学園の授業を終えた放課後、今日は普段のバイトが入っていた。街の外からやってくる荷物を運ぶ仕事で、これが結構大変だ。魔法使いの居住区へ送る荷物、一般向けの荷物。これらを選別して開來市内のそれぞれの住所へ配送するんだが、俺の役割は一般向けのそれとは少し変わっている。
「次、これは大丈夫な代物か」
「これは……はい、魔法の授業で触媒に使う消耗品です。割れるものでも危険物でもないので、普通に運搬して構いません」
「魔法にも消耗品ってあるんだな。よし、次はこれなんかどうだ」
「寧ろ、消耗する物ばっかですよ。あぁ……これは念のため、液体が入っている荷物と隣り合わせで積まない方がいいです」
「そうか、助かる」
勿論、人手による手伝いもするけれど、大きな理由は魔法学園に送られる品の選別だ。魔法に関わる物品は本来別料金を払って郵送するものだが、経費の削減とやらで別料金で送るべきものを一般郵送で送るケースが過去に何度もあった上、運搬中に問題も起きたらしい。魔法使いだけど肉体労働に抵抗ない俺が、ここでバイトとして働けているのはそういう経緯だ。
「分かった。今日、ここの集荷所に来た学園、研究所宛の品は以上だ」
「了解です。それじゃあ、倉出しを手伝います」
だからこそたまに、明らかに変な物品が出てくる時もあった。あれはそう、2ヶ月前だったか。
それから1時間半後、気がつけばもう夕方だ。今日はこの後予定なんて無いし、さっさと帰って寝てしまおう。
「よし、今日は終わりだ。上がっていいぞ、一貫!」
「はい、お疲れ様です!」
さて、今日も適度に動いた。さっさと飯にして……
「ところで一貫」
「はい、何ですか?」
「外にいるのはお前の彼女か?」
「……は?」
確かに人がいる。見覚えのある、黄緑の髪をした人が買い物袋を持って。だけど、断じて彼女ではない。あいつも絶対に否定する。じゃあ、何であんな場所にいるのかと問われれば、分からない。
「……何で?」
「はぁ~……魔法が使えないとか言ってたけど一端にやることやってんじゃねえか。やるねぇ、一貫」
やることって何だ、やることって。
「絶対にそんなんじゃないです。そもそも、初めて話してから数日しか経ってないのにそんな関係になる訳ないでしょう。しかも、今まで全く関係なかった奴ですよ」
「あぁ、俺達への自慢か、この野郎」
「マジで覚えがないんですよ。全く、次は何の面倒事なんだか。まぁいいや。ひとまずお疲れ様です」
本当に何なんだ。大体、俺に話しかける用事なんてないだろ。
「ようやく終わったのね」
「そうだけど、まさかバイト先で待ち伏せされるとは思わなかったぞ」
こいつがそういう奴じゃないのは分かっちゃいるが、バイト中に何かされなかっただけマシと考えた方がいいか。
「突然だけど、火ノ華から伝言よ」
「は?」
「この後、火ノ華のマンションへ顔を出しなさい」
「何だ、新手の脅しか」
……何で眉間にしわを寄せてんだ?
「考えてもみろ。バイト先ですらもみくちゃにされ掛けたのに、今の言葉を学園の連中に聞かれたら翌日には八つ裂きコースだ」
「ふん、あんたなら気付かれずにマンションの所まで来られるでしょう。というか、そうするだけの理由があるの」
「何だそりゃ」
心当たりが全く無いんだが、どうしたものか。
「因みに来なかった場合は?」
「火ノ華があんたと付き合っている、と火ノ華が学園で言い触らすらしいわ」
……俺、何か悪いことしたか?
「……脅しを超えて、殺害予告の間違いだったか」
「せいぜい頑張りなさい。ああ、それと今日は夕食をご馳走すると言っていたわ」
…………本当に俺、何をしたんだ?
「ところで、何か買い物袋持っているみたいだが……」
「そうよ。火ノ華に頼まれて、なくなりかけた食料の買い出しを頼まれたの。それにしても、あんたがよく行っているスーパー、魔法区と比べて良心的な値段ね。私も自分の分も買い足したくらいにはお手頃だったわ」
「そりゃどうも。バイトの面子に教えて貰った場所だけど、魔法使いが来ても他の客や店員が困ると思うから言うのは控えてくれよ」
「別に言い触らすつもりはないわよ。そもそも、魔法学園から魔法を使って一般区まで往復して余裕でいられる学生なんて、私達の学年でも5人もいないわ」
「……なら、いいか」
さて、なんとなく流れが読めてきた。ただ、どういう経緯でそうなった。
「……で、何で俺は夕食をご馳走になるんだ」
「詳しいことは火ノ華から聞きなさい。それじゃあまた、後でね」
結局、本題を聞けなかった。一体どんな理由で夕食に呼ばれるんだ。
「……さて」
今日は運搬作業をしていたから、汗臭い。確か、アイツ曰く女性は臭いに敏感なんだと言っていた。面倒だけど、一度家に戻ってシャワーを浴びてから行った方がいいか。
「全く、調子が狂う。他にもやることあるんだけどな」
ただ、久しぶりだ。同年代で一緒に食事をすることも無くなっていたんだから。
夜の7時30分、念のために他の学生や先生達に見つからないよう慎重に来たせいか、思ったより時間が掛かってしまった。最近は事件続きだったせいもあって、殆ど人がいなかったので取り越し苦労だったが。扉を開けて貰って家に入ると、中には櫛灘さん、雨森さん、東雲さんの三人が既に待っていた。
「遅かったわね」
「一度家に帰ってシャワーを浴びたんだ。重い荷物の運搬もしてたから、それなりに汗をかいていた」
「ふぅん、意外と気を遣うのね」
「じゃあ、まずは夕食にしようよ。一貫君は食べられないものとかってある?」
櫛灘さんたちの、妙に弾んだ空気感が逆に怖い。え、何されんの、俺。
「特にないな。まずは喰えればいいだろ」
「……好きな食べ物とかないの?」
そう言われても、思い出すのは……
「いざそう言われると、な。味に拘りがあった訳じゃないし、まずは食べられることを優先していたから」
「……むぅ」
そこで何故、不満げな顔をするのか。やっぱ何で呼び出されたのかが分からねぇ。
リビングへ案内されれば、既に夕食は出来上がっていた。白米に総菜1品、それから何か飲むものがあれば十分くらいに考えていたんだが……ハンバーグにサラダ、炒め物にスープと想像以上に品数があった。女子ってすげぇな。
「……これ、作ったのか?」
「ええ、そうよ。驚いた?」
「ああ、一回の食事でこんな色々な料理を食べることって、あるんだな」
「「「…………」」」
あれ、何か間違ったか?
「えーと、さ。ど、どう?」
「あ、ああ……」
やっぱり、答え方を間違えたか。えーと……こういう時は見たまんま答えろ、だったか。どう……そりゃ目の前の料理のことだよな。
「そうだな、日頃食べている物とは違うから、どんな味か楽しみだな」
「そ、そうよ。何しろ、雫と一緒に作ったんだから!」
……とりあえず、気まずい雰囲気は取り払えたらしい。それにしても二人共、料理出来るんだな。
食事の挨拶をして夕食を頂く。それにしても、ハンバーグなんて最後に食べたの何時だったか。その時と比較するまでもなくこのハンバーグは美味いと思う。それから、サラダ。生野菜よりは酢漬けの方が慣れているが、これも悪くない。こっちに来てから偶に手伝う臨時の収穫バイトとかで売り出せない作物を料理として頂いた時に食べた時もそうだったが、鮮度の良い野菜は歯ごたえとか新鮮さがあって、酢漬けには無い美味しさがある。スープは馴染みこそあるけど……卵のスープか。そういや、卵のスープってオヤジの手伝いとかで食べたことが無かったような。
他愛のない話をしながら食事を半分を食べ終える。
「一貫君は自炊しているの?」
「最低限は。ただ、作るとしても一気だな」
「一気に作った後、残った分はどうしているの?」
櫛灘さんに続いて雨森さんからも質問が飛んでくる。そう言えば、誰かと話しながら食べたのは久し振りだな。
「残りはタッパーに入れて、冷凍やら冷蔵していることが殆どだ」
「そうなんだ。得意な料理とかあるの?」
「得意と言われてもあんまり浮かばないが、作るのは……煮込みか炒め物かだな。さくっと作るか、煮込んでいる間に色々出来るから」
さっきから雨森さんと櫛灘さんが話を振っているようだが、俺に面白い話なんてないぞ?
「偶には美味しいのを作ろうとか、買って食べようとかは思わないの?」
「自分1人だと、どうもそんな気になれなくてな」
「外食はしないの?」
「昔から殆ど無かった。だからこっちに来ても、外食するっていう発想がまるで無い。ただ、安くなった惣菜を買うことはあるか」
1人分を下手に作ろうとすると高くつくからな。ま、昔いたあの場所じゃそんなことは無かったけど。
「そ、そうなんだ……じゃあ普段、学園ではどうしているの?」
「バイトしているから基本的に買っているな。最初は毎日作ろうかと思ったけど、これが手間で諦めた。偶に握り飯を持って行くくらいはするけど」
「まぁ、そうだよね」
……別にいいけど、こんなこと聞いてどうするんだ?
「聞くのは別にいいけど、大した話なんてないぞ。料理も手伝いの時に教えて貰った程度だし、小さいのの面倒を見ながらの片手間だったからな」
「一貫君って弟とか妹がいるの?」
「いや、オヤジ達が引き取った子の面倒や、オヤジの仕事先で不安がっている子どもの見ることが多かった。だから、面倒を見ることが多かっただけだ」
「「え……」」
なんか、空気が一気に冷めたな。櫛灘さんと東雲さんには一度話した気もするが、想像もつかないからなのか?
「……何か変なこと言ったか?」
「……仲のいい人とか、友達はいたの?」
そうだな。その場その場で話すことはあったが、親しいと言える奴は……
「あぁ、いたよ」
「いたって、それは中々会えないから?」
「あぁ、もういないからな」
「「「…………」」」
あれはもう過ぎたことだ、終わったことを取り戻すことは魔法でも出来ない。しっかし、大した話が出来ないな俺は。折角、夕食をご馳走になっているのに、そんな話しか出来ないのは……ちょっと、な。
「言っちゃ悪いが、俺が話せる楽しい話題なんて殆どないぞ?」
こっちに来る前でも大した話せることなんてないし、学園では同学年で話す相手がいない上、魔法が使えないから後見先生が関わってきたようなもの。石垣がこっちに来ていたなんて、つい数ヶ月前に知った訳だし。
「さ、さっきさ……」
「ああ、なんだ?」
「小さい子の面倒を見ていたって言っていたよね」
「そうだけど?」
「学校の勉強とか……どうしていたの?」
「あー……」
櫛灘さんが話題を拾ってくれたようだが……ま、さっきみたいに気まずくなるよりマシか。
「オヤジの仕事先で貰った、使わない教科書を使い回していた」
「じゃあ、教養科の成績って」
「ああ、前にも言ったが普通に悪い」
「え、試験とか大丈夫なの?」
「毎回赤点ラインぎりぎりだ。この前の中間テストはとうとう赤点入ったがな」
試験だけの対策をするなら捨てるべきポイントも沢山あるんだろうが……俺の場合、それ以前の問題だと思う。
「……勉強、教えようか?」
そうだな、教えて貰えるならそれに越したことはないけど……今は。
「えー……と、そうだな」
本来なら、受けた方がいいんだろう。櫛灘さんと雨森さんが心なしか期待しているような目で見ている。
ただ、今はまだあのごたごたが片付いていない。
「今は色々立て込んでいるから、また今度で」
「「「…………」」」
えーと、どうしたもんか。怒りを買うつもりなんて、無かったんだが。
「ちょっと、なんでよ」
「そりゃ、今は色々と荒れてるだろ。物騒な事件は未だに解決していない。そんな状態で勉強会なんて落ち着いて出来ないだろ」
「でも、火ノ華ちゃんの家でやればいいんじゃ……」
……一理あるけど、問題しかないぞ。
「バイトを既に入れているし、どこから遅れているか分からない奴の勉強見るのは疲れないか?」
「ねぇ、それ本気で言っているの?」
櫛灘さんが肩に手を置いたあたりで、嫌な予感がする。けどまぁ……
「何より、自分のことは自分でやらないと。それに、俺みたいな底辺にわざわざ付き合う必要な……ガッ」
バチチチィィィッ!!!
うお……ぉ、体がし、痺れ……て。
「なんの、真似だ……櫛灘」
まずい、油断していた。というかこれ……加減なしだな!?
「え、意識あるの……じゃなくて、あのねぇ」
な、何なんだ、一体。
「私、一貫君に助けられたの。お礼くらいさせなさいよ」
雨森さんも頷いているみたいだけど……
「た、助けたって、大したこと、して、ない、だろ」
「2週間前、私を助けて病院まで運んだのはあんたでしょ」
「それはもう、終わった話だ。俺が失くしたと、思っていた物は戻って来たんだし、それでチャラだろ」
そう、それはもう、終わった話なんだ。
「……はぁ。それから、金曜日のこと」
「結局、何も起きなかったんだ。なら、俺の気の迷いだろ」
「……ああああぁぁ、もう!」
なんなんだ、一体……
「なに、あんたは私に何を求めている訳?」
「……は?」
「……え?」
いや、本当になんのことだ?
「えーと、いい?」
ああ、東雲さんか。
「雫が泊っているホテルへ一緒に行った日、どうしてあんなことを言ったの?」
「そりゃ、あんたらが魔法軍部には行くつもりはないって言ったからだ」
「だから、どうして言おうと思ったの?」
確認することか、それ?
「魔法軍部へ行きたくない奴が、魔法軍部が関わっている場所へ行こうとしていたんだ。何も知らない状態で行って、何かあったら後味悪いだろ?」
「……あぁ、うん。よく分かったわ」
東雲さんに至っては、呆れられたんだが。
「ねぇ、一貫君」
えーと、雨森さんか。何か暗い顔しているが、何かしたか?
「1年前のこと、覚えている?」
ここへ来てから学園で人とは普通に話すことなんて早々無かった。だから、雨森さんと話したことは覚えている。時期は確か……
「えーと確か……去年の5月の時、か?」
「ああ、覚えていてくれたんだ……その、ね。何か手助けできることって、ない?」
「何でまた」
勉強の他に困っていると言えば生活費くらいか。が、お金関係は碌なことにならないからな。
「私、あの時のこと今でも覚えているの。魔素や魔法の制御は出来ていても、強い魔法が使えなくて他の人達からも距離を置かれていて……全部、嫌になってたの。火ノ華ちゃんの時のように、屋上にいたよね」
「確か、魔法自慢したいだけの奴が出てきたんだったか。そういやあいつどうなったんだ、名前も覚えてないけど」
加えて、髪の色や顔も覚えてない。確か、実技の成績が良くて調子に乗っていたことだけ覚えている。
「あはは……その人は去年の秋に火ノ華ちゃんや風音に魔法で思いっきり負けたから不貞腐れちゃって。今じゃ、私には関わりなんてないよ」
「なら良かったな。確かにあの時、放たれた魔法を……咄嗟に蹴り返したんだったか」
そうそう、話していたら思い出した。ありゃ俗にいういじめっ子だったか。そいつが絡んできたから、自慢げに撃ってきた魔法を蹴り返したんだ。で、そいつは避けられなくて自分の魔法が顔面直撃したから、ビビッて逃げ出したんだっけ?
「やっぱり覚えていたんだね。うん、あの時も助けて貰ったのに一貫君はただの自己防衛だろ、で片付けちゃったから」
「そんなこともあったな。さっきまで忘れてた」
「あの時、お礼を受け取ろうとしなかったよね。だから、今度こそ何か力になれないかなって。私も、火ノ華ちゃんも思ってるの」
櫛灘さんも何か言いたげだな。魔法を使う素振りは……ないな。
「あんたにとっては日常なのかもしれない。けどね、こっちの気が済まないの。いいかしら。一貫君が誰かを助けることを当然とするならね……こっちだって、助けて貰ったお礼に何かをしたいの。何か変なことを言った?」
あー、そういうことか。ようやく合点がいった。ただ、そんなに大きな貸しでもないし、何かで返してもらうものでもないと思うが。それに、変に張り切られてアイツのようになっても、いいことないよなお互いに。
「……ちょっと、考えさせて貰ってもいいか?」
「「「…………」」」
あ、無理だ。これ、さっきみたいなことになる。でもなぁ……
「あんまりさ、重い約束をする気はない。約束なんて、昨日貸し借りしたモノを返す程度の軽いもので、軽いものがいい。だから、貸し1つってことに出来ないか?」
「……まぁ、それなら」
互いに覚えていても、いなくても構わない。貸したつもりがなくても、取り返しのつかない貸しになってしまったこともある。何時かは切れる関係なら、重い約束は止めた方がいい。それが重しになって、傷になってしまうのなら猶更だ。
◆◆◆◆◆◆
夜の8時、仕事を終えた男は呼び出しを受けて魔法軍部まで足を運んでいた。
「遅い時間に済まないな」
「いえいえ、こちらこそ時間を頂きありがとうございます」
「お前のお陰で頭数が足りた。これでお披露目も何とかなるだろう」
「ありがとうございます」
男は形式的に返答する。
「だが、もう1つだ」
「と、言うと……」
「櫛灘火ノ華」
男の顔が固まる。痛いところを突かれたような顔だ。
「8年前に魔素を初めて発現した時、彼女自身の家を焼き尽くす程の強い魔法の素養を持った学生だったな。確か、母親は彼女の仕送りで生活しているとか」
「……はい、仰る通りです」
「この前来た時も進路について報告は受けたが……変わらず、魔法軍部を避けているで合っているな」
彼の言うことが事実だけに、男は頷くしか出来ない。一体、どれだけ調べられているのか。
「いいか。俺が正式に次期司令官になった暁にはお前の魔法軍部への転籍、魔法兵器の開発部としての立場は出してもいい。だが、櫛灘火ノ華を連れてこれないようではメンバー止まりだ」
「で、ですが……」
「お前は言った。これから全く違うタイプの魔法兵器を作るならより強く、精度の高い魔法使いが必要だと言った」
「はい」
「魔法軍部に所属する魔法使いの質が低いのは、お前がよく知っているだろう」
男は心当たりがあったのか、苦虫を噛み潰した顔をしている。
「確かに、周辺国は魔法兵器の開発が目覚ましい。その中で我々は有望な魔法使いを確保できていない」
「はい、それは私が以前、魔法軍部にいた時からの課題でした」
「そうだ。だからこそ、櫛灘火ノ華がいるだけで他国へのけん制になり得る。当初から要望していないと聞いた時点で別の施策を考えてはいたがな。だが、お前の案を採用する場合、そのような人材を逃すようでは戻した所で大して変わらない」
怒りすら滲ませて圧をかけようにも、この場では自分が弱いことを理解しているからか、男は目元を伏せる。
「──はい。しかし、その魔法使いの質に関わらず最大限の効力を発揮するが魔法武器なのですから……」
「人を介さない機械的な魔素拡散率の向上は限界が見えた。だからこそ教育方針に舵を切って、魔法使いの育成に力を入れている。……分かるな。お前の案は、より強い魔法使いを入れることが大前提だということを」
「……はい」
「これはお前が魔法軍部へ戻った後のプランでもある。お前がそのポジションで戻りたいと言うのなら、櫛灘火ノ華を引き入れろ……話は以上だ」
話は終わりと言わんばかりに席を立つ。男も続けて、席を立つ。その足取りはドシンドシンと彼自身の苛立ちを表しているようだった。
部屋へ戻った男は、まだ苛立ちが収まっていないのか、何度も頭を搔いている。
「くそ、こっちの足元を見やがって……パレードに間に合わせたのは誰だと思っている」
部屋へ入り、衣服を着替え、ワインボトルを取り出した。グラスに一杯注ぎ、それを呷るように飲んで尚、その苛立ちはなくならない。
「依頼をしたとは、教師側からも反発が強くなっている。失敗するとは思えないが……」
不安を忘れるため、ボトルの酒を一気飲みするように呷り……そのまま眠りについた。