下さい。ただ、私の友人を魔法軍部が関わっている場所へ行ってしまうのが怖かった。それだけです」

 

 心臓の鼓動が痛い。職員室の空気は氷のように冷え切っている。

 

 「何故そこまで魔法軍部を嫌うんだ、櫛灘は」

 「レジスタンスが襲撃したという現場を直接見ました。あれはレジスタンスという一集団が扱えるレベルを被害を大きく超えています。なので、あの損傷を引き起こしたのは魔法軍部だと考えています。そんな狂暴なことをする魔法軍部へ行きたくなんてありません」

 「え、火ノ華ちゃ……」

 「それは君の被害妄想だ。それから、私達は君たちの将来を見据えて推薦をしている。君たちの力を最大限生かすには、魔法軍部が最適だと」

 

 (今、こいつはなんて言った?)

 

 「それは、あんたの、都合の、間違いでしょ」

 

 あまりの言い様に、自分自身が火になったかのような怒りが燃え上がると同時に、指先が凍りつくような感覚に襲われる。あんたの都合で、こっちの将来を決めつけようとするんじゃないわよ。自分の思い通りにならないから学生を罵倒する。魔法の実力が高いから、何かあっても無かったことにされる。そんなあんたの言う事よりも、ぶっきらぼうだけど私達のことを考えてアドバイスしてくれた一貫の方が……

 

 「ほ、火ノ華ちゃん……」

 

 控えめに繋がれた手、怯えるような友人の声。

 

 「……あ」

 

 そこでようやく、我を忘れかけていた自分に気づいた。冬でもないのに、職員室の机や棚に霜ができている。

 

 気持ちが冷え切りすぎて、無意識に職員室を凍らせていた。久しぶりにやってしまった。それに、落ち着いたからこそ、今やらなきゃいけないことも。

 

 「雫、行きましょう」

 「え、え?」

 「ダメ、話にならない。どうせ、最近起きている誘拐事件も魔法軍部が関わっているんだろうし、魔法軍部と仲のいい教諭に話しても無駄よ、これ」

 「何を言うか。多くの学生を誘拐していたレジスタンスは壊滅した。その内に学園へ戻ってくる。誰に入れ知恵されたか知らないが、事実無根な話をされても困るんだが」

 

 事実無根、か。それなら……

 

 「誘拐自体はレジスタンスが来る前から起きている。なら、レジスタンスが主犯と決めつける教諭達の話すことも事実無根なのでは?」

 「今、何と言った櫛灘!」

 「そういう行動を魔法学園がしてきたと、私が感じただけです。それでは失礼します」

 

 止められることなく、職員室を出ることが出来た。言ってやった、言ってやった!

 でも、落ち着かない。落ち着けるわけがない。急ぎ足で職員室から離れて、学園を後にする。

 

 「ご、ごめんね。私、何も言えなかった。それより、良かったの。あんな言い方しちゃったら……」

 「別にいいの。私、前からあいつが嫌いだったし」

 

 今でも心臓がバクバクしているし、これから先のことを考えると怖い。それでも、言わなきゃいけないことは言ってやった。雫のことであいつに文句なんて、言わせやしない。

 

 「で、でも、あれは言い過ぎたんじゃ……」

 「そ、それはちょっとね。けど、最近の魔法学園、どう思う?」

 「どう……って?」

 「魔法軍部の偉い人が来るって話が出てから、魔法軍部行きの話を薦める先生が増えてない?」

 「それはそう……かも」

 

 雫もその異変は感じ取っていた。間縞教諭が魔法軍部出身だからか、そうした意向が反映されているのは分かる。

 

 「私や風音はことある毎に言われるせいで、魔法軍部を志望している上級生達からは変な妬みを買うし……」

 「火ノ華ちゃん。魔法医学を志望しているからね」

 「うん、そっちに行けばきっと……」

 「治るよ、きっと」

 「……うん、ありがとう」

 

 あれ、情報端末から通知が。風音からなら……

 

 「もしもし、風音?」

 「そっちは終わったみたいね」

 「風音の方は……」

 「暫く時間が掛かるみたい。聞いていた通り、バイトしているのは本当みたいね……それで、そっちはどうだったの?」

 「あー……」

 

 さっきのことを今更思い出す。今から思えば、あそこまで誰かと言い合いしたのは初めてな気がする。

 

 「なに、なにかあったの?」

 「間縞教諭に対して、思いっきり喧嘩売っちゃった」

 「昼休みに言われてたこと、本当に、やったの?」

 

 流石の風音も耳を疑うよね。

 

 「うん、ついカッとなっちゃって」

 「……後で詳しく聞くわ。それじゃあまたね」

 「うん」

 

 …………えーと、そうしたら次は。

 

 「えっと……風音は何をしているの?」

 「ちょっとした確認をお願いしていたの。風音たちが戻ってくるのは夜になると思うから、先に夕食を作っちゃおう」

 「……たちって、誰?」

 

 そっか。そう言えば、余裕がなくて全く話せてなかったわね。

 

 「あんな言い合いをする羽目になった原因……雫も知ってる、お節介な同級生のことよ」

 

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