私は君の手を握る   作:久遠の語部

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第8話-3 それでも諦めきれなくて

 それから何の成果が出ないまま、2日が経過した。この日も授業を出ないで魔法の修練に付き合っていた私と東雲だけど、一貫くんに魔法を扱える可能性を見い出せずに焦り始めていた。

 

 「これも、違うか」

 「……何とか、ならないの?」

 「何とかしたいんだが、やっぱりこう……自分以外の魔素を感じ取ることはできても、それだけなんだ」

 「でも、ここ最近分かっているやり方って大体やり尽くしたし……何が原因なのよ」

 

 図書室で借りた魔術書でも悉く失敗した。せっかく授業中に借りて、夜も寝る時間を惜しんで読んだというのに、全く結果が出なかったことには流石に応えた。だけど、分かっていたことでもある。一貫くんは自分の魔法が分からないまま、誰にも力を借りられないまま過ごしてきたんだから。

 

 そんな時、携帯端末から着信音が響く。音の元は一貫くんの携帯端末からで、電話に出ると一言二言話して切ってしまった。

 

 「悪い、ちょっと用事が入った。15分くらいで戻るから、それまで休憩にしないか?」

 「バイトは試験対策って名目で、休みにしたんじゃないの?」

 「そうなんだが……ちょっと急ぎの用でさ。付き合って貰っているのに、悪い」

 

 一度頭を下げた一貫くんは、颯爽と非常用の梯子を下りていく。

 

 「……はぁ」

 「はー、こっちの気も知らないで、勝手ねあいつ」

 

 一貫くんの前では見せていなかったが、成果が出ないことへの疲れや不満はあった。そうした疲れが溜まっていたんだろう。私達は大きくため息をついて、しゃがみ込む。

 風音の言い分も分かる。急ぎで結果を出さなきゃいけない分、一層ダメージになっている。

 

 「とりあえず、休憩しましょ。もうじき雫もくると思うし」

 「そうね。紅茶でも飲んで休もっか」

 

 水筒に入れていた紅茶で一息ついていると、風音が思い出したかのように口を開く。

 

 「丁度よかったけど、なんの用事だったんだろう?」

 「もしかしたら、私達には答えにくいから場所を変えたのかもね」

 「確かに言いづらいことはあるだろうけど、だからと言って……」

 

 どうしたの、なんか表情が硬いよ?

 

 「どうしたの?」

 「……戻ってきたら、一貫に聞く?」

 

 表情が真剣だ。確かに、何をしているのか分からない時間がある。終バスのギリギリまで魔法に取り組むんじゃなくて、9時くらいで止めて帰ってしまう。

 しっかり寝てくるのかと思いきや、かなりギリギリの時間な上、とても眠そうにしている。帰ったとしても10時前後。色々聞き出したい気持ちはある。ただ、あえて触れないことにも意味があると今の私は感じている。

 

 「いい。だって、お互い様でしょ?」

 「……え?」

 「一貫くんさ、私が会った日からずっとなんだけど……」

 

 学園で会った時や私が魔法を使った時など、聞くタイミングは沢山あったはずだ。だけど、一度として彼は聞かなかった。

 

 「私が使う魔法について、何も聞かないの」

 「なんのこと?」

 「一貫君、魔法の実技はあれだけど知識はあるじゃない。だから、魔法使いが魔法を磨いていく流れも当然知っている」

 「それがなにか……あ」

 

 風音はとっくに知っていたとは言え、忘れていたんだろう。魔法使いは自身にとって適性の高い魔法を最初に鍛えていく。そして、余力があれば他の魔法にも手を出していくのが一般的だ。それでも、沢山の魔法が出てきているから、メイン以外も磨く人は多いけれど……

 

 「そっか。誰もが一度は聞く質問を、あいつは一度もしなかったのね」

 「だから、かな。一貫くんの近くにいると普通の学生みたいな気持ちになれるの。学園だと皆、魔法が優秀でどこでも優遇されている。だから、生まれながらの勝利者だって言う人もいるじゃない」

 

 ふとした拍子に他の人には言えない気持ちが、ポツリポツリと零れていく。あの日を後悔しなかった日はない。泣きたくても、それでも私を心配してくれたお母さんの表情が忘れられない。

 

 「……そんなこと、全然ないのにね」

 「火ノ華……」

 

 後見先生や風音と雫はこんな私を知っている。類まれな才能はあると言われているし、それ事実だ。本来、火の魔法が一番得意な私は、周囲の人達から聞きたくないくらいに火の魔法を鍛えるように言われてきた。でも、魔素の制御を鍛えた上で、火の魔法だけは人前で使わなかった。必死に魔素の制御を訓練した。二度とあんなことを起こしたくないから。その過程で他の魔法も幅広く使えるようになって、天才だと持て囃されているけど……本当は魔法が怖い。自分の魔法で誰かをまた傷つけてしまうことが、怖い。

 

 「最初、私のことを避けてたんだって。面倒なのが嫌だから」

 

 最近は立ち直ったと思っていたけど、やっぱりこうして思い出してしまうときもある。

 

 「立場を考えれば、不思議じゃないわね」

 「自分の立場は弱いのに、私を利用することは無かった。なのに気付いたら、助けられてばっかり」

 「そうよね。そう言われると私達、どんだけ借りがあるって言うのよ。普通なら1つの貸しで何を要求される分かったものじゃないのに」

 

 風音も思わず、ため息をついている。どうして一貫くんは、自分のやってきたことに無頓着なんだろう。

 

 「だから、最近はこう思ってる。一貫くんは……私達が想像もつかないような場所で、想像できない生き方をしてきた。だから私達には言えないこと、言っていいか分からないことが沢山あるんじゃないかなって」

 「……聞こうとは、思わないの?」

 「うん。もっと知りたいと思うけど、今はこのままがいいの」

 「どうして?」

 

 風音は不思議そうな顔をしている。気になるのならどうして聞かないのか、と言いたげだ。でもね。何となく、こう思うの。

 

 「一貫くんはきっと……この学園にいる人の誰よりも失っている人だから」

 「どうして、そう思ったの?」

 「だって、元居た場所から離れてずっとここで暮らしてきたんでしょ。大嫌いな魔法使いに囲まれて」

 「…………」

 「だから、無理して聞こうと思わない。それに、私にも話したくないことがあるから仕方ないかなって」

 

 以前、それは才能の証だとか言い出した奴がいた。何度も何度も使うよう言われた挙句、使わなければお母さんの仕送りに充てている治療費を無くすとまで言われて、つい使ってしまったことがある。その時は凄く精神的に不安定で魔法の制御が覚束無かった。

 結果、私に滅茶苦茶言ってきた相手は全身大火傷の重体を負った。今となってはそんな奴はどうでもいい。でも、しばらくの間はちょっとした魔法を使うすら怖い時期があった。

 魔法を見るだけの授業ですら、火の魔法を見るだけで逃げ出すほど。その時は才能があるのに使えない臆病者だと言われたっけ。でも、魔法から逃げてはいられなかったし、魔法を勉強する目的があった。だから、火の魔法じゃなくても周囲が何も言えなくなるように魔法を鍛えた。

 

 あぁ、だからだろう。魔法のことを気にしないで接する一貫くんといるのがとても楽なんだ。

 

 「……分かったわ。それで、一貫の魔法はどうする気?」

 「うん。ちょっと考え方を変えようと思って。さっき、一貫くんが魔素を使おうとした時のこと覚えているよね」

 「もしかして、魔素の流れの話?」

 「うん、私達が魔法を放つ時に目標へ向けて魔素を放つけれど、一貫はその逆だった。だから……」

 「……火ノ華」

 

 私も今気付いた。誰かが屋上へ近付いている。誰だろう。一貫がやっているようなことを真似しているけれど、一貫のようにはいかないね。

 

 「誰かここへ来ているわ」

 「でも、梯子から音はしてない」

 「ってことは、間縞?」

 「その割には、足音が複数聞こえるわ」

 

 屋上へ繋がる扉が合鍵によって開く。そして、姿を見せたのは……

 

 「ご、ごめん火ノ華ちゃん、風音」

 

 雫ともう一人は……

 

 「「え?」」

 「……少し、時間を貰える?」

 

 土屋先生。本来なら追い払いたいけど、ここ最近は顔色も悪いし私達の勝手で迷惑をかけている。ちょっとくらいは聞いてもいい、よね。

 

 「先生、仕事はどうしたんですか?」

 「それは貴女達もでしょ。学園には来ているのに東雲さんは欠席が多いし、櫛灘さんは授業にすらいないじゃない。気になっていたのよ」

 「先生ですから、何をしているかの想像はついていますよね。迷惑をかけるつもりはないので、仕事に戻って大丈夫ですよ」

 「既に十分かかって……って、一貫君はいないんだ」

 

 一貫くんが普段ここにいることなんて、後見先生くらいしか知らない筈よね。

 

 「何でここにいるのを知っているんですか?」

 「少し前にここで会ったのよ。それで、魔法の目途は立ったの?」

 「え?」

 「早く魔法を使えるようにしないと退学させられるし、櫛灘さん達も成績に影響が出ちゃうでしょ。それで状況は?」

 

 どういう思惑かは分からない。今は先生達も信用ならないけど、そうも言っていられない。

 

 「実は……」

 

 それでも、背に腹は変えられない。たとえ、裏で間縞と繋がっていたとしても、優先するべきことは違うから。

 

 

 その日の夕方、俺は櫛灘の家で夕食を作っていた。今日の夕食で連絡している間に特別講師を呼ぶことになったようで、その準備として夕食の準備を任されていた。

 

 ──作るのは別にいい。前もやったしな。ただ、唐突だな?

 ──特別講師を呼ぶことになったの。ただ、呼ぶにしても学園じゃやりづらいから、夕食を取りながらすることになったの。

 ──魔法で世話になっているから別にいいが、女性の部屋に野郎を一人残すのもどうかと思うぞ。

 ──別に、変なことするつもりないでしょ。

 ──そりゃそうだが……まぁ、分かった。必要だと思ったのなら、俺もそれに合わせるぞ。

 

 信用、信頼されていると言えば聞こえはいいが、些か以上に不用心だ。ただ、連日魔法の修練に付き合ってもらっている上に碌な結果が出ていない。分かっていたことだが、教えてもらっている手前、断れずに雨森さんと一緒に夕食を作っていた。

 

 「……それにしても、俺は何でこんなに作っているんだ?」

 

 量を作るのには慣れている。そこに抵抗はないが、以前東雲さんに注意される前の量で作っている。どう考えても4人で食で食べるには多過ぎる。

 

 「ほんと、量を作るの上手だよね。前に言っていたけど、炊き出しの調理を手伝っていたとか前に言っていたよね」

 「あぁそんなことも言ったか。あの場だと確かに、材料を無駄にせず、食べられるところを全部使う所が大きいな」

 「私も料理はしているけど、今度教えてもらってもいいかな?」

 「やめとけやめとけ。俺のはあくまで食べられることが第一だ。多分、雨森さんの方が料理上手だぞ?」

 

 が、櫛灘さん達は好きに作っていいというし、問題ないと言い切った。タッパーとかに入れる為とか考えたが……この後、何が起きるんだ。

 

 「インターホンか」

 「私が出るよ」

 

 さて、何故こんなことになっているかは分からないが、作るものは作ってしまった。そもそも、家に呼ぶって誰をだ?

 普通に考えて、男性ではないだろう。じゃあ、誰だ?

 

 「へぇ、聞いてはいたけど本当に料理が出来るのね」

 「お邪魔します」

 「……は?」

 

 そこには何故か、土屋先生と後見先生がいた。いや、まぁ妥当な範囲、なのか?

 

 「土屋先生を呼びに行ったら、そこに後見先生もいてね。折角だから、一緒に夕食を食べることになったんだ」

 「あぁ、そういう……」

 

 つまり、特別講師は土屋先生で、後見先生は近くにいたから連れてきた、と。確か、2人ともこのマンションにいるという話だったし、裏もなさそうだ。それにしても、土屋先生の顔色、この前はあんまり見る気も無かったが……顔色悪いな。

 

 「一貫くん、あとどれくらい?」

 「後、10分で炊き上がる。皿の勝手は分からないから、任せていいか?」

 「分かった。先生達はソファに座って待っていてください」

 

 何か昔を思い出すな。こんなに大人数での食事は、何時が最後だったか。

 

 「色々作ってしまったが……これで良かったのか?」

 

 雨森さんに買い出しを依頼したとは言え、気がついたら色々作ってしまった。きのこの炊き込みご飯、豚肉の生姜焼き、鶏肉と大根の煮物、ナスの煮びたし、酢の物、それから汁物か。人数が多くなったからいいけど、やっぱり作り過ぎだろこれ。

 

 「久しぶりね、一貫くん」

 「そうですね。ところで、なんでまた?」

 「まぁ、折角だから一緒させてもらうのよ。お金は出すから安心して頂戴」

 

 どちらかと言うと、疲労困憊なもう一人の方が気になります。

 

 

 「いただきます」

 

 談笑しながら、食事が進む。最初は俺の料理の品数と味に後見先生や土屋先生が驚けば、次に忙しくて大した食事を摂れていないという土屋先生の愚痴が始まった。どうやら、ここ最近のごたごたでパレード当日に櫛灘さんが魔法軍部のお偉方に挨拶する予定が無くなったらしい。櫛灘さんは喜んでいるようだが、土屋先生の様子を見る限り、色々あったんだろうな。

 他にも、教養科と魔法科の先生の確執だったり、学生達の扱いに手を焼いているのがよく伝わってきた。

 どうしてこんな流れになったかは分からないが、うん、とりあえず色々と言わせておこう……教員って、大変なんだな。

 

 「本当にご馳走様。久々に、ちゃんとした食事が出来たわ」

 「全く……休む時は休まなきゃ駄目よ、土屋先生」

 「はい、それは分かっていますけど……よし、美味しい食事も食べられたんだし、私もやることをやらないとね。ちょっと一貫君、これを身に着けてくれる?」

 

 土屋先生が持ってきたケースから出てきたそれは見るからに……だったが、雰囲気から断れそうにない。まぁ、変な使い方をするつもりもないだろう。

 

 「色々計測するからそれなりの時間つけてもらうわ」

 「これで、何をすればいいんですか?」

 「そうね。魔素の流れとかを計測したいから、魔法を使おうとしてほしいかな。後は普段の状態も知りたいから普段通り過ごして欲しい」

 「そう、ですか……」

 

 まぁ、これがあれを基にしてるなら嘘はない。ただ、何でここで使ったんだ?

 

 それを身に着けること30分。魔素の流れを確認するという名目で全身の魔素を流したり、魔法を使おうとしたが結局失敗した。結果がわからないまま脱ぐことになったが、なにか分かっただろうか。

 

 「それで、さっきのは何だったんですか」

 「これね。元々魔法軍部で使われているものなんだけど、それの精度を上げたものよ。元々は魔法武器に使われる魔素の流れを計測する道具なんだけど空気中、水中や地中の魔素探知だけじゃなくて、濃度、風速計みたいに流れやその強さも図れるわ。ただ、ここまでは精密なのは一般に普及していないわね」

 

 そんなものがあったのか。ただ、それが確かなら気になることもある。

 

 「それがあれば、潜在的な魔法使いをもっと素早く、沢山見つけられるんじゃないんですか?」

 「……そうもいかないの。魔法使いじゃなくても魔素を持っていて、血液も流れているでしょう。だから、使えない人も入れてしまう問題が起きたのよ」

 「そういうことでしたか……」

 

 言われてみればその通りだ。それに、魔法使いが欲しい状況でそれが出来ないってことは一つ作るのにもそれなりに手間がかかるのだろう。

 

 「それから、もう1つ気になっていたんですが……」

 「なにかな?」

 「どうしてこれを、ここで使ったんですか?」

 「…………」

 

 櫛灘さん達が俺に魔法を使えるように手伝って貰っているのは、教員達にも既に知られている筈だ。表立って協力し辛いとしても、その道具を渡すだけなら学園内でも出来るだろう。それをわざわざこうして、個人宅で使うというのは……

 

 「もしかして持出禁止の……」

 「土屋先生、このデータの見方を教えてくれませんか?」

 「え、櫛灘さん!?」

 

 櫛灘さんがわざとらしく遮ったな。まぁ、どう考えても俺の手助けをこっそりしている訳なんだし、追及するのも野暮か。

 

 「なるほどね……このデータを基に考えると一貫君は外的な魔法使いじゃなくて、内的な魔法使いなのね」

 

 なんか、知らない単語出てきたぞ。

 

 「待ってくれ。外的と内的の違いって、なんだ?」

 「簡単に言うと、魔素を外に向けて魔法を使うのか、魔素を自分自身に向けて魔法を使うかの違いよ」

 

 なんとなく分かった気がする。気がするが……合っているのか、これ。

 

 「例えば火を起こしたいと思った時に櫛灘さん達は対象に向けて放って火を起こすけど、俺がやろうとした場合は火達磨になる必要があるってことか?」

 「随分と物騒な例えだけど、概ねそんな感じよ。それが分かった今なら言えるわ。一貫くんは既に使っているわよ、魔法を」

 

 いつの事だ。覚えがあるようで、全く無いぞ。

 

 「以前、一貫君は不良学生達の使った魔法を素手で叩き落としたよね」

 「え、なにそれは……」

 

 2人の先生が引いているが、そんなか?

 

 「あぁ、そうだな。確か以前の話じゃ魔法は魔素を使えなきゃ防げないって、話だったと思うが」

 「だから、可笑しいと思ったの。以前、一貫君は魔素制御率と抵抗率が高いって言っていたでしょ」

 「よく覚えていたな、結構前だろ」

 

 確か、初めて話した日のことか。

 

 「うん。だって、上級生や同学年の学生でも魔法の威力を上げる努力はするけど、制御を先に鍛える人って殆どいないんだよ」

 

 そう言えば、俺を的にしていた奴らも如何に傷つけられるかで競おうとしていた気がする。まぁ、随分前の話だが。

 

 「多分、一貫くんは人よりも多く体内に魔素を蓄積しているんだと思う。どういう方法で出来るようになったかはまだ分からないけど」

 

 それに関しては心当たりしかない。元々なのか、後からそうなったのかは分からないが。

 

 「以前、魔素の扱いは出来ると言ってたよね。それで思ったんだけど……」

 

 櫛灘さんの説明を聞く。他の人ではやらないそのやり方は……なるほど、確かにそれは俺の魔法と言えるかもしれない。

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