私は君の手を握る   作:久遠の語部

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第8話-2 それでも諦めきれなくて

 午前最後の授業が始まる少し前。教室で雨森と2つ、3つと会話を交わして雨森を送り出す。入れ替わるように教室へ残った私は、次の授業に向けた準備を進めていた。

 

 「ねぇ、東雲さん」

 「……何?」

 「櫛灘さんは朝に少しだけ見たけど直ぐにどっかに行っちゃって授業に出てないし、東雲さんもさっきまで授業に出ていなかったけど何かあったの?」

 「まぁ、ちょっとね」

 

 クラスどころか、学年でも有名な魔法使いが堂々と授業をサボり続ける事実に、他のクラスメイトたちの間に動揺が広がっていた。

 そして、そんな噂はあっという間に広まっていき、休み時間を使って聞きにやってくる他クラスの学生や上級生、下級生も現れた。

 そんな学生たちが挙って東雲へ質問するも、相手をすることなく淡々と授業の準備を進めているだけだ。

 何人か熱心に聞こうとしていたが、うざったそうに魔法を使う素振りを見せたことで蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 

 「全く、しつこい奴は嫌われるって知らないのかしら」

 

 授業の鐘が鳴り、クラスメイト達が自分の席につく。

 

 「今頃、火ノ華達は学園外れの川かな。早く結果が出るといいんだけど……」

 

 

 

 一方、授業をサボってまで、櫛灘や雨森が何をしていたかというと……

 

 「……それにしても、逆に凄いわね」

 「だから言っただろ。今までも自分なりにやってみた上で使えなかったって」

 「うーん、どうすればいいんだろう」

 

 魔法学園の敷地に流れる川のそばで、一貫が魔法を試しては……失敗していた。魔法学園の敷地なので学生達が放課後に遊ぶこともあれば、魔法の練習をする場所としても使われている。そんな場所を今、三人で独占して魔法の修練に取り組んでいたが……成功する気配はない。

 

 「それでも、ここまでは想定内よ。どちらかというと、改めて確認したかっただけだから」

 「その為だけに、ここまで走らされたのか」

 「魔法のできるできないより、息を切らさずについてこれる一貫君の方に私はびっくりしたよ?」

 

 雫の意見には私も同意だ。私達は荷物があるから速度を抑えているとは言え、何で並走できるのよ。アスリートか何かなの?

 

 「只でさえ、一般区から魔法学園まで通っているんだぞ。その程度の体力は自然とつくさ」

 「そ、そうかな……」

 

 このまま話が逸れると何時までも本題に入れないわね。時間は12時に近いし、一旦戻った方がいいわね。

 

 「まぁ、お陰で大体分かったわ。一貫は環境に影響する魔法使いじゃないわね」

 「環境に影響って言うと、火とか風、土に水……そういうのじゃないってことか?」

 「その認識でいいわ。だから、一貫の魔法の特性はまた別にあるんだと思う」

 「俺が魔法を使えないとは考えないんだな」

 

 最初に会った頃ならそう思って、それ以上に考えることもなかっただろう。だけど、とてもそうには思えないことを幾つも私達は見て、聞いてきた。

 

 「魔法を手で叩き落したのもそうだし。目立っていたとは言え、魔素だけで人の居場所を判断したり、魔法が起きる予兆を感じ取るなんて早々できないわよ。やってること、逆だし」

 「どういうことだ?」

 「学園って、基本的に魔法が使えればなんでもいいって考え方なのよ」

 「……はい?」

 

 眼を見開いて驚いているわね。まぁ、気持ちは分かる。

 

 「実践授業に出ていた時とかサボっているときとか、遠目から眺めていたときにみかけたが、魔法の暴発って日常的だったのか」

 「そうよ。あんまり大きな事件になってないのは、あんまり暴れすぎると他の学生に潰されるからなんだけど」

 「分かっちゃいるが、そっちもそっちでひどいな」

 

 そうね。魔法に力のある人だけが威張り散らしている状況は、私も好きじゃない。

 

 「そうよ。私も1年の頃は狙われたことあったわ。まぁ、理解してくれたから来なくなったけど」

 

 今でもたまに自分たちの力を見せつけようと、私にちょっかいをかける先輩達がいる。最早、嫌がらせの域よあんなの。

 

 「それ、病院送りの間違いだろ?」

 「あら、今から病院送りにしたっていいのよ?」

 「おっと、勘弁してくれ。櫛灘さんの魔法を食らったら、魔法の修練どころじゃなくなるから。で、学園に戻っているのは昼だからか」

 「うん、そうよ。一旦、授業のノートや一貫の成果を共有しないと」

 

 まぁ、試験も先だからそんな影響ないと思うけど。

 

 「そうだ、さっきの話で気になっていたんだが、環境に影響する魔法使いじゃないと櫛灘さんは言った。それ以外の魔法使いもいると言っているように聞こえたぞ」

 「確証はないけどね。それでも分かることはあるの。一貫くんは以前、魔法を素手で叩き落としたよね」

 「あぁ、それがどうかしたか」

 

 私達にとっての魔法とは、発展途上の技術だ。だから、今までのやり方が単純に合っていなかった。そんな可能性だって、まだあるはずだ。

 

 「魔法が使えない一般人は、物理的な遮蔽物がないと魔法を防げない。見えていても、触れる手段がないから防げない。だから、一般人が一貫君のような真似をしようとしても空振った上に魔法が直撃するの。だから一貫君は魔素を、魔法を扱える素養がある。それは間違いないわ」

 「後はどう出すか、が問題なんだな。それにしても、他の人のような魔法が使えないのは一体……まぁ、使えないものは使えないんだが」

 「そこなんだけど、風音と確認したいことがあるから合流するわ」

 

 昼休みの鐘が鳴り終えたタイミングで、私達は屋上へ到着した。

 

 「よし、後は東雲さんを待つだけか……いや、昼食が必要か」

 「その必要はないわ。でしょ、雫」

 「うん。四人分、作ってきているよ」

 「あぁ、だから櫛灘さんが雨森さんの鞄を持って風乗りしていたのか。でもいいのか」

 「いいの。こっちがやりたいと思ったからやっているんだし……風音ももうじき来るし、お昼にしましょ」

 

 雨森が作ってきた昼食を食べ終え、午後にやることを話していると非常用梯子から誰かが登ってくる音がする。私達以外に梯子を使う人を知らないから、当然警戒する。ただ、一貫くんだけは誰か冊子がついていそう。

 

 「あ……兄貴?」

 「あぁ、石垣か」

 

 一貫君の知り合い……あ、確か後見先生が言ってたような。それで、その石垣くんがすごく困惑している。

 

 「え、何があって4人で昼食を?」

 「あー……何というか、手伝ってもらっている」

 

 いや、それじゃ何もわからないんじゃ……

 

 「……あぁ、そういう流れですか。まぁ、一人でやってなくて安心しました」

 「俺は保護観察対象かっての」

 「似たよ様なもんでしょ。兄貴、目を離したら大体変なことに関わっているじゃないですか」

 

 この砕けた感じ、見たことない。結構、付き合いが長い感じなの?

 

 「確か君は……」

 

 あれ、風音も知り合いなの?

 

 「あ、えーと……東雲先輩、こんにちは。一応聞きますが、何で兄貴が皆さんと一緒に昼を。というか兄貴、他の学生にこんなところ見られたらヤバくないっすか?」

 「あぁ、ヤバイ。もし見つかった時全力で逃げるつもりだ。で、お前がわざわざここに来たってことは、噂でも聞いてきたか?」

 「はい……それで、先輩たちはどうして?」

 

 もう、噂が流れているのね。そう言えば、昨日はいなかったけど、風音が言うには言い争いの声が職員室の外へ漏れていたんだっけ。

 

 「お手伝いと言ったら信じる?」

 「兄貴と先輩達にそんな接点ってありましたっけ?」

 

 幾ら一貫君と親しいとしても、私達の経緯を知らないのにこう言っても信じて貰えないか。

 

 「櫛灘さんが兄貴のことを魔法のサンドバックに丁度いいから構っているんだ、みたいな噂はありましたけど……」

 

 ……ちょっと待って。誰、そんなことを言っている奴?

 

 「まぁ、櫛灘さんが入院した時に病院へ運んだのが兄貴って知ってますし、その流れかなと思ってます。結局、血止めにちぎったYシャツって結局どうしたんですか?」

 「一般区で買い足したぞ。とんだ出費だ」

 「やっぱ買い直していましたか。そのくらいの代金くらい、だしてもらったらどうですか?」

 「今、それどころじゃないけどな」

 「それはそれ、これはこれです」

 

 強がってないで言いなさいよそういうことは。私より生活が厳しいのに、どうして言ってくれないのよ!

 

 「大体、分かりました。兄貴が魔法を使えるように、先輩たちは協力してるってことですね」

 「そう。そう言えば、石垣君は一貫君とどんな関係なの。後見先生から石垣君は一貫君と関わりがあるって聞いたんだけど……」

 

 え、どうして二人して微妙な顔をしているの?

 

 「…………」

 「…………」

 

 え、ちょっと。2人して何で黙っているの。

 

 「まぁ、後輩だな。昔、面倒を看ていた時期があって」

 「そんな感じで、魔法学園に来る前から知っていたんです」

 「え、あ……うん」

 「そ、そうなんだ」

 

 喋ってもないのによく口裏合わさせたわね。かなり長い付き合いなんじゃない。まぁ、そこまで間違いじゃないんだと思うけど。

 

 「それにしても意外です。兄貴が誰かの手を借りるなんて」

 「色々あってな」

 「その色々、一体幾つあるのやら」

 

 この石垣くんの呆れっぷり。多分、似たことを他にもやっていたんでしょうね。

 

 「まぁ、事情は分かりました。なんか手伝えることあったら連絡してください」

 「いいの?」

 「俺にとっても、他人事じゃないんで」

 

 なんだ。やっぱり知っている人からは慕われているじゃない、一貫くん。

 

 

 

 午後、私と風音は学園の図書館へ向かっていた。魔法に関する書籍だけは都内の国立図書館以上にストックがあって、中には海外で出版された本も蔵書されている。

 

 「それにしても、意外だったわね」

 「うん。一貫くんに後輩がいるのは後見先生から聞いていたけど、ここに来る前からの知り合いだったなんて……」

 

 知り合った詳細を聞こうにも、2人は口を開かない。ああ言えばそう言い、こう言えばそうだとうまく流された。

 

 「あいつにしては珍しく濁すから、話したくないんだろうけど」

 「まぁ、言いたくないことは1つや2つ、あるからね」

 「火ノ華、あなた……」

 

 そんな驚かれるようなこと、言ったっけ?

 

 「うーん、私達の使う魔法とは違う魔法、か」

 「そう言われると、イメージが全くつかないわね。アイツが言った通り、目途が立たないから借りたくなかったのもちょっと分かる気がしてきた」

 「でも、丁度いい意趣返しよ。だって、先生達が見つけられなかった魔法を私達で見つけられたら、バーコードにぎゃふんと言わせられるじゃない?」

 「たしかにね。ところでバーコードって間縞のこと?」

 

 そっか。風音の前では言ってなかったね。

 

 「そう。一貫くんが当たり前のように言うんだよ」

 「……確かにあいつ、昨日の職員室でも容赦なかったわね」

 「ちょっと、聞いてみたかったな」

 「止めた方がいいわ。よく無事に帰ってこられたなって感想になるから。それに、今は魔法でしょ」

 「そ、そうだった」

 

 だいぶ気になるけど、確かに今の目的は違う。もう、図書館に着いたんだ。

 学生証を提示して、腕輪を受け取る。一貫君くんの魔法に関係ありそうな本を求めて、図書室を歩き回る。

 

 「うーん、分かってはいたけど全然例がないわね。魔法が発見された当初の本も、開來市へ来た時に渡される本も、子供向けの魔法に関する本も」

 

 何か見落としがあるのかな。風音も悪戦苦闘しているし、誰かに相談出来ればいいんだけど……え?

 

 「何だお前達、こんな所にいたのか」

 

 嫌な声がした。

 

 「間縞、教諭」

 「今は授業の時間だ、さっさと教室に戻れ。まさか黒星の為に時間を使っている訳ではないな?」

 

 見下すような、嘲笑うような口調にイラっとした。図書室に入る上で魔法封じの腕輪を腕に通しているからなにか思うことがあるなら口で言うしかない。最も、本を駄目にすることはしたくないけど。

 

 「今は大事な調べ事をしているので、できません。終わったら、授業へ戻ります」

 

 何しろ、増刷されているとは言え魔術書1つとっても容易に手に入るものではない。

 

 「……ほう。この国で唯一の魔法学園である、ここの授業以上に重要なものなのか」

 「はい。最近まで知らなかったですけど、今までのやり方で魔法を使えない人がいます。魔素の適性、素養が確認出来ているというのに」

 「……」

 「魔法使いの数は未だ足りてない。けれどもし、開來市外で似たような人がいるのなら、その魔法を持っている人がいるのなら、学園にとっても有意義なことだと思いませんか?」

 

 口にはしていないけど、何を言ったか理解したんだろう。ただ、た 私の言い分に怒るのではなく、先生は興味深く頷いた。

 

 「……確かに一理ある。魔法使いの数は慢性的に不足しているし、君達のような魔法使いは更に希少だ。魔素を利用した技術転用、テクノロジーへの寄与は求められているが、人数も質も、世界中で遠く及ばない。どころか、数十年前に世界中で起きた移民紛争の影響は未だに大きい。グローバル社会などと持て囃されたが、結局は深刻な分断を生んだだけだった。そうした気概は認めるがわざわざ櫛灘、東雲の両名がやる必要はない。私の方で対応するから、直ぐに授業へ戻りなさい」

 

 そう言えばこの人、魔法とその利用に関しては確かな人だったわね。まさか、こんな真面目に言われると思わなかった。

 

 「いいえ、その必要はありません。既にその人から他の先生達に相談しても解決しなかった、と聞いています。だから、私達でやるんです」

 「……その熱意は買おう。だが、順当に考えれば私を含めた先生達の方が魔法について詳しいのだ。私達に任せておけば、君達も楽だろう?」

 「本来ならそうですね、本来なら。でも、偶然とはいえ私達を助けてくれた人が、たまたま今まで魔法が扱えなくて苦労していて、何とか改善しようと先生達に聞いてもうまくいかなかった。そんな中、どこかの誰かが退学させようとしている。私達はまだ、助けられた礼も満足に出来ていないのに」

 

 私達に何をしようとしているか、はっきりと知られるだろう。それでも構わない。

 

 「……その結果、自分たちの成績が悪化しようとも、か」

 「だったら、その後で取り返します。その間は……そうですね。最近減らしていた魔法学園でのバイトを増やして何とかします。他に用事がないなら、お引き取りください」

 「フン、それで治療費が送れなくなっても知らないぞ」

 

 間縞教諭が図書室を出て行った。多分、私達が図書室にいることを知って、ここまで来たんだろう。一貫の孤立化を狙って、退学させる手筈を整えようとしたんだろうけど、こっちにも譲れないものがある。

 

 「随分、思い切ったわね」

 

 驚いた顔を戻した風音に言われてようやく気がついた。確かにそうかもしれない。自分のことだけだったら、あそこまで言い返さなかった。もしかしたら、自分を助けた人が魔法を使えない点だけで軽蔑されている現状に、我慢できなかったのかもしれない。

 

 「だって、あんな風に言われたら悔しくない?」

 「……そうね」

 「ごめん、私の都合で巻き込んで」

 「今更、何を言ってんのよ。私は直接じゃないけど、雫と火ノ華を助けられてる。今更、手を貸さない理由なんてないでしょ」

 「ありがと」

 

 ちょっとしたいざこざはあったけど、幾つかの本を借りて私達は図書室を後にした。

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