私は君の手を握る   作:久遠の語部

17 / 33
第7話-1 助けになりたいと思えたの

 翌日、午前最後の授業を終えた俺は買って屋上に行く。途中で買ってきたおにぎり3個とお茶で腹を満たした後は、屋上から見える街を眺めていた。

 

(昨日の感じた奴はもういない、か。何処の誰か知らないが、引き際を分かっている奴だったか)

 

 当てもなくなり、昼寝でもしようと思って寝転がると、非常用の梯子を上る音が聞こえた。

 「む……」

 

 扉はともかく、梯子をわざわざ使って登ってくる奴なんてほぼいない。なら、こっちに来ているのは……

 

 

 「兄貴、今日はいましたね」

 「何かあったのか?」

 

 石垣は、隠しきれない呆れをその目に浮かべて俺を見ていた。声をかけただけなのに、どうしてそんな顔をするのかと聞いた所、更にジト目を返される。

 

 「それ、こっちの台詞ですよ。なんで知らない内にあの人達とコンタクトを取ってたんですか、兄貴は」

 「あの人達って誰だ?」

 「惚けるのは止めてください。兄貴は他の人に連絡先も知らせないまま魔法学園に来たみたいですけど、俺は意志を伝えた上でここに来ているんですよ」

 

 あぁ、そういうことか。確かに、しらばっくれても意味がない。

 

 「流れだ流れ。というか、見ちまったんだ、仕方ないだろ」

 「だとしても、何でまた自分から面倒事に関わるんですか。ここには兄貴の味方になってくれる人なんていないのに」

 「それでも気になっちまった。何より、見ちまった。なら、調べるしかないだろう」

 

 ため息をついてるが、俺のことを知ってるならそうすることなんて予想つくだろう。

 

 「……その言い方、未だに解決してない誘拐事件にも噛んでましたか」

 

 そっちか。まぁ、いずれ石垣なら気付いたか。

 

 「そっちは本当に、ただのバイト帰りだったんだがな」

 「どうだか。兄貴って、結局は自分から面倒事に首突っ込むタイプじゃないですか。いいことないですよ、ここの学生助けたって」

 「損得勘定でやってる訳じゃねえのはよく知っているだろ。学生誘拐して軍部施設に連れ込んで、誰も帰ってきていない。男女関係なく、だ。絶対に碌なことしてねぇぞ」

 

 石垣も同じ気持ちらしく、頷いた。

 

 「俺も兄貴と同様あっち側だから、最初っから学園の連絡なんざ信じてないです。でも何でまた、関わろうとするんだか」

 「後味が悪い。自分に出来ることをしなかったせいで誰かが死んだなら、きっとどっかで引き摺るさ。あの日、あいつを守れなかった時のように」

 

 そう、何も残らなかったあいつのように。あいつの残ったモノはあの……

 

 「やっぱりまだ、持っていたんですね」

 「あぁ、残っている物はこの位しかないし、未だに名前だって刻まれてないんだろう?」

 「……分かりました。俺は連絡がつくんで何かあったら言って下さい。というか何で、バイト帰りにそんな場面を見たんですか?」

 

 知るか、そんなもん。

 

 「バイト先の1つが魔法スタジアム近くにある集荷場なんだ。何か知らねぇけど、魔法学園へ配達した時の帰りに見ちまったんだよ」

 「あぁ、それで。そう言えば、あそこって時給いいんすか」

 「俺の場合、魔法学園へ配達する荷物の検分もやっているから、その分良くしてもらっている」

 「兄貴なら……出来そうですね。そういうモノ扱う人が近くにいたんだし」

 

 初めは体を動かしつつ、生活費を稼ぐつもりだったんだけどな。

 

 「あぁ、魔法学園に通っているっていう話をしたら、配送する荷物を急に見せられてさ。で、それが向こうで見たことあるものばっかりだったんだ」

 「あー……それで」

 「後、変な物運んでないかの確認だな。例えば、一般的には使用が禁止されていても魔法学園じゃルールが違うから送ってくれ、とか強引に頼まれたことが何度もあったらしい。で、そっちはそっちでさ……」

 

 ここまで知ってしまったんだ。石垣にも話しておくか。

 

 「あー……」

 

 何で知っていたか、納得してくれたか。元々、学園の帰りがけに出来るバイトってだけで応募したんだが。

 

 「何というか、兄貴はどこでも兄貴ですね」

 「何だそりゃ」

 

 それから暫く、昔話が続く。魔法学園は良くも悪くも、環境が全違う。今でこそ慣れたつもりだが、慣れないことの方が多いかもしれない。

 

 (こいつも何でここまで来ちまったんだか。まぁ、学園卒業しておけば色々とやりやすいと思うから有りだと思うが)

 

 ここへ来る前の日々が懐かしいと思うこともあれば、戻りたいと思ったこともある。今はどうしているのか、と考えたこともある。それでも俺にとってはもう戻れない場所であり、戻ってきて欲しくないからここへ置いたことも理解している。

 

 「っと、思いの外話していましたね。そう言えば最近、ここの屋上には色々な人が来ていると噂が。兄貴絡みですか?」

 「確かに俺はここに来る頻度多いけど、全てそうって訳じゃないと思うぞ。よくサボっている先生もいるからな」

 「一人で深入りしすぎる癖は、兄貴の悪い癖だとあの人も言ってましたよ」

 

 あぁ。あいつのことか。

 

 「癖だから、治らないんだろ」

 「そういうこと続けていると、戻る羽目になりますよ」

 「その時はその時に考えるさ」

 

 困ったようにため息をついて、石垣が屋上を後にする。それだけのことと言っても、俺が今までやってきたことを知る人はいない。そのことを自分から言うつもりもないし、言ったとしても信じる人がいないのを良く知っている。それに、今までやってきたことが褒められたものかは……人を選ぶものだとよく知っている。何時か、アイツは言った。自分の演奏で誰かが喜んでくれるならそれでいい、と。

 

 「…………」

 

 非常用の梯子を誰かが昇っている。聞いた話では櫛灘さんと雨森さんは休みらしい。石垣がさっき帰ったのなら、今昇ってきているのは……

 

 「来たわよ」

 「それで、どうだった?」

 

 見ただけで分かる。滅茶苦茶不機嫌だな、東雲さん。

 

 「あんた、未来でも見えてんの?」

 「見えていたら、ここで苦学生なんてしてないだろ。有りもしないことは置いといて、どんな感じだったか教えてくれないか。思い出すのも嫌だとは思うが」

 

 朝から午前最後の授業までの状況を聞いた所、特に反応があったのはバーコードらしい。何しろ、普段は授業の様子なんて見に来ない奴が授業ごとに廊下を歩いているなんて、ちょっと異常だ。

 

 「今までの経緯から、なんとかあいつを問い詰めることは出来ないの?」

 「明確な証拠がないから厳しいだろうな。先に処分した方が楽なんだが」

 「しょ、処分って……でも、学園長とかに話がいけば」

 「当てにしない方がいい」

 

 こういうのは、期待するだけ損だ。

 

 「何でよ」

 「考えてもみろ。露骨な行動をしても今まで対して注意とか警告されてないんだろ。だったら、同類だ」

 「でも、学園全体の問題でしょう!?」

 「だとしても、魔法軍部の話が一般区へ流れないように、魔法学園の話が外に漏れなきゃいい」

 「……!!」

 

 相当頭に来ているらしいが、そんなもんだぞ。やり口は杜撰だと思うがな。感情のままに叫び散らすと思っていたが、案外冷静だな。

 

 「……ムカつくけど、一貫の言う通りね」

 「普段から関わりがない俺じゃあ、探りを入れることはできないから助かった。そうだ、関係ないのに手伝ってもらった訳だから、何か礼をしないといけないな。何をすればいい」

 「は?」

 

 ……変なこと言ったか。さっきより不機嫌になっている気がするんだが。

 

 「今更要らないわよ。そもそもあんた、雫と火ノ華を助けてくれたでしょう」

 「分かった分かった、それで貸し借りゼロってことで」

 「昨日も聞いたけど、なんで火ノ華を助けたの。昨日のこともそうだけど、この前も、その前も。それでいて、何か求める訳じゃないし」

 「放って置いたらヤバイことになるかもしれないくて、本人がそれを望んでないのなら……」

 

 利用する理由があるから助けるのか。利用する価値がないから助けないのか。あの場所で、そう倣った覚えはない。だから……

 

 「それで十分だろ」

 

 おかしなことを言っただろうか。東雲さんはポカンとした顔をしたと思ったら急に笑い始めた。よくわからない。

 

 「今のに笑う要素、あったか?」

 「あぁ。ごめんね。本当、一貫はいい意味でここの魔法使いらしくないわね」

 「何だそりゃ、俺は高等部になっても碌に魔法が使えない黒星だぞ」

 「へぇ、魔法を使わずに、魔法を叩き落とす魔法使いこそどこにいるのよ」

 

 確かに、俺と同じ真似が出来るやつは殆どいなかったか。ただ……

 

 「魔法使いなら魔法で相殺くらいするだろ、それと似たようなもんだろ」

 「アンタと同じやり方で出来る奴なんて早々いないわよ。ムカつくからその学ランごと、魔法で切り裂いていいかしら?」

 「冗談にならないから止めてくれ」

 「全く、昨日は昨日であんたの会話を聞こうと思ったのに」

 「バレた相手が俺で良かったな。相手によっちゃあ、誘拐もあり得たからな」

 

 冗談で言った訳じゃないのが伝わったのか、大きく身震いした。

 

 「昨日も聞いたけど、アンタがそう言うと冗談にならないわよ」

 「冗談じゃないからな。まぁ、魔法を使うってことは魔素を使っているってことだ。盗聴は出来るが、バレずに出来るかと言われれば違うだろ」

 「昨日で思い知ったわ。案外、魔法って不便なのね」

 

 ま、一般人じゃほぼ気付けない。ただ、魔法使い相手だと案外通じないことも多い。

 

 「風の魔法の殆どが大気に干渉する。魔法を使えなくても、魔素の動きに気付けば自ずと分かっちまう。特に、昨日は聞き洩らさないよう、周囲の魔素を制御していたからな。そりゃ、誰か聞いているって分かるもんだ」

 「……そこまで分かるのね。驚いたわ」

 

 昨夜。不在着信の相手を見て折返しの連絡をしようと、人気の無い階段まで移動して情報端末を手にした時のことだ。

 

 ──入れ違いだったみたいだね。わざわざ連絡して貰えたことにも驚いたけど、何かあったのかな?

 ──はい、風潮さんに聞きたいんですが、昨日から今日にかけて魔法区へ入ったメンバーはいますか?

 ──いや、魔法区へ潜入して魔法軍部と事を構えるには準備不足だったし、我々の拠点自体が魔法区から離れている。出来ることなんて、人目の少ない仮拠点候補を探す程度だよ。それで、何があったんですか?

 ──えぇ、学生が狙撃されかけました。

 

 時間がないから端的に伝えたとは言え、流石に風潮さんも驚いたのか返答に少しだけ時間がかかっていた。

 

 ──貴方が言うならそうなんでしょう。ですが、本当に?

 ──えぇ、私が防ぎましたから。分かってはいましたが、貴方達ではなさそうですね。

 ──そもそも、私達にそうする理由がありません。魔法軍部と敵対こそしていますが、その目的は既に伝えた通りです。それにしてもよく……

 ──たまたま一緒に行動していた学生に向けて、妙な視線がありました。行きもそうでしたし、帰りも。だか、出来るだけ一緒に行動して……悪い、また後で連絡する。

 

 魔法区内の建物は魔法によって強化されている。初めは気付けなかったが、周囲の魔素が固定されているように動いていない。それに気付いてしまえば、誰かが意図的に魔法を使っている……などわかりきったことだ。

 

 ──魔法を使ってまで盗み聞きするのは感心しないな、東雲さん

 

 

 

 風で音を拾うことを得意としていたようだが、流石にあれは目立ちすぎた。

 

 「これでもまだショック受けているのよ。何で魔法使えないのに、相手の魔法にきづけるのよ」

 「そりゃ、魔法が使えない中で魔法がある環境を生き抜いてきたんだ、それくらい出来ても不思議じゃないだろ」

 「妙に納得いくのがムカつくわね……あんた相手でバレるなら、間縞教諭相手は厳しいかしら」

 「やめとけやめとけ。あんなんでも魔法の実力は魔法学園の中でも5本の指に入るんだろ」

 

 魔法だけは相応の実力を持っていると聞く。避けた方がいいだろうな。

 

 「その忠告、受け取っておくわ。一応聞くけど、あんただったらどうするの?」

 「聞こえる場所まで忍び寄るな」

 「さらっと言っているけど、もっと難しいって分かってる?」

 「そうでもない。あいつは魔法以外鈍そうだし」

 

 大体、バレても逃げられる自信があるし、そもそも間縞自体が俺のことを相手にしないだろう。

 

 「……っと、もうじき午後の授業か。戻らないとな」

 「もうそんな時間なのね。で、最後に聞きたいんだけど……」

 

 なんだんなんだ、柄にもないことを聞くんじゃねえよ。

 

 

 屋上から校内へ戻り、教室へ入る。人が少しずつ減っているこのクラスでは、普段話さない人たちでも積極的に会話する場面を見掛けることが増えた。自分達が一番と考えがちなここの学生だけど、そこまで変わって来たのね。普段だったら私に意地でも話しかけようとするはずなんだけど、火ノ華や雫がいないことに加えて私の異変を感じ取っているのか、話しかけられることはない。もしかしたら、2人が行方不明になっていると考えているのかもしれない。

 

 自身の席へ着く。火ノ華と雫がいないクラスは何処か空々しい。以前なら授業の直前まで変わりない雑談を交わしていたけど、今はただ静かなだけだ。ここにいる誰しもが、魔法軍部や先生達が守ってくれると思っていない証拠だろう。

 

 「……」

 

 それにしても、こんな状況になって頼りになったのが……魔法学園では特に評判が悪い一貫になるなんて考えもしなかった。他の学生や先生のような裏が無いから変に疑う必要なんてないし、既に火ノ華や雫は何度も助けられている。

 

 「まぁ、確かに?」

 

 雫が泊っているホテルへ向かう間も、私達が全然気にもしていなかったことにも警戒して、忠告してくれた。不審な何かに気付いていて、狙撃を防ぐ辺りはさすがにおかしいけど、一貫は魔法が出来なくても頼りになる。火ノ華達との話を合わせれば、炊き出しとかを手伝っていたとか言うし、昨日の料理も当然のように美味しかった。ただ気になるのは……

 

 「どんな生き方、してきたのよ」

 

 昼休みの最後に交わした会話が、授業開始を知らせる鐘よりも響いている。どうもあの言葉は、暫く私の中から離れてくれ無さそうだった。

 

 「……さて、と。次のノートを取っておかないとね」

 

 ──全く、黒星って渾名を付けた奴はセンスないわね。本当に黒星だったら、こんな所にいないじゃない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。