私は君の手を握る   作:久遠の語部

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第6話-1 私達を案じた人だから

 一貫くんと夕食を共にした翌日、雫と一緒に家を出る。昨夜は同じ家で寝泊りした時、いつか後見先生から聞いた部活の合宿のようで少しだけ楽しかった。

 昨日は色々あったけど、結局一貫くんに約束させることが出来なかったなぁ。あの時の一貫くんは妙に頑固だった。まるで、できなかった約束があったかのような……

 

 「そう言えば、火ノ華ちゃんってこんな時間から出ているの。何時もなら私、目を覚ます時間だよ。こんなに早く家を出る必要なんてあるの?」

 

 マンションのエレベーターを待つ間、ふと思いついたように雫が私に話しかける。

 

 「それは、その……あれよ、あれ」

 

 あれ、本当に厄介なのよね。でも、ここから雫に見えるかな。あんまり人には言いたくなかったけど、雫なら問題ないよね。

 

 「……え。あの人たち、もう家を出ているの?」

 「そう、大体3日に一度ね。この前は入院明けだからすっかり忘れていたから絡まれちゃったけど」

 「……それは、きついね」

 「ええ、本当。鬱陶しいわよ」

 

 優等生と言っても楽じゃないわよ、本当に。

 

 エレベーターに到着し、1階へ降りる。

 

 「だから昨日、風音達が帰った後におにぎりの準備していたんだね」

 「そ、あんなのに絡まれて嫌な気分で授業を受けたくないし、ここへ引っ越す前なんて、アパートの前に来たこともあったのよ。だからごめんね、こんな時間から登校する羽目になって」

 「ううん、泊めて貰っているのにそんなこと言わないでよ」

 「ありがとう」

 

 学園の校庭を歩く。今日は彼らが学園へ着く前に到着出来たので、少しだけ気分がいい。

 ただ、校庭の静かさだけは残念に思う。魔法の練習をしている人は少ないし、昨今の影響で魔法を使ったスポーツの自主練をしている人も殆どいない。そんな風に頑張っている人がいるのを見るのは好きなんだけど。

 

 教室に着いてからは他愛のない会話をしながら一緒に朝ご飯を食べて、授業を受ける。こんな状況でも未だに平然と授業が行われていることに違和感はあるけれど、それはそれ。

 

 ここの学生は教養科目を蔑ろにする傾向があるけど、私はそうは思わない。

 

 むしろ、化学などの教養科目は魔法の強化を更に強固にする上で必要な知識だと思っている。

だからこうして教養科目の授業もしっかり受けているんだけど、

魔法の成績が優秀な人の集まるこのクラスでさえ、この教養科目の授業をまともに受けない人は一定数いる。そうした人に限って、試験前にノートを借りたいとか言い出すのはどうかと思うけど。

 いつも通り授業が進み、昼休みを知らせる鐘が鳴る。

 

 普段であればどのクラスでも騒がしくなる時間帯だけど、元々のクラスの3分の2しかいないこの教室は以前と比べて静かだ。それもそうだ。同じクラスの友人、他のクラスの友人と連絡付かない人が増えてきたから。普段なら風邪や体調不良と思って気にしないけど、この状況だ。気にならない訳がない。もうじき戻ってくると言われても、実際に顔を見るまでは安心できないだろう。

 

 私は幸いなことに親しい友人が行方不明になっていないから、いつものように風音と雫の三人で雑談をしていた。

 ……それも、一貫くんがいなかったらどうなっていたか分からないけどね。

 

 「そういえば、何時頃家に帰れそう?」

 「うーん、聞いてみたんだけどまだ連絡が無くて……」

 「どうする、簡易なベッドかマットレスでも買う?」

 

 土日の間に布団は持ってきたけど、ベッドは持ち込めなかったからね。

 

 「うーん……」

 「例えばほら、ソファにも出来るマットレスとかだったら対応し易いんじゃない」

 「そ、そうだね……」

 

 もしかして雫、お金のこと気にしている?

 

 「良いわよ別に、お金のことなんて」

 「で、でも……!」

 「あったほうがいいって。大体、全然寝られなくて私と同じベッドで寝たじゃない」

 「うぅ……」

 

 雫は住んでいたアパートへ戻れない以上、色々出費が嵩んでいる。そんな中で、友人として助け船を出さないのはどうかと思う。

 

 「じゃあ、私が使うなら返さなくてもいいし、使わないと分かったら落ち着いた頃に返してもらう。……これならいい?」

 「ごめん。色々と迷惑かけちゃって」

 「そんなことないよ。じゃあ、今日の放課後行っちゃおっか」

 「そうね、私も賛成。最近は色々あったし、気晴らししたいわ」

 

 久し振りに三人で買い物に行くわね。さーて、どんな店を回ろうかなーっと。

 

 「でも、持ち運びが大変じゃない?」

 「マットレスなら軽いけど、他に何か買ったら確かにそうね」

 「それに何処で買うの。こっちにそんなお店無いから、一般区のモールとかになっちゃうよ?」

 「あー……そうね」

 

 確かにマットレスになるとそれなりに大きいからね。他にも買って家で広げるなら、移動時間も考えるとちょっと現実的じゃないか。

 

 「あ」

 「どうしたの?」

 「じゃあ、荷物持ちを連れて行けばいいじゃない」

 「え……?」

 「誰を呼ぶ気よ。変な奴ならその場で帰るわよ、私」

 「大丈夫よ、2人とも知っている人だから」

 「「?」」

 

 多分だけど、バイト無かったら来てくれるでしょ。

 

 

 放課後、学園を出て近くの公園で待ち合わせしていたけど……ちゃんといたわね。ところで、どこを見ているのよ。

 

 「あぁ、そういうこと」

 「もしかして、一貫くんのことだったの?

 

 うんうん、二人とも拒否感は無さそうね。

 

 「で、何の用だ。緊急で頼みたいことって書いてあったが」

 

 あ、一貫くんが私達に気付いて露骨に嫌な顔をしている。

 

 「と言う訳で、同行よろしくね」

 「いやおい、何を頼みたいんだ」

 「そりゃ、私達の用事にだけど?」

 

 何とも言い難い顔をしているわね。それから、さっきまで変な方向を見ていなかった?

 

 「何、文句ある?」

 「文句しかねぇわ。そんな楽しそうにする緊急の頼みって何だよ?」

 「え、そりゃ買い物だけど」

 「……逃がさない為に雷を落とすのは止めないか?」

 

 雫は驚いて、風音は呆れている。今回は外したけど、狙ったとしても一貫くんなら避けられることを前回で知っている。一貫くんも本気で私が怒っている訳じゃないことにも気付いている。

 

 「だって、その方が分かり易くていいじゃない」

 「……かもしれないが、加減を考えてくれ。わざと外したみたいだが、当たる奴はいるからな。で、どこに行く気だ?」

 「一般区のモールよ。そこで家具を買うの」

 

 一般区のモールと言えばあそこしかないんだけど、知らないって返信あったの本当だったんだ。

 

 「いや、家具って持ち帰れるもんでもないだろ。だったら、配送業者とかに……」

 「今日、買う予定の物はマットレスよ。他に何か買うのがあったら、別で買うけどね。一貫くんには話したと思うけど、私の部屋で雫が寝泊りしているの。ただ、昨夜はマットレスがないから寝づらそうにしていてね」

 「確かに、雑魚寝は慣れないときついよな。ただ、マットレスなら俺がいなくても持ち帰れるだろ」

 「バイトは入ってないって聞いたわよ。折角なら、付き合ってよ」

 「……ま、こうして来てしまった以上、諦めるか。寝泊りする部屋があるのに雑魚寝する理由はないし、マットレスもそれなりに持ちにくい物だ。確かに荷物持ちは必要か」

 

 一貫くんはそう言って肩を竦めた後、私達の後についてくる。ただ、どうにもさっきから私達より別の何かを気にしているような……

 

 「ねぇ、火ノ華」

 「なに、風音」

 「あいつ、いつもあんな感じなの?」

 

 多分、目線のことを言っているんだろう。

 

 「うーん、何時もは目線を合わせてくれるんだけど……」

 

 やっぱり、風音も気付いたのね。うーん、金曜日のこともあるけど、他の学生がいないかを気にしているのかな。

 

 「それと、どうしてあいつを誘おうと思ったのよ。あいつも言っていたけど、マットレスなら私達でも買って来れるでしょう?」

 「そうなんだけど……」

 

 これは私情だ。だけどきっと……これには同意してくれるんじゃないだろうか。

 

 「一貫くん、ここに来てからモールに行ったことがないらしいの。どうせなら、驚いた様子とか見てみたいと思って」

 「そういうことね」

 「そ。それより、久しぶりに行こっか!」

 

 バス停で待つこと5分、魔法区発のバス停で一般区のモール前まで移動する。その待っている間、一貫くんは私達との会話に相槌を打ってはいたけれど、私達よりも別の場所へ意識を向けているように見えた。

 

 

 

 バスに乗って20分、ようやくモール前に到着した。一般区にあるこのモールは開來市の中でも最も大きな商業施設で食料品、医薬品だけではなく衣服、家具、小物、遊戯施設なども揃っており、この街に住んでいる人達の定番の場所だ。私が以前行ったのは2ヶ月前だったけど、ここはいつも人が多い。だからこそ、ホッとする。自分達の周りでは色々なトラブルが起きているけど、一歩外れれば、平穏無事に過ごしている。あくまで自分達で起きていることなんだと知って、ちょっとだけ安心した。

 

 「着いたわね」

 「うん、じゃあいこっか」

 

 風音と雫が先行してモールの中に入る。えっと一貫くんは……あれ?

 

 「なんか立ち止まっているけど、どうしたの?」

 「……いや、こういう所って殆ど行かないから、改めてでけぇなって」

 

 何、今の溜めは。ま、確かに大きいか。都心にある巨大なテーマパークくらいの大きさとかいう触れ込みだっけ。

 

 「でも、ここに来てから1度くらいは行ったんじゃない?」

 「それが全く。今まで家具や調理器具は近くの店で買っていたからさ。こういう場所は大抵狙われる場所だから避けていたんだが、確かにこれは人が集まるわ。ここまで広いと迷いそうだな」

 

 本当に珍しい、このモールを見て本当に口をあんぐり開けている。

 

 「一貫くんがそんな風に驚いたの、初めて見たよ」

 「想像の倍以上デカかったんだ。そりゃ驚くさ」

 「それもそっか。ほら、二人も呼んでいるし行くわよ」

 「りょーかい」

 

 雫もあんな一貫くん、見たことがなかったんだね。

 

 

 んー、やっぱりモールはいいわね。夏物の服も出ているし、そっちのチェックもしないと。他にも小物、新しいグッズも出ているわね。もうじき暑くなるし、日焼け止めも見ておかないと。本当、いるだけで楽しくなる。って、一貫くん。さっきから目が死んでるけどどうしたの?

 

 「確か、マットレスになるソファを買いに来たんだよな?」

 「そうよ」

 「買う予定がマットレスから簡易ソファになるマットレスへ変わったのは理解できた。買いたい物が変わるなんてよくあるしな。けど、何で他の店を見ているんだ」

 「楽しいからだけど?」

 「そ、そうか。もう1時間経ったぞ」

 

 何よ、その呆れたような困った顔。

 

 「なに、もしかして女の子と買い物に行ったことないの?」

 「あぁ、行っても必要な買い物か、炊き出しの準備だったからな」

 

 へぇ。じゃあ、遊びとかで特定の女子と出かけたことないんだ。

 

 「ふーん、その割には一緒にお店を見ていたじゃない」

 「初めて入ったから、そりゃ物珍しいさ。こんな目立つ建物なんて、狙われやすい場所としか考えたことなかったからな。こうして中に入ってようやく分かった。確かに1つの建物で欲しいものがなんでも揃うんだから、人も集まるよな」

 

 風音が訝しげな眼を向けている。

 

 「ここへ来る前、どんな所で暮らしてきたのよ、あんた」

 「色んなところ転々としてたんだ。こうした買い出し以外での買い物だって年に1度、2度あったかどうかだ」

 

 確か、以前のスーパーで話した時には両親がいないと言っていた。つまり、そういった機会も無かったのかな。

 

 「じゃあ覚えておいて。こういう場での女の子の買い物は長いのよ」

 「絶賛、実感中だ。帰る時間が夜中にならなきゃ、それでいい」

 

 ため息をつきながらも、私達に付き合ってくれるらしい。まだ時間には余裕があるけど、そろそろ買ってここを出ないと家に着く頃には日が暮れちゃうわね。

 

 結局、10分足らずで目当てのマットレスを購入。その様子を見ていた一貫くんは拍子抜けしていたけど、買い物ってそういうものよ。少し落ち着いたら、また行きたいわね。

 

 「いやぁ、色々見れたわね」

 「ええ。新作とか改めて買いに来ようかしら」

 「うん、いいね」

 「……」

 

 他の店へ寄った時に買った商品も含めて、一貫くんに持ってもらおうっと。

 

 

 

 夕方頃、私達はモールを出て魔法区入り口までバスで到着した。一貫くんに荷物を持ってもらって後は部屋に帰るだけだったんだけど……

 

 「……一貫くん?」

 

 妙に歩く速度が遅い。荷物を持っているとは言え、私達より歩く速度の速い一貫くんが私達の後を追うように歩いている。

 

 「あぁ、何だ」

 

 その様子は、数日前に雫と会う時に向かった時と同じ、何かに警戒している表情だ。とても、嫌な予感がする。

 

 「……やっぱり、自分達で買った物だから私達で持つわ」

 「いや、その荷物持ちに俺を呼んだんだろ?」

 「その代わり、家まででいいから一緒に来てくれない?」

 「……まぁ、手足が動きやすい方がいいか。分かった」

 

 元々あまり重たくない物だったから、持とうと思えば私達でも持てる物だった。家に帰るまではやっぱり不安が残るけど、その辺りは一貫くんがいれば何とかなると……そう、思っている。

 

 「火ノ華ちゃん、さっきから一貫くんが気を張っているように見えるんだけど……何かしたの?」

 

 雫も気付いたみたい。だけど、余計なことは言わない方がいいよね。

 

 「してないわよ。もしかして、雷のこと根に持っているのかな……」

 「流石に気にしてないと思うけど……」

 

 ただ、気になっているのは本当のこと。一体、何に警戒しているのだろう。

 

 魔法学園へ通う人や付近の魔法研究所へ務める人達の住む区画まで到着し、風音の家があるアパートに到着した。

 

 「それじゃあ、風音。また明日」

 「ええ、久しぶりにモールへ行けて楽しかったわ」

 「じゃあ、また明日」

 「また明日、風音」

 

 そう、ここ最近は暗い話が多かったから、今日は楽しく過ごせたと思う。

 

 「一貫くん?」

 

 ……私達が話している間、立ち入り禁止になっている雫のアパートがある方を向いてなかった?

 

 「……あぁ、ちょっとな。次は櫛灘さんのアパートだったな」

 「うん……」

 

 ……どうにも、嫌な予感がする。早く帰った方が良さそうだ。

 

 「そうね。まだ安全とは言い難いし、早く帰らないとね」

 「火ノ華ちゃん?」

 

 出来れば何も起こらないで欲しい。けれど、嫌な予感と言うのは本当に嫌だと感じているからこそ……

 

 何事もなくマンションの前に着いたけれど、不気味な程に人がいなかった。そこに僅かなうすら寒さを覚えつつ、雫とマンションの入り口に立つ。

 

 「今日はありがとう。久し振りにモールへ行けて楽しかったわ」

 「それは何よりだ。じゃあ、俺は行くぞ」

 「それじゃあまた会おうね、一貫くん」

 

 本当は軽食でも出そうと思っていたけど、そんな余裕もなかった。後は家に入ればいいけど、マンションへ入るには顔認証かパスワードの入力が必要だ。いつもの場所に私が立つ。無事にロックが解除されたので、中に入ろうとして……金属のぶつかり合うような音が2回した。

 

 「な、何!?」

 「待て、動くな!」

 「……!!」

 

 空気を割るような、力強い声だった。いつの間にか取り出していた、人の背丈ほどある棒を持って一貫くんは何処かを睨んでいる。その時間は数秒だったかもしれないし、1分はあったかもしれない。

 

 「……よし、今の内に入ってくれ」

 「な、何があったの。教えて」

 「まずは荷物を入れてから、だろ?」

 「そ、そうだけど……」

 

 ──その時、再び一貫くんが棒を動かす。と、同時に金属がぶつかる音と、何かが落ちる音。

 

 それに気付いて、今度こそ腰が抜けてしまった。まさか、まさかこんなことが起きるなんて……

 

 「おい、何を腰抜かしている。さっさと……そうか、落ちたものが見えたのか」

 

 落ちていたのは……銃弾。

 つまり、一貫くんがいなければ私か雫のどちらかが……あるいは両方が撃たれていたかもしれない。幸か不幸か、一貫くんは家までついてきてくれたからこそ、私達は助かった。

 そうだ、今の今まで忘れていた。魔法使いは一般の人とは特異な力を持つが故に、魔法が見つかって数十年経った今でも他の人達から排斥される存在なんだってこと。

 

 ──走馬灯のように、あの日を思い出す。元は黒髪だった私の髪の色が変わってしまった、あの日のことを。

 

 「……ぁ」

 「向こうはもう撃ってきそうにないし、2人は動けない、か」

 

 少しは変われたかもしれないけど、結局は昔のまま。私は何時だって、誰かを怖がらせてしまうんだ。それだったら……

 

 「仕方ない、か」

 

 何も手がつかないまま夜になってしまった、手が付かないまま。

 

 「…………」

 「…………」

 

 

 

 あの後、一貫くんに担がれて何とか部屋に到着した私達だけど……全身に力が入らない。

 ──何も信じられない。雫のことで間縞教諭と言い争いをした翌日にこれとは全く想像だにしていなかった。雫も同じで、二人して体を震わせてソファへ座っている。途中でかけられたキルトケットは雫に貸している部屋から一貫くんが持ってきてくれたもの。もう、不安で怖くて……眠れる気もしない。それは……私の手を強く握っている雫も同じみたい。

 時計は既に19時を回っている。だけど食事はおろか、水すら喉を通る気がしないし、今なら風呂に入ったところで溺れてしまうかもしれない。私たちはそれくらい……弱っていた。これが両親とかいればまた別なんだろうけど、ここにいる人たちは……皆、一人きりだ。だから、こんな時は怖くて怖くて、何をどうしたらいいかが分からない。

 そんな折、インターホンが鳴った。

 どうやら1階受付からみたいだけど……こんな時間に誰が?

 

 まだ腰が抜けている。けれど、誰かくらいは確認しておかないと。

 震える足を動かして画面を見る。こんな時間に一体だれが……あ、ああ。

 「災難だったな。大丈夫か」

 「雫、火ノ華、大丈夫なの!?」

 

 今、一番近くに居て欲しい人達がそこにいた。

 

 「一貫くん…………と、風音」

 「なによ、私はおまけな訳?」

 

 いや、違う。違うんだけど……

 

 「ああ、えっと。その……」

 「どうせまともに飯なんて喰えてないだろ。買ってきたからあげてくれ」

 「い、いいの……?」

 「とにかく、そういう時は一人じゃなくて、複数でいた方がいい」

 

 あの後帰ってから1時間も経っていない。たぶん、風音と一緒に買い物をして急いで戻ってきてくれたのだろう。

 

 「うん……じゃあ、開けるね」

 

 気持ちが少しだけ、前を向く。頼れる人ともう一人の安心できる友人。今の私の、大事なモノ。

 

 「ねぇねぇ、雫。風音と一貫くんが来てくれたって!」

 「……ぇ?」

 

 雫は呼び出しや少し前のアパート半壊の影響もあって、私以上に参っていた。この様子では明日学園に行くことなんて出来ないだろう。

 

 「今、開けたからもうじき来るって。ね、顔だけでも洗おうよ」

 「うん……」

 

 まだ元気はないけど、二人が来てくれたことで何とか持ち直したみたい。頑張って立ち上がってくれた。

 

 一貫くんと風音を部屋へ入れて夕食を摂るつもりなんだろうけど、私と雫は何かを食べられるような状況じゃない。気持ちは嬉しい。だけど、お腹を空かせているだろう二人をそのままにはしておけないって、え?

 

 「冷蔵庫、借りるぞ」

 

 そう言って冷蔵庫の中を見て……ちょっと。

 

 「これとこれなら……あぁ、あれが出来るな」

 

 あの……え、買って来たんじゃなかったの?

 というか、勝手に人の冷蔵庫なんて見て……なんで。

 

 「あんた、さっきスーパー行って来たでしょ」

 「残り物があって使える食材があるなら、そっちを使った方がいいだろ。駄目にするよりは調理した方がいい」

 

 それはそう、だけど。でも、私もなにか言うだけの気力がない。

 

 「……なら、いいけど」

 「……買ってきたなら、何を作ろうとしているの?」

 

 確かに、今更何かを作る必要だなんて……

 

 「買ってきた惣菜とか確認したんだけどさ、よく考えたらスープが無かった。惣菜を食べる気力がなくても、飲める物なら摂りやすいだろ。だから、食べるかどうかはスープを作ってから考えてみないか?」

 

 でも、それは2人とも帰るのが遅くなっちゃうし……

 

 「そうね、この前は私達がご馳走したんだしいい機会ね。あんたの腕前、見せて貰おうかしら」

 

 え、風音?

 

 「おいおい、勝手にハードルを上げないでくれ」

 

 そう言いながらも、一貫くんは下準備を始めた。もう、作る気しかない。

 

 

 でも、どうしてだろう。一貫くん達がここにいてくれることに、とても安心している。雫も同じ気持ちみたいで隣に座っている。そうして、さっきまでの疲れがどっと押し寄せてきて眼を瞑る。そうして、調理している一貫くんと風音の話に耳を傾ける。

 

 「え、ちょ、危ないわよ?」

 「何がだ」

 「だって、ピーラー……」

 「無くても皮は剥ける。最初は慣れなかったがな」

 

 どうやら、じゃがいもや人参の皮むきをピーラーを使わずにやっているらしい。……え?

 

 「それにしても、東雲さんの言う通りだ。多く買い過ぎる所だった」

 「本当よ。あんた、最初は何人分作る気だったのよ」

 「それより、二人が眠そうにしている。出来るまで時間がかかるし、一旦寝かせてきてくれないか。やり方は任せたぞ」

 「え、ちょっ!?」

 

 何か、風音が慌てているの新鮮だ。でも、そうだね。ちょっと、疲れたかな。

 

 「仕方ないわね……ほら、2人とも。少し休みましょう」

 「でも……」

 「あいつは私より料理が上手っぽいから任せていいと思うわ。それに……」

 

 風音が私達をじっと見ているけど、なに、かな。

 

 「手、震えてる」

 「あ、これ、は……」

 「だから、少し休みましょう。ここに来るまでのことも話すから」

 

 

 風音が買ってきたマットレスを開封してくれて休める準備をしてくれた。折角だから、3人で横になる。

 

 「スーパーへ行っている時、何があったの?」

 

 少し余裕が出てきたから、風音にここへ来るまでのことを聞く。なんか、すごく大量に材料を買おうとしていたとか。

 

 「ああ、あいつね。最初はファミリーパックの肉を3つ籠にいれていたのよ」

 「……へ?」

 「……え?」

 

 え、何。一貫くん、私達がそんなに食べると思っていたの?

 

 「私達、そんなに食いしん坊だと思われていた、の?」

 「違うわ。昔手伝っていたっていう、炊き出しの感覚で入れていたみたい」

 「そう、なんだね」

 

 その後もぼんやりと会話していたら、だんだん眠くなってkた。風音が部屋を暗くしてくれて……

 

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