私は君の手を握る   作:久遠の語部

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第9話-1 君をただ、見送った

 その日最後の授業を終えて、俺は間縞教諭から呼び出しを受けていた。在学を賭けた魔法試験の試験場である魔法修練場の近くに、櫛灘さんが立っていたのが見えた。

 

 「ねぇ、大丈夫なの、本当に」

 

 心配なんだろう。実際、うまくいく保証がないからな。ただ、俺としては周囲に学生がいるからそれ以上に気が気じゃない。まぁ、本人が気にしてなさそうだから、諦めるしかなさそうだが。

 

 「まぁ、何とかなるだろ」

 「……何かあったら言ってよ」

 「昨日もどういう風に進めるか相談してもらっただろ。櫛灘さん達の案でイケると思うから、心配するなって」

 「でも……」

 「それに、三人とも俺には魔法が使えると信じて、ここまでやってもらったんだ。なら、その期待には応えないと、だろ?」

 

 今日まで、櫛灘さん達には色々やってもらったんだ。何としても通るようにしないとな。この際、あれを使ったっていい。

 

 (さぁ、行こうか)

 

 修練場の扉を開く。扉が閉まるまで、櫛灘さんの視線を背中で感じたまま

 

 

 魔法学園の敷地にある魔法修練場は魔法の影響を極力弱める魔法陣が施されているので、体育館としても使われている。そんな修練場には、間縞教諭に他5名の教員がいた。

 

 (土屋先生がいない辺り、何としても不利な状況にしたいってところか)

 

 「フン、まさか逃げずに来ると思わなかったぞ」

 「諦めることも考えましたよ。だけど、俺に出来る魔法を一緒に探してくれた人達がいた。なら、その人達に応えられるような結果くらいは出さないと」

 「その心がけだけは認めてやる」

 

 相変わらず上から目線だな。ただ、意外だったのは間縞教諭だけではなく、他の教員も踏まえて審査するつもりだったこと。櫛灘さん達から一応聞いてはいたけど、魔法には真剣なんだな。

 

 「黒星でも使える魔法、か。出来るといいな。まぁ期待はしないが見てやろう。早速だが……」

 「その前に1つ。魔法の定義を確認させて貰えますか。どうしても確認したくて」

 

 だったら、この確認も通ると思うが、どうでる?

 

 「その必要なんてあるか?」

 「ありますよ。魔法の前提が違えば話も変わる。今日の為に魔法に関する教本、教科書を読み返しましたが、魔法は人が道具を使わずには起こせない事象を魔素で代替する技術全般、と書いてありました。その認識でいいのですか」

 「仮にそれでいいとして、お前には何が出来る。火や水を起こすどころか、風すら満足に起こせないお前に」

 

 よし、まずは第一歩だ。これならまだ、やりようはある。

 

 「そこは、教諭の言う通りです。だから、俺が出来るように……いや、それしか出来なかったことが魔法に値するか、先生達に見てもらうだけです」

 「……ふん、まぁやってみろ」

 「分かりました。後出しは無しでお願いします」

 

 やたらあっさり進んでいるのは気になるが、やるしかない。まぁ、今まで魔法がさっぱりだったのに、たった1週間でできるとは到底思えないか。

 

 「何をする気だ?」

 「俺にできる、数少ないことです。魔素の扱い方を教えて貰って自分なりにようやく腑に落ちた。だから、こういうことも手馴れたもの以外で出来るようになった」

 

 ここへ来るまでに拾ってきた木の枝を数本、無雑作に掴む。

 

 「……ほう」

 

 教諭が感心したように声を出す。多分、何も出来ないと決めつけていたんだろうな。

 

 「これは拾ったばかりの枝なので大したことは出来ませんが、同じ木の枝ならこんな感じで一本の太い枝に変えられます」

 「種別としては錬金の類か。少し引っかかるが、お前の手から離れたら元に戻ってしまう程度だろう。これでは魔法と認められないな」

 「確かに俺が魔素を馴染ませていない以上、直ぐに元の形へ戻ります。が、さっき言ったことを覚えていますよね?」

 「確かに聞いた。だが、今見たモノだけでは認められない。他にも見せて貰わないとな。例えば……」

 

 つまり、バーコードの奴は魔法を使う気か。

 

 「その貧弱な魔法で、他の魔法使いと張り合えるのならな!」

 

 元よりそのつもりだったか。荒事は避けるつもりだったが、仕方ない。

 

 「ちょっと!」

 

 他の先生が間縞へ制止を呼びかける間、直ぐに脱げるように肩がけしていた学ランを手に取る。これは入学当初から着用しているものだから当然、拾ってきたばかりの木の枝よりも柔軟に、素早く魔素を通せる。

 そう、例えば学ランを一本の縄のように変え、その先端にはいつもポケットに入れている金属塊を取り付ける。即席だが、重りとして使うには十分だ。

 

 (距離は5mもない、踏み込めば……いける。)

 

 指で重りを弾き、魔法を避けた上で縄に形を変えた学ランを手繰って奴の体に絡ませる。後はこうして……

 

 「っが、ぁ!?」

 「張り合えるかって……勿論、出来ますが?」

 

 魔素の強度を上げる。そうすれば、痣がつくくらいの拘束程度はこれでも出来る。動きを封じるだけなら、これで十分だ。厳密にはこれ、魔法じゃないんだけどな。

 

 「さっきは見せなかったですが、一応出来ることはやっていたんです。学ランは丈夫だし、長い間着ているもの。俺の魔素が馴染んでいるから、こうして学ランの形も変えられるし、俺の手から離れても維持できる。これでも魔法じゃない、と言い張りますか?」

 

 誰もが沈黙した。今まで魔法の実践授業から逃げ回っていて魔法が使えないと思っていた学生が、こうも容易く魔法学園の中でも5本の指に入る実力を持つ間縞を取り押えたからだろう。

 

 「あ、あ、あぁ。確かに、こんな真似を可能とするのは魔法だ。だから、早く……」

 

 もしかして、腹が邪魔しているのか。あぁ、でも。

 

 「間縞教諭はこう言ってますが、他の先生達もどうですか?」

 

 反応がない。あのさ、反応ないとこっちも解けないんだ。

 

 「とりあえず合格、って認識でいいですか?」

 

 よし、頷いてくれた。反応ないのが一番困るから。

 

 「よし、それじゃあこれで帰りますね。早速、魔法習得に付き合ってくれた人にお礼をしないと」

 

 もう、ここには用がない。学ランを元に戻して、修錬場を後にした。

 

 

 学園を後にし、魔法試験に合格したことを伝えた俺は、櫛灘さん達から合格祝いとして食事に行こうと誘われた。

 

 「悪い、ちょっとやることがあってさ」

 「そう……わかった」

 

 沈んだ面持ちで部屋に戻る櫛灘さんを心配し、雨森さんがその後を追う。

 そうしてその場には、俺と東雲さんが残った。

 

 「あんたね、土曜日に何があるか分かって……」

 「あぁ、魔法軍部のパレードがあるんだろ」

 「それを知った上で言っているっていうの、あんた……!」

 

 何があったかは知らないが、櫛灘さんはなにか言われているのか?

 

 「出来ることをする為に、ちょっと無理をしていてさ」

 「……何のこと?」

 

 しまった。言う気も無かったのに、少し気が抜けていたか?

 ただ、聞かれた相手がまだ、東雲さんで良かった。

 

 「既に勘付いているんだろ。俺が以前、何をしていたか。そしてそのこと、2人には言ってないんだろ」

 「……まぁ、そうだけど」

 

 そんな気はしていた。まぁ、言いづらいしな。

 

 「あの2人が自分で気付くまで、それで頼む。どうやら、俺がここへ来る前にしていたことは、こっちじゃあ褒められたことではなさそうだし」

 「でも、あんたは……!」

 

 東雲さんが何と言おうとするかに、興味、関心はない。俺はただ、自分が見て、聞いてきた中でそうした方がよいことをやってきただけだ。ただ、誰かにとって都合が悪かったから、悪い様に扱われた。

 そんなものだ。それでも、正しいことをしているとアピールする為にやっている訳じゃあ、ないんだよ。

 

 「分かったわよ、言わなきゃいいんでしょ。全く、知り合って少し経ったけど、今でもあんたのことは全然分からない。分からないけど、私達が気軽に関わっちゃいけないことをあんたがやっていて、それが結果として火ノ華達の為になるのは分かったわ。でも、1つだけ約束して」

 「なんだ」

 「……火ノ華と1度話をして」

 

 そりゃ、そうか。ただ、いきなり魔法をぶつけられたりしないだろうか。

 

 「……日程の調整って、頼めるか?」

 「その程度、自分でやりなさいよ」

 

 その気持ちも分かる。ただ……

 

 「今週分の授業を全部サボって準備するつもりなんだ。学園に行くつもりもなくてさ」

 「連日、午前中は眠そうにしていたのって……」

 

 やっぱり、気付いていたか。とは言え、準備にはどうしても必要だった。

 

 「……ただでさえ学園側の協力は見込めないし、動ける人数も少ない。なら、今の内に出来る対策をしないと」

 「じゃあ、学園に味方がいればいいの?」

 

 ふと思いついた意見なんだろう。ただ、それを許容するのは自分たちの都合に巻き込むということだ。自分達がしようとしていることに、関係ない学生を、昔の縁とは関係ない人を巻き込むということだ。

 心が、精神が冷えていく。それを許容すれば、アイツの二の舞になるぞ。

 

 「……今言った意味、分かっているのか?」

 

 肩も震えて、驚いて目を見開いたか。自分のことながら、唐突に怯えさせるのもどうかと思うが、これ以上巻き込むのは流石にな。そのまま引けた足のまま逃げ出せば……

 

 「ええ、ええ、分かっているわ」

 

 ──どうして、逃げ出さない?

 

 「味方なんて殆どいないことも、周囲の先生達も、魔法軍部も助けてくれないことなんて。だから、自分たちのことは自分で守らないと」

 「それを一介の学生に言わさせてしまう辺り、この学園も末期だよな」

 「うるっさいわね。私だってあんたと知り合ってなかったら、他の学生と同じように考えていたわよ。でもね、これだけ散々狙われて、火ノ華達を守ったあんたを退学させようとする先生達なんて信じられないし、関わりのある魔法軍部なんてもっと信じられないわ!」

 

 珍しいな。東雲さんがこんなに感情のままに叫ぶなんて。

 

 「──きっと、今度の土曜日だって火ノ華は狙われる。もう、無関係じゃないの。それにあんたは以前、私に言ったでしょ!」

 

 その言葉は、俺が間縞から退学を宣告された日に東雲さんへ言ったことだ。まさか、そんな返しをされるなんて、な。

 

 「……あぁ、言ったな。そんなこと」

 「だったら、今回も同じことでしょう。それで、戦える人数はどの程度必要なの?」

 

 東雲さんはそうしたいと思ったのか。ただ、そっちは本当に、良くないんだ。

 

 「止めてくれ。そっちに関わるのは俺でいい」

 「なんでよ、私達じゃ役に立たないって言いたいの?」

 

 そうじゃない、そうじゃあないんだよ。ただ、具体例があったほうがいいよな。話すつもりはなかったが、ここまで言われたんだ。少しは話さないと理解してもらえないよな。

 

 「昔、こんな奴がいた。自分に魔法が使えると分かり、それなりの鍛錬をして魔法を上手く使えるようになった奴がな。ただ、魔法が使える、その1点だけで過信していてさ。自分の魔法と相手の魔法の力比べをする感覚で、街を荒らし回る魔法使いと戦ってボロ負けした」

 

 例えるなら、ここの一般的な学生だな。

 

 「まぁ、それだけだったらいい。問題は、相手が遊び感覚じゃなかったってことだ」

 「……ぇ」

 

 末路は言わずとも、伝わったらしい。そう、そいつはもう……

 

 「そういうことだ。魔法が使えるからというだけじゃあ、危険なんだよ」

 「……じゃあ、私には、何が出来るの?」

 

 手先が震えているのにそう言えるのか。強いな、東雲さんは。今言った話は本当にあったことだし、死んだ奴の顔も知っている。でも、戦うってのは何も正面からやるだけじゃない。

 

 「例えば、味方を増やすとかはどうだ」

 「味方……でも、誰を?」

 

 東雲さん達のクラスメイトや俺のクラスメイトは論外だ。先輩、後輩も自分たちのことで精一杯だし、先生も頼りない。でもな……

 

 「いるだろ丁度、バーコードに不信感抱いていて、なんか協力してくれそうな先生が1人、さ?」

 

 全員が全員、そうではないことを既に知っているはずだ。

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